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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect8 ”全高校生最強の男”


 遂にバスに乗り込む。マンティオ学園の17人の生徒たちと、彼らの強化練習の監督を担当していた教師4人、そしてIAMOからのサポーター4人。合計25人はバスの下部に大きな荷物を積んで、バスに乗った。

 そして間もなく、選手たちを乗せた大型バスは全国大会の舞台となるY県に位置する魔法学芸都市『のぞみ』に向け、出発した。


          ●


 一方その頃。こちらは日本の西側。

 H県にある国立魔法科専門高等学校、オラーニア学園でもまた、慎ましくも盛大に選手の見送りが行われたところだった。


 バスの最前席に座っているのは4人の教師と、それからマンティオ学園同様に呼ばれた4人のサポーターたち。そして、今期のオラーニア学園主将である生徒会書記の千尋達彦(ちひろたつひこ)だ。

 凜々しげな色気のある黒髪と優雅な微笑み。自身の能力に絶対的な自信を持っているからこそ、彼はこうして穏やかに車窓を覗くのだ。


 「千尋、今年の全国大会だが、お前はどう見ている?」


 達彦の隣に座っている男性教師が思いついたように話しかけた。だが、その声色や表情には言葉通りの心配や疑問といったマイナスの要素のなにひとつさえ含まれていなかった。

 それを受けてチラと教師の顔をみやった達彦は鼻で小さく笑い、可笑しそうに、また窓の外へと視線をやった。


 「分かりきった顔で質問するなんて、先生も卑しい人ですね。俺がどう思うか―――ですか?そんなの、我々オラーニア学園の4連覇しかないでしょう。当然じゃないですか、ねぇ?」


 「ふ、ははは。さすが、現役高校生最強の男、『天上』がそう言うと違うな!」 


 「やめてくださいよ、その呼び方は。そんなあだ名で呼ばれていたら卒業しにくくなるじゃないですか」

 

 口ではクールな態度を取る達彦だが、彼も本当は今この時点から既に心を躍らせていた。

 『天上』などと大層な二つ名をつけられた達彦は、まさしく半ば公式に現時点で日本中のありとあらゆる高校に在籍している全ての学生魔法士の中の「頂点」と目されている少年だ。昨年度の『高総戦』においても彼はその圧倒的な魔法の腕をもって個人戦で優勝し、そのまま3年生として今年も参戦する。


 けれど、彼が期待に胸を膨らませるのは決して一方的な勝利を確信してではない。彼とて苦戦を強いられた相手は数人いる。その多くは上級生だったからもう卒業していったが、まだ彼女が残っている。1年生のときには見事に打ち負かされ、昨年度の準決勝でも決勝戦をかけて争ったマンティオ学園の豊園萌生だ。

 今年こそはきっと、彼女と「最強」の座を賭して争うことだろう―――と、そう想像するほどに達彦は胸が高鳴るのだった。


 もちろんその内心を教師には言わない。彼らが求めるのは表彰台の全てをオラーニア学園の生徒が占領する光景だからだ。優勝を求めるのは生徒も教師も同じ。ただ、その中に求めるものは相反しているのだった。

 達彦の分かって言っているような返事を受けた教師は、それでも嬉しそうに頷いた。

 だけれど、それから「だが」と言葉を繋いできた。


 「1年生の方はどう思う?聞けばマンティオ学園には怪物じみた強さの新入生がいるとのことだったが、その辺について、だ」


 「怪物・・・ですか。面白いですけど、さすがにそういう表現は噂に尾ひれがついたんじゃないでしょうか?それに、怪物と言っても新入生、たかが知れているでしょう。そんな風に言うならこちらにだって朱部(すべ)七種(さえぐさ)がいますしね。特に朱部なんかは現時点で実戦に出せる強さですよ?」


