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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect13 ”開戦”

 清田一の名前がわかりにくいのでハジメに変えました。以前の投稿分も変更しています。

 章管理も細分化してエピソードの区切りを分かりやすくしました。


 ―――と、いうことで。マンティオ学園とオラーニア学園両校のサポーターたちが騒ぎを聞きつけて仲裁のためにやって来たのは教師同士のにらめっこが始まってから10分ほど、ちょうど迅雷と真牙が明日葉になにが起きているのか説明を受けていた頃だった。

 さすが、魔法科専門高校の教師が暴れても勝てるだけの実力がある方々は違うということだろうか。ピリピリしている空気に晒されても余裕を崩さないサポーターたちの仲介によってなんとか場は収められたのだった。

 こんなに頼れる彼らには、いっそ選手の世話より教師がなにかやらかさないか随時見張る仕事をしていて欲しいくらいだ。この分では主に慣れない1年生が落ち着いて大会に臨めなくなってしまう。


 さて、そんなことで外部との揉め事は無事(?)に解決したのだが、今度はまた新しい厄介事が起こる。

 それは、翌日の打ち合わせと最終確認のためのミーティングを始めようとしたところだった。

 

 腕時計を確認したハジメが顔を上げた。オラーニア学園の教師(サル)共とのいさかいでやさぐれていたところに追い打ちをかけるようなトラブルであるから、普段は冷静な彼も珍しく素直に面倒臭そうな表情だ。


 「えー、ミーティングを始めたいんですが」


 「清田センセー。ネビアさんがいませーん」


 「・・・・・・知ってます」


 そう。ネビアがまたもや行方不明である。


 一緒の部屋である雪姫にどうして一緒に行動してやらないのか、と言ってみると、「は?」という返事。あまりに凶悪な目つきを返されてしまうとハジメでさえ怯んでしまうのだった。


 「誰かネビアさんの連絡先を持ってる人は?」


 「えーっと、俺持ってますけど・・・って、俺だけ?」


 迅雷が手を挙げると他全員が彼の方を見た。なぜ誰も、1ヶ月もあったのに今までネビアの連絡先を聞いたりしなかったのだろうか。不思議でしかないが、今はそんなことを気にしていても仕方がない。

 サポーターチームの班長である竜一が自分たちが探しに行こうかと持ち出したが、ハジメがそれを非効率的なのでまずは電話をしてからで良いと言い、もっともな言い分に竜一が引き下がる。案外、竜一も焦り症なところがあるのだろうか。


 「くそぅ、ネビアは放浪癖でもあんのか?」


 と、迅雷が困ったようにケータイを取り出した瞬間に着信音が鳴った。誰からかと思えば、ネビアではなく千影から。

 迅雷がチラッと先生たちの顔色を窺うと、揃って「拒否しろ」という血も涙もない宣告。

 いや、良いのだが。迅雷だってネビアのことは心配なのだし。千影からの着信を一旦拒否してネビアに電話をかけ直す。


 「――――――あ、もしもし。ネビア?今どこさ?・・・うん?うん、うん。・・・あー、ハイハイ。・・・あいよ」


 迅雷が使い終わったスマホをポケットに突っ込むとハジメがすかさず尋ねる。


 「で、神代君。ネビアさんはなんて?」


 「あー、いや。多分もう・・・」


 迅雷がなにか答えようとしている途中で部屋にネビアが飛び込んできた。


 「遅れちゃってごめんなさーい!カシラ!」


 そう言ってネビアは所謂テヘペロをしながら空いた席に座った。しかし、可愛く誤魔化したはずなのに妙に殺気立つ先生たちを見てネビアは首を傾げた。せっかく超絶美少女へと進化したはずのネビアがこんなにあざとい仕草をしているのに、なぜあの先生たち(真波がいないから全員男)は頬を緩ませないのだろう?

 マズい空気を察してネビアはハジメに機嫌を尋ねる。


 「あ、あれ?なんかご機嫌ナナメですか?カシラ」


 「そうだね。今θイコール2分のπ程度にはナナメになりましたね」


 「え、いきなり数学の話されても私アホなんで困るんですケド・・・、カシラ・・・」


 これは本気だ。ネビアは飄々とした態度を崩さないながらも冷や汗を垂らす。

 ちなみにθ=π/2で要は90度なので、今のハジメの機嫌はナナメどころか直角である。よく分からない。

 しかしハジメだって大人だ。アホな生徒ではあるが、いちいち怒っていては良くない。溜息1つで彼は少し落ち着きを取り戻した。


 「で、ネビアさんは今までどこをほっつき歩いてたんでしょうか?」


 「えぇ。当日に道を間違えないように、―――念入りな下調べをしてました、カシラ」

 

 空気を読んだのか、このときのネビアはさすがに爪を噛んでしゃべったりはしなかった。


          ●


 『以上をもって、第68回全国高校総合魔法模擬戦大会の開始を宣言いたします!』


 全国高校魔法教育連の会長がそう言うと、戦いの狼煙を上げるように花火が打ち上げられた。


 夜空を彩る華やかな明かりを、ある者はアリーナでマイクを持った手を下ろしながら、ある者は街で信号を見上げながら、ある者はホテルの窓を覗きながら、そして最も多くはテレビの画面に食いつきながら、眺めていた。


