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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode3『高総戦・前編 邂逅』
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episode3 sect22 ”EXperimental Artficial Wizard - markⅡ Customized ”

 4日目のCブロックでは、雪姫の試合の後は特にハプニングのような展開もなく、良くも悪くもほどよく盛り上がっているという感じだった。いや、本来ならこれぐらいが例年通りといったところなのだが。

 今年の1年生の試合は雪姫という超新星に加え、直前で転入してきて大会を荒らし回るネビアの2人の活躍が、よもやA、Bブロックの上級生たちすら凌駕するほどだった。それ故、いつもなら基本的に予想通りの展開ばかりの1年生戦は、今年に限って観衆の期待を上に斜めにと裏切り、高い人気を博していた。


 正午を回ると、迅雷らの1年3組から2回戦に進んだ佐藤忠志は5組の選手との試合で惜敗。ここがこの日の第9試合の結果であり、このあと下校時刻である午後4時まで主だった選手の試合結果を上げていく。


 第12試合では前日にも矢生を師と仰ぎ、それに恥じぬ的確な動きを見せた紫宮愛貴が出場。対戦相手が6組の生徒だったため、応援席に矢生の姿を見つけられずションボリしつつも、持ち前のセンスで勝利。


 続いて午後3時の第15試合では五味涼が登場。第1回戦のときの観客の少なさが一転して多くなったためやや緊張するも、危なげなく勝利。彼女の魔力色が白であるためあまり派手な魔法は使えないのだが、5属性全てを自在に扱える利点を有効利用するスタイルは、対人戦においてその弱点を補っても有り余るアドバンテージを生んでおり、彼女の底力を示していた。


          ●


 そして、午後4時。既に下校は許されるのだが、当然ながら帰る生徒は少ない。大体の生徒はこの後もクラスメートの応援があるし、なによりこの学内戦自体が一大イベントなので、出来るだけ楽しみたいのだろう。


 そして、それにも増して今日だからこそ残る理由もある。

 それは、1時間後に迫った第3回戦である。Aブロック、Bブロックではさすがの実力を見せつけ快進撃を続ける生徒会のツートップの試合が、Cブロックでも例の大会荒らしのネビアと評価急上昇中の光との試合があるのだ。

 その後も有力選手の密度はさらに濃くなるし、特に注目される煌熾や雪姫の試合も控えている。特に本日2戦目となる雪姫の試合は午後9時半から10時までのラストマッチとなっており、最後まで残る生徒も多くなることだろう。


          ●


 『さて、いよいよ2回戦も大詰めですね。ここまでも熱い展開が続きましたが、次は果たしてどうなるんでしょうか!それでは選手紹介です!』


 第3アリーナには大地の張り切った声が響いている。彼だってもう初日からずっと実況し続けているというのだから、よく考えたらすごい頑張りである。


 『というわけで、まずはこの方!先日は西野選手とのゆるふわ合戦を見事な結界魔法で制した東雲慈音選手!』


 ゲートが開いて「ヒュー」といった感じの歓声が上がる。特に男子の野太い声で。

 1回戦のときとはまた違う歓迎に慈音はギョッとしてあちこちを見やり、ちょっと縮こまりながらフィールドの真ん中まで歩いた。

 がっちがちに緊張している慈音を見て、観客席の最前列を陣取った迅雷は苦笑して声をかけた。


 「おーい!しーちゃん、リラックスリラックス!いつも通りマイペースにいこう!」


 「あ、としくんだ。えーっと、うん!そうだね、いつも通りにマイペースに・・・あれ?しのってそんなにマイペース?」


 励まされたはずが、なぜか首を傾げる慈音。どちらかと言われれば慈音もマイペースな人なのだが、まぁ、そう言う人は人に言われたって分からないものだ。後ろ襟が立っているようなものである。


 『そして、彼女に対するは8組からの刺客、小泉知子(ともこ)選手!マジカルにサイエンスに勝ちを取れるのでしょうか!?入場!』


 出てきたのは、とかくモブ臭の漂う眼鏡におさげの理系少女だった。

 

 ただ、引きずるように持ち出してきた『装置』が強烈かつ凶悪な印象を押しつける。


 それは有線制御式の大型ロボットだ。全高は3mほど。とはいえ、このロボット自体は1回戦でも出撃しているため、驚くのは今更だ。

 ショベルカーを思わせるキャタピラによって走行するそれの上半身は歪な人型で、アームは肘が予め直角のまま固定され、肩と武装を固定するベースをモーターで回転させることで必要な可動領域をクリアしていた。また、装甲はコスト的な問題があったのか最低限にしかあらず、それなりに中身の機械が露出している。

