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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode3『高総戦・前編 邂逅』
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Connection ; ep.3 to ep.4


 

 今日も今日とて目覚ましが鳴り始めてから1時間でハッと目が覚める。当然遅刻寸前、というより遅刻確定である。

 いっそ時計の針を見ると諦観の念が沸いてくるものだが、なんだかんだで仲良くなっちゃったクラスメートたちの顔を思い出して、なんとかベッドから起き出した。


 「あー遅刻遅刻ー!カシラ!」


 全速力で制服に着替えて、一太が見たらまた「年頃の女の子なんだから云々・・・」と言いそうなほど簡単に髪を直す。こういうときも癖毛と水魔法は便利である。


 とりあえず腹が減っては登校出来ないので食パンを咥え、ネビアは家を飛び出した。

 なら次は曲がり角でイケメンとぶつかるんだろ、というメタ発言を実行に移していては1時間目の授業に間に合わないので、ネビアはいつも通りの裏技を使った。


 「よっ、ほいさ!カシラ。おー、ニャン太郎おはようさん、カシラ。よしよし」

 

 昔からこのアパートの屋根で朝を過ごす野良猫も、今では連日訪れるはた迷惑な客には慣れてしまって逃げる素振りもなし。むしろネビアに撫でられて喉を鳴らしているくらいだ。


 「さーて、今日もネビアちゃん頑張って跳んじゃうぞ!カシラ!」

 

 ボロアパートの屋根に乗ってマンティオ学園がある方角を見る。日々最短ルートを研究しているネビアの通学路はいよいよ5分コースの大台に乗っていた。正規ルートで走ると大体25分はかかるのだが、建物の屋根を飛び移っていけば速い速い。


 軽くストレッチをしてから、ネビアはさっそく飛び出した。だが残念なことに5分で着いても朝のホームルームは終わっている。

 

 いろいろな高さの屋根を飛び移り、たまに忍者みたいに壁をよじ登ったり。


 変な目で見られないために学校の近くまで来たら適当なビルの隙間に落ちて地上に戻り、あとはダッシュで校門をくぐった。


 もちろんなことながら今更登校してくるような不真面目な生徒などネビアをおいて他にいないので、ネビアは1人で上履きに履き替え、1人で階段を駆け上がり、1人で廊下を―――。


 とも思ったのだが、ちょうど朝のホームルームが終わったところで、教室からゾロゾロと人が出てきた。廊下は独りぼっちでもないらしい。


 そして1年3組の教室に到着。真波の蓄積に明日葉がトドメを刺した方とは別の、まだちゃんと開閉可能なドアをバン、と開いた。


 「いっえーい、今日もギリギリアウトー!カシラ!にゃっはははは!」


 「お、噂をすればネビアじゃんか。今日もなかなかの重役出勤だなぁ」


 「へへへ。もはや会議に顔を出さないレベルの重役でございヤス、カシラ」


 それはいっそ役職を剥奪されても文句が言えなさそうな感じだが、気にしない。迅雷にからかわれたネビアは暢気に笑い飛ばした。


 「それで、噂って?カシラ。なぁに、誰かが私のこと好きって話?カシラ」


 「オレはネビアちゃん()大好きだよー♡」


 「真牙はなんとなくアウトね、カシラ」 


 0.2秒でフラれた真牙が教室の隅でうずくまってしまったが、慈音以外の誰も彼をフォローしてあげる者はいないのだった。


 「ありゃ、カワイソーな真牙クン、カシラ」


 「うわぁ、フッた本人がなんと白々しい・・・」


 キョトンとするネビアに迅雷がツッコむと、ネビアはまた軽快に笑い出した。

 しかし、だったらネビアの噂とはなんだったのか。ネビアがもう一度尋ね直すと、慈音がなんだか嬉しそうにし始めた。


 「えっへへへ、ネビアちゃんったら。この前教えてくれたじゃん。ほら、向日葵ちゃん、友香ちゃんも!」


 この前というと、いつ頃のことだろうか・・・とネビアは首を傾げた。あまり心当たりがないので、慈音らがなにをせわしなくやっているのかも皆目見当が付かなかった。

 ちょっとして、自分の鞄をゴソゴソと漁っていた向日葵と友香も、なにか小さな紙袋―――そう、プレゼント包装が近いかもしれない小包を持って戻ってきた。


 「それどうしたの?カシラ」


 「えー・・・?ネビアちゃん本当に分かんないの?もー、もったいないよ、それは」


 なんのことかも分からないまま慈音に怒られ、ネビアは目をパチクリさせて頬を掻いた。怒ってもふわふわ感はなくならないが、慈音までそんなことを言うのは珍しいので、ネビアはなにか大切な約束でもしていたのかと思って急に焦りだした。