 翌朝からは日本が最も沸き立つ国内イベントの1つ、『高総戦』が始まる。


 世界すら一目置く日本の魔法教育の成果と価値が「力」として示される覇の祭典は幕を開けた。


 

 そして誰も、あのたった一つの小さな結末を、まだ知らない。



          ●


 

 夜が明け、朝が始まり、遂に試合も開始された。『のぞみ』には大勢という表現では足りないような大群の人々が押し寄せて、尋常ではない人の流れが生まれている。いろいろなところからかき集められた警備員たちが既に困憊した形相で警棒を振っているのは見るに堪えないほどだ。

 

 そして各試合会場もまた、1試合目からほぼ満席という盛況ぶりである。

 しかしながらここで1つ確認しておくと、マンティオ学園やオラーニア学園の選手は基本的に間違いなく強いので、シード扱いはほぼ確定しているようなものだ。つまり、個人戦に関して彼らは大会1日目の前半、所謂「振るい落とし」の試合に出番はない、ということだ。

 しかし、あくまで「ほぼ」である。物事には必ず例外というものが存在するわけで。


 リングアリーナ『希』内の第3アリーナでは、1人を除く全ての人間が唖然として天上を仰ぎ見ていた。


 せっかくの仲間の試合だから見に来ていたマンティオ学園の選手一同(一部は団体戦があるので不在)は、声を揃えてこう言うのだった。


 『「エグゾー」が・・・飛んでる』


 急上昇でドーム天上の高さに浮いた大型ロボットが、両腕の純魔力式ガトリング砲を地上に向けて掃射し、およそ10秒で試合終了。歴史の長い『高総戦』においても前代未聞のモンスターマシンによる蹂躙。

 あくまで人間としての能力的にシードに分類することが出来ないマンティオ学園の小泉知子は、結論から言って「振るい落とし」試合に参加させてはならない選手だった。


 相も変わらず持ち込めるマジックアイテムの審査の安全基準を掠めるほどギリギリな性能を追求した『エグゾー』は、その白い装甲をして《マンティオの白い悪魔》と呼ばれたのだった。―――もっとも、その名声、もとい恐怖が続いたのは大会最終日までではあったが。


 知子は『エグゾー』―――『EXAW-MkⅢ』を着陸させ、その背中から機体装甲と同じ質感の床に降りた。


 「うん、申し分ない性能ね。さすがは佐々木君だわ。これなら勝てる・・・!」

 

 本機からはより高い操作への追随性獲得のために両肘を可動式に変更し、学内戦での決定的敗因となった装甲面積の少なさも大幅な拡張でカバー。さらにアームに取り付けていたシールドも姿勢制御用ウイングとして背面部のサブアームに装備し、堅牢さはそのままで、よりフレキシブルな防御が可能となった。

 一方で戦闘形態を大きく変化させた結果として特定方向からの一方的な攻撃を受ける可能性が大きく下がったので、『MkⅡ』時代にあった武装・装甲のうち必要なくなった部分を徹底的にオミットして重量を軽減し、機動性はむしろ増していたりする。


 そして『MkⅢ』最大の特徴が「飛行能力」だ。試験的に使用していたホバーエンジンを改めて大型化したことで出力を約3倍にし、背面サブアームにもシールドの裏に同型エンジンを1基ずつ搭載したためさらに推力を増強してある。

 エンジンの過剰搭載で不足が予想された魔力は大型の魔力タンクを贅沢に2本使用し、さらに各武装にも魔力貯蓄器を組み込み、予めエネルギーを充填しておくことでカバー。


 遂に天馬となった愛馬を撫でながら知子は恍惚とその無機質な機械人形を見上げる。


 もはや誰にも負ける気がしなかった。


          ●


 さて、同時刻、団体戦観戦席にて。

 こちらでもマンティオ学園のAチームが他6校の共同戦線を事も無げに蹴散らしていた。

 団体戦においても個人戦同様の振るい落としがあり、こちらは上位校も参加する代わりに一度の試合で7校もの高校が参加する。

 そして、6校を敵に回してなおマンティオ学園は君臨する。


 「さすがだ・・・・・・。俺、付け上がってたんだな、やっぱり・・・」


 一応は団体戦の補欠になったけれど、自分が出るような状況はきっとないだろう。そう思わされた。

 勝ちの目はあると勇んで挑んだ天田雪姫には虫のようにあしらわれ、けれど補欠として選手に選ばれ、まだ自分にはそれだけの力は備わっているのであって、雪姫が規格外なだけと考える。それは決して間違いではなく、ただし、間違いでなくもない。

 結果として四川武仁は少し前の自分の思い上がりと明確な力の差を見せつけられ、酷く虚しい気分になった。

 そして加えて言うなら彼の持つ『二個持ち(デュアルスタイル)』という非常に稀少度の高い特性も、今や同じ学年の神代迅雷に持って行かれたようなものだ。

 

 「こんなの、まるで生殺しじゃないか・・・」


 こんなところにまで連れてこられて、まざまざと現実の在りようを見せつけられているのだ。気分が良いはずない。これ以上彼らの活躍を眺め続けるのは、武仁にとっては拷問も同然だった。

 モニターに大々的に映し出された同じユニフォームを羽織る少年少女の姿に耐えられず、武仁は席を立った。


 そのまま足早に観戦場を立ち去ろうとした武仁だったが、外に出る少し手前で不意に背後から名前を呼ばれ、振り向いた。


 そこにいたのは―――。

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