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2


「用意ができましたわ。」


そして、3日後の朝食の席でクリスは3人に告げた。


「うっひょー!じゃあ、今日出発できるな!」


光輝が楽しそうに言う。


「……ん、楽しみ…」


「とりあえず体がなまって仕方ねーから、いい加減暴れてーな。」


りのはいつものほんわかとした無表情で頷く。

志狼は気怠そうに物騒なことを言った。


レオンハルトは「そんな今日いきなり行かなくても。」「自分たちで準備はしないのか。」などという言葉を発する前に飲み込んだ。

彼らは無意識にクリスが彼らの望むものを全て用意してくれていると確信しているし、クリスも当然のようにそれに応える。


いい加減自分も慣れなくてはとレオンハルトは思う。


「では、食事が終わり次第着替えてきてくださいね。」


そんなレオンハルトを意にも介せずクリスは笑顔で3人に告げる。



朝食後。


「おぉー!如何にも冒険者風!俺かっこいい!?」


楽しそうに自分の服装チェックをしている光輝にクリスは満足そうな笑みを浮かべる。


「ええ、よくお似合いですわ。やはり光輝はこういう格好がお好みだと思いまして。」


「よくわかってるー!」


クリスは光輝なら如何にも冒険者風の格好が気に入ると思い、物語から飛び出したような冒険者衣装を光輝に合うように改良したのである。


本来なら肩や胸の金属部分で身を守るのだが、慣れていない光輝には重くて邪魔なだけであるので、取り外した。

その代わり普通の布ではなく、耐久性が強い布でできている。

また、光輝にローブは必要ないと思われたが、好きそうなのでこれは取り外さなかった。冒険者用のブーツもまた同じ理由で光輝の衣装に取り入れられた。


光輝が楽しそうにクルクル回りながら自分の格好を眺めている横で志狼はいつもの無表情で立っていた。


「…うん、動きやすくていいな。」


志狼は軽く体を動かしながら言った。

表情ではわかりにくいが、それなりに満足そうである。


「お気に召してくださったようで何よりですわ。志狼もよくお似合いですわよ。」


クリスは志狼なら見た目より機能性を重視するだろうと思った。


まず、武器を持たず肉体戦を好むタイプには本来ならきっちりとした防具が必要なのだが、志狼には必要ないと判断した。

四天王の魔法を生身で砕くような志狼を傷つけれるものが存在するとは思えない。

なので、志狼の装備はとにかく軽さと動きやすさを重視した。

つまり、軽くてストレッチの効く特殊な布で志狼に似合うデザインの服を作らせたのだ。

要は全身真っ黒でありながら、ダサくなく、クールなデザインである。


コンコン。


「どうぞ。」


「りの様のお着替えが終わりました。」


メイドのメアリーが扉を開けて、りのが部屋に入ってきた。


「おお!似合う似合う!」


光輝は楽しそうにりのを褒めている。

りのは一言で言うと、とても可愛らしい格好をしていた。


「はい、よくお似合いですわ、りの。」


クリスは嬉しそうに笑った。

りのの服装は光輝の要望で随分可愛らしいデザインになっている。


「ねっこみみ、ねっこみみ!」


りののローブは猫耳付きのとても可愛らしいものである。うん、まぁ、光輝の趣味だ。

中の白いシャツとチェックのスカートも相まってとても可愛くコーディネートされている。


ちなみに、りのの服装は志狼や光輝と違って機能性よりデザイン重視だ。

りのは魔法陣を使用するため、それほど体を動かすこともないからだ。

もちろん、通気性や耐久性はきちんとしている。

また、短めのブーツは可愛いらしいデザインではあるが、歩きやすさを重視して作られている。


「な!可愛いよな、志狼!」


志狼の性格をわかっていて、ここで敢えて志狼に振るあたり光輝はなかなか腹黒いとクリスとレオンハルトは思う。


志狼はりのを無表情にジッと見つめてる。

それに対してりのは首を傾げる。


「……本物の猫みたいだな。」


「そう来るか」とりの以外の全員が思っただろう。

光輝の対人スキルの高さに反して、りのと志狼の対人スキルは著しく低い。

それは本人たちも含めてこの屋敷にいる者は皆知っている。

まぁ、つまり、本物の猫みたいに可愛いと言いたいのだろうということはレオンハルトにもわかった。


「……ん…ねこ…」


ただ、りのに正しく伝わったのかは定かではない。


とりあえずクリスは話を切り替える。


「りの、腰のポーチは邪魔ではありませんか?」


りのの腰には小さなポーチがついていた。


「……ん、大丈夫……便利……」


「なら、良かったです。」


りののポーチにはペンホルダーも付いていて、りのの魔法ペンの収納も可能になっている。

ちなみに、ポーチにも猫の刺繍が付いている。


「ポーチの中の飴はりの用に作らせましたの。」


りのはポーチから飴を1つ取り出して、口に入れてみた。


「……あまい…」


「りのは人の何倍も頭を使いますから、糖分は大事だと思いまして。あと、りのは少食ですから、野菜なども。」


普通の人とは比べものにならないほど頭を使うりののために、クリスが特別に作らせたものだ。


「どうでしょうか?」


「糖分、ビタミン…どっちも、頭の回転を助ける役割が、ある。あと、ミネラルとDHAも。」


クリスの問いにりのは淡々と答える。


「わかりましたわ。次はそれらも加えて作り直させますね。」


「…ん、ありがとう…」


クリスは笑顔で首を振る。


クリスは、こういうことはまずりのの意見を聞いておくべきだということくらいわかっていた。

しかし、事前に聞かなかったのは、りのを煩わせたくなかったのと、りのに余計な気を遣わせないためだ。


「こんなに金かけて大丈夫なのか。」


志狼だって馬鹿じゃない。

クリスが全て彼らに合わせて特別に作らせたものだとわかっている。

そして、それにはかなりのお金がかかっていることも。


「言ったはずですわ。これくらいでどうにかなるほど柔な財政管理はしていないと。」


クリスは口角を上げて笑う。


「この"家"を守ることと、あなた方のサポートは私の役目ですわ。そのためなら、どんなことだって致しますわ。」


クリスの言う"家"は物理的なものではなく、彼らの帰ってくる場所のことだ。


そう言って笑うクリスを見てレオンハルトは思う。「この方も彼らと同じ笑い方をするのだな。」と。

己に対する絶対的自信、未知なる冒険に対する高揚感、とにかく楽しく堪らないという感情……そう言ったものを全て含んだ絶対的強者の笑み。


それを初めて見た時、レオンハルトは驚きを隠せなかった。

だが、今は胸の底から湧き上がる高揚を感じている。


「クリスティーナ様、やはり私の主はあなた様だけです。」


光輝たち3人に断られたからではなく、心の底からクリスティーナ・レーウィン様に仕えようと改めて思った瞬間であった。


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