episode9 sect13 ”エイリアン調査 1日目”
事件の情報は依頼者の何汐から聞いた内容と新聞の切り抜きだけ。手掛かりはほとんどないにも関わらず、タイムリミットはたったの10日。のんびりしている暇はない。汐から連絡先をもらって帰らせると、さっそく伝楽たちは作戦会議を開始した。
「で、実際どうすんの?」
サイラスは、漠然とエルネスタに調査の方針を尋ねた。
「サイラス君。何事もまずは情報収集からなのだよ。それは浮気調査もエイリアンハントでも同じこと」
「となると、現地で聞き込み調査・・・とか?」
「そゆこと~。いいでしょ、伝楽?」
「うん。その辺が妥当なのら。でもその前に、新聞の情報らけでも事前にまとめておかないとな」
汐の集めた新聞の切り抜きを張ったノートは、マルチリクエストを許した手前、別の調査業者に見せることもあるだろうために借りることは出来なかったが、コピーを取らせてもらうことは出来た。新聞が絶対に正しいとは言わないが、経験談から憶測をさも事実のように交えている可能性がある依頼人の話より、第三者視点で事件を調べた新聞記事の方が貴重な情報源と言える。複数の新聞社の記事を集めている点は素直にグッドだ。視点は多い方が良い。
サイラスとエルネスタは、伝楽の指示に基づいて記事の情報を抽出し、ホワイトボードの上に並べて整理していく。
事件の発生現場。発生頻度。襲われた動物たちの状況。所詮はいずれも紙面の端っこの小さな記事であり、制限された文字数から読み取れる情報は断片的で、写真もさほど多くはない。だが、汐の執念とも言える努力のおかげで、こうして再構築すれば、まあまあ使えそうな手掛かりになるものだ。
出来上がったのは情報マップ。それを見て、助手ふたりが感嘆の声を上げた。
「サ、サイサイっ!なんか今日の私たちすっごく探偵っぽいくない!?」
「真実に迫ってる感じがする!!」
「感動するには早すぎるぞ。・・・とはいえ、これで多少は”仮称”エイリアンとやらの生態も見えてきたな」
過去の事件発生ポイントは分散しているが、いくつかの候補点を仮定すれば、辛うじていずれかの中心点について同心円状にあると言えなくもない。つまり、エイリアンの寝床のある場所をある程度推定出来るかもしれない。たかだか10件程度の情報から決めて掛かるのは下策だが、推測する分には自由だ。これで、聞き取り調査でなにに重きを置くべきかの方針は定まったと言える。
「よし、それでは 「それじゃ、明日から聞き込み開始ね!!」 それわちきの台詞ぅ!!」
●
翌日、土曜日。毎朝ごはんの支度をしているエルネスタはともかく、サイラスまで早起きして既に着替えまで済ませていたので、浩然は訝しんだ。
「おはよ、ハオレンさん!」
「ああ、おはよう」
「朝ご飯作ってあるからちゃんと食べてってね!じゃ、私たち今日は大事なミッションがあるので!!」
「待ちなさい。他に言うことはないのか」
「あ。・・・や、やだなー、もー。いまから言うつもりでしたよぉ、行き先でしょ?巴城鎮の方に行ってきます!!今回は街で聞き込み調査なので危険が危ないことはございませんッ、以上!!」
「なるほど。確かか、塞勒斯?」
「うん」
「なんでダブルチェック!?」
浩然は少し長めに息を吐くと、スマホで自宅から巴城鎮方面までの大雑把な距離を調べた。大体40~50kmくらいはあるだろうか、とりあえず車で行くにもあまり近いとは言えない距離だ。
「・・・例の”探偵さん”の手伝いか?」
「Das ist richtig ♪」
浩然はまだ伝楽のことをよく知らないので、彼女と一緒なら息子たちの安全が保証されるとまでは思わない。とはいえ、彼女が息子たちの恩人であるのも確かだ。話を聞く限り、普段から良くしてもらっているようでもある。いろいろと胡散臭いプロフィールだとは思うが、少なくとも悪人ではないだろう。言うなら、そう、エルネスタみたいな変人というか。
