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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect45 ” Laughs in the Shadows”

 建物は同じIAMOロンドン本部だ。ただ、場所は移動する。IAMOは世界規模で活動する大きな組織である以上、国連と酷似した組織構成を有しており、そして組織全体の舵取りを行うためのIAMO中央理事会が存在する。IAMO中央理事会は、総長と5人の常任理事、およびIAMO主要5部門のトップが兼任する5人の非常任理事、計11人で構成されるIAMOの最高意思決定機関である。ロンドン本部のとある区画には、その中央理事会の議場が存在している。

 ただし、議場のある場所は組織内のごく限られた人間しか知らない。古城には隠し通路が付き物、といったところか。もっとも、半数以上が70を超える老人の集まりだ。みながみな若い頃の体力を保っているわけではない。つまり、それほど長大な迷路が隠されているわけではない。むしろコインの表裏のように、議場の空間そのものは当たり前に地上階の中で確保されている。


 そんな秘された議場で議論されているのは、『ブレインイーター』の正体発覚後にIAMOがどう振る舞うべきかだった。


 「厄介な爆弾を抱え込んだようなものだ!!」


 ネビア・アネガメントの証言は得た。奇形部位形成状態の彼女と『ブレインイーター』の魔力特性一致率は79.6%を記録しており、魔法学的にはほぼ同一人物と見て間違いない。また、ネビア・アネガメントが見聞きしたという皇国内部の情報は既存情報と照らし合わせた上で十分な信憑性を持っていた。一連の事件は決して自然発生したものではなく、皇国が裏で糸を引いていたことは確かだろう。ネビアが持ち込んだ情報は皇国との戦いを優位に進めるヒントになりうるものだったし、皇国を糾弾する材料としても一定の価値があった。

 だが、それでもIAMOにとって、ネビア・アネガメントをモンスターとして処理せず保護したのはとてつもなく危険な綱渡りだ。


 「いまからでも間に合う。『ブレインイーター』の正体については明かすべきではない。現在出回っている情報は報道機関の早とちりだったと―――」


 「それについては、私の判断で先ほどプレスリリースを出しましたよ」


 「なっ・・・は、はぁぁ!?ギルバート・グリーン、君というヤツはまた勝手なことを・・・!!」


 「我々がどう隠そうと、どのみち皇国が”七十二帝騎を動員して決死の覚悟で実施した独自の調査結果”を開示します。オドノイドを囲い続けるために、IAMOはこれ以上後手に回ってはいけない。そうでしょう?ミスター・コーネリアス」


 「ぐ・・・!!」


 30以上も歳の離れた常任理事の一人を黙らせ、ギルバートは話をさらに展開する。なら君には策があるのかね、なんてつまらないお膳立てなど彼には必要ない。


 「無論、今回の一件でオドノイドたちにはみな『ブレインイーター』のような姿となって暴走する可能性があると知られました。IAMOの保護方針に異を唱える人々はますます増えるでしょう。ここロンドンでIAMOへのデモ活動は活発ですが―――」


 「とりわけ激しいのはイスラム圏と、あとは中国だな」


 界際経済管理部長ケネス・A・ドゥーイの割り込みに、ギルバートは慎重な首肯を返す。間違いではないから否定はしないが、ケネスはともかく、ギルバートは常任理事の王静(ワン・ジン)の気を悪くさせる意図はないのだ。


 「重要なのは、人間界全体で共有可能な恐怖と憎悪の避雷針(スケープゴート)が必要ということです。だがそれになるのがIAMOであってはならない」

 

 「恐ろしい力を持ったオドノイド―――を、さらに恐怖で支配し使役する脅威へ民衆の関心を誘導し、この戦争の裏でじっくりとオドノイドへの忌避感を風化させようと言うんじゃな?」


 ここでようやく総長のレオ13世が口を開いた。それだけで、テーブルの上の空気が緊張した。気高く清貧なる老翁はIAMOの総長であると同時に教皇、すなわちキリスト教徒の規範として生きる人間だ。オドノイドを人間界に包摂し彼らの尊厳を守るために、敢えていまは導く民の目を晦ませ、安心を与えるべき人々の不安を煽り、誘い、そのために血みどろの戦争を都合良く引き延ばすことを良しとするだろうか?