 頭部は前後に長い直方体で、角張った『ぬらりひょん』とでもいったところか。頭頂部には見るからに物騒な機関砲が積んである。


 「あわわわわ・・・、なんかさらにすごくなってるよ・・・!?」

 

 慈音は口をパクパクさせてそのロボットの新たなる武装を見ていた。

 マンティオ学園の一般魔法科は1年生でもこんなものを造ってしまうのか、と思わずにはいられない。


 『なんか、ものすごく恐いわね、あの手。こういうのを魔改造って言うのかしらね・・・』


 真波の引きつった声がマイクに乗っかって拡散するのだが、それに賛成するような声が次々に上がる。

 ロボットマニアの中でも賛否の分かれそうなゲテモノには、やはり理解を示す声も多くはないらしい。


 「んー、さすがにその場しのぎのオプション兵装は見栄えも冴えないってことなんですかね?私はこういうのも好きなんですが・・・」


 愛犬を撫でるかのように鉄の塊に手を当てる知子。

 その半人型重機の部位の中で今一番注目を引いていたのは、やはりそのアームだった。

 前日搭載されていた魔法炸薬弾頭用のキャノン砲は今日はオミットされ、代わりに見た目だけであからさまな破壊力を人々に知らしめる長大な円柱型のドリルと、これまた純粋に威力だけを求めたような無骨でデザイン性の欠片も感じない大剣が左右にそれぞれ。やる気というよりも殺る気満々である。


 『えーっと、はい!それでは両選手、アーユーレディー?・・・イエス、試合開始ィ!』


 ロボットの威圧感に慈音が怯んでいたが、時間の都合もあるので大地は半ば強引に試合を開始させた。


          ○


 「さぁ、行きなさい!『EXAW(エグゾー)-mkⅡC(マークツーカスタム)』!」


 無駄に格好良さげな名前のキャタピラ走行式ロボットは、マスターの命令(手元のタブレット型端末にインストールされたコントロール用アプリケーション)に従って動き出した。

 頭部が持ち上がって、ツインアイ式のカメラが禍々しい赤色に発光し、頭部右側のアンテナが上を向いた。 

 

 やたらと少年心をくすぐるギミック満載のロボット―――『エグゾー』と呼ぶこととする―――に、会場もゲテモノ扱いから一転して沸き立つ。


 頭頂部の機関砲が回転を始め、慈音は焦って二重で結界を張った。直感的には1枚でも耐えられると分かっていたのだが、恐怖心が勝るとやはりもっと結界を張りたくなるのだった。

 直後、機関砲が火を噴いた。弾はペイント弾を使用しているが、弾速が明らかに想定されている規格の機種の倍近くまで上がっており、弾が慈音の結界を叩く音は人に当ててはいけない破壊力を示していた。


 「うわ、うわぁぁぁん!?なにこれ!すごくこわいんだけど!?」


 近未来的な戦場と化したフィールドで既に涙目になった慈音が喚く。

 一応防御可能な威力なので彼女にペイント弾の雨が注ぐことはないのだが、それと恐いのは別の話だ。絶対に割れない防弾ガラスの前に立って、向こうから銃弾が飛んでくるのを見ているようなものなのだから。

 しかし、30秒ほど弾をばらまいて慈音の結界はペイント弾のインクでピンク色に染まり、両者共に相手の姿が見えなくなってしまった。


 知子は顎に手を当てて考え込む。


 「やはり射撃武装での突破は不可能のようですね・・・。ふ、ふふふ、うふふ、つまり新兵器の出番というわけです!」


 タブレット端末を通して新たな命令を下すと、『エグゾー』はそれに従って慈音がいるであろう結界の裏側へ回り込むように走り出した。

 しかし、『エグゾー』の背中からは犬のリードのようにコードが伸び、タブレット端末や知子の手首に着けられたブレスレット型の装置と繋がっているため、『エグゾー』と一緒に知子も走る。幸い『エグゾー』の移動速度はキャタピラ走行のおかげで遅いので、知子が引きずられるようなことはない。

 