「分かった。気を付けて行って来なさい。それから、あまり帰りは遅くならないように」
「「はーい」」
○
バスに揺られてかれこれ2時間弱。サイラスとエルネスタが待ち合わせ場所の森林公園に到着すると、伝楽はとっくに来ていたようで、木の枝の上にくつろぎながら本を読んでいた。
「お早う。時間通りに来たな」
本を着物の袖に仕舞い、伝楽は華麗に着地した。ふわりと舞い上がる綺麗な絹の布地から白い脚が覗いて、サイラスがちょっと硬くなる。
(見え・・・見え・・・・・・ない!!」
「サイサイえっちだー」
途中から声に出ていたらしい。ちょっと体が前屈みになっていたことまでは言わないであげた方が良いだろうか。
「ち、違わい!?・・・ていうか、大体なんですぐそこにベンチあんのにわざわざ木登りなんてしてるのさ!!」
「なんでもなにも、なんか格好良いじゃろ?」
「それ超分かる~☆」
「じゃろ~☆」
人生で一度はやってみたい登場シーンTOP10とか持っていそうな少女2人は今日も息ピッタリだ。まるでサイラスの方がヘンみたいだ。
「探偵のお姉ちゃん。ここって昨日さ、エイリアンの棲み処かもしれないって話してた公園だよね?」
「ああ、そうらな。昆山市生態森林公園、見ての通りまぁまぁ綺麗な公園なのら。野生動物も多く生息しているらしいな」
「うん。だったらさ、聞き込みとかしないでここ探索した方が良いような気がしてきたんだけど。期限もあと9日しかないし」
「まぁそう慌てるな、サイラス。まら9日もあるし、ゆっくり、着実に行こう」
今日は、昆山市森林公園周辺の住民に動物変死事件についてなにか知らないか聞いて回るのが目的だ。少ない情報を過信して闇雲に探すより、十分な情報で実態の輪郭を浮かび上がらせ、可能性を絞り込んで調べる方がベターである。結果的に森林公園にエイリアンがいるという結論に至ったとしても、いるかもしれないものを探すのと、いると確信を持って探すのとでは集中力だって違ってくることだろう。
地味で地道な作業は子供のサイラスには面白くないかもしれないが、世の中の仕事なんて大抵はこんなものだ。
調査して新たに分かった動物変死事件は、都度、情報マップに書き足していく。そもそも認知度の低い事件であるからして、調査件数を稼ぐために伝楽と、サイラス&エルネスタチームの二手に分かれて回ることにした。
「よーし、サイサイ。絶対に伝楽より有益な情報を掻き集めるよ!!」
「おー!!」
○
1軒目。
そこそこ立派な庭のあるお宅だ。きっとペットもいるに違いない。
「ごめんくだ
「バウワウガウギャウ!!」
ひゃいぃっ」
ほらいた、とっても元気なワン公が。
賢い愛犬が見るからに怪しい格好の外国人を追い回しているのを見た奥さんが恐る恐る窓から顔を出した。
「ど、どなた?」
「わ、私はエルネスタ・エルスターと申します!!いまちょっとこの辺で起きてる動物変死事件について調べてましてうおわぁぁっ封印の包帯がマジ包帯になるからやめて!!」
見かねた奥さんに犬を止めてもらったエルネスタは既に息も絶え絶えだ。こんなんで今日一日体力が持つのだろうか。まともにしゃべれないエルネスタに代わってサイラスが改めて訪問の経緯を説明すると、奥さんは2人を家に上げて、お茶まで出してもてなしてくれた。
「ぷはぁ、生き返りますぅ~」
「それで、私はなにをお話すれば良いのかしら?」
「まずは、身の回りで動物の変死事件に関する出来事があったら教えて欲しいです。どんなに些細なことでも良いので是非!!」
「うーん・・・そんな話、知らないわねぇ。ちなみにどんな事件なの?」
