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それから数日後。


「今日も図書館に行きますの?」


ここ数日クリスは領主の引き継ぎで忙しかったようである。

今日ようやく屋敷でゆっくりお茶をする時間くらいはできたようだ。


「…ん。」


りのは今日も図書館篭りをするつもりのようだ。

それなら、志狼ももちろんりのと一緒に行く。


「あー、俺は今日はやめとく。」


光輝は今日は図書館には行かないようだ。

志狼は無表情で光輝に問いかける。


「いいのか?」


「うん。」


志狼の言葉に含まれていることを理解した上で光輝は答えた。


「そうか。」


志狼はただ短くそう返事をしただけだ。


その後志狼とりのは図書館に向かったので、応接室には光輝とクリスだけになった。


「もう図書館はよろしいの?」


「うーん、俺はりのと違って理論より実践派だからねー。」


光輝はいつもより随分声のトーンが落ち着いている。

まぁ、光輝だって四六時中高いテンションで過ごしているわけではない。


「実践派……ですか。異世界からいらっしゃったあなた方にこの世界の魔法が使えるものなのですか?」


クリスは最もな疑問を光輝に問いかける。


「ああ、それは俺も考えたんだけどさぁ……」


2人はお茶をしながら、話を進める。

ちなみに、今日のお菓子はマカロンである。


「この世界の人間は生まれた時から魔法が使えるんだろう?」


「全員がというわけではありませんが、生まれながらにして魔力を持つ者は人間にも存在しますわ。」


例外はあるとはいえ、大抵は魔法の才は天性のものだ。それがこの世界の常識である。


「うん、まぁ、だから気になって、りのに聞いたんだけど……」


光輝がマカロンを1つ手に取った。


「この世界の人間と俺たちの身体構造はほぼ一緒なんだ。」


「身体構造?」


クリスはティーカップを手にしたまま首を傾げた。

クリスの髪がサラリと流れる。


「そう。つまり、内臓の種類や働き、位置……それら全部俺たちと同じなんだ。」


光輝は真剣な表情で説明していく。


「ええと、それは至って普通のことではないのですか?世界は違えど、同じ人間なのですから。」


クリスは不思議そうにそう言った。

きっとクリスでなくとも、同じようなことを言うであろう。


「だってさぁ、漫画や小説ならそれで普通なんだろうけどさ……おかしいだろ、俺たち全然違う世界で進化してきたんだぜ。なのに……」


そう、よくある異世界転生ものの小説や漫画なら、当然のようにそういうものだと流されることなのだ。

同じ人間なのだから、身体構造が同じなのは当然だろうと。

そもそも誰も疑問さえ持たない可能性もある。

だが、全く別の"世界"で進化したはずなのに、同じ構造にたどり着くなんてそもそもがおかしいのだ。


光輝は珍しく深刻な顔をして深く考え込んでいるようだったが、言葉を途中で切っていつも通りの調子に戻した。


「とにかく!身体構造が一緒ってことは、魔法を使うための特別な器官とかがあるわけじゃないってこと!」


光輝はひとまず魔法の話に戻す。


「そうなのですか。あなたが言うのなら、そうなのでしょうね。」


クリスの言葉に光輝は反応した。


「あれ?俺って結構信頼されてる?」


おどけて笑う光輝にクリスは優雅に紅茶を飲みながら微笑む。


「ええ、信じておりますわよ。あなた方3人を誰よりも。」


光輝は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑った。

穏やかな時間が流れていく。


「そういえば、先ほどの話はどうなりましたの?」


クリスは思い出したように光輝にそう尋ねた。


「ん?」


「進化の話ですわ。」


光輝が思い出したように口を開く。


「ああ、あれな!ああいう学術的な話はりのの方が向いてるだろ。また今度りのもいる時にしよう。」


そうして、2人がお茶をしながら話していると、コンコンとノックの音がした。


「どうぞ。」


「失礼します。」


いつもクリスの傍にいるメイドである。


「お話の最中に申し訳ありません。レオンハルト様がお見えになっています。」


クリスはメイドが口にした名前を聞いて少し嫌そうな顔をした。


「わかりました。では……」


バンッ


「噂は本当だったのだな。クリスティーナ嬢、未婚の女性が若い男性と同じ屋敷に住むとはどういうことですか。」


いきなり扉が開いたと思ったら、いかにも貴族のご子息という風体の男が入ってきた。

異世界では珍しくない濃いめの緑色の髪はオールバックにしており、腰の上まで垂れた髪は違和感を感じさせないほど艶やかである。

