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「うん。これで一件落着だね!」


光輝は軽くそう言った。


そして、クリスの叔父は誓約書を書いた後、逃げるようにして帰っていった。


光輝たち3人は何でもないかのような態度であったが、クリスは真剣な表情で3人に向き直る。


「この度はレーウィン家の問題に巻き込んでしまったのにもかかわらず、命を救っていただいた上に、この屋敷を、いえ、お父様とお母様が守ってきたものを守ってくださり、本当にありがとうございます。」


そして、貴族らしく上品に、そして丁寧に感謝の言葉を3人に述べた。


「あれ?まずそれ?聞きたいこととかないの?」


光輝が不思議そうに首を傾げる。

クリスティーナは貴族の令嬢らしくスカートを軽く持ち上げ、お辞儀をしたまま言葉を続ける。


「確かにお聞きしたいことは山ほどありますわ。しかし、まずはお詫びとお礼をしなくては。」


たとえ混乱していても、礼儀は欠かせないのがクリスである。


「あははっ!さっすがお嬢様!…ん?いや、クリスの肝が座ってるだけか?」


「だから、助けたんだろ?」


「ん、クリス、すごい。」


「そうだね!」


3人とも本当にクリスを気に入っているようである。


それもクリスにとって不思議なことの1つである。

彼らと出会って間もないクリスであるが、彼らが他とは違う飛び抜けた存在であることはわかる。

そんな彼らがなぜクリスを気に入ったのかクリスには見当もつかなかった。


だが、それより先に……


「では、あなた方が一体何者なのかを教えてください。」


クリスは詫びと感謝を済ませたので、スカートを下ろし、体を起こして、真っ直ぐに光輝たちに尋ねる。


りのは首を少し傾けてクリスの質問に答える。


「ただの、異世界、人……?」


クリスも首を傾げた。

彼女のウェーブがかったオレンジ色に近い茶色の髪がサラリと落ちる。


「異世界人?それって異なる世界から来たということですの?でも、そんなことって……」


「ノエルが連れてきてくれたんだよ。」


光輝があっけらかんと言ったセリフにクリスは大きく目を見開いた。


「ノエルって……!まさか唯一神の……!」


「この世界の人間は神の名前を知っているんだねー。」


クリスの反応に光輝は少し感心したような声を出した。


「当たり前です!ノエル様は唯一神にして絶対神!この世界を創造されたお方ですのよ!?」


今まで辛うじて保っていたクリスの冷静さはどこかに吹き飛んだようだ。


「……落ち着い、て……」


りのはのんびりとクリスをなだめた。

そして、3人はクリスにこれまでの経緯を話した。

まぁ、3人といってもほとんど光輝が話したのだが。


「………異世界……神……魔族……四天王……」


クリスはほぼ放心していた。

至って普通の常識人であるクリスにはこの非常識極まりない話に頭が追いつかないようである。

彼らの話はすべて荒唐無稽でとても信じられるものではなかった。

だが、クリスは彼らの言葉を疑う気は毛頭起きなかった。


「では、ノエル様のネックレスを探さねばなりませんね。どのようにお探しになるつもりですか?」


ここで冷静に話を進めようとする辺りがクリスのすごいところであり、彼らに気に入られただけはあると言えるところなのだろう。


「あ?ノエルはついでつってたし、見つけたら回収すればいいんだろ?」


志狼はかったるそうにそう言った。

それに慌てたのはクリスだ。


「な!?……そんなわけにはいきませんわ。ノエル様のネックレスということは世界を動かすことができるほどの力があるはずです。」


クリスは真剣な顔でそうさとす。


「そうなのか?」


志狼は光輝の方を向いて聞いた。


「ん?まぁ、一応神様のネックレスだからね。欠片でもすごい力があるはずだよ。そのことに気づけるやつは少ないと思うけどね。」


「……情報、が……少な、すぎて……場所の、特定は、難しい……」


りのの言葉に光輝は笑ってフォローを入れる。


「大丈夫大丈夫!ぶらぶらしてれば情報くらい入ってくるって!世界はそういう風にできてる!……たぶん!」


クリスは溜め息が出そうになるのを堪えて話を続ける。


