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そんな和やか(?)な空気をかき消す叫び声が一つ響く。
「ちょっと!!!!」
先ほど絡まれていた少女が3人に向かって叫だ。
なぜか随分とご立腹のようである。
「あんたたち何してんのよ!!」
そんな彼女にりのは首を傾げる。
「……怒って、る…?」
「一応助けたのに、怒られちゃったよー。」
りのは不思議そうにしているし、光輝は全く気分を害した様子もなく、おちゃらけたような態度で笑っている。
「助けてくれなんて頼んでないのよ!だいたいあんたたち誰に喧嘩売ったかわかってんの!?」
ひどく興奮した様子の彼女に光輝たちは至って冷静に対応する。
「さぁ?」
光輝はわざとらしいほどキョトンとして首を傾げた。
「呆れた…いくら外から来たからって噂も聞いたことないの?」
リズは思いっきり眉を顰めてそう吐き捨てる。
つまらなそうに成り行きを見てた志狼はそれまたつまらなそうに口を開く。
「あんな雑魚に何をキャンキャン言ってんだ。」
リス耳の少女はその一言に堰を切ったように話し始めた。
「確かにあいつらはただの雑魚よ!でも、あいつらはこの辺一帯の町を裏から操る黒組織"ハイエナ"の下っ端なの!」
そして、少女は悔しそうに、恨めしそうに、俯く。
「あいつら私をボスの妾にしようとしたのよ……それを拒んだら、お父さんもお母さんも……」
その続きを少女は言葉にはしなったが、誰だって想像はつくだろう。少女は急に顔を上げて再び3人を睨みつけた。
「だから、周りは見て見ぬふりをした!私はそれが悪いことだとは思わない!それなのに、あんたたちは…!」
そこで、少女は気付く。
目の前にいる3人が何一つ表情を変えていないことに。
別に同情してほしかったわけではない。
だが、当然のようにその表情は同情、恐怖、怒り、悲しみ…そのどれかに染まるものだと思っていた。
今までがそうであったように。
光輝たちはそんなリズの心境をよそにマイペースに話している。
「……光輝、わかってて、助けた……?」
りのは確信を持って光輝に尋ねる。
「うん、まぁ、なんとなくそうだろーなーって。」
「……そ、っか……」
「ふーん。」
光輝の答えに2人は納得したようだ。
特に理由も目的も訪ねたりはしない。
少女は訝しげに眉を顰める。
「あんたたち人の話を聞いていたの?」
光輝はいつもより真剣味のある顔で答える。
「うん。聞いてた。だいたいそんなところかなって予想もしてたし、その上で助けたんだけど。」
光輝の言葉にリズは目を見開いた。
「はぁ?どういうことよ!」
彼女はまたもや興奮した様子で声を荒らげる。
「ガタガタうるせーな。だから、その悪党共をぶっ潰すついでに、あんたの望みも叶えてやるってことだろ。」
面倒くさそうに志狼が言い放った言葉に少女は余計に怒り心頭の様子で叫ぶ。
「何を言ってるの!だから、あいつらは…!!」
「……落ち着いて…?…大丈夫……巻き込まれた、わけ、じゃない……光輝、そのつもりで、来た…」
少女が必死に強気な発言を繰り返すのは彼らを巻き込まないためだ。
それをわかってかどうかはわからないが、りのは彼女を宥めようと声をかける。
「そのつもりって…」
「つまり、光輝は元々その黒組織とやらを潰すつもりだったんだろ。んで、ついでにあんたに手を貸してやるってことだ。」
少女にとってりのや志狼の言葉は決して納得できるものではなかった。
むしろ、訳がわからないとさえ思う。
光輝はそんな少女に諭すように口を開く。
「あのさぁ、俺たちは別に敵討ちに協力するとか、あんたが可哀想だから助けてやろうとか、そういうんじゃないんだって。」
光輝の言葉の意味が少女には全くわからなかった。
光輝は真剣な表情で、いや、どういう表情なのかイマイチ判断のつかない何とも言えない無表情で言葉を続ける。
「出会ったやつ全員を助けるなんてことはしない。俺たちは正義の味方なんかじゃないんだ。」
「俺たちの力は俺たちのためにだけ使う。この世界では俺たちは俺たちの好きなように生きるんだよ。」
「それに、あいつにもこの世界では自由に生きていいって言われたしなぁ。」
最後の一言を発する時、ふっと光輝は表情を緩め、口角を上げた。
りのも志狼もわかりにくいが、同じ表情をしている。
どこか楽しそうな表情だ。
そんな彼らに少女は少し呆気に取られたように呆然とする。
「……なんなのあんたたち…」
そう呟く少女に光輝は笑って手を差し伸べる。
「まぁ、とにかくさ、共闘ってことで、よろしく!」
リズは差し伸ばされたその手を呆然と見つめた。
そして、何も考えられないぼんやりとした頭でなぜかその手に自らの手を乗せてしまった。
なぜその時彼らの手を取ってしまったのか、それは彼女自身にもわからない。
だが、もしあの時そうしなければ自分の人生は全く違うものになっていただろう…などと少女は後に思うことになる。
それは後悔の念からではなく、まだ彼らのことを全く知らなかったあの時の自分の本能的な行動を心から良かったと思ってのことだ。
こうして、少女の止まっていた時間は彼らによって"強制的に"動かされる。
そして、この出会いにより少女は自らの意志で決断し、歩み出すこととなる。
だが、この時の彼女はまだ何も知らない。




