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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第一章 episode1『寝覚めの夢』
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episode1 sect4 ”お休み、新しい1日”

 「あ、お帰りお兄ちゃん」


 「「ただいまー(!)」」


 家に帰ると直華(なおか)が出迎える。中学の方の入学式は普通に午前中には終わって帰ってきていたのだろう。最愛の妹の顔を見て迅雷(としなり)はやっと帰ってきたんだなとほっとする。


 「あれ、その子も一緒だったの?」


 「あぁ、まぁいろいろあったんだよ」


 このゲンナリ感を見れば分かるだろう。


 「あはは、お疲れのようで・・・」


 荷物を二階の部屋に置いてリビングに降りると、真名(まな)が帰ってきたようで玄関からただいまーという声がした。真名は平日は介護の仕事をしていて夕方に帰ってくるのだが今日は直華の入学式に行っていて仕事は休んでいた。昼ご飯の後に早めに買い物を済ませてきたといったところだろう。


 「あら、迅雷も帰ってたのね。千影(ちかげ)ちゃんは?」


 「いるよー」


 本人の返事を得て真名はそちらを見る。


 「あーいたいた。じゃあ迅雷も直華もそろったし千影ちゃん自己紹介してあげてねー」


 そう言って彼女は買ってきたものを冷蔵庫に入れに台所へ行った。ちょうど迅雷も千影に質問したいことがたくさんあるのでこの流れで聞けばいいかと思い、直華と一緒に千影と向かい合うようにしてテーブルに座る。


 「えーとじゃあとっしーには名前は言ったけど、ナオもいるし改めて自己紹介しまーす。ボクは千影!はやチンに、あぁ疾風(はやせ)のことだよ、うちに来ないかって言われて、というか頼み事もされているからこれからお世話になりまーす!」


 疾風とは迅雷の父親である神代(みしろ)疾風のことだ。自慢ではないし、本人も余計に目立ちたくないとのことで実際一部の雑誌で掲載されている世界魔法士ランキングとかを見ている人とか、この町の魔法士たちくらいにしか有名にならずに済ませているようであるが、彼は現在世界に3人のランク7の一人である。

 仕事は日本警察の「対魔法事件対策課」の実動隊のトップをやっているのだがランク的にIAMOからの仕事の要請で世界中、というより世界を越えていろんなところを飛び回っている。


 迅雷も直華もそんな彼ならこの少女を見つけてもおかしくはないとは思ったが、しかしそんな彼がこの少女にした頼み事とはいったいなんなのだろうか?


 千影は自己紹介を続ける。


 「歳は10歳で、学校には行ってないけど昔いろいろ勉強させてもらったことがあるから小学校に行く必要はありせーん。あ、でも学校の話は聞かせてね!ハイでは質問をどうぞ☆」


 「なぁ、千影。さっきライセンス持ってるって言ってたよな。でもやっぱりそんな例外聞いたことないし信じられねぇんだけど。ほんとならどういうことなんだ?」


 そう、ライセンスは「その一年のうちに16歳以上になる者」にしか与えられない。この少女の言っていたことが本当なら相当特殊な待遇と言うことになる。


 「いい質問だね!・・・と言いたいところだけど説明が難しいし特例中の特例だからなぁ。やっぱり気になるよね。でもゴメンね、細かいことは教えられないな。あ、ちなみにこれがボクのライセンスだよん」


 そう言って彼女は一枚のカードを取り出した。それは黒地に黄緑色の線が入っていて、千影の顔写真が貼ってあった。

 迅雷も直華もはじめはオモチャじゃないだろうなと思い、そのカードを隅々まで観察し、父親の持っているライセンスの記憶と比べたが、間違いなく本物だった。IAMOの認可のスタンプも実物だ。