「ふむ。助手クン、説明して差し上げて」
「えっと、かくかくしかじか―――」
奥さんは、サイラスの説明で初めて今回の事件について知ったようだった。手掛かりとなるような新情報は得られそうにない。
「ごめんなさいね、力になれなくて。それにしても怖い事件ね。ウチの子もしばらく家の中にいさせようかしら」
「それが良いかもですね。お茶、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
○
2軒目。
3階建ての集合住宅だ。犬や猫の1匹くらいは―――と思ったが、1人目の住人に「ここはペット禁止だからなぁ」と言われてしまった。しかし、101号室の青年はしょんぼりする少年少女に気を利かせて、なんとか思い付くことを話してくれた。
「あー・・・でも大学の先輩が借りてるアパートは大家さんが世話してる野良猫が居着いてるって言ってたっけ」
「野良猫ってことは、むしろエイリアンに狙われやすいんじゃない?エルエル、そのアパートに行ってみようよ。お兄さん、そのアパートってどこですか?地図あるから丸付けてください」
「おー?おう、えーと・・・あった。ここだ。ちょっと遠いけど、車で送ってあげようか?」
なんと、この大学生は自分の車を持っているようだ。しかも、彼が指差したのはアパートの決して広くない駐車場で一際異彩を放つWEYの、しかも最新のPHEVモデルときた。野暮ったいスウェット姿からはちょっと想像しづらいが、もしかするとこの大学生は裕福な家の一人息子なのかもしれない。
サイラスはイカした紅いSUVに興味津々だし、提案自体はありがたいものだ。しかし、ちょっと悩んで、エルネスタは大学生の申し出を断った。歩いていろいろ見ながら調査したいから、という理由は付けたが、もしかすると彼には警戒されたという印象を与えてしまったかもしれない。実際、エルネスタはこの前の東昌路での一件のことが頭をよぎったから断ったのだし。
「そうかい。まぁ、そしたら気をつけてね」
「「ありがとうございました!」」
ちょっとイタいファッションの外国人JKと普通の素直そうな少年に手を振って見送る大学生の青年は、5秒くらいして青空を仰ぎ、首を傾げた。
(・・・エイリアン???)
○
寄り道しつつ、3軒目。
先ほどの大学生に教えてもらったアパートだ。
行ってみれば、すぐにもふもふの野良猫たちに出迎えられた。相当に人慣れしているようで、サイラスたちが近付いても逃げ出さないどころか、触らせてくれる猫までいた。
「ふぉぉ・・・!!愛いのう愛いのう~♡」
「エルエル、見て!抱っこ出来た!」
「わー!しっかしだらしないお饅頭さんだにゃー・・・・・・って、ちがぁぁう!!」
豹変したエルネスタに驚いた猫たちは、さすがに逃げ出してしまった。
「コホン。・・・本来の目的を忘れてないかい、助手クン」
「ハッ・・・!?」
ここのアパートは、101号室に大家が住んでいるらしい。2人がさっそく101号室のインターホンを鳴らすと、あまり人相が良いとは言えないタンクトップの老爺が出てきた。なんともいえないエルネスタの服装を見た老爺はみるみる怪しい者を見る目付きになる。
「なんだ君ら。宗教の勧誘ならお断りだぞ」
「いえ、神様じゃなくてエイリアンの話なんですが―――待って待ってドア閉めないでってかこのおじいちゃんヒョロい割に力つえーなオイ!?」
大家とエルネスタがドアで綱引きをしている間に、サイラスが一般人でも分かるように訪問目的を話すと、大家は急に力を緩めた。
「その話、本当か・・・?」
大家は2人を部屋に招き入れると、まずは勢い余ってドアごと壁に激突したエルネスタの鼻っ柱に絆創膏を貼ってくれた。ジジイの独り暮らしにしては程よく物もあって、整理された部屋だ。几帳面な人物なのだろう。