 「え、えーっと、あ、あー、あれねー・・・?うん、あれかー・・・、カシラ」


 目が泳いでいるネビアに迅雷や向日葵、友香はジト目をしているが、慈音だけは本当にネビアが今日がなんなのかを思い出したと思い込んだらしく、「やっと分かったんだね!良かったー」とかいって眩しいくらいに表情を明るくした。チョロすぎて先が思いやられるが、まぁきっとそれは迅雷がいるから大丈夫だろう。

 一段落したところで、慈音が仕切り直す。


 「じゃあ改めて!ネビアちゃん、お誕生日おめでとう!」


 「「おめでとー!」」


 「・・・・・・へ?誕生日?カシラ」


 ―――あぁ、そういえば・・・・・・そうだった。


 突然のことにちょっぴりフリーズしたネビアは、チラッと迅雷の方を見てみる。すると、迅雷も優しく笑っている。


 「誕生日おめでとさん、ネビア。つって俺はさっきしーちゃんたちから聞いたとこだったからプレゼントとかはその、今はないけど。まあ追々ってことで良いよな」


 「え?えーと、うん・・・、カシラ」


 「ちょいちょい、なにボーッとしてんの!誕生日だよ、おめでとうだよ!ホラホラ!」


 向日葵が持っていた小包をネビアに持たせて、それからネビアの頬をムニムニとつねって無理矢理笑わせようとし始めた。


 「ひへへへ(いててて)ははひへ(はなして)ー、カシラ。そっか、私今日誕生日か、カシラ」


 「そうだよ、おめでとう!はいこれ!」


 友香もまた小包を渡してきて、慈音もそれに続いて小包をネビアに持たせてやった。


 「みんな・・・!あ、あり、ありがとね・・・!カシラ!」


 「えっ、ちょっとネビアちゃん!?なんで涙ぐんでるのかな!?えーっと、えーっと!?」


 「にゃっはは、大丈夫よ、カシラ。誕生日なんてもう10年ぶりみたいなもんだったものでしてねー、カシラ。嬉しくてちょっとウルッときただけ、カシラ」


 オロオロと慌て始めた慈音を落ち着かせつつ、ネビアは自分にはもったいない、随分と小洒落て可愛いプレゼント包装を指で撫でた。

 さっそく袋からプレゼントを出してみて、と慈音が催促する。もうネビアも素直に嬉しいので、そのまま素直に袋も開けてみた。


 「これって・・・アクセ?カシラ」


 手に乗っけたそれらは、それぞれ別の、愛らしいデザインのアクセサリーだった。またまた馴染みの薄いものをもらってしまった。


 向日葵のは2本のヘアピンだった。色はレモンイエローで、ネビアの深青色の髪には少々目立つ色にも思えるけれど、逆にそれがネビアらしさを際立たせるアクセントになりそうだ。

 友香があげたのは、小さくて白いリボンのついたヘアゴムだ。ちょっと子供っぽいけれど、こちらのチョイスは青にも良く溶け合うカラーで、実に友香らしいプレゼントだ。


 そして慈音はというと・・・。


 慈音のプレゼントを見て、ネビアと贈った本人以外の全員が反応に困った顔をした。いつの間にか復活した真牙も混ざって白い目をしている。


 「ちょい、慈音ちゃん。これって・・・?」


 「え、な、なに真牙くん?っていうかみんなも!?も、もしかして変だった!?可愛いと思ったんだけどなぁ!?」


 慈音の渡した小包から出てきたのは、イカ・・・だろうか、とりあえずそんな感じのデフォルメななにかのペンダントだった。いや、確かに見た目も小さいながら精巧でユーモアのある造形だし、一般に見ても「あぁ可愛いね」と言われそうなデザインのペンダントトップではある。あるのだが、いかんせん・・・。