 しかし、その走行音はキャタピラ故に大きく、慈音も相手の動きの変化に気付いた。

 ひとまず汚れてしまった結界は破棄し、視界を確保する。


 「うわっ、うわ!?なんかこっちに来てるよ!?左手のドリルすっごい回ってるし!」


 普段は開けた交差点で走ってくる車に気付かないほど危険に鈍感な慈音ではあるが、ここまで来ると身の危険を感じない人間はいないだろう。慈音は顔を真っ青にして『エグゾー』を迎え撃つ準備を始めた。


 「プ、『プロテクション・バリア』!」


 慈音は改めてバリアを作り直すのだが、それを待っていたかのように『エグゾー』が左アームの円柱型のドリルを突き出してきた。

 高速回転するそのドリルは、魔力が通されているらしく淡く発光している。白く光って飛び散っている物質は恐らく水だ。固定された魔法陣に魔力が通されることで、ドリルの摩耗を緩和するための水が発生しているということだろう。

 ドリルの先端、円の面が結界に当たると、途端に耳をつんざく凄まじい摩擦音がフィールドに留まらず会場全体に響いた。

 火花と共に散って煌めいているのは、恐らく慈音の結界の破片だろう。透明な欠片は元の魔力に戻って霧散していく。

 想像以上に高速で結界を削られ、慈音は焦りの色を強くした。


 そして遂にピシッという怪しい音がした。


 「あっ」

 

 ガラスの割れるような音と共に、ドリルが結界を貫通した。


 唸りを上げる長大な金属塊が慈音を狙って容赦なく突撃する。

 きっと当たりそうになれば知子も寸止めはしてくれるのだろうけれど、万が一にでも直撃すれば間違いなく慈音の体などミンチである。


 「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」


 降参でもしたかのように両手を挙げて、意味があるかも分からないが、慈音は90度真横を向いた。

 直後、体の真正面スレスレ、ちょうど胸のあたりから数センチのところをドリルが走った。間近で見ると、回転が速すぎてむしろ回っていないようにすら見え、恐怖が一線を越えた慈音は真っ白になって固まってしまった。

 

 『うおお!躱した、躱しました!これは東雲選手のような選ばれし者にしか出来ない躱し方です!ビバ、貧乳!』


 「わぁぁぁぁ!!今一番言われたくないことを適確に言ったよ!」


 『大丈夫よ、東雲さん!あなたのそれはステータスよ!』


 「先生もそれフォローになってないですからね!?」


 コンプレックスであった貧乳(というよりもはや無乳)をからかわれて慈音が喚いているが、もし彼女がAAカップでなくAカップだったら、今や大惨事になっていたところだった。それくらいの紙一重な回避をして見せた慈音だったが、そんな達人技をやってのけた彼女の表情は晴れない。


 「くっ、1回躱したくらいで!『エグゾー』!」


 新たな命令を受けた『エグゾー』は一旦急速後退し、ドリルの回転はそのままに右アームの大剣を高速振動させ始めた。

 倍加した命の危機に慈音は悲鳴を上げる。


 「いやあぁぁ!なんかしのが悪いことしたの!?憶えはないけどとりあえずごめんなさい!?」


 「いえ、恨みはありませんが、勝利のために消えてもらいます!」


 「き、消えるの!?恐いよ!しの消されちゃうの!?」


今度こそ冗談みたいに涙を噴き出させて、慈音は『エグゾー』に背を向けて逃走を図る。しかし、次の瞬間に慈音の頭のすぐ横をなにかが通った。ヒュン、という暴力的な高音。それも1発や2発ではない。


 機関砲だ。


 「それ当たっても大丈夫なやつなのかなぁ!?」


 背後に結界を張り、慈音は殺人的な弾速のペイント弾を防御する。


 しかし、逃げていたって勝つに勝てない。ここまで来たら迅雷や真牙と一緒に3回戦も出てみたいと意気込んでいたところなのだ。

 しばし走りながら、慈音は自分に喝を入れる。


 「うぅ、よし!このままじゃダメだよね!しのも頑張るよ、としくん!」


 体を巡る魔力の流れ全体に集中。


 走るのをやめて、慈音は知子と『エグゾー』を振り返る。


 反撃の時が来た。


 「どうしたんです?諦めたんですか?」


 「ううん、違うよ!『オフェンシブ・バリア』!!」


 これは防御用ではない。

 