「それで、動物たちの変死事件が起きているというのは本当なんだな?」
「ええ、実は私たち、とある探偵さんの仕事の手伝いをしてるんですけど、今回の依頼というのが奇妙な亡くなり方をしたペットの本当の死因を突き止めて欲しいってことでして」
エルネスタは、サイラスに汐の集めた新聞の切り抜きのコピーを出させて、大家に見せた。すると、大家は老眼鏡を外して、しばらく食い入るように記事を読み、目を見開き、そして次に悔しそう目を細めた。テーブルの上に両手を組んで作った杖に眉間を乗せる老爺の目元は、向かいに座る子供たちには見えない。老人のプライドだろう。
「それで、この事件の真相は警察の言うようなものじゃなく、未知の生き物の仕業だと言いたいんだな?」
「言いたいというか、その可能性も踏まえて独自に調べてみてる感じですかね」
「そうか・・・・・・。良いんじゃあないか。常識に囚われない発想は大切にしなさい」
大人にしては珍しくエルネスタの頓知気な妄想に好意的な大家は、徐に立ち上がると、棚から写真立てをひとつ、テーブルの上に持ってきた。いくつもある写真立てはどれも猫が主役のようだが、大家が選んだその写真だけ、大家自身の姿も一緒に映っていた。いまの彼からなら想像に難くない仏頂面を、わずかに緩めた彼の膝では1匹の黒猫が丸まって眠っていた。
「わぁ、可愛い黒猫ですね。この子も野良猫なんですか?」
「ああ―――もうこの辺りに住み着いてから6年くらいだったかな。何故かは分からんが、こんな儂にばかりよく懐く奴だった」
だった、か。写真を出してくる流れから予感はあったが、やはりこの黒猫はもうこの世にいないのだ。
大家は、それからなにも問われずとも2人が聞きたかったことを語り始めた。結論から言えば、アパートの軒先で丸まったまま、その猫は冷たくなっていたそうだ。まさに、いつも昼寝をする格好そのままの姿で。初めて出会ったときから、その猫は成獣だった。それからさらに6年も経てば、もう大家以上に立派なジジイ猫だったろう。大往生だ。大家はそう考えるようにしていた。
だが、こんなに見つけやすいところで死ぬ猫がいるだろうか。広い世の中、探せばいるにはいることだろう。ただ少なくとも、いままで何匹もの野良猫を見てきた大家だが、こんな死に場所を選ぶ猫には会ったことがなかった。それ故に、ずっと黒猫の最期に、どうしても納得が出来ずにいたそうだ。
「塞勒斯君の話を聞いて、実はコイツもそうだったんじゃあないかと思ってな・・・。いいや、きっとそうだったんだろうよ。前日まではいつも通りのふてぶてしさだったもんなぁ―――」
「お爺さん・・・。お、俺たちが絶対に本当の原因をハッキリさせてみせますから!!」
そうしたところでなにがどうなるでもないことはサイラスにも分かっていたが、それでもどうしても、そんな言葉が真っ先に出てきた。しかし、大家はサイラスの言葉に小さく口元を綻ばせた。
「ああ、頼むよ。なにか分かれば儂にも教えてくれ」
「はい!」
●
結局、10軒以上は訪ねて回ったはずなのに、サイラスとエルネスタの今日の収穫は3軒目のアパートの大家の話だけだった。夕方、伝楽と連絡を取って、森林公園近くの喫茶店で落ち合った。
「おー、来たな。こっちこっち」
先に入店していた伝楽は、2人に気付くと気軽に手を振って席へ呼んだ。
「2人ともお疲れさんなのら」
「ホントに疲れたよ・・・」
「結構頑張ったんだけど、ほとんど手掛かりなしだった・・・。聞き込み調査って思ったより大変なんだなぁ・・・」
「刑事ドラマの捜査が1時間で進展するのは尺の都合で過程をコマ送りにしてるからであって、リアルは想像を絶する地味なもんなのら。探偵も然り。それが分かってもらえたようでなにより」