「いくらなんでも世界中に散らばったものを見つけるのに行き当たりばったりというのは……」


呆れた様子でそう言うクリスにりのは首を傾げる。

りののふわふわな髪が揺れる。

ちなみに、クリスの髪はサラサラで毛先の方にウェーブがかかっている感じで、りのの髪は全体的にふわふわしている。


「なん、で……?」


りのは心底不思議そうな顔をしていた。


「え、世界中に散らばっているのですよね?だとしたら、情報もない状況では一生かかっても全て見つけることは叶いませんわ。」


クリスの言い分は最もである。

だが、そんなこと言わずとも彼らならわかるはずなのに、なぜりのはそんな表情をしていたのかクリスにはわからなかった。


「この世界の全部見て回るんだから、問題ないだろ。」


そんなクリスに志狼はさも当然のようにそう言い放つ。

クリスはその言葉に大きく目を見開く。


「ん。楽し、み…!」


そして、りのは少し嬉しそうに言った。


クリスは驚きを隠せなかった。

なぜなら、彼らが本気で言っていることが彼女にはわかったからである。


「世界ですのよ!?全部見て回るなんて……!」


「あははっ!クリス、諦めろって!俺たちに不可能はないんだから!いちいち驚いてたら、心臓が保たないよ?」


光輝は楽しそうに笑いながらクリスにそう言った。


クリスは流石に頭が痛くなりそうであったが、彼らが型破りな存在ということは出会った時から気が付いていた上に、先ほどの話を聞くと更に確信めいてきた。


「わかりましたわ。それなら、私から1つ提案がありますの。」


彼女は少し苦笑いをした後、晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。


「提案?どんな?」


光輝はクリスの言葉を聞き返した。


クリスは冷静にゆっくりと口を開く。



「あなた方ならきっと世界の全てを見て回ることも神のネックレスの捜索も……全てあなた方だけでやり遂げられるのでしょう。」



彼女は穏やかに微笑んだまま続ける。



「……ですが、私にそのお手伝いをさせてもらえませんか。」



彼女のセリフに、りのはキョトンとした表情を浮かべ、光輝は虚をつかれたような表情を一瞬浮かべた。


「……お、手伝い……?」


りのは不思議そうに聞き返す。


クリスはこの上なく重要な商談であるかのように、慎重に言葉を選び、一切の迷いを見せずに話を進めた。


「はい。あなた方がこの世界で冒険をするためには絶対に必要となる資金と情報を私なら提供できます。そして、住処、いえ、居場所を。」


彼女は真剣な表情でそう強く言い切った。

その翡翠色の瞳はただひたすらに真っ直ぐで、そこに迷いなどは一切ない。


そして、ふっと表情を緩めた。


「別に私の助けなんてなくともあなた方ならきっと大丈夫なんでしょう?ですけど、帰って来れる家があるというのはとても良いことだと思いますの。」


クリスはふんわりと笑った。


「……い、え…?」


りのはますます不思議そうな顔をした。

志狼と光輝に至っては何を考えているかわからない表情をしていた。


「差し出がましいことであるとは存じ上げております。私の提案がお気に障ったようなら、申し訳ありません。私はただ……」


クリスはそんな彼らの反応にひるむこともなく、柔らかな表情で言葉を紡ぐ。

それに、光輝は真剣な表情で応える。


「いや、少し驚いただけだ。俺はクリスのくれる"家"なら悪くないと思うよ。」


光輝は笑う。

作り笑顔でも楽しそうな笑顔でもなく、戸惑ったように笑う。


「……ん。クリス、好き……」


りのは嬉しそうに笑う。

ただ無邪気に。


「俺も構わねーよ。」


志狼はぶっきらぼうに言う。


クリスは光輝が"家"に対して複雑な感情を抱いていること、りのと志狼が"家"の意味を理解していないことに気がついた。

彼ら3人の家庭環境について考えを巡らせそうになったが、思い止まった。



「じゃあ、これからはここがりのと光輝と志狼の家ですわ。」



クリスは満面の笑みを3人に向ける。


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