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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect16 ”交錯”

 

 少なくとも自分と同格程度であり、高校生としては規格外としか言いようのない魔法の実力を誇っているはずの萌生さえをも凌ぐ新入生が存在している―――。達彦はなんの冗談かと問い返そうとして、しかし至って真剣な表情の萌生の前では黙らざるを得なかった。


 「そんな、馬鹿な。豊園だってランク4だろう?そんな、入学して2ヶ月とちょっとの子が、いや、そんなわけがないだろう・・・!常識的に考えてありえないぞ」


 「常識的には、ね。でも、現実に焔君も清水君も天田さんには惨敗しているし、この前なんかはあーちゃんも軽くあしらわれちゃったのよ。いくら信じたくなくたって現実は一緒よ」


 「んなッ・・・で、でもその言い分だとまだお前は彼女に負けてはいないという―――」


 「ええ、そうね。負けてはいないわよ、一応はね。だって、今の時期に主将をやっている私が1年生にコテンパンにされちゃったらいろいろマズいでしょう?士気も下がるかもしれないわ。そうしないためにあの子とは試合をしなかっただけなの」


 以前萌生は雪姫に対して軽い挑発のようなことをしたことはあったが、あの時点で既に萌生は全国大会が終わるまでは雪姫との試合を絶対にしないと決めていた。萌生では雪姫には、少なくとも1対1では絶対に敵わない。超低温の氷魔法に萌生の植物魔法は相性が悪いから、というのは後付けの理由に過ぎない。その程度の問題なら、対応策は萌生の頭を持ってすればいくらでも思いつく。簡単な例を挙げれば寒帯植物を利用するとか。無論その抵抗に意味はないが。

 そもそもの魔法士としてのレベルがかけ離れているだけのことだ。


 仮にも学園最強の肩書きを正式に名乗っている萌生が雪姫に大敗を喫するとすれば―――互角の勝負の末ならまだしも、手も足も出せないままに膝を折る結果があるとすれば、まず間違いなく士気が下がる。

 それならいっそ雪姫が主将を代われば良いのだろうが、あの性格では無理がある。萌生には自身の不都合を、公の都合を言い訳に回避したようにも思えたが、事実としてきっと彼女の考えは正しい。マンティオ学園がこの全国大会にいつも通りの活気で臨むためにはこれが最善手だったのだ。


 今度こそ達彦は絶句した。そんなの、どうしたって勝ち目がない。萌生は言外に達彦も天田雪姫という少女(バケモノ)の前ではなんの力も持たないと主張している。

 あまりにも馬鹿げた話にはどうしても頭が追いつけず、達彦は往生際悪くも縋るように明日葉を見た。

 けれど、見られた明日葉もゆるりと首を横に振った。


 「残念だけどこれはガチだよ。アタシも肉弾戦でさえ大してなんも出来ないで見事に叩き潰されたんだぜ?間違いなくアイツの方がつえーよ」


 「いや、いやいや・・・そんなの、ただの化物だ!」


 思わず達彦も声を荒げた。受け入れがたい現実への憤慨と屈辱、そして内心で1年生と上級生の試合が分けられていたことへの安堵を感じている自分への恥ずかしさだった。

 同情するような目をして萌生も小さく息を吐いた。


 「そうね。出来ればこんなこと言いたくないけど、あの子は正真正銘―――あくまで学生目線でしかない私たちからすれば怪物よね。でも天田さんだって1人の女の子よ?可愛い後輩をそんな風に言わないでちょうだい?」

 

 正論で諭してくる萌生から達彦は顔を逸らし、忌々しげに舌打ちをしたのだった。

 絶望的な情報だが、情報は情報。まだ、ひょっとしたら希望はあるかもしれない。実感がないから、と言われればそれまで。それでも達彦は手合わせすらせずに敗北を認めた自分のライバルが堪らなく虚しかったから、柄にもなくはしたない音を鳴らす。

