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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第一章 episode1『寝覚めの夢』
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episode1 sect5 ”相席?”

 「お兄ちゃん、目の下のクマすごいよ。いったい何をしてたの・・・?」


 翌朝、起こしに部屋に入って来た直華(なおか)が、迅雷(としなり)の顔を見るなりそう聞いてきた。


 「なんか結局気まずくて一睡もできなかった・・・・・・」


 女子と普通にしゃべれるからと言って、いきなり目の前でかわいらしく寝息を立てられても平常心でいられるような男子なんてそうそういないのではないだろうか。昨晩は仕方なく千影が一緒に寝るのを認めたが、迅雷はそのあと無防備に寝ている千影(ちかげ)の横で眠れぬ夜を過ごしていた。今日は健康診断もあるのだが今の彼の顔は睡眠不足で真っ青。サクッと引っかからないだろうか、と心配になる。


 とにかく、眠いのは我慢して、支度を済ませ直華と一緒に家を出た。見送りに千影が加わって真名(まな)と千影の2人になっているのがなんだか新鮮だった。家を出るとちょうど向かいの家から慈音(しの)が出てくるところだった。


 「あ、としくんになおちゃん、ぴったりだねー。あ、千影ちゃんも、おはよー」


 「おはよー、しーちゃん!」


 千影が返事をする。千影も昨日の帰りで慈音とは結構仲良くなった。迅雷の呼び方をそのままもらって千影も慈音のことは「しーちゃん」と呼ぶことにしたらしい。


          ●


 学校に着くと真牙(しんが)や他何人かが早くに集まっていたようで教室は時間帯の割にそこそこ賑やかだった。


 「お、迅雷に慈音ちゃん、おはよーさん。・・・・・・む、迅雷?なんかずいぶんと眠そうだな。・・・ハッ!?まさか昨晩は千影ちゃんと!?」


 「なんもねーからな!」


 少しして他のクラスメートたちもぞろぞろとやってきた。


 「よう、神代(みしろ)


 机に伏せっている迅雷は後ろから声をかけられた。振り返ると、室井(むろい)がいた。


 「おはよう室井。・・・あれ、なんだかすごいひさしぶりな気がする」


 昨日があまりにもぎっしりな一日だったので迅雷には彼の顔を見るのが久し振りに思えてしまう。これはいけない、疲れているのかな、と思って迅雷は両の手で自分の頬を張る。いきなり自分を叩き始めた迅雷を見て室井が突っ込む。


 「急にどうしたんだよ?てか昨日初対面だし。てかそれよりなぜにそんなにやつれ気味なんだ?」


 まさか10歳の女の子と一緒に寝ることになって一晩中ドキドキしてましたなんて言えない(ましてや会って2日目の人に)。しかし迅雷は嘘も得意ではないので少し考えてから、口を開く。


 「――――――きっといろいろあったんだよ。きっと」


 「そんな遠い目でしかも他人事口調になるほどのことがあったのか!?」


 ――――――そうか、俺は遠い目をしているのか、あは、あはは。


 疲れ切った薄ら笑いを迅雷は浮かべていたことだろう。



 「神代クン神代クン!おはよう!」


 「お、おはようございます、神代君」



 室井に同情の目をされていたところに、また誰かが声をかけてきた。誰かというと、昨日教室に残っていて、戻ってきた迅雷に話しかけてきた2人だった。今先に声をかけてきたのは明るめに茶色がかった髪をショートにしていて軽いつり目が快活そうな少女で、もう片方は昨日先に声をかけてきた黒髪ロングで眼鏡の(あと巨乳な)おとなしそうな子だ。しかし、黒髪の子の方は昨日と比べるとなんだかテンションが違いすぎるような気がする。