 ギルバート・グリーンはいつだって”正しい”。目的に対して正確に一歩一歩を積み重ねる。そして彼が目標を達成するごとに、都度、大きな利益が世界へ還元され大多数の人間にとって良い結果をもたらす。故に”正しい”。

 だが、”正しい”という概念の捉え方はひとつではない。人間には強弱の差はあれ、それぞれの思想がある。宗教や文化、善悪の価値観。いわゆる倫理、良心、美徳。そういった思想が。故にこの世界には手段を選ぶという”正しさ”もまた存在している。それらが必ずしも利益を生むとは限らないが、誰からも恨まれることはない”正しさ”だ。


 「・・・案ずるな。衆生に詐術を弄するわけではない。儂もギルバート総司令の考えと概ね同じじゃったよ。しかし、皇国は既に戦争相手として既に恐怖と憎悪の的じゃ。今回の一件での暗躍を知れば驚きはあろう。じゃが、果たして期待するだけの衝撃を生むかのう?」


 「総長。それなら恐らく問題ありません」


 言いながら、ギルバートは心の唇を噛んだ。彼は”正しい”が故に、それ以上の解を導き出せなかった。やはりまだ掌の上だ。ギルバートは今日もあの少女に試されている。


 「ひとつで足りないなら、もうひとつ立てるまでです」



          ●



 ネビア・アネガメントは帰ってこなかった。

 アイナカティナ・ハーボルドは死んだ。


 「ロビルバ。マルコス。2人ともよく無事に戻ってくれた。ごめんなさい、妾があれを甘やかしたせいで辛い目に遭わせてしまったな」


 「いいえ、姫様がお気に病むことなどひとつとしてありませぬ!!責任は彼奴を御しきれなかった我々にこそございます!!私は如何様なる罰でも慎んでお受けしましょう!!」

 「マルコスの言う通りです」


 「心遣いありがとう、マルコス。罰など、とんでもないよ。ロビルバも顔を上げてちょうだい。まだ落ち着かないかもしれないが、いまはゆっくり休んでくれ。じきにまたお前たちの力を借りる時が来るだろうから」


 「「は!!」」


 ロビルバとマルコスを下がらせる。玉座の間にはアスモとルシフェルの2人きり。


 「―――罰なんて。あっはは。とんでもない」


 知る者しか知らぬ年齢不相応に妖艶な笑みを浮かべて、アスモは玉座を立つ。前を歩くアスモは、従うルシフェルを振り返ってその変化に乏しい表情のかすかな機微を疑う。

 もう長らく一緒に居続けたアスモには読み取れる。満足そうだ。神代迅雷を殺せず業を煮やした様子のロビルバには少し可哀想なことをした。彼は与えられた任務を果たせず失態を重ねてしまったつもりでいるようだが、その実、黙っていただけで彼はルシフェルの思惑によく貢献してくれた。


 だが、それにしても。


 「ルーの朴念仁ぶりもここまで来ると鬼畜の域だよ。まさかアイナカティナをここで使い潰すとはな。妾でもすぐには考えつかないよ」


 「・・・?『ブレインイーター』の件で白を切るために討伐隊からの犠牲者が欲しいというのは姫が言い出したことだったかと」


 「ふひっ、あはははっ!!確かにそうだけどそうじゃないっていうか、ほら、だから、そういうところだ!!それとも既に妾にゾッコンだから他の女が入り込む余地などなかったと思って良いのか!?」


 「またいつものお戯れですか?」


 「~~~っ!!真面目すぎるのもある意味で笑いのタネになるな!」


 意味も分からないまま抱腹絶倒されてルシフェルの鉄面皮が珍しく、ちょっとだけ不服そうに動いた。文武抜け目なく勤勉なルシフェルにも疎いことのひとつはあると思えば、むしろそれも愛おしい。どのみち彼がこうなら、その傍らにくっついていられるのはアスモしかいないのだし。


 (・・・いや待て?妾に笑われてムスッとするってことはもしかして妾にどう思われているかは気にしているのか?な、なにそれ・・・萌えるぅぅ!!)