 3年間の研鑽は容易に諦められるほど安くはない。

 自分はまだ、こんな風に弱くない。弱くなんか、ないから。


          ●


 「えー、みなさん。まずは大会1日目お疲れ様でした!留置所で特別にテレビ使わせてもらってみなさんの活躍見てましたよ!」


 1日目の終わりのミーティングにて、ムショ帰りの真波が挨拶代わりに明るく元気にそう言った。恐らく反省は一切していないのだろう。ひょっとすると明日の昼にはまた留置所にいるかもしれない。

 とはいえ生徒たちはどうせこんなものだろうなと初めから予想していたのでヘラヘラしている真波には大した反応もせず、代わりになぜかこの場にいない人物に意識が行っていた。


 それを分かってか真波もすぐにハジメと話者を交代した。大事な話なので、やはり今この場にいる中で最も立場の高い教師であるハジメが伝えるべきということだろう。


 「えー、君たちももう気が付いてるかもしれませんけど、アメリアさんが今いらっしゃいません。もしかして既にこの話は小耳に挟む程度には聞いているのかもとは思いますが、現在この『のぞみ』には不審者が出没しているようです。手当たり次第にというわけではなさそうですが、一般の方から学生まで非常に多くの方が不審者に襲われて気を失うという事件が起きています」


 多くの生徒はハジメの言う通り町中で既にざわついていたこの噂を知っており、これでやはり現実に起きているのだと実感する。被害を受けたという武仁もこの場にはおり、周りでは犯人の顔を見たのかと彼に質問する声がヒソヒソとしている。

 ただ、先にもオラーニア学園の千尋達彦が言っていたように―――不謹慎な言い方ではあるが、あまりに鮮やかな手口で意識を刈り取られた故に被害者の誰も犯人の顔を見ることが出来ていない。

 改めてその脅威は現実味を帯び始め、生徒に留まらず教師すら緊張した面持ちであった。


 「そして、アメリアさんもその通り魔被害に遭われ、現在は意識不明とのことです。すぐに病院に搬送され、命に別状はないとは聞いていますから、この件については安心してください・・・。四川君も被害に遭ったのですが、無事で良かった」


 「・・・はい、ありがとうございました」


 気絶していたところを見つけてくれたハジメに武仁は改めて礼を言った。改めて思えばエイミィすら敵わないような恐ろしい人物に襲われて生きていること自体が奇跡にさえ感じられる。激しい動揺と一緒に、彼には一種の感動のような感覚もあった。


 しかし、安心しようにも出来るはずはない。

 当然アメリアの話を聞いた生徒たちは動揺を隠しきれずにざわついた。比較的冷静でいられたのは前例があることを知っている萌生と明日葉に加え、ネビアと雪姫あたりだけだ。ただ、ネビアはニヤニヤとなにを考えているのか分からないし、雪姫も生存報告以降は冷静というよりも興味なさげである。 


 ハジメが後ろに下がるとサポーター班代表である竜一も前に出てきて、謝罪と注意喚起をする。


 「こうしてわざわざ依頼もしてくださったというのに、不甲斐ないことになってしまったことをお詫びします。―――ですが、恐らく例の通り魔もアメリアさんと正面からやり合ったというわけではないはずです。彼女の能力の高さは私も知っていますから。つまり、所詮通り魔もコソコソと人を狙うだけの犯罪者に過ぎないのです。二度も遅れを取ることはしません!我々もみなさんの身の安全を守るために尽力いたします。もしも危険であると判断した場合に備え、簡易連絡手段を持っていただきたいのですが、みなさん携帯電話はお持ちですか?」


 竜一が問いかけると、幸い全員がスマートフォンを取り出してくれた。さっそく生徒らにはIAMOの公式アプリのインストールを要求し、続いて自分らサポーターたちの端末にワンタッチで連絡を入れられるように操作をさせるのだった。


