表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode9 『詰草小奏鳴曲』
491/527

episode9sect5

C.A.15670/14/7


       102番ダンジョン鉱山制圧作戦経過報告書


                     報告書作成

                     陸上騎士隊第三即応大隊 副大隊長

                     アルグリオ・レイズ Ⅴ級騎士


 本報告は102番ダンジョンで展開中であるIAMOの鉱山拠点制圧作戦の、15670年7月13日時点における戦況を報告するものである。


 1) 戦況詳報

 膠着状態が続いており、前回の報告時点から大きな戦況変化はなし。前線は200m前進。現在も前線拡大を企図した鉱山拠点周辺の熱帯雨林地帯でのゲリラ戦を展開中。本隊の騎士らは102番ダンジョンの気候、地形に順応しつつあり、各部隊の継戦能力および状況対応力の改善が見られる(資料1参照)。


 2) 人員被害状況

 前回報告から本報告までの期間における死者はなし。負傷者163名、うち作戦への参加継続困難者は21名。現在作戦規模2,341名、作戦継続に支障なし。増派不要。部隊ごとの詳細な被害状況は資料2参照。


 3) 物資・装備損耗状況

 飲用水濾過フィルタの残数が40となった。前回報告の通り悪天候が続いておりフィルタの劣化が早いため、支給量を200個ほど増量の必要性。各種弾薬の消耗率は70%~80%。ブーツの破損が320件。暗視装備は3機が故障、1機が破損、追加支給要。詳細は資料3、4参照。


 4)所見

 本国の適切な支援により物資面では概ね問題ないが、飲み水の確保のみ難が残っている。フィルタの浪費を恐れ泥水をそのまま飲用し体調を崩す者が一定数いた。現在の支給量では作戦継続に支障を来す虞があるため、早急な対応を請う。

 現在の主な戦闘形態はゲリラ戦であるが、資料1に示した通り我が隊の騎士らも102番ダンジョンの環境に慣れ始めており、IAMOの魔法士が有していた地の利を覆しつつある。暗視装備の補填が済み次第、夜間戦闘にさらに注力し一気に攻勢を強めることで、膠着状態を打破出切るものと考える。


 5)添付資料

 資料1:作戦開始時から現在における戦闘行動内容の変遷

 資料2:部隊ごとの人的被害詳細

 資料3:現行装備の多湿環境への脆弱性に関する報告と提案

 資料4:泥濘地帯用騎士靴の破損状況写真等


                                   以上






          ●





 「見たか、今回の報告書。なにが本国の適切な支援だ。水も安心して飲めないんじゃあ。雲の上の城だろうがよ」


 「やめておけ。フィルタの消耗ペースが想定外だっただけで、その他の物資は必要十分に補給出来ているだろう?」


 「けどフィルタの件は今回で3回目の要請だぜ!?102番(ここ)は重要攻略対象なんだからもっと優先的に物資を回してくれたって良いと思わねぇのか?」


 「さてな・・・。きっとなにか考えはあるんだろうさ」


 「ハッ。俺たちを干からびさせてまで達成したいことってのはなんだ?人肉の干物屋でも開くつもりかよ・・・」


 102番ダンジョンは、果てしなく広がる熱帯雨林と魔法工学的に有用な鉱産資源が特徴だ。特に、白色魔力から赤色魔力を抽出する鉱石は、その利便性と豊富な埋蔵量から、様々な世界で工業利用されている。当然、白色魔力のみを宿す人間たちの工業においても、その鉱石はなくてはならない重要資源だ。

 現在、彼ら皇国騎士団陸上騎士隊第三即応大隊が攻撃を行っているのは、人間界が管理する最も主要な鉱山だ。ダンジョン開発なんて無法地帯も甚だしい事業分野なので、実際は他にも小さな採掘場をいくつか開発していて必ずしも書類通りの数値ではなくなっているのだろうが、それでもこの鉱山で採れる鉱石は人間界でも流通量の80%を占めているというのは、あながち嘘ではないはずだ。ここを制圧し、鉱石の流通を停滞させることで人間界の経済に大きな打撃を与えることが可能である。

