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決闘後、クリスの屋敷のいつもの応接室にて。
「結局どうして光輝は魔法が使えたのですか?」
レオンハルトもなぜかその場にいる。
「ん?」
「言っていたではありませんか、あなた方の世界の人間とこちらの人間は同じ身体構造をしていて、魔法を使う器官があるわけではない、と。」
クリスのその言葉にレオンハルトの疑問は更に深まる。
「あなたから全く魔力を感じませんのに、あなたは易々と魔法を使ってみせましたわ。」
レオンハルトも先ほどから疑問に感じていたことだ。
魔力を持つ者は魔力を感じ取ることができるというのがこの世界の常識だ。
だが、光輝からは魔力を微塵も感じなかったのにも関わらず、光輝はいとも簡単に魔法を使っていた。
光輝は納得したように口を開く。
「あー、それね!簡単なことだよ。俺が最初に唱えた呪文【地よ、風よ、水よ、世界のあらゆる力よ、我に力を。】ってのが…」
光輝が言い終わる前にレオンハルトが口を挟む。
「魔力増強魔法。」
レオンハルトの声は至って冷静ではっきりとしていた。
「そうそう。」
うんうんと頷く光輝にレオンハルトは若干戸惑った表情で言葉を続ける。
「だが、増強魔法でどうにかなる魔力量では……。それに元々魔力が存在しない場合…」
光輝はやはりニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「魔力ってのはさ、この世界の至るところに漂っているもんだろ?」
そこはやはり異世界ということだろう。
世界中に魔力は漂っている。
「そんで、世界の魔力っつーのは個人の持つ魔力とは比べものにならない。だからさぁ、それをどうにか使って俺でも魔法が使えるようにならないかなぁって思って、思い付いたのがこれ。」
光輝は首元から何かを取り出した。
「それは…!!」
レオンハルトは驚いて目を見開く。
光輝はとてもきれいな青い石を首から提げていた。
「そ、魔石〜!」
自慢げに青い魔石を光輝は首元でユラユラ揺らす。
クリスは驚いた様子もなく、ただ呆れた顔をした。
「いつの間にそんなものを……」
光輝は悪びれずに言う。
「いやー、この世界になら魔石とかあるんじゃないかと思ってさ!図書館で採れる場所とか調べたんだよ!んで、志狼に頼んで採ってきてもらった!」
光輝のこの言葉に目を見開いたのはレオンハルトだった。
「採って来る!?これはアスール・エンハンブレだぞ!この辺りにそのようなものが採れる採掘場なんて……」
「だから、志狼に頼んだんだって。1時間もかからずに採ってきてくれたぜ?」
興奮が隠しきれないレオンハルトに光輝はあっさりとそう告げる。
「1時間もかからずに!?しかも、こういう鉱石や魔石が採れる場所には大抵ものすごい数の魔物が……」
「んなもん、全部ぶっ飛ばしたに決まってんだろ。」
光輝も志狼もあまりにあっさりと言うので、レオンハルトは軽く眩暈がした。
クリスでさえ呆れた様子はあるが、そこに驚きは全くない。
「んーで、話を戻すけど、要は魔石を軸にしたら魔法使えんじゃねーかなーって思って昨日庭で試すつもりだったんだけど…」
そこにレオンハルトが乱入したため、その実験はできなくなってしまったわけである。
「屋敷の庭でそんなことをするおつもりだったのですか…!」
さすがのクリスも少し不機嫌そうに言った。
「いや、庭でやるならもっと小規模なやつにしたって、あはは…」
光輝は笑いながら目を反らす。
そして、「それにしてもこの世界の呪文って中二病染みてるよね〜。おかげで覚えやすかったけど〜。」なんて言って話題転換を図っている。
「そんなことより!そんな不確かな推測を元にあんなことをしたのか…!」
クリスや3人はお茶を飲みながら会話しているが、レオンハルトはお茶に口を付ける暇もないようである。
ちなみに従者の2人は扉の外で待機している。
「ん?まぁ、魔石と魔力増強魔法があれば、ある程度の魔法を使えるって自信あったしね〜。」
それに対して光輝は何でもないように言う。
それに対してレオンハルトは言葉も出ない。
一方、クリスは至って冷静であった。
「魔石と知識があれば、魔力がなくとも、魔法が使える……これは世界を揺るがすほどの発見ですわね。」
そう、この世界の全ての人間や他の種族が魔法を使えるわけではない。
もしこのことを公表すれば、血眼になって魔石を探す者が多く現れるであろう。
「どういたしますか?」
クリスは3人を見て尋ねる。
まぁ、答えなどわかりきっていたが。
「……公表する、必要は、ない……魔石は、とても、貴重……」
「そうだねー。世界にいらない混乱を招くだろうし、そもそも魔石は貴重だからこの使い方に気が付くやつなんて早々現れないよ。」
やはり光輝の答えはクリスの予想通りのものとなった。
この世界の人間や一部の種族は魔石を魔力増強アイテムとして認識している。
だから、魔法を使える者にとって魔石は「あったら便利なもの」で、ない者にとっては「ただのきれいな宝石」である。
「ってことで、よろしくー。」
光輝はレオンハルトに向けて言った。
レオンハルトは難しそうな顔で言う。
「世界を混乱させるようなことを貴族である俺が言うはずが……」
"貴族"である自分、普段なら当たり前のようにレオンハルトが使う言葉である。
だが、レオンハルトはその言葉に少し違和感を覚えた。
貴族とはなんだ、平民とはなんだ、彼らは……レオンハルトの考えはまだうまくまとまっていない。
その後レオンハルトは従者を引き連れて帰っていった。
馬車の中でひたすら彼の脳裏に浮かぶのは今日起こった全ての出来事である。