 「なるほど」


 「怪物新入生と言うなら、彼らだ。正直俺でも彼らと同期で入学しなくて良かったとさえ思います。―――なので遅れを取ることはないでしょうよ」


 1年生の部にオラーニア学園からは7人が出場する。その中でも特に優秀なのが繊細かつ豪快なパワー型の朱部剛貴(ごうき)と二刀流の七種(かおる)の2人だ。当然ライセンスも持っている。


 「あいつらがいれば1年の部は安泰・・・俺はそう思いますけどね」


 「・・・そうか、そうだな。朱部と七種は既に我が校の8強に入る強さだしな。あぁ、そうだったな。ははは!」


 マンティオ学園(あちら)がどんな手を打ってきたのかは知らないが、元よりそんなものは関係ない。オラーニア学園(こちら)はただ最大戦力をぶつけて正面から叩き潰すだけのこと。


 オラーニア学園の進む道の先にあるのは勝利だけだった。なぜなら彼らは、王者なのだから。


          ●


 「ねぇねぇエイミィさん!オレ、いろいろエイミィさんについて、いろいろ!知りたいッス!」


 現在の時刻は正午をちょっと過ぎた頃、マンティオ学園の選手団はとあるパーキングエリアのフードコートでランチタイムだ。

 食費も当然ながら(?)旅費の一部として支給されるので、教師まで無遠慮に美味しそうなメニューを注文していた。これも全国大会の引率にまで漕ぎ着けた彼らの特権と言えば特権なのだ。

 

 さて、先ほどの台詞に戻ろう。一人称や言っている内容からしてもう察しているだろうけれど、一応言っておくと発言者は真牙だ。先輩たちすら押し退けてエイミィの隣の席を確保した彼には一部から敵意や羨望の眼差しが注いでいる。ほどよく緊張もほぐれてきた頃なのか、と解釈するうちは良い傾向に見える。いや、良い傾向だとも。多分。たるんでいるとか、そんなことはきっとない。


 「ええっと、あなたは・・・アモト君だった?」


 「イエス!わーい、名前まで覚えてもらっちゃってるゥ!これはワンチャン・・・!」


 「いやいや、ないでしょ、カシラ」


 昂ぶる真牙に後ろから律儀にツッコミを入れたのは、ラーメンを啜るネビアだった。水を差された真牙が振り向いて唇を尖らせて抗議しているが、前を向いて優雅に麺を啜るネビアの知ったことではない。

 案外美味しいスープにちょっとだけ感動しながらネビアも後ろを振り返る。


 「でしょ?えっと・・・エイミィさん?カシラ」


 「・・・・・・・・・・・・」


 挑発するような目でネビアは背後のエイミィを眺める。そんな彼女の目を見つめ返すエイミィはなぜか訝しげに押し黙り、不思議な空白が生まれてしまった。


 「おーい、エイミィさん?大丈夫ッスか?」


 「―――っ!?あ、あー、大丈夫です。そうですね、やっぱりもしかしてはないですね、はい」


 「グハッ!?やっぱ黙ったまま放っておけば良かったかもしれないッ!」


 一応日本人基準に沿ってやんわりとプロポーズを断ったつもりだったのだが、なぜ真牙は真っ白に燃え尽きているのだろうか。急に静かになった真牙をエイミィは困ったように眺めるだけだった。