 ただ気になった点がひとつ。それは、とびきり普通と違った。 


 「黒い、ライセンス・・・・・・?そんなの聞いたことないぞ」


 「普通は白地にランクごとの色のラインが端に入るんじゃないの?」


 「この黒地もボクらの特別性を示してるんだよね」


 「ボク()?」


 減る前にまた増えた疑問に迅雷は困惑する。もしかすると知らないだけでこのライセンスを持っている子供がたくさんいるとでも言うのだろうか。

 直華も同じように考えたのか、続けて質問する。


 「つまり、千影ちゃんみたいな歳でライセンス持ちの子が何人もいるってこと!?さすがに噂になってるんじゃないのかなそれ」


 「いやいや、ボクらって言っても7人しかいないんだよ?それに基準以下の年齢のはボクを含めても2人って話だったと思うよ。あと、これは欲しくて手に入れたモノでもないんだよね」


 「じゃあ、その黒いライセンスはもっと他の特殊な理由で一部の人に強制的に持たせているってことか?」


 「・・・・・・。まあそんなところかな。でもこれのおかげで得するときもあるから悪いモノじゃあないよ?たまにスーパーで割引もしてもらえるしね!もしかしたら、ボクがそうやって見せたのが都市伝説とかみたいな感じでネットに上がってるかもだよ?」


 千影は一瞬何かを思い出したような顔になり、しかしすぐにまたケラケラとした話し方に戻った。


 一方で、千影が都市伝説という単語を出して、直華が反応した。


 「ホント!?私ちょっと調べてくる!」


 「おい、ナオ質問はいいのかよ?」


 直華は都市伝説に目がない。というかそれ以外でネットを使うことはない。家のパソコンの検索履歴は9割が都市伝説サイトだ。


 「ま、まぁボクこれからずっといるわけだし質問は今じゃなくてもいいよ」


 その後も迅雷の千影への質問は続いた。 


           ●


 「ふむ、つまりあれか。千影は昔教えてもらったから物理とか数学が得意で高校レベルの内容なら余裕なのか。ただのアホかと思ってたのに、信じられねー」


 なんかいろいろ質問しているうちにこんな話になっていた。千影曰く、昔の知り合いに勉強のできる人物がいたらしく、その人にいろいろなことを教わったらしい。先生でもやっていた人だったのだろう、と迅雷は考えた。


 「まーね。そもそも普段はまったく使わない知識だけどねぇ」


 「・・・・・・いや。きっとこの先必要になる」


 急に真剣な表情になる迅雷を見て千影が怪訝そうに首を傾げた。その真剣さに応えるように千影も少し間をおいてからまじめぶった顔で聞き返す。


 「どうして?」


 「テストの時に教えてください」


 途端、千影が椅子からずり落ちた。


 「ずこーっ!ボクの緊張をかえせー!思わずまじめに聞いちゃったじゃん!」


 「いや、重要なことだろ。間接的にだけど俺の学園生活がかかっているんだからな」


 「勉強を教えるのはいいけど、なんかこう、もっとすごいこと言うのかと」


 物理ができなくて補習とか留年とかになったら楽しい学園生活どころではないのだから重大なことじゃないかと反論しつつ、迅雷は最後の質問をした。


 「まぁ、それはいいとして、最後に一番重要な質問をさせてくれ」


 今度こそ真剣だ。それは千影にも伝わる。


 「父さんと知り合ってうちに来るまでのいきさつについて教えてくれ」


 「あぁ、そこかー」


 一拍おいて千影は質問に答える。


 「もうとっしーも普通に分かったと思うけどボクの境遇はすごく特殊だからIAMOの保護を受ける、みたいな形でこの立場があるんだけど」


 千影は自分のライセンスを見ながら言う。しかし保護するのならライセンスを与えて戦いに出す意味が分からない。そもそも戦力になると言ってもほんの10歳の子供にそうさせていること自体が迅雷にはどうにも気に入らないところではあった。


 「それで、そのときにはやチンがボクの面倒を見るってことになったんだ。でもほら、はやチンもすっごく忙しいじゃん?そういうことで、1つ頼み事も引き受けつつ、町の治安維持も手伝うってことでお世話になりにきましたーって感じだよね。まぁ他にもいろいろやることもあるんだけど」


 「・・・・・・孤児みたいなものだった、ってことなのか?」


 「んー・・・・・・そんな感じ、だったのかなぁ・・・・・・?あ!でも気にしなくていいよ、今は楽しいし!」


 ちょっと考えながら微妙な返事をする千影。でも迅雷の疑問もそこそこ解決した。気にするなと言われれば気になるのが人情だが、無理に詮索するほど迅雷は迷惑なお人好しではない。


