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「まぁ、クリスなら大丈夫でしょ!でも、俺たち、てか、りのからささやかなプレゼントがあるんだなぁ。」
光輝は悪巧みをしているような顔で言った。
りのは頷いて、メアリーの元に寄って行った。
「……できて、る…?」
りのの問いかけにメアリーはにこやかに答える。
「はい、ご心配なく、りの様のご指示の通りに仕上がっています。」
メアリーは布をりのに渡した。
クリスはメアリーとりのがいつ仲良く……というより個人的な付き合いをするようになったのか気になった。
メアリーはクリスより2つ上で、幼い頃から姉のような存在であった。
彼らは使用人にはほとんど興味を示さなかったが、メアリーがどこか特別な存在だとは気が付いていたはずだ。
りのはメアリーから受け取ったその布を床に広げた。
「これは…」
それは少し小さめの正方形の絨毯であった。
しかし、ただの絨毯ではない。
なんとそこには魔法陣の刺繍が施されているのだ。
「……わたし、かいた……で、メアリー、に…頼んで、刺繍、して、もらった……」
「お役に立ててなりよりです。魔法陣の刺繍なんて初めてやりましたわ。」
メアリーはほんわかした笑顔で言った。
メアリーにとって初めても何も、おそらくそんなことをしたのはこの世界で彼女が初めてなはずだ。
なにせ魔法陣を描ける人間なんて世界のどこにも存在しないのだから。
「魔法陣を布に…ですか。さすがというか何というか。」
クリスは驚きよりも呆れの入り交じった笑顔を浮かべる。
魔法陣はその形、文字、模様…その全てが力を持ち、それらが全て噛み合うことでその効力を発揮する。
つまり、描いてあるだけで効力を発揮するのである。
「…確かにりの様は魔法陣を描くことができます。ですが、まさか…」
思い付きもしなかったという言葉をレオンハルトは飲み込んだ。
レオンハルトが思い付かなかったのも無理はない。
魔法が発展したこの世の中で魔法陣を1からその手で描ける者など存在しないのに等しい。
魔法陣は魔法で出すのが常識なのだから。
だが、りのにはそれができるのだ。
だから、"これ"を作ることができた。
「俺が考えたんだけどねぇ。どう?りの。」
光輝はしげしげと絨毯を見ながら言った。
それに対してりのはただ頷いただけであった。
それを見て、光輝は絨毯に近づいていった。
バンッ
「いってー!」
光輝は絨毯に向けて拳を下ろした直後、手の痛みに悶えた。
「……ん、かんぺ、き……」
りのはメアリーに向かって小さくピースをした。
メアリーは嬉しそうに微笑む。
「へぇー、防御用か。」
志狼が絨毯を見下ろして言った。
りのはまた頷いた。
志狼の言う通り絨毯の上に半円形の透明なバリアーみたいなものが張ってあるのだ。
「そう!俺が提案したわけよ、魔法陣を予め書いておくのはどうかって。」
「ふーん。」
志狼は光輝と同じように拳を振り下ろした。
バリンッ
「……志狼に…対応、できる…ほどの、魔法、陣…は、まだ…存在、しない……」
志狼がいとも簡単に破ったこの魔法陣はこの世界における最強クラスの防御結界系魔法陣だ。
レオンハルトは笑顔を張り付けて何とか声を絞り出す。
「……志狼様は相変わらずですね……そして、りの様、まだということはもしやお創りになるつもりで……?」
世界最強の魔法陣を描くりの、それを最も簡単に破壊する志狼、その上、りのはこの魔法陣を越える魔法陣を創ると言うのだ。
今この世界で魔法陣を創るなんてことができるのは一部のエルフの学者のみのはずだ。
しかも、彼らとて古代の魔法陣技術を越えるほどの魔法陣は早々創れはしない。
光輝は顔の引き攣りを隠し切れていないレオンハルトにからかうような笑みで声をかける。
「そろそろ慣れろよー。俺たちに不可能はない!!なーんてな!」
光輝は軽く言っているが、レオンハルトの顔色は変わらない。
「…………冗談に聞こえないのがまた……」
この3人が揃ってできないことなんて想像も付かないとレオンハルトは思った。
「彼らと付き合うのに常識なんて気にしていたら身が持ちませんよ。」
クリスのその言葉にレオンハルトは引き攣り気味の笑みを浮かべる。
頭でそうしようと思っていても、染み付いた常識を捨てるなんてこと早々できることではない。
とりあえず日々主の偉大さに感服しているレオンハルトだった。