 いままで幾度となく派手な戦闘シーンで切った張ったを前面に押し出した描写をしてきたので、経済的ダメージを狙った作戦と言うとなんだかショボく聞こえるかもしれない。だが本来、戦争―――特に大規模で長期化の予想される戦争とはこうやってジワジワと敵を弱らせ、音を上げさせるものだ。そして現実の話、人間界は高水準な魔法工学技術を活用して異世界との加工貿易により大きな利益を生み出している。企業が潤えば国も潤い、国が潤えばIAMOの財源にも多大な恩恵が還元される。無論、人間界内部の経済が停滞してもこのギミックに則ってIAMOは疲弊する。

 加えて近年、ここの採掘量が増加傾向にあり、その主な要因が新型兵器開発、およびその量産化にあると目されている。アメリカがそれらしき兵器を発表したのは記憶に新しい。つまり鉱石の供給を絶てば、人間界の軍備増強に直接的に歯止めを掛けられる期待もある訳だ。


 ここまで条件が揃っていて、狙わない理由があるだろうか。それが分かっているからこそ、騎士たちは愚痴をこぼしつつもこの戦場を駆けるのだ。上層部の思惑はどうであれ、彼らには彼らなりに悪条件を飲んで戦い続けるだけの意義はある。


          ●


 他ならぬルシフェル・ウェネジアの意向だ。騎士団から上がってきた102番ダンジョンの経過報告書にあった濾過フィルタの支給数増量の要請は、今回も対応を見送ることにした。なんでも、飲み水が潤沢に確保出来てしまうと現状より無理が利くようになり、勝ちを急ぐ者が現れるリスクを高めてしまうため、それを予防すべく敢えてやっているそうだ。確かに飲み水が制限された状況では部隊の活動時間や行動選択の幅に一定の制約が課せられる。ルシフェルとしては、あの戦場はもうしばらくチマチマした削り合いを続けさせたいということだろう。

 その他の要望には過不足なく対応するよう取り計らいつつ、ゼゼ・ウルギムは”将軍”としてのルシフェル・ウェネジアについて思索を巡らせる。


 「本来ならあそこは早く押さえてしまいたい。現場もそれを理解し、そのように作戦を展開するものと考えていた。・・・とはいえ、全面衝突になったらなったでどんな被害が出るか分からない。ジレンマだな」


 人間の戦力は侮れない。その事実はリリトゥバス王国が展開した先の一央市侵攻作戦を経て、それ以前までは人間など吹けば飛ぶものと考えていたであろう末端の騎士、兵士にまで知れている。

 これはあくまで戦場そのものには縁遠い資材計画管理課長の視点ではある。本当にルシフェルがそのような懸念に基づいて判断したかなんて分からない。だが、ゼゼの理解もまた正しく、であればルシフェルもこの事実は念頭に置いているはずだ。あれは例え重傷を負って病院のベッドに寝かされていようと、適当なことは言わない男だ。恐らく、なにかのタイミングを狙っているのだ。最も安易に、確実に目的を達成出来る、その隙を。


 「・・・まぁ、それがさっぱり分からんのだが」


 何度も同じクレームを入れられてなんらかの言い訳を考えなくてはならないこっちの身にもなれ、とゼゼは内心で若造の将軍サマに毒づいた。いち騎士としての実力は認める他ないし、まだ青さはあるが政治家としても信条はあるようだが、それはそれとして気に入らないものは気に入らないもんだ。




          ●




 「第Ⅳ小隊、『グリモアイプ』のコロニー制圧完了。負傷者2名」


 『了解した。物資搬入と併せて衛生騎を向かわせる。それで、どうだ?設置は可能か?』


 「はい。最大で3基までなら可能です」


 『そうか、十分だな。では日没までに設営を完了するよう、引き続き頼むぞ』


 「了解しました」


 102番ダンジョンを探索するとき、どの世界でも一様に言われていることがある。砦木(とりでぎ)を見つけたら半径1km以内には近付くな―――という警告だ。砦木とは、枝や幹がブクブクと異常に肥大化し、樹高も明らかに周辺の木の倍以上はある、文字通り砦のようになった樹木のことだ。そして、砦木は例外なく『グリモアイプ』という生物の巣窟になっている。というより、『グリモアイプ』の出す毒素の作用で木が異常生長させられ巣穴に改造されているのだが、それはいまはどうでも良い。