 「もう、ルーったら♡」


 急にケツをはたかれ、ルシフェルの困惑は極まるばかりだった。


 玉座の間を出るところで、アスモは足を止めた。その口元にうっすら残る笑みを消すための時間。ルシフェルにはそう思われた。しかし、どうしてだろう。ルシフェルにはアスモの愉快犯らしい笑顔の奥に、いくつか、別の色が滲んでいるように見えた。

 お気に入りだったネビア・アネガメントを奪われたことで内心では悲しんでいる?七十二帝騎のアイナカティナを使い潰したことに怒っている?いいや、なにか違うような気がする。


 「姫?」


 「『ブレインイーター』を経て人間界は揺らぐよ。でも、人間の業の深さはこんなものじゃない。この戦争は、ここからが本番だ」


 この幼い姫君の内側には、ルシフェルにも知り得ないグツグツした悪意がある。彼女がいまよりさらにずっと幼い時期からずっと付き添ってきて、ようやくその片鱗を感じ取れるようになってきた。状況が整いつつあるここに至って、遂にその一端が顔を出したということか。


 「勝つぞ、ルー。勝って奴らが後生大事に抱えるもの全て、()り上げてやろう」




          ●

          ●

          ●




 11月4日。


 「うーす神代」

 「うーすおはよ」


 「おっはー、迅雷クン」

 「おはよす」

 


 「・・・・・・」

 「おはよぅおおう!?!?!?」



 天田雪姫が教室にいた。


 あれからまだ1週間も経っていない。どれだけ重傷だったと思っている。あまりの衝撃ですっかり現実感が吹っ飛んだ迅雷は恐る恐る、雪姫に足が付いているか確かめようと机の下を覗き込


 「う゛っ」


 んだ直後に眉間へ爪先を叩き込まれて壁まで転がった。とても膝から下の動きだけで出せる破壊力とは思えない。このキレッキレの暴力は・・・間違いなく、生身で、ご存命な、天田雪姫・・・だ・・・。

 

 「・・・・・・、ハッ!?いま何時!?遅刻ッ!?ちょ、千影ぇ起こしてよぉ!?・・・・・・お?」


 頭を打って一瞬だけ意識の飛んでいた迅雷が跳ね起きて、なんの代用なのか傍らに転がっていた椅子に喚いていると、クラスのみんなからギョッとした視線が送られていた。


 (椅子なんか抱き寄せて、誰に話しかけてるポーズなんだアレ)

 (え、もしかしてあの噂ってマジなの?)

 (だとしたら・・・ちょっと幻滅したかも・・・)


 なぜ起きたら教室にいたのかだんだん思い出してきた迅雷は、目の前に雪姫を見つけてまた同じリアクションを取った。


 「天田さんケガは!?なんでもう登校してんの!?」


 「傷は全部魔法治療で塞がってるし、いくら保険が下りるったって入院費はバカにならないし」


 「でも顔色悪いじゃん絶対血ぃ足りてない!」


 「大体」


 雪姫は迅雷のいちゃもんを遮った上で、少し間を置いた。


 「あたしが帰らなきゃ、夏姫の面倒は誰が見るっての」


          ○


 放課後、鞄に教科書を戻す迅雷の机にバン!!と真っ白な手が叩き付けられた。

 不意の衝撃に慌てて鞄を引っ繰り返しそうになった迅雷が顔を上げると。


 「戦って」


 呑み込まれそうなほど蒼い双眸に至近から射留められる。



 「戦って。あたしと。いまから」

☆メ ソ ィ ク ソ ス マ ス☆

サンタさん、一生遊んで暮らせるカネか、ダメなら理想のヒロインを具現化する魔法を俺にくれ!!

クリスマス番外編的な感じに雪姫サンタが夏姫を悦ばせるため奔走する話とか書こうかとも思ったけど時間が足りねぇんだ!!

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