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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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Connection ; ep.8 to ep.10

 チェスで勝てるようになってきた。勝率は、恐らく五分五分くらい。しょっちゅうやるから細かく数えるのは途中でやめた。いつもチェス盤を挟んで向かい合っているコイツがこのゲームに強いのか、それとも案外大したことないのかは知らないが、少なくともルールすら知らずに始めた2ヶ月前と比べれば大した成長だと思う。

 最近は他の人間界で有名なボードゲームにも挑戦してみているところだ。オセロなんかは故郷にも似たゲームがあったから取っ付きやすかった。


 人間界(こちら)での生活も悪くない。まぁ、帰った方が碌な目に遭わないというのが正しいのだが。頭じゃ分かったつもりでいたが、ヒトの想像力なんてものはどれだけ自分に厳しく基準を設けたつもりでいても、希望的観測―――要は甘えだ、そういうものが混ざり込んでしまう。そりゃあ、誰だって自分の家が恋しいものさ。ただもし、この先またあの国、あの街で暮らせるようになるとすれば、それはいまの世代が全員くたばるか、最低限ヨボヨボに老いさらばえて子供の顔すら思い出せないくらい耄碌してからだ。そう思い知らされた。


 「はぁ・・・」


 「なんだよ、勝ったくせに溜息なんか吐きやがって。初めて俺に勝ったときはあんなに大はしゃぎしてたってのに」


 「や、いまのは良い対局だったぜ。嘘じゃない、ホントにそう思ってるって」


 「じゃあなんだよ」


 「もう二度と同じ気持ちに戻れないってのはキツいもんだな」


 あまり会話の成立していない返事になってしまったような気もするが、エルケーは、反省はしなかった。いくらヒューイが相手でも、なんでも素直にストレートな言葉で内心を教えてやるつもりはない。・・・いくらヒューイが、なんて、そもそも思えば出会ってまだ2ヶ月の仲だし。

 エルケーの意地悪に、ヒューイはそれでも少し悩んで、


 「ああ、さてはホームシックでも拗らせて帰ってきたな?」


 「そうだな、それもありそうだ。なにしろ”帰って”きちまったわけだから」


 「勿体ぶった表現ばっかりだな。ま、スッパリ諦めろとは言わねぇが、精々この窮屈な独房を第2の故郷と思えるよう頑張るこった。頑張ってるうちは細けぇことは忘れられるもんだしな」


 「分かってるよ。前にも言ったろ、ここでの生活も悪くはねぇって」


 「そうだったな」


 どうも負けっぱなしなのは耐えられないようで、ヒューイがもう一戦申し込んでくる。仕事はどうした、と思わないでもないが、エルケーがこうして大人しくしていればヒューイも半分この無駄に無機質な監獄フロアの住人みたいなものだ。それならお互い平和に退屈凌ぎが出来るのが一番だろう。

 駒を並べ直しながら、エルケーは考える。傷付いた望郷の念も確かに抱え込んでいる。ただ、一番気になるのはもっと別の()()のことかもしれない。果たして、あの子はこの先、どこへ向かっていってしまうだろう。最早エルケーの手には負えない怪物の気配も感じてしまった。

 ―――今日もまだ、上を歩く気分にはなれない。しょうがないから、ヒューイの気が済むまでサボりに付き合ってやるとしよう。エルケーはそんな自分に失笑して、ルークの駒を摘まんだ。



          ●



 ギルバート・グリーンさえも、感心を通り越して唖然だった。


 「What's the hell??? これだけの基礎設計が1、2週間の成果かい」


 恐らく内容の70%以上は米軍のイミテーションだろう。だが、驚くべきことであるのには変わりない。なんと言っても彼はそのコピーを、オリジナルの情報なんてプロモーション映像以外ほぼ無い状態から、たった1人で生み出したのだ。

 発明史には、こういうことがしばしば起こる。2人の人間が、同質の発明に、わずかに異なるタイミングで至ることが。厳密に言えば、彼の研究はまさしく米軍の後追いの模倣ではあったが、前述した通り知る術のないはずの軍事機密を高い精度でトレースするのは同じ発明に至ることと大差ないのではないか?少なくとも技術畑の出身ではないギルバートにはそう思われた。むしろ米軍が組織を挙げて数年、下手をすれば10年以上もかけてようやく漕ぎ着けた技術に、彼は文字通りの独学であっという間に追い付いたのだから、近い将来はオリジナルを追い越し、蹴落とすほどの価値を生み出す期待をも容易に抱かせる。世の中には問題集を解答例を見ながら解いても最後まで答えに納得出来ないまま終わる人間だってたくさんいるわけだから、それを思えば超越的な才能だ。彼が真っ当な学校教育を受けられなかったことが悔やまれるが、あるいは彼のいた環境こそがその才能を開花させるために必要な条件を備えていた可能性も見えてきた。


 「やはり荘楽組を引き込んだのは正解だったみたいだ。技術に善悪はないと言うが、それを生み出す人間も同じなんじゃないかな。どう思う?」


 彼―――すなわち、IAMOに吸収された日本のマジックマフィア、荘楽組の現首領にして魔法工学・化学のスペシャリストである研の本質は「作れそうだったから作ってみた」だ。それは彼がどれだけ悪党を名乗ろうと、極道らしく振る舞おうと、変わらない。純粋に天才なのだ。