 「よし、質問は以上!スッキリだ。ご苦労さん」


 「いやー、とっしーもなかなか積極的だね-。ボクそういうの嫌いじゃないよ?」


 千影はクネクネしながら迅雷をからかうように話し続ける。


 「でもでも、まだ質問が残ってるんじゃないの?」


 「ん?なんだよ、スッキリって言ったろ?」


 歯切れの悪い、質問とも取れない質問に迅雷は焦れる。


 「だーかーらー。このくらいは聞くもんでしょー?」


 「だからなんなんだよ」


 「むー!『スリーサイズは?』とか『経験は?』だとか『今夜は一緒にいかがですか?』とかいろいろあるじゃん!」


 ・・・・・・それでも彼女は10歳だ。


 迅雷は目尻に涙を浮かばせて、


 「・・・・・・可哀想に。いったいどんな環境で育ってしまったのでしょう・・・」


 「あ!?『しまった』ってどういう意味なんだよう!さすがに傷付いたよ!?・・・・・・ま、まぁ?そのー、ちょっと人には言えない環境で育てられたのも確かだけど・・・」


 「ホラやっぱり!?」


迅雷は人には言えない環境ってどんなだよ、と思ったのだが追求はしないことにした。というのも、千影に関しては一周回ってなんだかギャグっぽく陰影がしているので聞くのが躊躇(ためら)われたからだ。それに、教えてくれなくてもどうしようもないし、言ってくれたってどうしようもない。 

 

 「あ、でもボクはちゃんと処女だから安心して?さぁ、ホラ、スリーサイズなりなんなり尋ねてきなよ。内心では気になっちゃんてるんでしょ?えーとまずバストが・・・・・・


 「うん、普通のことなのに安心したよ!?あと俺は敬うべきロリコンではないからな!」


 頼むからさっきの配慮を返して欲しい。と言うかこの少女、あざとい。あからさまに自分の見た目が愛らしいことを使いこなしている。

 ・・・と分かっているのに、確かに上目遣いでいじらしく寄ってこられると思わずドキドキしてしまうのだが、所詮はツルペタのちんちくりんだし?そういう目では見ていない。・・・・・・見ていないよな?

 そう考えて迅雷は慌てて目を逸らした。


 「ぶーぶー。実は健全な日本人男性の多くがロリコンまたは潜在的なロリコンなのだった!」


 「でまかせだっ!!いい加減からかうのをやめないとそのピヨピヨうるさいアホ毛引っこ抜くぞ!」


 なぜか全力で反応してしまう迅雷だった。

 迅雷は実際今のところは(・・・・・・)ロリコンなんかではないのだが、根も葉もないでまかせに一番焦っているのは彼だったのかもしれない。


 と、2人がじゃれ合っているところに真名が声をかけてきた。


 「ハイハイ、2人とも仲良しになれてよかったわー。直華ー、そろそろごはんよー。ほら、迅雷も千影ちゃんも並べるの手伝ってー」


 いろいろやっていたらもうそんな時間になっていたらしい。階段からは直華が降りてくる音が聞こえる。


 「む、ママさん、今日は煮込みハンバーグだね!」


 「そーだよ?歓迎会にしてはちょっと大したことないかもしれないけど、その分腕によりをかけちゃったんだから!」


 皿を並べながら、千影は今にも煮込みハンバーグに飛びつきそうになっている。


          ●


 「「「「いただきまーす!」」」」


 4人で声を揃える。昼間の騒動も忘れそうになる、平和なひととき。


 「もぐ・・・。うーん!おいしいね!これから毎日ママさんのごはんが食べれると思うとワクワクするよー。それにみんなで食卓を囲むって言うのも久し振りだなー・・・・・・」


