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「…待って、そろそろ、見廻、り…が、来る……」
りのの計算を信じて疑わない彼らはすぐさま近くの部屋に隠れた。
すると、組織の下っ端と思われるやつらの足音と声が聞こえて来た。
「今日もあの娘に逃げられたんだって?」
「ああ、なんか人間に助けられたそうだぜ。」
「はっ、命知らずのやつもいたもんだ。」
「ボスが帰って来たら、またドヤされるな。」
そんな会話をしながら、彼らは通り過ぎていった。
その会話はもちろん光輝たちにも筒抜けだ。
「ボスは留守なのね。」
リズは思う。
これは相当貴重なチャンスだと。もうこれを逃したら、二度とこんなチャンスは現れないと。
「んじゃ、ちゃっちゃと行くかー。」
そうして、彼らはハイエナのボスの部屋(仮)の前に辿り着いた。
リズは部屋の襖の前で息を呑む。
「うっわー……いかにもって感じするー。んじゃ、入りますか!」
「ちょ…!まっ…!」
そう言って普通に入ろうとする光輝をリズは慌てて止めようとしたが、間に合わずに目の前には既にボスの部屋(仮)が広がっていた。
「さーて!物色しますか!」
光輝はなぜか楽しそうだ。
「…た、ぶん…あそ、こ……」
りのはとある一点を指してそう言う。
リズには何が何だかわからなかったが、志狼はりのが教えたところにスタスタと向かっていった。
そして、それを見て、光輝は勝手に他のところを物色し始めた。
「ちょ…!何探してるのよ!?」
りのは部屋の中をキョロキョロと見てるだけで、光輝は物色しながら答える。
「んー、俺は特に何も!お目当は志狼が探してるから〜。」
ごそごそと傍の箱を漁りながら答える光輝にリズは再び怒鳴ろうとしたが、その前に志狼が口を開く。
「あったぞ。」
志狼の手の中には、宝石が一つあった。
宝石と言っても明らかに偽物で、しかも、何かのアクセサリーの一部のようである。
それを見たリズはますます首を傾げた。
「何それ?そんなものを探してたの?」
志狼はリズのことなど気にもかけずに、その宝石を光輝に渡した。
光輝はその宝石を見てわざとらしく「ふむふむ」と言っている。
「たぶんこれだ。やっぱりここにあったか〜。」
光輝がその宝石を見て頷いたのを見て、志狼は口を開く。
「んじゃ、帰るか。」
帰ろうとする志狼の言葉にリズが驚いて言葉を発しようとしたが、それを光輝がわざと遮った。
「リズ、俺たちの目的はこれで達成した。次はリズの番だ。」
笑って光輝がそう言う。
その笑顔の中の真剣さにリズは思わず息を呑む。
光輝の言葉にりのが続く。
「…リズ、は…何をしに、きた…の…?」
りのは真っ直ぐにリズを見てそう問いかける。
リズにはりのの表情はわからないし、何を考えているのかも、どういう意図でそう尋ねているのかもわからない。
ただこの答えは間違えてはいけない気がした。
「そ、んなの…決まって、る、で…」
なぜか言葉が詰まってなかなか出てこない。
初めから決まりきっていることだ。
彼らだってわかっているはずだ。
リズがここに来た理由など。
だが、言葉が出ない。喉が渇く。
リズが言い終わる前にガラッという音と共に襖が開いた。
「なんだぁ、てめぇら、そこで何してる!!!どこから入ったぁ!!!」
とても偉そうで見るからに気性が荒そうなイカついハイエナの獣人が現れて、図太い怒鳴り声が部屋に響き渡る。
どう見てもハイエナのボスの登場である。
それにリズは驚きと安堵を覚えた。
そして、そのことにさらに驚いた。
リズはハイエナのボスよりもりのたちに"間違った"答えを言ってしまう方が恐かったのだ。
「ふーん、これがボスかぁ。獣人ヤクザだね。」
ちなみに光輝がボスの登場に驚かないのは、志狼がボスの気配を感じて扉に視線を向けたことに気がついたからである。
りのはいつも通り気にもしていなさそうだ。
「侵入者だぁ!!!!てめぇらの警備はどうなってやがる!!!」
ボスの怒鳴り声にハイエナの下っ端たちが焦ってワラワラと駆けつけてきた。
「てめぇら、なにモンだ!?」
ボスは少し警戒しているようである。
たとえ警備に穴があったとしても、こんな屋敷の奥深くまで侵入できるなんてただ者ではないと考えたためだ。
「ただの異世界人でーす。」
光輝はいつも通り貼り付けた笑顔で答えた。
そんな光輝があまりに馬鹿っぽく見えたのか、ハイエナの連中は緊張感なんて消し飛んでバカ笑いをし始めた。
「アハハハ!!なんだてめぇら頭でもおかしいのか!!」
こいつは怒鳴らないと喋れないのかと志狼は思った。
そして、ふとりのを見て猫耳フードを被せた。
この緊急時でも彼らの間にはマイペースで和やかな雰囲気が漂っている。
その時下っ端の一人がリズを指差して口を開いた。
「ああ!!ボス!こいつボスの妾になるのを拒んでる女でっせ!」
そこで、初めてハイエナのボスはリズの存在に気がついたようである。
「あーん?よく見りゃーリズっつー姉ちゃんじゃねーの。ようやくわての妾になる気になったか!!あ!?」
「誰があんたなんかの!!」
リズは頭に血が上って即座に言い返した。
「ああ!?じゃあ、何しにわてのところに来たんだぁ!?」
「そんなの決まってるでしょ…!」
リズは血が上った頭で言い返そうとしたが、ふとさっきの光輝とりのの表情と台詞が脳内を過った。
そもそもリズはハイエナの本拠地に乗り込むなんて発想は今までなかった。
光輝の手をつい取ってしまっただけなのである。
ただ、ハイエナのボスを殺したいほど憎んでいた。
もし叶うなら、命をかけてでも殺してやりたかった。おそらく相打ちどころか傷一つ付けれないだろうとわかっていても。
「おい、早くしろ。」
志狼は無表情に言う。
光輝とりのはリズを見ているだけである。
「ハイエナのボスを殺して」と口に出せば、きっと叶う気がする。
この3人なら、それくらいどうってことないのだとリズは思う。
だけど、それは……
「あんたをブン殴りに来たのよ!ゲス!誰があんたなんかの妾になるもんですか!寝言は寝て言いなさいよ!」
そうリズは言い切った。
「ああぁ!!???」
ボスはもちろん怒り心頭である。
しかし、リズはどことなくスッキリした顔をしていた。
両親の死を忘れたわけではない。
ハイエナに対する恨みや憎しみが完全に消え去ったわけでもない。
ただ思ったのだ。
こんなくだらない男を殺すのにこの3人の手を汚すのは嫌だと。
そして、自分の手も。
「私の望みはそれだけよ。これでいい?」
光輝はにやりと笑っただけだった。
3人は何も言わないが、復讐に意味などないと思っていたのだろう。
ただそのことにリズ自身が気がつかなければ何の意味もないということなのだろう。
光輝たちがそこまでリズのことを考えてくれたのかは不明だが、リズは勝手にそう思うことにした。