まぁ、つまり、イケメンだ。


「……彼らは私の大切なお客人ですの。失礼な物言いをしないでくださるかしら。」


クリスは無表情でいつもより幾分か低くなった声でそう言った。


「客人?このような者がか?」


その男は光輝を見て鼻で笑った。

光輝が何かを言う前にクリスが口を開いた。


「訂正してください。たとえ誰であろうと、彼を、彼らを侮辱するのは私が許しませんわ。」


男はさらに機嫌を損ねたように眉をひそめた。


「なぜこの俺がそのような平民に頭を下げねばならないんだ。冗談を言うのも程々にしろ。」


貴族思想が染み付いたこの男にとってクリスの言葉はあまりに不可解であった。

クリスが反論する前に、今度は光輝がそれを遮った。


「あー、はいはい、だいたい状況はわかった。つまり、あんたはクリスの婚約者ってところだろ?」


光輝はいつも通りへらへらと笑って……いや、へらへらと笑った顔を貼り付けて言う。


「平民が口の利き方に気をつけろ。まぁ、いい、わかったのなら……」


男は心底見下したように光輝を見た。

しかし、光輝は男が言い終わる前にクリスの方に視線を向けた。


「あのさぁ、クリスって別にこの偉そうなおぼっちゃま好きじゃないんでしょ?んじゃ、これは却下ね。」


そして、サラリと爆弾発言をした。


「なっ!?何を!!」


あまりの言われように男は怒り爆発のようである。

しかし、クリスは光輝の言葉に少し笑っていた。


「ふふふ、いくら何でもご本人を前にきっぱり言い過ぎではなくて?」


光輝は笑って返す。

もちろん今度は作り笑いではない。


「当然だろ?クリスは俺たちが認めたやつなんだからさ!こんなの却下に決まってるって!」


光輝は楽しそうにそう言い切った。

男は無視をされたことで更に気を悪くしたようだ。


「さっきから何なのだ!このような無礼なやつに肩入れするなど、気でも触れたか!!」


怒鳴る彼にクリスは冷静に、そして、冷たく応える。


「いいえ、正気ですわ。そちらこそ無断で私の部屋に入って来られただけでなく、私の大切なお客人に対する失礼な発言の数々……決して貴族の振る舞いではありませんわ。」


男はブチギレたようで更に怒鳴ろうとしたが、その前に光輝が仲裁に入る。


「あー、だから、ストップ!とりあえず、2人とも1回落ち着いて。」


クリスを睨みつけていた男はキッと光輝に視線を向けた。


「だからさぁ、俺はクリスの婚約者があんたなんて認めないって言ってんのー。」


光輝は面倒くさそうにそう言う。


「貴様などに認められる必要はない!だいたい認められないなどと言って平民に何ができると言うんだ!」


「いやー、大丈夫大丈夫。俺たちに不可能はないから。つーことで、あんた俺たちと決闘な。」


光輝はものすごく軽かった。ほぼ棒読みである。

その言葉に男は嘲笑を浮かべた。


「決闘?平民などとか?笑わせる。」


「うん、平民なんかには負けないだろ?だから、俺たちが勝ったらクリスとの婚約解消で。」


「はっ、良かろう。その話に乗ってやろう。」


普段なら平民との決闘なんてことは絶対にしないが、あまりに腹が立ったため、見せしめに相手をしてやろうと男は思ったのだ。


光輝がニヤッと笑ったことにも気付かずに男は帰っていった。



「……けっ、とう…?」


帰って早々に聞かされた話にりのは不思議そうに首を傾げた。


「要はそいつをぶっ飛ばせばいいんだろ?」


志狼はひどくつまらなそうである。


「チ、チ、チ!そんだけじゃないんだな!」


光輝はわざとらしいドヤ顔をしている。


「正直クリスの婚約者があんなんとかないし、かなりムカついたし……だから!2度と俺たちに文句を言えないようにしてやろうと思って!」


楽しそうに言うセリフではないはずだとツッコミを入れる者はここにはいない。

クリスは仕事に行ってしまっている。


「具体的にどうするんだよ。」


一応志狼も全くの無関心でもないようだ。


「ふっふっふっ、俺に任せてって!決闘明日にしたけど大丈夫だよね?」


光輝はどことなく楽しそうだ。


「…ん」


「好きにしろ。」


りのはいつも通り無表情な可愛らしい顔で頷く。

志狼は相変わらず面倒くさそうであった。

さすがに貴族のおぼっちゃま相手ではやる気は出ないようである。

光輝だけがなぜか生き生きとしていた。


「楽しそう、だね…」


りのは少し不思議そうであった。


「まぁね!」


光輝も2人と同じでおぼっちゃま相手の決闘なんて興味もなかったが、あのおぼっちゃまの鼻っ柱をへし折れることと、自分たちのちょっとしたお披露目になることが楽しみであったのだ。


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