 102番ダンジョンに原生する生物は厄介な種が多く、魔界でも一般の立ち入りにはやや厳しめの規制が掛けられているほどだが、『グリモアイプ』はそんな危険生物の中でも一番凶暴なことで知られている。今回のように魔族と人間が隣で戦争を始めようと一向に逃げ出す素振りを見せないほど縄張り意識が強く、そのくせ大きな群れを作り、やたらと巨大な縄張りを形成している。そして、縄張りを侵す者には容赦なく襲い掛かり、食えるものも食えぬものも関係なく、等しく殺し尽くす。樹上から群れで奇襲し、猛毒と強靱な肉体に嬲り殺されるのだ。まず素人なら助かる術はないし、サバイバルのプロならそもそも近付かない。実際、戦闘が始まってからも、皇国騎士団とIAMOの魔法士たちのどちらも砦木にだけは近付かないようにだけ立ち回ってきた。


 しかし、それ故に砦木周辺は両軍とも無警戒の区域でもあった。その上、異常成長した樹木は仮に掌握出来れば戦略上都合の良い点が多い。

 だからこそ、騎士たちは敢えてこの危険を冒すことにしたのだ。この一夜で、確実に戦局の均衡を崩すために。

 1日もすれば人間たちも『グリモアイプ』の縄張りが消失したことに気付く。チャンスは今日、この一夜限りだ。


 砦木の制圧が済んでから程なくして、作戦の要となる兵器のパーツを携えた仲間が到着し、そのまま流れるように、設置・組立作業が開始された。日没までにはあと3、4時間ある。現在も5個中隊が前線でIAMOの注意を引き続けてくれている。


 「死ぬ気でやれば間に合う作業だぞ、急げ急げ!!とりあえず今夜いっぱい持てば十分だ。細かいことは捨て置いてさっさと組んじまえ!!」


 なんなら砦木そのものさえ一晩持てばそれで構わない。あとは根元から折れようが崩れようがどうでも良い。その精神で、皇国騎士たちは元の住人たちが掘った幹内部の構造さえ無視して最短距離で資材を運搬するための経路をぶち抜いた。


          ○


 薄暮の森。嫌でも注意を奪われる雷光。だが、それに気を取られれば一瞬で間合いを詰められる。


 「がァ・・・ッ」


 「リム四等!?チッ・・・だから目を逸らすなと言ったのに!!」


 至近距離からサブマシンガンを叩き込まれ失神した部下を早々に見捨てて、小隊長は残りの部下たちに後退指示を出した。森の中の遭遇戦では、戦う相手はまず選べない。だが、今回の巡り合わせは大ハズレだ。


 ほぼ光速の雷魔法の弾幕と見事なまでに連携して木々の隙間を自由に駆け回る魔銃使い。鉱山拠点防衛にあたっているIAMOの魔法士の中でも目下最大の難敵としてマークしていたチームである。そも、この魔銃使いだが、なんらかの特殊な歩法を修得しているらしく、真正面で牽制しあっている状態からでも気付けば懐に潜り込んできている。派手な火力こそないが、確実に、着実に、一人ずつ戦力を削り取ってくる。こいつに本国送りにされた騎士はもう両手の指でも足りないのだ。


 構えた剣に雷光が反射し、刹那、白に染まる視界。


 『悪いけど逃がさないよ』


 白が抜ければ眼前に重厚の真っ黒でまん丸な闇が迫り広がる。


 「クソ女が!!」


 溢れ出すマズルフラッシュは、しかし頭上。

 雷光に惑わされず先んじて回避に専念していた小隊長は、大きく重心を落とした姿勢から鋭く剣を薙ぎ払う。

 だが、魔銃使いは大縄跳びでもするかのようにヒョイと最小限のジャンプで斬撃を躱すと、牽制射撃を行いながら素早く後退していく。


 「逃がすか!!」


 小隊長は銃弾を剣で逸らしながら空いた左手で地面に触れた。

 すると、魔銃使いの足元から黒い手が生える。魔術によるものだ。

 しかし、黒い手が魔銃使いを捕らえるより先に雷光が迸って、魔術の影を掻き消す。

 閃光が駆け抜けた後にはもうすばしっこい魔銃使いの姿はない。

 敵ながら感心する連携だ。恐らく雷魔法の使い手は複数人いて、攻撃的な弾幕を形成する者と、本命の魔銃使いをバックアップすることに専念する者で完全に役割を分担しているのだろう。


