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「それで明日からはどうしますの?」
あの叔父様騒動の後、部屋の割り振りや家の中の案内を済ませ、今は貴族らしい豪華な晩餐中である。
豪華といってもレーヴィン家の食事は他の貴族に比べたら質素で家庭的なものであるが、それでも十分豪華ではある。
「んー、そうだねー……今はとりあえずもう少しこの世界の情報がほしいかなぁ。」
光輝は食べながら、ちょっと考えてそう言った。
「……ん。……情報、足り、ない……」
りのもゆっくり食べながら、光輝の言葉に頷く。
「ってことで、図書館とかある?」
「ありますわよ。王都ほどではありませんが、それなりの大きさでかなり貴重な書物もある立派な図書館ですわ。」
クリスは笑顔で言った。
本当にクリスはこのパラミシアの町が大事なのだとわかる。
「へぇー、それは楽しそうだねー!」
「……うん……。志狼、は、どうする……?」
りのは楽しそうな光輝に返事をした後、志狼に尋ねた。
志狼は少し考えてすぐに結論を出した。
「俺も行く。」
そういうわけで、次の日彼らはパラミシア図書館に向かった。
「うぉー!いかにもって感じだ!」
そこにはとても壮観な光景が広がっていた。
ヨーロッパ風の造りで蔵書1冊1冊がアンティークのように綺麗なだけではなく、図書館全体がとても煌びやかで厳かな雰囲気を纏っていた。
圧倒的なスケールの蔵書量に、壁や天上には芸術的な絵が描かれており、本棚や階段、机など隅々まで手の込んだ造りであった。
これには光輝でなくとも、東洋人なら大抵テンションが上がるだろう。
「なぁ、りの!……ってあれ?」
光輝はひとしきり辺りを見回した後、りのにどうやってこの広すぎる図書館で本を探せばいいのだろうかと聞こうとしたのだが、りのはもう既にそこにはいなかった。
「あいつならあっちにいる。」
志狼が指した方を見ると、りのは既に本をものすごい速さで読み始めていた。
「うっわー、すっげー……昨日ので本を読むのがめっちゃ速いのはわかってたけど、実際に見ると本当にすごいなぁー。」
光輝は感心したようにつぶやいたが、驚いた様子はなかった。
光輝はりのに近づいて話しかけた。
「なぁ、何の本を読んでんの?てか、この量でどうやってお目当の本を見つけたわけ?まさか片っ端から読んで行くなんてことしないだろ?」
りのは読み終えた本を閉じて光輝の方を向いた。
「ひと、つ、の…棚を、見れば……基本的な配置方法、建物の造り、蔵書の内容、から、この図書館、全体の、だいたいの、本の配置、くらい、割り出せる……」
つまり、りのは最初に目に入った棚の本をみただけで図書館全体の構図を計算で割り出したようである。
今まで見た様々な図書館の配置方法からいくつかのパターンを導き出し、建物の造りから見たこの図書館の性格で更に絞り込み、本のタイトルから内容を推測して蔵書の傾向を割り出したのである。
「あははっ、さっすがだね〜。じゃあ、えーと…」
光輝は楽しそうに笑った後、少し考える素振りを見せた。
「魔法関連と生き物関連の本ってどこ?」
「あっち、と、あっち…」
光輝はりのが指した棚を見てから、りのに向き直った。
「ありがと。んじゃ、この世界のことはりのに任せるねー。」
光輝はりのが始めに何を調べようとしているのか言われなくともわかっていた。
世界のことを調べるのは当たり前のことだと思われるかもしれないが、"世界"という括りはあまりに大きく、その膨大すぎる情報からこの"世界"を分析するのは決して簡単なことではない。
だが、りのはまずそこから始めるだろうと光輝はりのの性格や行動から判断したのだ。
「俺は自分に必要ありそうなことだけ調べるよ。」
そして、それなら自分は自分のできることだけをしようと光輝は考えた。
光輝は自分がりののような凄まじい読書スピードも分析力も持ち合わせていないことがわかっていて、その上で自分の得意分野の知識の増強と補正に臨むことを選んだ。
光輝は3人のそれぞれの役割をよく理解しており、この3人の絶妙なバランスに無限の可能性を感じて心躍らせていた。
そして、それは光輝だけではない。
「あ、そういえば、志狼はどうすんの?」
志狼は図書館にこれっぽっちも興味がないはずだ。
「俺は適当に寝てる。終わったら起こせ。」
「了解。」
りのも光輝も志狼が付いてきたのは護衛のためだとわかっていた。
今の2人には何の自衛手段もない。
机に伏せて寝ようとしている志狼を見て、光輝はポツリと独り言を漏らす。
「ちゃんと戦えるようにならないとなぁ。」
そこには志狼に悪いとか卑屈さとかは一切入っていない。
ただ優しさが少しこそばゆい。
だが、きっとそれはお互い様である。
「よし!んじゃ、やるか。」
そうして光輝は偶に睡魔に襲われたり1人で静かにテンションが上がったりしながら、自分の興味がある分野を調べた。
大まかな本の場所はりのが教えてくれる。
りのは、読むスピードは速くても、動きはゆっくりなので、効率を考えてなるべく動かずに済むようにして本を読んでいた。
だけど、それに気が付いた志狼がりのの読みたい本を取ってくれるようになったため、りのは志狼に頼んで持って来てもらった本を机に積んで読むようになった。
志狼はりのが本を読んでいる間はだいたい寝ていて、山積みの本をりのが読み終えたタイミングで起き出す。おそらく野生の勘である。
この日は3人とも1日図書館で過ごした。