 ただ、その才能はあまりに純粋過ぎるが故に、不安定で脆かった。それが今回の一件でハッキリした。ここのところ鳴かず飛ばずだった研が再び本来の好奇心と集中力を取り戻せたのは、思わぬ、大きな成果だった。


 「部下の心身のケアは大切ってことの好例らな」


 「十分自由にやっているじゃあないか」


 「そいつは筋違いじゃあないのか?」


 「・・・・・・」


 伝楽のしたり顔に、ギルバートは優雅に微笑み返してティーカップに口を付けた。ハーブの香りが静かに部屋を漂った。


 「部下・・・ね。それで、なにがお望みなんだい?」


 「やーすーみー!!言わなきゃ分からんのか、お前は!?マジか!?」


 「予想はしていたさ。けれど、なにしろオデンはなにを考えているのか分からないからね。ちゃんと本人に確認しないと」


 「とか言って、わちきが素直に言い出さなかったらそのまま次の仕事を押しつける腹づもりらったんじゃろ!この鬼畜上司め!」


 どっちにも取れる表情でギルバートは肩をすくめた。


 「君に任せたい案件はしばらくないから休暇なら自由に使ってくれよ」


          ○


 「てなわけでお前の休暇も申請しておいたのら」


 「はぁ!?」


 職場の先輩から「遠出の案件につき私服にて9時にウォータールー駅に来られたし」との連絡があり、早速お仕事かと勇んで馳せ参じてみれば、まさかの平日デートだった。というかIAMOって本当に他人の休暇を勝手に申請出来る無法地帯なのか?


 「まぁそう膨れるなよ、ネビア・アネガメント。どうせこっちで暮らすにあたっていろいろ入り用じゃろ?」


 「そうだけどさぁ、休日で良いじゃん、カシラ」


 「えー、わちきがせっかく可愛い後輩のためを思って1年に指定日数分も取れるかどうか怪しい有休を消費してるっていうのにー」


 「じゃ、ごちになります、カシラ」


 「よろしい」


 西洋の代表的都市においては酷く目立つ和装の年下先輩に手を引かれ、ネビアは駅の改札をくぐった。昨日は結局軽口を叩き合った程度だったので伝楽の人となりはあまり分からなかったが、案外、面倒見の良いお姉ちゃん気質なのかもしれない。少々強引なところはあるが。


 「欲しいものなら結構あるから、覚悟してくださいよね、せーんパイ?カシラ」


 「構わんが、どうせ貧乏性のお前にわちきの財布は空には出来ないのら」


 「な、なにおぅ!?」



          ●



 あの子は、なんとか一命は取り留めたらしい。きっと今頃は、IAMOの医療施設でベッドに寝かされ、いろいろな機材のコードや薬品のチューブを繋がれているであろう罪なきマリオネット。密かに調べるので精一杯だった。その気になれば現在のバイタルサインをモニターすることも出来たかもしれないが、これ以上踏み込むことが恐ろしかった。またなにか仕掛けられているんじゃないか、と。

 心配で心配で堪らないのに、もはや自分にはあの子の病室に見舞いに行くことすら叶わない。こんな邪道に頼らなくては、大切な人の生き死にさえも知ることが出来ない。こんなに惨めなことがあるだろうか。自分は一体、どこまで惨めに落ちぶれたら良い?


 昼間なのにブラインダーを閉ざしきった部屋に、歯軋りが反響した。なんと寂しい部屋なのか。


 嘘であって欲しかった。・・・どこから?


 「は・・・」


 自分でもビックリするほど乾いた笑いが出た。なにもかもが嘘だったというのに。ああ、”本当であって欲しかった”とでも言った方が正しかったのだろうか。いいや。それでもやはり嘘であってくれた方が良い。そもそもの、一番最初の記憶から全てが嘘であったなら、この悪夢はただのいつか醒める悪夢に変わるのに。


 「全部・・・全部お前のせいだ・・・」


 調度品すら、忌々しい。

 奴が腰掛けていた安楽椅子も、奴が茶を入れたポットも、奴が無防備に寝そべっていたソファも、全てが呪わしい。それらに触れた記憶を思い出すだけで総毛立つ思いがする。


 「お前のせいだ。お前のせいだッ!!お前の・・・せいだァァァァァァァ!!!!!!」


 滅茶苦茶に暴れた。部屋中を荒らして、荒らして、荒らし尽くして、それでも飽き足らず、ガス栓を破壊して火を放ってやった。

 2階の窓から爆炎を噴く古い雑居ビルを見上げて、なおいっそうの空虚さが去来する。なんの意味がある?こんな子供の腹いせに。どうせ奴はこの光景を見たって冷ややかに自分を嗤うだけだろう。これじゃあむしろ自分ばかりがこの場所に思い入れを抱いていると言っているようなものだ。


 背を向ける。訣別する。


 奴の思い描く未来なんて絶対に来させない。


 「休んでる暇なんてないんだよ」


 まだだ。まだ終わってない。

 隠れ家のひとつに、同士たちは集っていた。みんなが自分を見つめている。良いだろう、そのためにここに来たのだ。ただ。


 「これだけ、かぁ・・・」


 世界を変えるためにはもっともっと仲間が要る。彼が集めたより、何倍も、何十倍も、何百倍も。奴が舌を巻くほどたくさんの仲間が。


 

 「今日から私たちは『BLEACH』だ。向こうがその気ならむしろ好都合だと思わない?巻き込んでやろうぜ。全世界をさぁ!!」

 

Definitely correct subtitle.


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第3章 episode9『詰草小奏鳴曲』


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