そう言ってサイラスの頭をポンポン叩く伝楽は余裕綽々といった様子だ。彼女の飲みかけのコーヒーカップの横に広げられた手帳には、今日の調査結果らしき走り書きが見える。チラッと見ただけでは把握出来ないほどの情報量である。
サイラスもエルネスタも、初めて伝楽と出会ったあの日以来、彼女が仕事らしい仕事をするところを見たことがなかったためすっかり遊び友達くらいの感覚になっていたが、これを見せられるとやはり、彼女がプロの探偵なのだと再認識させられる。
そんな素人2人の反応に気付いてか気付かずか、伝楽は少し得意げな笑顔のままテーブルのメニューブックを取って、並んで座る2人の間に開いて置いた。
「まぁ、まずは一息つこうじゃあないか。なんでも好きに頼んで良いぞ」
「「いいの!?」」
「あ、あぁ。給料は出せないから、その代わりにな―――って」
伝楽の補説が終わるのも待たずに、2人は店員を呼んでからメニューを見始める暴挙を犯していた。黙って見ていれば、休憩というより早めの夕食みたいな注文の仕方をする2人に、伝楽も思わず苦笑い。
(遠慮ねーなーコイツら)
食事まで注文したせいで、喫茶店で腰を落ち着けた本来の目的である情報共有も食べ終わってからになってしまった。3人はひとつの地図を囲んで、今日の聞き込み調査で新たに得た情報を書き加えていく。
「・・・10、20・・・26?探偵のお姉ちゃん、どうやってこんなにたくさん見つけてきたの?」
「話を聞く相手や調べる場所の選び方にコツがあるのら」
例えば、家の外にペットを飼っていた形跡があるのにペットの気配がしない家とか、野良犬・野良猫の寝床がありそうな路地裏沿いの飲食店とか。特に後者は意外なほど有効だ。恐らくエイリアンにとって、人間と共に暮らすペットより野生動物の方が狙いやすいのだろう。人気の少ない路地裏で休眠する動物たちは、格好の獲物ということだ。そうして吸い殺された動物たちの死骸は当然そこへ取り残され、それを店の裏手にゴミを捨てに来た従業員なんかが見つけるわけだ。
聞き込み調査の目的は、エイリアンの棲み処を特定するために、まずエイリアンの行動範囲を明らかにすることだ。そうであれば、必要な情報は地図上のとあるエリアでエイリアンの被害があったかどうか、ある場合はその頻度や件数だけだ。実は、被害を受けた経緯や状況などはあまり重要ではない。地図上に被害情報の点を打って打って打ちまくって、点群の濃淡を目に明らかなレベルまで出来さえすれば構わない。
「その顔らと、なんとなく今日の行動の中にも思い当たる節があるみたいらな。ま、要するにポイントを押さえて必要最低限の情報のみに集中すれば効率が上がるってらけの話さ。聞き取りの相手と話しを弾ませたい気持ちは分かるが、プロってのは得てして事務的に、淡々と仕事を処理していくものなのら」
「なんとなく分かるけど、それって正直、あんまり楽しくなさそう」
「サイサイ、それは違うよ。そりゃあ、その過程ではつまんない部分もあるだろうけど。・・・なんて言うの?んー、熱意はあるのよ。こう、目的を達成してやろうっていう?」
エルネスタの説明は要領を得ないが、サイラスは首を傾げつつも、なんとなく意図だけは理解出来たのか、明日以降の調査活動にも意欲的な姿勢を見せていた。
それにしても、エルネスタが労働のなんたるかを理解している様子なのは、伝楽にとってはちょっとだけ意外であり、感心するところだった。そう、結局はお客さんの役に立ちたくて頑張るなんて建前だ。人間、誰しも自分の快楽のためでなければ本気で努力することなど出来ないように設計されている。プロを目指すなら、その仕事をやり遂げることそれ自体に、崇高で自己満足的なエクスタシーを感じられなくちゃいけない。