 以前にも、結界魔法の攻撃への応用については話をしていたはずだ。

 魔法という非科学の手段で空間に直接壁という体積を挿し込むことで、理論上ありとあらゆる物体を切断可能。使用者の魔力量と対象物内の魔力量、そして結界を維持する技術と物体の密度や大きさ、重量。成功するかどうかはこれら2つの差や関係に左右されるが、条件さえうまくいけば一撃必殺の凶悪な攻撃となる。


 ただし、狙うのはもちろん知子ではない。


 「いっけぇ!」


 慈音は『エグゾー』の左アームの肩口に露出した関節部に、壁を生むビジョンを練った。


 結界による物体の切断など昔一度危ない思いをしてから長らくやっていなかった慈音だが、それでもスムーズにイメージを作った。

 あとは、詠唱して出来上がった術式に念を送って起動させれば良い。


 直後、甲高い破壊音が鳴った。


 ・・・が、砕け散って地面に散乱したのは、慈音の結界だった。


 確かに調整も完璧にしていたはずだ。

 

 それなのに。


 「な、なんで!?」


 若干パーツの噛み合わせに不具合が出たらしく、『エグゾー』からはアラート音が出ている。だが、慈音の必殺攻撃で『エグゾー』が受けた被害はそれだけで、『エグゾー』はなおも知子の指示のままにドリルの左腕を突き出してきた。


 「プ、『プロテクション・ファイア』!」


 凝固した炎の壁とドリルが衝突して大きな音がした。恐らくドリルから発生する水が炎で蒸発し、ドリルの損耗が激しくなったためだろう。

 慈音は壁が破壊されてしまう前に再び相手から距離を取った。

 そしてもう一度、今度は『エグゾー』の左アームの固定された肘に照準を定めた。


 「『オフェンシブ・バリア』!」


 しかし、またしても砕ける慈音の結界。

 あの装甲の内側に結界を生成するときに感じた抵抗力。その正体に、2度目にして慈音は気付いた。


 「魔力が通ってるの!?」


 「そりゃそうですよ!この『エグゾー』は機体の全体に細かく魔力循環回路を設置されていますから!各武装の『エレメンタル・エンファサイズ』用魔力もすべてそれによって賄っているのです!」


 やたら工業っぽく名詞を出され、慈音はちんぷんかんぷんになって口元に指を当て、小首を傾げた。


 「ま、魔力じゅんか・・・なに?よ、よく分からないよ・・・」


 目を点にする慈音を見て、知子はやれやれと首を振った。


 「これだから。要はロボの中に魔力が流れる血管のような構造を入れているんですよ」


 「な、なるほど・・・?」


 しかし、それならその魔力はどこから供給されているのか、と慈音が考えを巡らせた。いくら高い技術を使っても、機械が自身で魔力を生成出来るはずがないのだ。もしそれが出来るようになったなら、それこそノーベル賞ものである。

 よって、『エグゾー』の中に流れる魔力はどこかから定期的、または継続的に供給されていなければならない。


 と、慈音は1つ気になるものを既に、試合の初めには見つけていたことを思い出した。

 もしかすると、そこを突けば勝てるかもしれない。


 「なにを考えているのかは知りませんが、抵抗は無駄ですよ!早めに叩き潰されることをオススメします!行きなさい、『エグゾー』!」


 『エグゾー』は再度慈音に向けて猛進し始めた。


 その瞬間、知子の腕のブレスレット型デバイスを見て、慈音は確信した。


 「そのブレスレットのコードって!魔力をロボットさんに注入するための機械だったんだね!」


 「・・・っ!?」


 意表を突かれた知子が初めて焦りの表情を見せた。彼女は、まさか慈音がそこに気付くとは思っていなかったのだ。否、少なくとも3回戦あたりまでのレベルの生徒の観察眼では気付かないように、非常にメカニカルなデザインにしてあったのだ。

 だが、よく見て考えれば、おかしいのは明らかなのだ。指示を出せばあとは自動で動いてくれるのであれば、タブレット端末に接続されたケーブル1本で十分に『エグゾー』を動かせたのだから。


 それなのに、なぜかもう1本のケーブルが操縦者である知子の体にも繋がれている。初めこそその機械的なデザインからしてなにかしらの生体情報を『エグゾー』の制御に応用しているもののように見えたが、実際はそんな技術なんて組み込まれていなかった。