 「いや、確かに可愛いとは思うけど、なぜにイカ?」


 迅雷にまで言われて慈音は拗ねた顔をした。


 「えー・・・としくんまで。なんかね、ふっとね?似合うんじゃないかなーって思ったんだけどなぁ」


 まあ、慈音のチョイスがたまに変なのは迅雷も分かっている。というか、言われてみるとなぜだかそこはかとなくしっくりきそうな気がしてきたので、迅雷はもしや自分の感性も慈音に影響され始めてるのでは、と冷や汗をかく。

 ちなみに言うと、慈音はこれを買ったとき、クマとかウサギとかの動物ものが置いてあるコーナーにいたのだが、ピンときたのがこれだったらしい。


 すると、今までイカのペンダントを見て妙に驚いた顔をしていたネビアが「にゃははは」と笑って慈音の肩を抱き寄せた。


 「いや、私にピッタリだと思うよ、カシラ。もう分身って感じ?カシラ。ホントにこんな可愛いやつ、ありがとね、慈音、カシラ。あと向日葵と友香もありがと、カシラ。なんかもう私にはもったいないくらいだよ、カシラ」


 女子3人が「どういたしまして」と声を揃えると、ネビアも楽しそうに笑った。


 

 「じゃあさっそく、やっちゃいますか!」

 「そうだね、やっちゃいましょう!」

 「えへへへ、ネビアちゃん覚悟ー!」



 「へ?」


 と、急に怪しげな手つきをし始めた3人にネビアはキョトンとするのだが、直後に向日葵がネビアの背後に回り込んで羽交い締めにしたので、素っ頓狂な声を出した。


 「わひゃあっ!?な、なにをするつもり!?カシラ!?」


 「ふっふっふー。ネビアちゃんはもう少し見た目も工夫しちゃうべきだよー」


 「わわっ、く、くすぐったい!カシラ!」


 羽交い締めにされたまま髪を弄られたりうなじまで手を回されたりして、ネビアは堪らず喚く。


 「ちょ、迅雷、助けなさいよ!カシラ!」


 「えー、せっかくの百合シーンだぞ?もっとサービスしろよ」


 真牙みたいなことを言って迅雷はイヤそうな顔をした。女子4人がワチャワチャとくっついてなにかやっていて、それを止める男子高校生なんているはずがないのだ。

 しかし、すぐに迅雷の顔はなにかに感心するかのような表情に変わる。

 それからほどなくしてもみくちゃ状態からネビアは開放されて、ヘロヘロと近くの机に寄りかかった。


 すると、そんな未だ興奮冷めやらぬネビアを強調するように慈音と向日葵が掌をヒラヒラさせてひけらかす。


 「「じゃーん!」」


 いろいろ騒いでいたから自然とクラスのみなの注目がネビアに集まり、それから一斉に「おー」とざわめき立った。


 いったいなにをされたのか分からずネビアが呆然としていると、友香が手鏡を持ってくる。


 「ほら、ネビアちゃん。新生ネビアちゃんをとくとご覧あれ!」


 「はい?新生ネビアちゃん・・・?カシラ」


 怪訝な顔をして受け取った手鏡を覗き込んだネビアは、鏡の中に見知らぬ人物が映っているのを発見してすぐに顔を上げた。


 「ごめん、ここまでやって最後こんなに分かりやすいイタズラは良くないと思うんだけど、カシラ」


 「いやいや。それネビアちゃんだよ」


 「いやいや、んなわけ、カシラ」


 どうせ中に加工した写真でも入れているイタズラグッズだ。そう自分に言い聞かせながらネビアは鏡を見て、頬を掻く。すると・・・。


 「ちょっ!?この超絶美少女誰ですか!?カシラ!?」


 「もちろんあなたよ?言ったじゃない。ほら、笑って笑って」


 友香に言われるがまま、鏡を見ながらネビアが笑うと、鏡の中の少女も笑った。それを見たネビアはまるで世界の真実を突き付けられた物語の主人公のような顔をする。


 「え・・・、じゃあもしかしてこの目立つヘアピンとお団子付きポニテの超絶美少女って、私・・・?カシラ」


 「それとイカさんペンダントもだよ」


 「ふ・・・・・・ふ・・・」


 『ふ?』