 「大げさだなぁ千影は。うちに来る前はオーバーリアクションの練習でもしてたのかよ」


 あんまりにも幸せそうにしている千影を、迅雷は笑いながらたしなめた。


 「ううん、大げさなんかじゃないよ。本当に嬉しいよ」


 そんなやりとりを見ながら直華がつぶやいた。


 「なんか妹ができたみたいだなー」


 ずっと妹であり続けた直華にとってみれば千影という年下の同居人はさぞかし新鮮だったろう。彼女は真名も迅雷と千影のやりとりを見て楽しそうにしている。

 ふと直華が思いついたように話し出した。


 「そうだ、千影ちゃん、今週の日曜日に私とお兄ちゃんと一緒にお出かけしようよ。いろいろ町を案内してあげる!ね、お兄ちゃんも大丈夫だよね?」


 直華が身を乗り出して、今は向かいに座っている迅雷と千影にぐっと近づいて楽しそうに提案してきた。文字通りに目と鼻の先まできて目をキラキラさせる直華に迅雷は突然でドキリとする。


 「お、いいね!実はボク何回かこの町に来たことはあるんだけど毎回毎回ちゃんと回ったりはしなかったし、楽しみだなぁ!行ったことないとこ結構あるし、お出かけしたいなー」


 「ま、まぁ俺も今んとこ予定もないし大丈夫だぞ?」


 「よーし!じゃあ決定!」

 

 父親である神代疾風(みしろはやせ)が、3月の下旬に急な仕事の依頼が来て出かけてから、数週間ぶりの食卓の席がすべて埋まる賑やかな団欒だった。それに、千影が入った分新鮮でもあった。

 疾風は仕事柄海外出張なんていつものことだし、海外出張ならぬ”界外(かいがい)出張”もしばしばだ。昔からそうなので迅雷も直華も慣れてはいたが、食卓に4人がいるとやはり嬉しいものだった。


          ●



 夕食も終わり、真名が食器を洗っている。迅雷も直華も明日の準備を大体済ませてソファーでテレビを見ている。・・・のだが、


 「おいっ!なんでそんなにチャンネルをコロコロ変えんだ!今いいところっぽかったじゃねーか!」


 「だってBS見れるし、ピカリTVも契約してるみたいだし、いろいろなチャンネル見れるから気になるんだもん」


 千影がテレビのリモコンを占有して、10秒に1回くらいのペースでチャンネルを変え始めた。一番盛り上がりそうなシーンの直前で突然チャンネルを変えられて迅雷が反射的にツッコんだが、残念ながらそんなことで千影の手が止まるわけではない。


 「あ、千影ちゃんストップ!ってあぁっ!?」


 直華が毎週楽しみに見ていたドラマも通り過ぎて、またチャンネルが切り替わり、今はおっさんが3人でなにやら宇宙についてだかの小難しい話をしている番組が流れている。

 と、やっとそこで千影の手が止まった。


 「あ、これおもしろそう。こういう話は琴線に触れるんだよねー」


 「ぅー、今週の『相方』楽しみだったのにー・・・。あれ?これも意外と面白い・・・?」


 我が家に来たばかりの千影を優遇した結果毎週見ていたドラマも見られずしょんぼりしていた直華だったが、今はわりかし楽しそうにテレビに食いついている。

 どうせこの手の番組は最終的にまともな結論を出さず、なんだかかっこいい響きの言葉を並べるだけで終わってしまうのがオチだ。そう思った迅雷は先に風呂に入ってくることにした。


          ●


 「・・・ふぅ」


 なんだか今日はムダに疲れた気がする。朝から飛ばしすぎな一日だった。なにが悲しくて入学式当日から『羽ゴリラ』なるゲテモノに襲われて死にかけなければいけなかったのだろうか。それでいて、謎のハイテンションのオプション付きなロリ居候である。謎の秘密組織が迅雷の過労死でも狙って寄越したのだろうかとさえ疑いたくなる。

 風呂から上がりリビングに戻ると、さっきの番組はもう終わっていたようだ。


 「あ、お兄ちゃん上がってきたよ。千影ちゃん、あのさ、お風呂一緒に入ろ?」


 「いいよん。スキンシップは大事大事ー」


 そう言って直華と千影は迅雷と入れ替わりに風呂に行った。2人がいなくなって空いたソファーに迅雷はボフッと身を投げ、寝転がる。すると待ち構えていたかのように真名が声をかけてきた。