 慈音はそこで初めて力強く、自信のある笑みを浮かべた。


 「『オフェンシブ・バリア』!」


 分かったとはいえ、魔力が通っているコードを切断しなければならない。慈音は出し惜しみなしで、超小面積かつ超高魔力密度の結界を生み出した。


 直後、ほとんど音を立てることもなく、その小さな結界が知子と『エグゾー』を切り離した。


 「これでもう魔力は使えないはずだよ!」


 唐突に接続を切られたせいでエラーが出たのか、『エグゾー』は攻撃どころか動き全てを停止してしまった。

 しかし、機能停止だけならすぐにでも復帰しかねない。


 慈音はすぐさま『エグゾー』の左肩に結界を撃ち込んだ。

 まだ内部に魔力の残滓があったのか、弱い抵抗を受けたものの、ナイフでステーキを切るくらい容易にアームは切断されて地面に落ちた。


 「いける・・・!」


 もう一撃加えるために慈音が照準を改めていると、『エグゾー』が再起動した。

 しかし、もはや結界で切れることが分かった今、あんな図体ばかり大きい機動兵器などただの鉄屑でしかない。まぁ、慈音がそんな汚い言葉を思い浮かべることもないのだが、ニュアンスはそういうことである。敵が動こうが止まっていようが、次に『オフェンシブ・バリア』を発動すれば慈音の勝ちなのだ。


 いっそ一気に止めを刺すために、慈音は『エグゾー』のキャタピラの下半身と武器庫の上半身を切り分けることにした。


 「・・・『オフェンシブ・バリア』!」


 ガシャン、という音が響いた。

 

 一瞬やったかと思った慈音は、それが機械の潰れた「ガシャン」ではなく、結界の割れた「ガシャン」だったことに気付く。


 「・・・・・・え?」


 空白の生まれた慈音の頭上で、大剣が振り上げられた。超速振動の刃だ。

 

 その刃は、淡く光っていた。


 「う、うわぁ!?」


 咄嗟に慈音は後ろを向いて跳び前転をし、ギリギリで斬撃を回避する。

 しかし、『エグゾー』は機械ならではのありえない強引さで剣を持ち上げ直し、前転からの起き上がりで体勢の整っていない慈音に再び襲いかかった。 

 よもや躱すことなど不可能。重い鉄の塊が空気を割る音が恐怖を駆り立てる。


 「バリア!」


 ほぼ無詠唱で慈音は『プロテクション・バリア』を発動した。1秒でも受け切れれば、この攻撃は回避出来ると思ったから。

 それなのに、慈音の即席の防御結界はまるで紙のように斬り裂かれた。


 「そ、そんな・・・っ!?ぁ―――――ッ」


 脅威的なマシンパワー。もはや振り下ろされてくる高周波振動ブレードに為す術もない慈音は、キュッと目を瞑った。

 風圧と共に鼻先で大剣の鋭利な剣先は動きを止めた。


 『勝負あり!なんと、なんと!逆転して逆転されそうで、でも逆転を許さない、大どんでん返し!一方的ながら熱い試合でした!小泉選手と「EXAW-mkⅡC」が戦いを制しました!このコンビを倒せる者はいるのか!?』


 会場は割れんばかりの歓声だが、一時は勝利を確信させた慈音の敗北に悔しそうな空気もあった。


 『それにしても最後、「エグゾー」はどうして破壊されなかったのでしょうか?確かに一度は腕を切り落とすことに成功していたはずなんですが』


 大地が改めて、実況の立場を借りて勝者の知子に質問を飛ばした。


 「もう見せてしまったので隠すのも意味はないでしょうから、説明しましょう。この『エグゾー』は内部に中型の魔力タンクを積んでいるんです。基本的には私、つまり操縦者からの魔力供給を前提としていますが、タンクだけでも短時間なら機体単独での魔力使用も可能です」


 人間からの魔力供給と内蔵ソースとのハイブリッド型にすることにより高い経戦能力を得る―――というのが『エグゾー』シリーズの初期テーマであった。

 現在最も使用されている機種を含め、マジカルクラフト・ロボット分野では今までタンクか人力の一方のみを利用するタイプが主流だった。なぜなら、誰のものとも分からないタンクの魔力と人の魔力を同時に流し、機械の中でうまく調和させるのが困難だったからだ。