 「ご協力ありがとうございます。――――――願わくばコレが使われるような事態が起きないで欲しいですがね」


 竜一はそう言って兼平とチャンの顔を見やった。すると2人も表情を引き締める。この場において最も事の重大さを分かっているのは間違いなく彼らであった。

 あの優秀なエイミィでさえ敵わない敵に狙われている中、これ以上の失敗をすることは出来ないのだ。

 部下の反応を見てから竜一は「ですが」と話を続けた。


 「犯人も相当の実力者であることは間違いないと予想されますので、みなさんも十分に気を付けてください」


 それだけ言って竜一が下がろうとしたところで、萌生が手を挙げ、発言の許可を乞う。

 当然教師の誰も生徒会長である彼女を止めはしない。


 「すみません。えーっと、私の方からも提案・・・というより確実に従って欲しいのですが、明日からは移動の際に極力3人以上で行動してください。2人でも恐らく通り魔に遭遇した場合に対応出来ないので、1人でも逃げて連絡出来るよう、3人で、です。これ、絶対ですからね?お願いしますよ」


 みながちゃんと頷いてくれたので萌生は満足する。彼女としてはハジメや竜一が先に言ってくれるかとも思っていたのだが、結局言わなかったことを不思議に思っていた。後で付け加えるつもりだったのだろうかとは考えるが、どこか納得がいかない。

 萌生は座り直そうとしたところで竜一がなにか小声で呟くのを聞いた。


 「・・・・・・?どうして・・・?」


 「会長、どうかしたんですか?」


 怪訝な顔をした萌生に煌熾が声をかけると、萌生はすぐにいつもの柔和な表情に戻って「なんでもないと」と笑うのだった。

 だが、それでは納得できない煌熾は眉をひそめ、萌生も仕方なく竜一の目を気にしながら煌熾に耳を貸すよう手招きする。

 

 「なんだったんです?」

 

 「・・・そうね、いや、うーん・・・。小牛田さんが『あ、言うの忘れてた』って呟いててなんでやねーん、みたいな?」


 「・・・」


 一通りの注意連絡が終わってからは、いつも通りのミーティングが進行され、最後は明日の激励と共に生徒たちは解散された。


 

 長かった話も終わって、まずはシャワーを浴びたい迅雷は真牙と一緒に部屋に戻ろうとする。そこにネビアが追いついてきて、迅雷の右隣に並んだ。


 「ねぇ、迅雷。変だと思わない?カシラ」


 「変?なにがだよ。通り魔のことか?」


 「そう。なんかその人、どーにも胡散臭くってさぁ、カシラ。だってそう思わない?カシラ」


 ネビアがまどろっこしい言い方ばかりするので、迅雷も真牙も眉をひそめた。


 「あのねぇ君たち・・・、カシラ」


 つくづく肩書きというのは便利だな、とネビアは実感した。きっとネビアがジャージを着ていれば誰も彼女を疑わないのと同じだろう。

 

 「まぁいいよ、健全健全、カシラ。でもさ、その『通り魔』。なんで気絶させるだけ?カシラ。フツーそんなことするくらいなら殺しにかかってくるもんでしょ?カシラ」


 「・・・確かに、それは変な話なのか」


 真牙がそう言って考え込んだ。もし自分がその通り魔なら、と考えるが、やはり殺さずに気絶させる理由は思い当たらない。そもそも通り魔なんて衝動的に無差別殺傷を行うものというイメージなのだから、妙な手の抜き方なんてしないだろう。


 「強いて言うなら、ちょっとしたイタズラのつもりなのか、それとも殺さなくても動きを封じれりゃそれで良い、か」


 真牙はもはや通り魔と呼ぶには理性的すぎる理由を並べた。これではれっきとした計画犯罪である。

 違う側面を見せ始めた事件の姿に迅雷は考えを付け足す。


 「なるほどな・・・そうなるのか。真牙の話でいけば、まずイタズラだったらもはやどうしようもないから後の方についてだけどさ。そういう奴だと、むしろ殺した方が事が大きくなって都合が悪いとかな」