 「迅雷はまだ寝ないの?」


 「うん、まだね。でもなんでそんなこと聞くのさ?」


 「だっていつもならもー部屋に行く時間だし」


 時計を見ると、もう23時だった。風呂に入る時間も遅かったということだろう、体内時計が現実とズレている。確かにいつもの迅雷なら布団に入るだけ入っておこうかなと思う時間だった。改めて考えるとなかなか健康的な生活だったな、と迅雷は自分に感心する。他のみなは大体12時まで起きているものらしい。余所は余所だとは思うけれど。


 「あーもうこんな時間か。んー、もう寝ようかなぁ・・・・・・」


 と思っていると風呂場から声が聞こえてきた。



 『ちょ、や、どこ触って・・・!?く、くすぐった、あははは!?や、やめて千影ちゃんー!』


 『確か中学に入学したてだったよね・・・?ボクと2つしか歳が変わらないのにこの差はいったい・・・!?巨乳とはいかないにしても発育が良すぎる・・・ッ!』



 ・・・・・・もう高校生なんだしちょっとくらい夜更かししてもいいと思うんだ。ううん?いやらしいことなんてこれっぽっちもないぞ?


 「思春期ねー」


 母の呟きを受け流して迅雷はもう少しソファーでぼんやりすることにした。



 30分ほど百合百合して上がってきた直華の顔は湯上がりにしてもやけに赤くなっている。一方で千影の方はというと、やけに不満そうな感じだ。


 「・・・千影、10歳ならそれくらいだと普通かちょっとはある方だと思うぞ」


 いろいろ想像しながら話の要点は押さえていた迅雷は、とりあえず感想より先に千影にフォローを入れてやることにした。すると直華が先に反応した。


 「お兄ちゃん!?もしかして聞いてたの!?」


 「・・・・・・」


 先に言われるとからかいにくい。迅雷はフイっと目を逸らす。


 「あわ、あわあわ、あわぁあっ!!」


 「や、やめろっ!俺はなにも悪くない!ナオたちが勝手にやったことだろ!」


 直華がいよいよ真っ赤になって迅雷に飛びかかる。実際には直華にも非はないのだが。


 「うわぁぁん!もうお嫁に行けないよぉ!」


 「お、大げさだ!頼むから落ち着け!」


 「・・・・・・ボクくらいでもむしろいい方・・・・・・」


 ちっこいのがなにか言っているがそれはあくまで10歳なら、の話だと思いながら理不尽な暴力から逃げるために迅雷は自分の部屋へと駆け込んだ。


          ●


 部屋に戻った迅雷はそのまま明日の準備を再確認して寝ることにした。


 ベッドに入ってから数分ほどが経ったくらいに、階下から直華と千影が「おやすみ」と言うのが聞こえてきた。とにもかくにも、今日のドタバタは終わった。ふう、と息を吐いて迅雷は目を閉じた。すると、ややあって、部屋のドアが開く音がした。


 「とっしー、もうちょい詰めて」


 「ハイハイ・・・・・・」


 「あー、やっぱりふかふかでイイねー」


 「・・・ってオイ。なんで俺のベッドで寝るんだよ。普通ナオと一緒に寝るところだろ」


 もう眠いので大きな声を出す気にもならないのだが、いろいろ、小さいとは言え女の子と一緒のベッドで寝るというのはさすがに気まずい。


 「だって昼に言ったじゃん、一緒に寝ていい?って」


 「聞いておいたらそれでOKなわけないだろ。出てけコラ」


 「やだ」


 目の前でふくれっ面をされると、やはりどうにも扱いにくい。電気を消していなかったら顔が赤くなっているのをからかわれていたかもしれない。迅雷は慌てて寝返りをうって千影に背を向けた。


 「はぁ・・・。仕方ない、今日くらいは許してやろうではないか」


 ・・・返事がない。ここは「ありがたき幸せー」とか口調を合わせて乗ってくるかと思っていたので気になって振り返る。


 「スヤァ」


 「このガキ・・・!」


 千影はすでに朝と同じ感じで眠っていたのだった!



元話 episode1 sect9 ”少女は” (2016/5/14)

   episode1 sect10 ”なんかロリのイメージと違う、と訴えたい” (2016/5/16)

   episode1 sect11 ”おやすみ、新しい一日” (2016/5/20)

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