 それを可能にした技術は、1年生の佐々木栄二孫(エジソン)が考案したものだった。所詮はギリギリまで簡略・粗雑化され、人の側でかなり丁寧に扱わないとエラーも出やすい設計ではあったが、その技術自体は間違いなく世界最先端技術のデチューンであった。

 結果として、再起動した『エグゾー』は自動的に内部魔力のみでの稼働モードに移行し、再び機体全体に魔力を循環させ、慈音の攻撃を撥ね除けることが出来たのだ。


 『こんな技術が投入されていたなんて、すごいわね。いや、本当にすごいわ。魔法科学工作系のコンテストに出したら優勝どころじゃないわよ』


 真波も『エグゾー』の能力を絶賛する。詳しい機構は知らなくとも、凄さは感じるものだった。


 「うわわ・・・、なんかしの、すごいものを壊しちゃったんじゃ・・・?べ、べべ弁償とか言われたらどうしよう!?ご、ごめんね壊しちゃって!なんでもするから許してください!」


 大地や真波がなんやかんや言っている間に『エグゾー』の腕の下から抜け出した慈音は、その『エグゾー』が実はとんでもない発明品だったらしいことに気付き、思い切り良くスッパリ綺麗に切断されて床に転がるそれの左アームを見て顔を青ざめさせた。

 今にも土下座し始めそうな慈音に、さすがに知子も慌てて手を振ってやめさせた。


 「いいんですいいんです!弁償なんて大丈夫ですから!まぁ、直すのにはちょっと手間もかかりますが、費用は部が持ちますんで!」


 「ほらぁ!お金かかっちゃうもん!ごめんなさいー!」


 泣いてしがみついてくる慈音を押し退けながら知子が怒鳴る。


 「だから大丈夫ですってば!というか壊されて困るなら『高総戦』に出そうなんて考えないですから!」


 「・・・本当に?」


 「本当に」


 知子が頷くと、途端にぱあっと顔を明るくして慈音は知子から離れた。そのまま今度は知子の手を力強く握り、両手で無理矢理握手をする慈音。


 「ありがとう!ほんとに!」


 「・・・は、はぁ・・・どういたしまして」


 ―――――こうして新たな友情が芽生えたのだった?


          ●


 「えーと・・・、というわけで、負けちゃった」


 アリーナの外に出たところでクラスメートに迎えられ、慈音は気まずいのを誤魔化すように笑った。

 1回戦では意外と出来る子だと判明した慈音ではあったのだが、さすがに戦闘用ロボットには及ばず。その点については仕方ないと分かっていただろうし、悔しさも隠したかったのだろうけれど、やはり3回戦に出られなかったことを惜しむ雰囲気は醸し出されていた。


 「まぁ、ありゃ仕方ないよ、慈音っち!」


 「そうそう、ロボットなんてさすがにねぇ」


 すかさず向日葵と友香が慈音のフォローに入る。

 これで、3回戦に残った1年3組の生徒は雪姫とネビア、そして迅雷、真牙の4名で確定したわけなのだが、はっきり言って4人も残っている時点で3組陣営は他クラスと比べ圧倒的に優秀であった。


 30分後にはネビアの3回戦も控えている。ここまでくると、他のクラスからは1年3組の活躍を羨む声が上がる一方で、、中にはここからの更なる活躍に期待を寄せる声も増えつつあった。


          ●


 「さーてと、カシラ。やだにゃー、また一躍有名になっちゃう、カシラ」


 試合開始直前の入場ゲートの裏側で暢気に背伸びをするのはネビアだ。随分と間延びした声を出す彼女だが、元より負ける可能性などこれっぽっちも想像していないので、肩に入る力もほどよい程度なのだろう。最初に見せていた「緊張してます詐欺」もさすがに必要なくなってきたのでやめたら、今度はいっそ軽率である。


 一応クラスに貢献すべく―――――という建前、勝利を重ねているネビアだが、そんな建前でさえそもそもは後付け設定である。今となっては多少は気持ちも入っているのだが、そこは変わらない。