 迅雷がそう言うと、今度はネビアが「なるほど」と呟いたりする。このときのネビアは少しだけニヤついていた。真牙だけがそれには気付くが、真意は定かでない。


 「余計なこと―――そうだとすると・・・あぁ、よく分からんにゃあ、カシラ。ネビアちゃん頭悪くてよく分っかんないよー、カシラ」


 「俺たちに分かるようなら警察も苦労しないよな」


 「ごもっとも、カシラ。こりゃゴッチャゴチャでメンドーなことになるかもだね、カシラ」


 まだ勘の域を出ないけれども、ネビアの予測では今、『のぞみ』内の状況はまさに混沌としている。

 ネビアとしては自分のことは自分で頑張れば良いとしても、他の連中がうまくやってくれるか心配になり、苦笑と共に軽い歯軋りをした。


 「まるでクソムシの温床ね、カシラ」


 「クソムシ・・・?なにがだよ、ネビア?」


 「ぇあ?あぁ・・・ううん。なんでもないよ、カシラ」


          ●


 張近民、川内兼平の3人は、リーダーである竜一の部屋に集まっていた。これから反省会である。

 正直なところ、誰もこんなことが起きるとは予測していなかった。


 「アメリアさんがこうもあっさりやられました。恐らく()はかなりの使い手です」


 声は穏やかながら竜一の目つきは厳しく、そして犯人をこの場で改めて「敵」と言い直した。エイミィに関して、殺さずに動きを封じてきたところからも、明らかにその人物はなにか目的を持って仕掛けてきていると見て間違いないからだ。  

 怪しいとすれば―――あくまで3人の主観としてだが―――ネビア・アネガメントだ。なぜ彼女が平然と学園に在籍しているのかは分からないが、IAMOの魔法士を襲える敵とするならば現状この街にはネビアをおいて他にいない。

 先ほどのミーティングでもネビアが1人だけニヤニヤとしていたのを竜一は覚えている。


 「エイミィさんっていえば、この班では小牛田さんの次に強いはずですからね。本当に、誰があの人を襲ったんでしょうか・・・」


 「ウチの紅一点であるエイミィ氏をかっさらうなんて良い度胸をしてるよねぇ」


 チャンが1人だけズレたことを言っているが、結局3人が共有する心情は悔しさである。共に死地をくぐり抜けたこともある仲間を削られるのは、1人だとしても苦しい。

 ここで竜一は「しかし」と話を切り替えた。


 「それでもアメリアさんは我々の使命を全うしていました。警戒すべきものが出来てしまいましたが、私たちも受けた仕事は完遂しなければいけませんよ」


 彼らには彼らの矜恃がある。高位の魔法士としていざというときに頼られるべき人材だ。これ以上の失態はありえない。

 竜一の念押しに、チャンはあまり重い表情をしない。一方で最年少の兼平は緊張した面持ちだった。


 「明日の団体戦は15時でしたね。明日は―――俺が行きます。あちらの方は小牛田さんとチャンさんに任せて良いですか?」


 「うん?そうだね、川内君はイケメンだから女の子の相手が適任だろうしね」


 ―――なんだその適当な理由は。


 というツッコミは口には出さない。尊敬する上司の言葉である。それに竜一の顔を見れば彼が真面目に言っていたらしいことも分かる。閉口するしかない。

 兼平とはまた違う意味で竜一にツッコみたいチャンが、上司に手を上げるわけにもいかず兼平の肩を掴んで揺さぶった。


 「イケメン反対ぃぃ!だけど、まあ適任だから仕方ないか。あちらさんもなにをどこまで分かって僕らを襲うのか分からないけど、君までやられたら僕もさすがに怒るからね?頑張ってよ、兼平氏」


 「はい!」

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