 ・・・という風に、美人のエイミィに男子が集まるのと同様にイケメンにも女子が近寄ったりする。


 「えーっと、川内(せんだい)サンだったっけ?」


 「ん?僕になにか用かな?」


 彼に声をかけたのはなんと明日葉だった。

 普段からあまり(というか全く)色気がない明日葉が、なんとこのタイミングであの爽やかな好青年に声をかけにいくというシチュエーション、もといハプニングが発生。

 それを遠巻きに見る少年少女が数名。


 「え、なになに・・・!?あ、あーちゃんが遂に・・・!?」


 「いや会長、さすがにあの柊先輩ですよ。まさか・・・・・・まさか、いや、まさかですよね・・・!?」


 明日葉と親しい萌生や、彼女に普段から一番イジめられてなんだかんだの腐れ縁な連太朗が、勧められるがままに兼平の前の席に座る不良風紀委員長を固唾を飲んで見守る。

 普段なら萌生の言うことには決して反論しない連太朗でもさすがにこればかりは「遂に」なんてないと信じたいくらいの超展開なのだ。


 「2人してなに見てるんですか?」


 事件発生から少し遅れてやってきた煌熾がなんだか怪しい格好をしている2人に尋ねると、答える代わりに萌生が唇に指を当てた。静かにして欲しいらしい。

 それから彼女に隣の席を勧められたので、煌熾はよく分からないままカレーを乗せた盆と一緒にその席に座った。

 なぜ静かにしなくてはならないのかは知らないが、生徒会長の命令なので仕方がない。煌熾は声を潜めて質問し直してみた。さすがにテーブルに頬杖をつくフリをしながら別のテーブルの様子を指の隙間からジッと眺めるているのは不審だ。


 「それで、結局なんなんですか、会長?」


 すると、萌生はとある方向―――彼女らが見ていた方向を指で指し示す。

 なにかと思って煌熾はそちらに視線をやり、そしてなんの気なしに―――確認した途端口に含んでいた水を噴き出した。もちろん萌生にかけるのは悪いので、代わりに向かいに座っている連太朗に。


 「あ、あああ、あの柊先輩が遂に異性に興味を示したんですか・・・!?」


 「オイ貴様、ぼくに水を噴きかけてスルーっていうのはどういう了見なんだ?んん?」


 「・・・あ、すまない!気付かなかった」


 煌熾は本当は気付いていたが、事の優先度が違った。ハンカチを取りだそうとする煌熾を連太朗は結局手で制して、自分の水魔法でかけられた水は全部弾いてしまった。じゃあ怒らなくても、とも思うが、生理的な理由に文句も言えないだろう。誰だって水をかけられるのは嫌だ。特に男が男に噴きかけられるとか誰得だろう。

 

 「それにしてもあの2人、なにを話してるんですかね?無粋ですけど・・・柊先輩の記念すべき第一歩ともなると気になってしまいますね」


 「そうねぇ。あーちゃんが私のところを去っちゃうわ・・・。なんというか、手のかかる妹が成長したような感じね。嬉しくも儚い気分・・・」


 とてもではないが明日葉との関わり合いでこんなに暢気なことを言っていられない。萌生だけが彼女の手綱を握っているということの良い証拠であろう。

 大体、「手のかかる」というよる「手が掛かってくる」だ。ことあるごとに拳骨が飛び出すあの恐怖と言ったら、もうない。大体の人なら共感するはずだ。気の短い明日葉となにかするというのは、あの歯を押したらワニの口が閉じるかもしれない罰ゲーム用の玩具のデンジャラスバージョンみたいなものだ。


 と、そんなとき。ズイッと明日葉が兼平の顔を覗き込むような動きをして、萌生がむせた。テーブルでえらく前のめりになった明日葉と兼平の顔の距離は物差し1本分くらいしかない。

 さしもの兼平も大人ぶってはいられなくて焦っているように見える。まだなにか会話をしているようだ。

 そろそろ大人しく観察しているだけではどうしようもなくて気が気でない萌生が連太朗に詰め寄った。あちらに続いて今度は萌生に寄られ、連太朗は顔を赤くする。


 「なっ、なんでしょうか、会長っ!?」


 「ねぇ清水君、読心術できない?」


 「え、あぁ・・・す、すみませんムリです・・・。お役に立てなくて申し訳ありません、全国が終わったら練習させていただきますので・・・」


 「えー、清水君なら結構いろいろ出来るから期待してたのに、ざんねーん」


 萌生がいじけたような顔をすると連太朗は照れるように顔を赤くしたり申し訳なさそうに俯いたり、忙しくする。好意というか忠誠心というか、よく分からないが、でもいろいろ分かりやすい反応である。

  

 

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