 「また随分と機嫌が良いんですね」


 話しかけてきたのは昨日も顔を合わせて少し馴染みの出てきた、選手誘導の女子生徒である。からかうようにそう言われ、ネビアも軽く笑う。


 「今回の相手は細谷さんですし、簡単じゃないかもしれないですよ?」


 「んー、まぁそういうことにしといてあげるわ、カシラ。でも、見てなさいよね、カシラ。私ってばこう見えて結構デキる子なのよ?カシラ」


 ネビアが強いのは今更として、少女の方は大した反応をしなかった。

 代わりにフィールドの様子が確認できるモニターに目をやってから、にっこりと笑い返してやった。


 「ええ。ではそろそろ入場ですよ。頑張ってくださいね」


 ゲートが開いて、またネビアの背中は少女から遠ざかっていく。

 今の2人の関係なぞ、所詮はこの期間だけのものである。振り返らずにヒラヒラと手を振るネビアは、果たして観衆と少女のどちらに手を振ったのだろうか。


 「やっぱり、なんだか遠いなぁ・・・」


 気さくで魔法の腕もある、憧れにも似た感情を抱かせる深青色の髪の少女は、それなのにやはり遠かった。友達って良いものだね、なんて言っていた彼女に、どうしても近付ける気がしない。

 今日は昨日よりも、きっと明日は今日よりも、そして明日が終わればもう、彼女の背中は遂に後ろから眺めることしか出来ない偶像になるのだろう。


 そう遠くないうちに、どこかに行ってしまいそうなあの人、あの背中、あの笑顔。ちょっと名残惜しいが、元々は接点なんてないはずの間柄なのだから、それで良いのだ。そうして、少女は自分を説き伏せた。


          ●


 『さぁ、やって参りました第3回戦!!いやぁ、すごい人ですね!1年生の試合でこんなに人が集まる試合ばかり続くのも珍しいんじゃないですか?』


 実況席では大地がごった返す観客席を見ながら嬉しそうな声を出す。見に来る人が多ければ、大地も実況のしがいがあるというものだ。


 『そうねぇ。もしかしたらA、Bブロックからも人をもってこれているんじゃないかしら。ネビアさんの活躍が特に期待かかってるってことね』


 『そうですね。そして、その相手も着実に勝ちを重ねている細谷選手ですからね』


 フィールドの真ん中近くに立ち、50mの間隔を開けて向かい立っている2人の少女。

 応援に集まっているのは細谷光の6組とネビアの3組であるが、特に6組側の気迫は凄まじい。

 それもそのはずだ。大会の初っ端で今年の1年生の準最高戦力を潰したネビアとの試合は、プレッシャーが違う。矢生は2組の生徒だが、この際、クラスの枠に関係なく、ネビアへの警戒は並一通りのものではなかった。

 まして6組からのライセンサーは光ただ1人であるから、彼女にかける期待が違うのだ。ここはいわば一つの山場であり、負けられない試合なのだった。


 そのことは重々承知した上で、しかし光はこの場において極力そういった責任や期待については考えないようにしていた。

 今までの試合なら背後からの圧力を受け流さずともなんとか耐えられる緊張で済む対戦相手に当たっていたが、今回は違う。他人の期待に応えようと変に意識していたら、きっと緊張でなにも出来ずに負けてしまうかもしれない。

 ネビアとの一戦、全て自分ことだけを考えて戦う。やれることを全てぶつけて、他の人のことなどはその後だ。


 「えらく冷静ね、カシラ。私、これでも聖護院さんをぶっ飛ばした張本人なのよ?」


 「ははは・・・、まぁ、そうですね。矢生ちゃんが負けたときはビックリしたけど、でもだからって私まで恐がることもないでしょう?」


 ハッタリというには緊張が見えすぎているが、それも光は分かっている。これは一種の自己暗示だ。それはネビアも察したのか、一度目を丸くしてから、笑った。


 「うんうん、いいね。こりゃあ『目からビーム』も通用しないのかな、カシラ」


 どうせお決まりになっているので、とりあえず今回も初手で撃つつもりではあるのだが、ネビアも当たるかどうかも分からない攻撃を仕掛けるのは面倒なので、困ったように肩をすくめた。

 素人には躱せない、と胸を張って言えるものの、あれだって何度も披露していればさすがに回避されてしまう。結局は不意打ち紛いの攻撃の賞味期限なんて知れているというものだ。


 『さて、両選手、アーユーレディー?―――――それでは記念すべき3回戦第1試合、開始ィ!』


元話 episode3 sect57 ”EXperimental Artficial Wizard - markⅡ Customized”(2017/1/3)

   episode3 sect58 ”準最先端の魔法工学”(2017/1/5)

   episode3 sect59 ”Stay Away”(2017/1/7)


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