 右から悲鳴。

 このわずかな隙でまた一人やられた。

 フォローしようにも、雷撃が自由な移動を許さない。


 『そら、次だよ!!』

 「調子にぃ―――!!」


 雷光一条、その反対側、無明の夜闇に一点、月光を照り返す影が再び迫る。

 ついさっきまで向こうで部下を襲っていたのではなかったのか。


 小隊長はよく反応した。だが、体ごと振り返るのでは間に合わない。


 『やああああ!!』

 「ぉおおおあッ!!」


 片や無謀、片や絶対的優位の激突。


 かに思われた。



 ど。と、なにかが起こり。



 小隊長の剣は鮮やかに振り抜かれ、魔銃使いの体を一文字に両断する。


 「―――勝ったな」


 血飛沫を浴びながら、小隊長は牙を剥いて嗤う。

 魔銃使いの上半身がずるりと滑る。だが、彼女を殺したのは小隊長の剣ではない。

 小隊長より遙か後方に向けて目を見開いた魔銃使いの死に顔の、その半分は、風穴と化していた。


 小隊長はすぐに魔銃使いの死体の下半分を蹴って捨て、脳髄を撒き散らす上半分を雷撃に対する肉の盾とし、部下たちと共に全力で後退に徹し始めた。


 直後、彼らの元いた戦場は跡形もなく消し飛んだ。


          ○


 出力可変型超長距離魔力共振砲、通称『テッラ・コムドゥティス』。


 それが、皇国騎士団が膠着した戦況を打破すべく砦木の上に建造した戦略兵器の名前だ。その性能は名の示す通りであるが、改めて説明すると、砲撃手が流し込んだ魔力を砲身内部で共振・収束させることで、威力も射程も極限まで高めた『黒閃』を放出するというものだ。基本原理は七十二帝騎第八座のロビルバ・ドストロスが愛用するスナイパーライフル型の魔銃と共通するが、携行式のあちらと大型固定砲台である『テッラ・コムドゥティス』では最大火力が決定的に違い過ぎる。

 運用方法や取り回しの善し悪しで差別化はされているが、『テッラ・コムドゥティス』は最大射程が5kmであり、出力を絞って、先ほどの第1射のようなピンポイント狙撃を行うことも、逆に第2射のように大規模な魔力の奔流で一帯を吹き飛ばすことも可能とする。さらに、『黒閃』を撃つ分には砲身が熱を帯びることもないため、理論上クールタイムが存在しない。砲撃に要する膨大な魔力も、小隊単位で供給することでカバーは可能だ。


 ひとりひとりは七十二帝騎には遠く及ばない騎士たちでも、武器と数の力を活用すれば、七十二帝騎を超える戦力を生み出せる。いいや、むしろこれこそが”軍隊”の真骨頂にして存在意義なのだ。


 さぁ、殲滅の猛爆が始ま




 「なんだアレ?」




          ●




 砦木がひとつ、周囲一帯地形諸共消失した。
























          ●


 アルグリオ・レイズらしくもない、取っ散らかった報告書が上がってきた。

 本来なら、『テッラ・コムドゥティス』の威力をもって102番ダンジョンの戦いでイニシアチブを獲得していたはずの夜だった。だが、作戦の結末は騎士団司令部の想定の斜め上をいくものだった。


 正体不明の巨大生物が突如として出現し、多大な時間と労力を払って手に入れた砦木を1分と経たずに2カ所とも吹き飛ばされた―――だけでなくその後も暴れ狂う巨大生物の進行を止められず前線は著しく後退させられた。その猛威から逃れるだけで部隊の1割を失い、いまも戦場を我が物顔で闊歩する巨大生物をどかす術もすり抜ける算段もない。つまり、もはや人間と戦争をしているどころではなくなってしまったわけだ。というか、あの破壊力ではそもそもIAMOの側にも甚大な被害が出ている可能性だって考えられる。確かめる手段がないので、あくまで憶測ではあるが。