 急に変な声を出したネビアにみなが首を傾げていると、またまた急にネビアは天井を仰いで叫んだ。


 「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?カシラァァァ!?」


 よほど自分の変貌ぶりに驚いたのだろう。ネビアは発狂したように驚声を上げていた。

 いや、ネビアだってそんな謙虚なわけではないので一応自分のルックス自体は悪くない方だと思っていたのだが、どうにもこういうことをする機会がなかったばっかりに自分を自分だと認識出来なくなるほど見栄えが良くなっていた。


 「やっぱりね!ほら、こんなにスッキリしたもん!」


 まるで自画自賛するように向日葵が腰に手を当てて頷いているし、真牙もいつもよりさらに鼻息を荒くしている。


 「ほらね、としくん。やっぱり似合ってるよ」


 「あぁ、確かにイカもかなりしっくりきてるような気がするわ。しーちゃんすげぇな」


 慈音と迅雷がネビアを見て会話しているのを見返して、ネビアはなんとなく迅雷に話しかけていた。


 「あの・・・さ、迅雷、カシラ」


 「ん?どうした?」


 「そのぉ・・・私、どう見える?カシラ」


 ここまできてまだなにを恥ずかしがるのだか、と迅雷は呆れ半分、喜び半分に鼻から短く息を吐いた。変な質問をするネビアに迅雷は微笑みを返す。


 「見違えた・・・ってのは失礼かもだけど、とにかくすげぇ、可愛くなったな」


 「かっ、かわ・・・・・・!?うぅ、カシラ」


  いつもならもっと「でしょでしょ」などとからかってくるところだったのに、迅雷がそう言った途端ネビアは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


 「な、なんか調子狂っちゃう、カシラ・・・」


 一応ここで迅雷の内心を言っておけば、彼だって地味にかなり恥ずかしいのだ。真っ赤なのだ。言っちゃった感満載なのだ。でもだって仕方ないじゃないか、なのだ。

 ネビアがモジモジと伏せた目を泳がせ始めて、直後に迅雷は20を優に超える殺意を全身に受けて短い悲鳴を漏らした。


 「はーい、1名様廃棄処分決定ー。はいそこ窓開けてー。運搬はオレとあと3人だぞー」


 真牙が指示を出すと、教室中の男子が驚くほどテキパキと作業をし始めた。


 「ま、待て!俺はネビアに感想を聞かれたから素直に答えただけだぞ!俺は悪ぐなぁ!?」


 「素で女たらしかテメェ。違うだろ、少し期待してたんだろ?正直に言ったら減刑してやっても良いぞ。まぁ投げ落とすか普通に落とすかの違いしかないがな!」


 「やめろ!下心は10パーセントくらいだから!やめてホント窓から捨てないで絶対痛いから!」


 「はーい、いっせーのーで―――ほいっ」


 迅雷の断末魔が窓の外から聞こえてきた。

 彼の冥福を祈って少し視線を上げれば、昨日までのパッとしない曇り空もどこかにいなくなって、澄み渡る青空がそこにはあった。


 嬉しくて、ちょっぴり気恥ずかしくてもどかしくて、ネビアは教室中の「友達」を順々に見渡して、はにかんだ。


 「みんな、ありがとね、カシラ。すっごく・・・すっごくすっごく嬉しいよ、カシラ」


 微笑み返されて、照れくささ。


 それからネビアは慈音と向日葵と友香の3人に向き直った。


 

 「これ、大事にするね!ずっと・・・ずっとずっとずーっと、死ぬまで大事にする!カシラ!」


 


 

 


 

 

 

 

 

6月1日はネビアの誕生日。


ということで、とりあえずここまで御読了頂いた皆様、お疲れ様でした。次回土曜日はちょっと長いオマケ編、日曜日からは新エピソードに突入しますので、これからも何卒―――何卒!よろしくお願いします。


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