5
そんな会話が屋敷で交わされているなど露知らず、光輝、りの、志狼の3人はパラミシアの街を歩いていた。
そうしてやがて森に入った。
森と言っても、四天王ウィリアムと出会ったあの森とは別の森だ。
「…うーん、なんつーか、大雑把な地図だなぁ…」
光輝は地図を広げながら首を傾げた。
「……たぶん、それが…精いっぱい……。……この、世界…危険……地図、作ろう、と、しない……」
「ああ、なるほど。確かにわざわざ危険な場所に入って地図を作ろうなんてやつはいないか。………この世界じゃ、あまり戦争もないみたいだし。」
この世界には危険が溢れている。
そんな世界でわざわざ細かい地図を作ろうなんて考える馬鹿はいない。
それに、この世界は国同士の大規模な戦争なんてものは存在しないのだ。
「地図と戦争に何の関係があるんだ。」
志狼が何気なく尋ねる。
「地図を制するもの、つまり、地理を制するものは戦を制するもんなんだよ。授業でやらなかった?」
「寝てた。」
「あはは、まぁ、志狼にはそんなもんなくたって大丈夫だしね!」
光輝は笑って志狼にそう言った後、黙り込んだ。
別に光輝だからって四六時中しゃべっているわけではない。
特に気を許した相手ならなおさらで、志狼、りの、クリスといる時、光輝は沈黙を厭わない。
だが、今回は少し違うと志狼はその野生の勘で察した。
「どうかしたか。」
光輝もりのも何か考え込んでいるようである。
「………戦争、が…ない……それは………」
「本当ならあり得ないことなんだよ。」
珍しく光輝はりのが話し終わる前に口を挟んだ。
りのはいつもゆっくりたどたどしく話すが、それを遮る者はいなかった。
ただ今回はりのが言いにくそうだったので、光輝が代弁したのである。
「……あのカミサマがそうしたんじゃないのか?」
そう言った志狼にりのは無表情でコンピューターのように告げる。
「………戦争の原因にはいろいろある。経済格差、人種の壁、国益、資源、欲望……それらの要因を完全に失くすのは簡単そうでかなり難しい。もしもノエルが意図的に戦争のない世界にしたのなら、ノエルはかなり世界に干渉していることになる可能性が高い。でも…」
最後だけ少し考えがまとまっていないようだ。
りのはほんの少しの情報から常人では考え付かないほどの情報を引き出し、計算する。
そして、何万通りもの可能性を考慮し、その中から最良の答えを導き出す。
だが、世界規模の話になると、さすがのりのでもある程度情報がなくては答えを導き出せない。
「でもさぁー、ノエルはたぶんそんなことしないと思うんだよねー。最初作る時はともかく、その後も常に干渉し続けたりするタイプじゃない……はず!」
光輝の言う可能性はりのも考えた。
ただ誰かの心のうちを推し量るのはりのの得意分野ではない。
志狼は関心があるのかないのかわかんない態度でぽつりと一言漏らした。
「嫌いだったんじゃねぇの?」
主語がないその言葉をうまく拾い上げたのはもちろん光輝であった
「戦争が?」
志狼はさも当たり前のように口を開く。
「言ってたろ?この世界には好きなものを詰め込んだって。」
志狼のあまりに単純な答えに光輝は思わず笑い出した。
「あははっ!確かに!」
そんな世界規模の会話や雑談などをしながら、彼らの旅は進んでいくのだ。
そうは言っても口数が多い方ではない彼らの会話なんてたかが知れているが。
ちなみに、夜はりのの絨毯のおかげで虫にも刺されることなく安眠できたようだ。
「これ空気以外は全部遮断すんのか……」
「てか、仮にも男女が1つ屋根の下って……」
などと光輝がブツブツ言っていたが、もちろん何のハプニングもなくりのの描いた魔法陣絨毯に立てたテントの中で3人一緒に寝たのだった。
まぁ、このメンツで何か起きるとは光輝も微塵も思っていなかったが、年頃の娘であるりのの危機感のなさに少しだけ不安を覚えたのだった。