 「お、おはよう」


 迅雷は昨日の千影との会話から避けられるのではないかと心配していたのでほっとした。茶髪の子が続けて話をしてくる。


 「あのさあのさ、今日の午後って実技専攻クラスの選択あるじゃん?神代クンはなに取るのかなーって思ってさ」


 「や、やっぱり魔法剣術のクラス・・・ですか?」


 「そのつもりだけど。・・・ていうかなんか君テンションが昨日からガタ落ちしてるけど大丈夫?もしかしてどこかしんどいとか?」


 迅雷は少し心配になったので聞いてみることにした。もし本当に体調が悪いなら保健室に連れて行った方がいい。


 「あー、トモは男の子と話すのが苦手なだけだから気にしないで?慣れたら普通だからさ」


 トモと呼ばれた黒髪少女はうんうんと頷いている。それならいいのだが、しかしそうなると疑問に思うことが1つ。昨日話しかけてきた彼女のテンションはそれにしてもなかなかだったように思える。


 「え?でも昨日けっこうテンション高かったじゃん」


 「ん、それはね?」


 「あー!ヒマ、やめてって!」


 なんだろうか、恥ずかしい理由でもあるのか慌てて黒髪の子がヒマと呼ばれた茶髪の子の口を押さえようとするが、昨日は神代クンの意外な一面見たんだしいいじゃんと押し切る。というよりやっぱり覚えていたのかと迅雷も肩を落とす。


 「トモはね?こう見えて実は観る方のバトルマニアで、ほっとくとたまに一日中魔法戦の試合とかバトル系のアニメとかの動画を見漁ってたりするんだよ。恐いよねー、アハハハ!だから昨日の試合とかモンスター退治を見てて興奮してただけだから」


 「あ!?もう、やめてよー!」


 「へ、へー、そうなのね・・・・・・」


 なんだろう、こっちの子は清楚系の明るい子だと思っていたのに。けっこうタイプだと思っていたのに。まさか血湧き肉躍る視聴者側バトオタ系子兎ちゃんだったなんて。思わず苦笑いになってしまった。


 「あ!そういえば自己紹介してなかったね。あたしは朝峯向日葵(あさみねひまわり)で、こっちが沢野友香(さわのともか)。ヨロシクね!」


 茶髪の子、つまり向日葵が自己紹介をする。昨日は自己紹介をクラスでやることをしなかったので、迅雷は2人の名前を知らなかった。向日葵が続ける。


 「いやー、でもやっぱり剣かー。あたしも剣コース取るからヨロシクね」


 「わ、私は基本魔法コースなんで別ですね。あ、でも天田(あまだ)さんが一緒なんだって、わくわくするなぁ!」


 また友香のテンションが上がってきた。多分雪姫(ゆき)の魔法を使うところを間近に見られることを想像しているのだろう。それにどうやら今日は雪姫と選択科目を聞くくらいではあるが話をすることができたらしい。


          ●


 先生が入ってきてみんな着席する。今日はホームルームから続けてクラスの自己紹介もある。


          ●


 「はい、ありがとう、じゃあこれで自己紹介も終わりかな。」


 最後のクラスメートが自己紹介を終えて、真波(まなみ)が前に出る。


 「さてと、そろそろ来る頃かな?」


 言い終わるか否かのところで教室のドアがノックされた。保健室の先生が身体測定・健康診断の順番が来たのを知らせに来たのだ。廊下に並ぶように言われ、生徒たちは席を立ち始める。迅雷のところに真牙がやってきた。


 「よーし迅雷、身長勝負しようぜ。負けた方が今日の昼飯おごりな!」


 「よし乗った。あえて先に言っておこうか、ごちそうさまです」


 小学生みたいな勝負だとも思ったがこれも毎年のことだったし、今回は昼飯がただになるかもしれないのだ。迅雷は乗ることにした。もっとも2人の身長は端から見てもまったく変わらなく見えるので昼飯代が浮くかどうかは正直運次第だったのだが。


 身体測定会場の体育館に行き、ジャージに着替ていると、なにやら周囲が騒がしくなった。どうやらまさかの入学2日目から覗きを敢行しようという蛮勇の猛者たちが出てきたようだ。素直に尊敬できる。

 それから女子更衣室を覗こうとした連中(主犯は真牙)が雪崩に押し流されてどこかへ行くのを横目に見ながら迅雷は身体測定を済ませた。

 

