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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect15 ”辻斬り”


 「あー、かったりーなー!」


 せっかくの初戦も例年通りワンパンチで終わってしまったので不完全燃焼の明日葉が大声を出した。道の真ん中で腕をグルグル回すので危なっかしい。


 「こーら。他の人の迷惑になっちゃうから腕を回さないの。あーちゃんのゲンコツが誰かに当たったりでもしたらタンコブじゃ済まないでしょ?」


 隣を歩いていた萌生が明日葉を軽く叱ると、明日葉は大きな溜息をしながらも大人しくなった。


 1日目の試合も無事に全て終了し、彼女たちや他の選手たちもみなそれぞれが宿泊するホテルに戻る時間である。

 暗くなった街道には、見事に勝利して浮かれたテンションのまましゃべり歩く選手たちの姿も見えれば、端のベンチで寂しく街灯に照らされながら肩を振るわせている元選手もいる。


 「3年にもなると、この光景もだいぶ普通に見えるようになってきたよな?」


 急に並んで話しかけてきた少年を見てから、萌生は彼の登場にさして驚かないまま微笑んだ。

 

 「あら、千尋君。あなたも今から戻るの?」


 「あぁ。そういえば俺たちとそっちのホテルは一緒だったか?通りで昨日も先生たちが荒れていたわけだ」


 「ね。事前に確認しておけば鉢合わせなんてしないのに、きっとあの人たちお互いに話をするのもイヤだからそれすらしないのよ?ふふふ、可笑しいわよね」

 

 「まったくだね。おかげで生徒の方が大変だ」


 滞りない話の流れで萌生と達彦は笑い合った。マンティオ学園もオラーニア学園も、お互い教師の奔放さには手を焼いているのはいつだって一緒である。

 一通り流れが出来たところで達彦は少し真面目な面持ちになった。


 「それで、豊園は明日からだったか。まぁ分かってるとは思うが応援はしてないぞ。どうせしても変わらないんだからな」


 「そうね。それもお互い様かしら」


 敵校を応援する・しないではない。豊園萌生と千尋達彦は、互いに「こいつはどうせ勝ち上がってくる」と知っているから応援なんてしないだけである。

 達彦に続いてオラーニア学園の生徒たちがゾロゾロと集まってきた。萌生と明日葉に気が付いた彼らの一部は丁寧に挨拶もしてくる。一方でオラーニア学園のナンバーツーを張っている谷垣英宝(やがきえいほう)を初めとした3年生のメンバーは敢えてそういうリアクションをしない。彼らからすれば挨拶なんて今更なのかもしれない。

 やけに寄り集まって歩いている彼らを見た明日葉が馬鹿にするように笑う。


 「なんだぁ、達彦。そっちは高校生にもなってまだ集団下校か?カワイイのなぁ」


 「言ってくれるなよ。先生の言うことには立場的に逆らいにくくてな。それになにやら物騒なことも起きているらしいじゃないか」


 物騒なこと、と聞いて、明日葉が眉をひそめた。そんな話は初耳だったからだ。

 しかし、萌生は達彦の言い分にはなんの迷いもなく「そうね」と返すのだった。明日葉はいつのまにか置いてけぼりを食っていたことに気が付き、ちょっと寂しそうな目で萌生を見つめてみた。


 「ね、ねぇ萌生・・・そのぉ、ワッツハプン?」


 「あら、あーちゃん聞いてなかったの?なんかどうも街のあちこちで気絶してる人が見つかるんだって。中には私たち選手まで被害に―――っていうか実際、ウチも四川君がそうなっちゃって」


 「あ、あー!うん、アレね、アレ!あーそっかー」


 実際に誤魔化せたつもりの明日葉には、なんとオラーニア学園の後輩生徒からさえも冷ややかな視線が突き刺さった。

 だが彼らは馬鹿だった。いくら恥ずかしいことをしている人がいても、そういう目を向けて良い相手と悪い相手がいる。


 「・・・ッ!あぁん!なんか文句あんのかテメェら!!あーそうだよ初耳だよ鬱陶しいなコラ!!今からアタシが全員大会リタイアさせてやっても良いんだぞオラ!クソ共が!!」

 