 要するに「もうムリ、逃げ帰って良いですよね?」という意味の文章だった。


 「・・・・・・、ふむ。映像資料が添付されていたようだが、見られるか?」


 「は。可能です。しかし、陛下、先に申し上げますとかなり混乱した状況で撮影した映像がほとんどでございます」


 「構わない。見せてみろ」


 非常事態ということで、この報告は皇室まで判断の権限が繰り上がっていた。皇国騎士団を管理・運用する防衛局は国防省内の組織であり、大抵の(?)非常事態は国防大臣の判断で対処するものだが、現在は大臣職を将軍であるルシフェル・ウェネジアが兼ねることも相俟って、最高指揮権を持つ皇室まで話が届いたのだ。

 相俟って、というのは、将軍であると同時にアスモの摂政でもあるルシフェルが重体で入院中であること、および出現した巨大生物が明らかに()()()()()()()()()()()()()であるを指した表現だ。


 エーマイモンのところまで直接報告を持ってきたのは、国防省の副大臣だった。優秀な男だ。その彼がすぐに頼ってきたということも念頭に置いて、エーマイモンは添付の映像データをひとつずつ確認していく。


 「確かに映像の大半は乱れているか、もはや明後日の方向を映しているだけだな」


 「一応、全身像は最後のファイルで確認は出来ましたが・・・」


 その映像を見て、エーマイモンは顎を撫でる。


 「―――なるほど、これは私が判断する案件だな」


 確か、人間界にもこんな感じの姿をした伝説上の怪物がいたような気がする。『ヒュドラ』と呼ばれるそれだ。九つもの首を持ち、さらには翼膜こそないが、翼らしき構造も三対ほど見受けられる。極めつけに、分かり辛いが、映像の縮尺からしてサイズはあの『アグナロス』にも匹敵すると思われる、()()怪物だ。


 「ドラゴンか、あるいは―――。戦闘映像では『黒閃』を撃っていたからな」


 「はい・・・。どちらがマシということもないですが、どちらにしてもこれの対処は陛下に御判断いただくべきかと」


 「そうだな―――」


 判断、か。判断材料は全く足りていないというのに、馬鹿げた責任だ。いや、だが、判断材料が足りないからこそのエーマイモンなのか。アスモは聡いが、戦いの勘はない。


 「アイナカティナ・ハーボルドを送る」



          ●



 「やれるか?」


 「やれます。10日で鉱山拠点の制圧まで遂げてご覧に入れますよ、皇帝陛下」


 翌日、皇城に召喚された七十二帝騎第二十三座、アイナカティナ・ハーボルドは、具体的な対策も分からない敵の殲滅を、恐ろしくアッサリと快諾した。



          ○


 episode9 sect5 ” the Fire ”


          ○


 

 「とりあえず殲滅出来ればOK、情報なんてあろうがなかろうがカンケーないでしょってこと~?ははッ―――」


 玉座の間を出たアイナカティナは、その整った顔を好戦的な笑みで歪めた。燃え尽きた灰の髪の内側に差した紅蓮のように。


 狩人、舌舐めずりひとつ。


 「その通りだよ。アタイの仕事はこういうんじゃないと☆」

episode9『詰草小奏鳴曲』

第三楽章 『 the Fire 』


主要登場人物


・アイナカティナ・ハーボルド

 史上最年少で皇国の最高戦力、七十二帝騎の第二十三座を恣にする叡魔族の女性騎士。可燃物も不燃物も、液体も固体も気体もプラズマさえも、任意のあらゆる物質を燃やし尽くす黒炎を操る、自身の特異魔術『原初の智慧を悦ぶ者』に絶対的な自信を持つ。生まれはかなりの田舎で家も貧しかったが、実力だけで騎士学院に入学し、卒業と同時に七十二帝騎の枠を勝ち取った才女でもある。同じ七十二帝騎のロビルバとアモンズは学院時代にも付き合いのあった先輩であり、自分の方が強いと確信しつつも実力は認めている。


・謎の巨大生物

 102番ダンジョンに突如として出現した、九つの頭部を持ち、翼のような器官も備えている漆黒の巨大生物。それ以上の情報はいまのところない。動くだけでも甚大な破壊をもたらし、ひとたび暴れ始めれば皇国騎士団の優れた戦力をもってしても全く歯が立たなかった。どう考えても自然の存在ではないようだが・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第1話はこちら!
PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

❄ スピンオフ展開中 ❄
『魔法少女☆スノー・プリンセス』

汗で手が滑った方はクリックしちゃうそうです
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