           ●


身体測定も終わって迅雷は教室に戻ってきた。少し遅れて真牙も戻ってきたようだ。真牙がニヤつきながら迅雷の方に寄ってくる。どうやら背比べの勝利を確信しているらしい。


 「よう迅雷、どうだったよ?オレの身長は170.3cmだったぜ!」


 ほほう。去年から2cmも伸びたようじゃないか、おめでとう。―――――だが、


 「170.4cmだったけど」


          ●


 真牙が財布を抱きしめながら教室の隅で体育座りをしている。なんか「さすがはオレのライバル・・・・・・」とかなんとかぶつぶつ言っているが迅雷は気にしない。と、そこに、


 「ふええぇぇん!」


 慈音(しの)が半泣きで戻ってきた。向日葵と友香も一緒だ。慈音は2人に背中をさすられているようだった。その光景を見た迅雷は、つい言葉を漏らす。


 「何で俺の周りにはややこしいのがいっぱいなんだ・・・」


 「あ!?ひ、ひどいよとしくん!今の聞こえてたからね!」


 ふむ、聞こえていたか、まぁ仕方ない。


 「・・・で、ちなみにしーちゃんはなんで半泣き?」


 「え!?そ、それは・・・・・・」


 慈音が顔を赤くしてどもり始めたので、迅雷がその隣にいた向日葵の方を見ると、向日葵はさらにその横を見る。というか正確には友香の胸を。もちろん迅雷もそれに倣うことにした。主に本能的に。


 「セ、セクハラですっ!」


 「ご、ごめん!ま、まぁとりあえず大体察したからしーちゃんも言わなくていいぞー、うん。ということで放置OKだよな?」


 小さい方に加えて大きい方もめそめそし始めたので一刻も早く逃げたい迅雷だったのだが、慈音が噛みつき始めた。


 「としくんひどい!友香ちゃんまでいじめてそのまま逃げるの!?ねぇ慰めてよぉ!」


 「謝る!謝るから無茶言うな!そんなことをしても大きくはならないッ!」


 「あ!?ついにストレートに言った!!」


 もはや慈音が迅雷にどう接して欲しいのかさっぱり分からなくなってきた。泣いているのかプンスカしているのかもよく分からん。


 「いやー、慈音ちゃんと神代(みしろ)クンってホント仲良しだよねー。もしかして付き合ってたり?」


 「えぇ!?そ、そうなんですか!?」


 突然の向日葵の発言になぜか一番に友香が反応する。続けて今度は慈音が、


 「えぇ!?そ、そんな、しのがと、ととととしくんと・・・。えーと、そのーあのね!?」


 慈音が真っ赤になって慌てふためいている。勘違いされていることに怒ったのだろうか、などと考えながら迅雷は、


 「いんや、ただの幼馴染みだって」


 「ですよねー」


 慈音が今度はえらくがっかりしている?うむぅ、女の子というのはよく分からない・・・。


          ●


 検査もすべて終わってみんな教室に帰ってきたので朝の喧噪が戻ってきている。クラス全員が揃ったのを確認して真波が声を出す。


 「はい、じゃあみんな揃ったみたいなので終わりまーす。午後は1時10分からA棟の大講義室ですよ、遅れないようにねー」


 マンティオ学園は高校ではあるがその設備の方は一般的な高校とは段違い、というかちょっとした大学のキャンパスくらいはあるような感じである。講義棟もA~Cまであるし、研究棟なんていうのもあり、体育館の他にもアリーナがあって魔法実技や実験、模擬試合なんかで使うらしい。そして、


 「なぁ迅雷、学食行こーぜ。あぁ、約束は守るぞ。好きなだけ食えば良いさ!昼はオレの奢りだ!」


 「微妙にヤケだな。・・・いいけどどれに行くんだ?」


 「あ・・・・・・」


 学食が4つもある。普通にこれぞ学食って感じのところに加えて、すこしおしゃれな感じのダイニングが2つ、さらにはカフェテリアまであると来た。


 迅雷が真牙と一緒にどこに行くか決めかねて固まっていると慈音が向日葵と友香を連れてやってきた。


 「ねーねーとしくん、真牙くん、今からみんなでA棟前の食堂に行かない?」


 「「行きます!」」


 行き先を提供してくれた上に女子三人付き。迅雷と真牙は顔を見合わせて、それから、


 「「青春はここから始ったのだった・・・!」」


 それを見て友香が苦笑いをしている。向日葵が思いついたように「あ、そうだ」と切り出して、


 「あと、天田(あまだ)さんも誘ってみようよ!」


 彼女はけっこう雪姫(ゆき)に対して積極的な感じだ。すでに雪姫は教室で孤高のお姫様感が出ている感じなので彼女の話を話題に出している人は多いが、本人と会話している人はいない。向日葵はそういうのがなく直接的な性格のようである。さっそく向日葵は雪姫の席に近づいて、