 「ま、待て待て待て!落ち着け柊!コイツらの分も俺が謝るから今はやめろ!」


 ゆらゆらと明日葉の周囲の空気が揺らぐ。明日葉の逆ギレが冗談では済ませられない結果を呼ぶことを達彦も経験で知っていたので、プライドもなにも全てをかなぐり捨てて全力で宥めにかかった。

 とはいえ彼だけで明日葉の怒りを抑えられるわけもないので、そこに萌生も加わって明日葉はなんとか落ち着いた。しかしまだ油断は出来ない。一度怒り出した明日葉はしばらくの間は怒熱を内側に燻らせ続けるからだ。

 

 なんにせよ一難去って萌生も達彦も長く息を吐いた。少なくともルールのあるフィールド上ならともかく、ルール無用のストリートファイトをやらせたら明日葉に敵う者などいないのだから。


 「・・・しっかしウチの1年に手ェ出すってのはなかなか肝っ玉の据わった野郎みたいだね」


 明日葉はふとそんな風に思ったので呟いた。四川武仁は確かにライセンスも持たない一介の補欠選手でしかないが、しかし『二個持ち』という貴重な才能を持った十分に戦力として計上できる生徒である。犯人がなにをどこまで知った上で彼に目を着けたのかは分からないが、少なくとも相当度胸のある人物だ。

 ―――それかもしくは、相応の実力者か。


 明日葉の感想には達彦も頷いたが、しかし同時に困ったような顔もするのだった。


 「あぁ、そうだな。・・・・・・実はウチでも2人ほど被害に遭っていてな。いや、正確にはもっとだ。そっちと同じでサポーターでついてきてくれたIAMOの方々もいるのだが、4人中2人がやられた。特に後者の2人はまだ意識不明で病院にいる」


 達彦の言葉にはさすがの萌生と明日葉でも凍り付いた。

 犯人が実力者なら―――という考え方でならその人物が学生を襲うにも十分な理由としてあり得る範疇だ。

 だが、ランク5や6のプロ魔法士を気絶させるほどの人間とは、いかがなものか。


 マンティオ学園の知っている範囲で考えれば、例えばランク6の小牛田竜一だ。きっと彼には萌生と明日葉の2人で―――いや、そこに煌熾や蓮太朗あたりも加えて、その上で一斉に襲いかかっても勝てないだろう。

 そんな彼らを倒せる人間こそ、こんなところに何人もいるはずはない。しかし、現実にそれが起きている。もし1人で何人もの高ランカーをのして回っている人間がいるとしたら、それはさらに恐ろしい。集団行動だって無意味どころか獲物が1ヶ所に密集してしまうだけなのだし。


 「それは・・・とんでもないわね。犯人が1人でも複数でも、相当に恐ろしい人ってことかしら。選手の子は無事だったの?」


 萌生が尋ねると、達彦は後ろに並んだ選手らのうちの2人を見やった。


 「ああ、まぁ一応な。今はどうってこともないらしい。後ろにいるからな」


 「それは良かったけど・・・でもなぜ?子供相手には手加減してくれるってことなのかしら。あれ、ならその子たちは犯人の顔は?」


 「いや、顔を見るより早く意識を飛ばされたらしくてな・・・。残念だが手がかりはなしだ。とはいえ無事に戻ってきてくれただけでも俺は安心してるよ」


 「それもそうね。命あってこそだもの、良かったわ」


 もちろん、マンティオ学園側も武仁は無事だった。団体戦観戦場の屋外の、人目につかないところで倒れていたところで試合の様子を見にそこへ立ち寄ったハジメが見つけてホテルまで連れて帰ったとのことだった。病院で検査もしたが目立った外傷も内部の異常もないということである。


 IAMOの魔法士を叩き潰し、ついでに学生や一般客をも襲う。被害者の特徴もまばらで、犯人の目的や動機は不明。ただ、今のところ殺害はせずに気絶させるだけ。


 「手加減、か。そうなら・・・良くはないけど助かるな」


 その辻斬り犯の手加減については、達彦は願望形で考えるだけだった。どうにも胡散臭く、そういう風には思ってもいられないのだ。


 「まぁでも、人の多いところにいる間は安全よ。2人は正直怪しいところだから、3人かそれ以上で、極力人通りのあるところを移動するようにすれば、被害も減らせるでしょう」


 「ああ。・・・さて、なんだかつまらない話をしてしまったな。もっと建設的なことを話そう」


 達彦はそう言って通り魔の話を切り上げた。これ以上彼らが通り魔対策で頭を捻り合っても、どうせ精々がランク4の学生である自分たちではどうしようもないと分かっている。


 「んで、建設的な話ってなにさ?」


 明日葉が尋ね、達彦がクールに笑う。


 「ここはひとつ、対等に情報交換といこうじゃないか。選手の情報を教え合うだけさ」


 「はぁ?あのなぁ、そっちの選手ってもう今日の時点でほぼ全員試合出てんじゃねぇか。こっちはまだ明日からのが4人もいんだぞ?アタシらが損すんじゃねぇかバッカじゃねぇの?」


 全くもってアンフェアな取引に青筋を浮き上がらせた明日葉を見て達彦は感心した顔をした。まさか彼女がそこにツッコんでくるとは思っていなかったのだ。

 どうせマンティオ学園とオラーニア学園は互いの選手の試合をしっかり記録して分析しているので、試合より先にタネ明かしする方が不利だ。

 だが、萌生はそれを承知でいきり立つ明日葉を制した。


 「まあ待って、あーちゃん?いいわよ、千尋君。もちろん嘘を言うつもりもないわ」


 「さすが。そうこないとな。じゃあまずなにから話そうか?」


 頭ごなしに否定されたも同然の明日葉は拗ねた顔をしている。キレないのはやはり萌生がいるおかげだろう。

 萌生が、まずは1年生の話からしよう、と持ちかけた。やはりどちらからしても一番未知なのが1年生の実力である。


 「やはり気になるかい。いいさ、こっちも気になっていたところだ。特に青髪の2人が」


 「えぇ、私も―――ええと、七種君だっけ?今日の話を聞いてちょっと興味が沸いたわ」


 さっそく情報の交換を始める萌生と達彦。


 紳士な達彦が先に話した分には、まず例の七種薫についてだが、サーベルの二刀流を使う魔法剣士であるとのことだ。魔力色は黄色であり、こと剣の扱いには秀で、剣技魔法も堪能で体の使い方も(こな)れている。その連続突きや連続斬りには上級生も反応出来ないそうだ。


 「さあ、まずこちらは1人教えたぞ」


 「うん、ありがとう。こっちはじゃあ、天田さんについてだったかな?」


 「そうだな、今日のあの暴れようはさすがに目についた」


 団体戦において作戦性すら乏しい完全な単独での戦闘のみを行い、かつあの強さである。達彦が目を着けないはずもなかった。


 「あの子は見ての通り氷属性の魔力持ちよ。でもね、正直私たちもあの子の実力を把握しきれないのよ。今まで誰もあの子の本気を見たこともないらしいしね?」


 本当は煌熾が4月の『ゲゲイ・ゼラ』戦でそれに近い状況を目撃しているが、彼の意見としてはそれすら全力だったのかは怪しいとのことだった。

 ともかく、意外な答えを聞いた達彦は一瞬だけ絶句した。


 「なん・・・いや、そうかい。でも特徴としてはあの氷による狙撃や地面から生える氷の刃だろ」


 「それと、今日はまだ見せてないけど、大量の雪を出す魔法ね。あれをさせたら大体実力の半分は出させたことになるんじゃないかって言われてるけど」


 「じゃあ今はそれ以下、と・・・」


 達彦は困ったように頭を掻いた。1年生からそれというのはなかなかのものである。


 「1対1なら、まぁでもこちらも強い1年生はいるから大丈夫なはずだ。あの子、天田雪姫だったか、そいつの実力はそうは言ったって豊園や焔と比べればまだ1年生してるんだろう?」


 「あー、はははは・・・うん、それなんだけどね、ちょっとねぇ・・・」


 なぜか悲愴感を漂わせて言い淀む萌生に達彦は首を傾げた。

 今日雪姫が見せてきた芸当は、達彦や萌生、それに恐らく煌熾だってその気になれば本気でなくても十分やってやれるくらいのものであった。達彦はそれを踏まえて聞いたはずなのに、謎の空白が生まれたことが不安を募らせる。


 「どうした?」


 「天田さんは少なくとも私や焔君よりは強いわよ?」


 「・・・・・・ふぇ?」


 衝撃の新事実に達彦の口から可愛い声が飛び出した。

 

 

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