 「ねぇねぇ、天田さん、食堂一緒にどうかな?」


 雪姫はちらりと向日葵の方を見て、それからバッグを漁りながら一言。


 「あたし弁当だから」


          ●


 「・・・・・・」


 「いつまでそんな渋い顔してんだよ」


 学食のカウンターに着いてもいまだにドンヨリしている向日葵に迅雷がツッコんだ。いやしかしさすがは雪姫と言ったところか?対人対策が抜け目ない。


 「ま、まぁ神代君、ヒマのことはそっとしといてあげて?」


 友香がそんなことを言っている。友香は向日葵とは小学校からの付き合いらしい。その友香が言っているのだから迅雷もそれに従って放っておくことにした。昨日からさんざん雪姫にフラれているのでさすがの向日葵でも傷付いたのだろう。


 会計も済ませて席のあるスペースの方を見ると、席はどこもいっぱいだ。生徒も多いので当然と言えばそうなのだが。見渡していると席を立つグループが見えたので、やっと全員が座れる席を見つけてそこに落ち着いた。


 「ん、このカレーうまいな。うちのかーちゃんが作るより10倍はうまい」


 カレーをむさぼりながら真牙が感想を述べているがそもそも真牙のかーちゃんのカレーがどんなものか分からない。


 「いや、それ基準わかんねーし」


 迅雷もいつもの真牙のノリに乗ってツッコんでいると、友香がおかしそうに笑い始めた。


 「ぷっ。ふふ、阿本(あもと)君って面白いんだね」


 「・・・・・・!そ、そう?いやー照れるなぁ、全然大したことないって!」


 「真牙くんデレデレだねー」


 慈音がおいしそうにカレーを頬張りながら真牙をからかっている。


 「・・・・・・」


 隣では向日葵が何かしゃべりたそうにムズムズしている。ひょっとするとかまってちゃんなのだろうか、今日は可哀想な子で通そうとしている感じだ。普通にしゃべればいいのに。と、そこに、


 「・・・・・・ちょっといいか?」


 どっしりとした低い声が向日葵の後ろからかけられた。


 「ひゃいっ!?」


 不意に後ろから声をかけられて冷たい水でもかけられたかのような声で向日葵が返事をした。声の主を見てみると、色黒でがっしりとした体格の、昨日のあの2年生だった。


 「見ての通り席が空いてなくてな。相席をお願いしてもいいか?」


 「大丈夫ですよ。・・・・・・ってもしかして(ほむら)先輩ですか!?」


 友香が素っ頓狂な声を上げる。焔煌熾(こうし)は驚かれたことで逆にすこし目を丸くしながら手に持ったトレイを空いた席に置きつつ答える。


 「お、おう、そうだけど」


 「うわぁ、今日はツイてるなぁ!あのっあのっ!昨日はアレでしたけどでもやっぱりすごかったです!ぜひ色々お話聞かせてください!たとえばモンスター戦とかのを!」


 友香のテンションがぐんぐん上がっていく。どうやら本当にバトルマニア(視聴者)らしい。しかし、昨日の・・・と言われて煌熾は少しうろたえる。慌てて真牙と迅雷の男2人がフォローに入る。


 「と、友香ちゃん、落ち着いて!先輩ドン引きだから!違う席探し始めちゃったよ!?」


 「す、すいません!どーぞ席座ってください!俺もお話聞きたいんで!」


 なんとか気まずくなった先輩を引き留めて腰を下ろしてもらえた。一仕事終えた迅雷と真牙はふぅと息を吐く。




元話 episode1 sect12 ”意外な一面に萌えるのはマンガだけ” (2016/5/21)

   episode1 sect13 ”相席?” (2016/5/22)


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