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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect44 ”ひなたの道、あなたの道”

 霧と歴史と魔法の都、ロンドン。長い歴史に多くのエピソードが詰まったかの街において、バッキンガム宮殿やロンドン塔、ウィンザー城などと並んで有名であり、かつ現在進行形で歴史を重ねるランドマークがある。すなわち、ここ、IAMOロンドン本部のことである。地震と縁遠いレンガの町並みにはロンドン本部よりも古い建物などいくらでもあるとはいえ、それでも250年弱の時を重ねたバロック式の古城に変わりはない。

 その内装は時代と共にアップデートされ続けているが、シックで厳かな雰囲気は今日まで丁寧に保たれている。来たことがないわけではないが、実働部の下っ端でしかない川内兼平にとっては未だに無用な緊張をしてしまう場所でもある。


 だが、今日抱えているこれ()の緊張は決してロンドン本部の雰囲気だけによるものではなかった。兼平が本部に召喚された用件はいくつかあるが、中でも最も彼を悩ませているのが『ブレインイーター対策室』の最終報告会への出席を命じられたことだ。兼平は元々はここに参加はしていなかったのだが、なりゆきで一央市ギルドの『ブレインイーター』捜索活動に協力することとなった結果、なんの因果かIAMOの人間としては特殊な立ち位置にある千影を除いて唯一事件解決の現場に立ち会ったために呼び出されたのだ。

 魔界との小競り合いが毎日どこかで起きているこのクソ忙しい時期に、報告書で十分な内容をわざわざ地球半周させてまで直接報告させなくなって良いだろうに。もっとも、兼平は()()でどのみち本部に来ることは確定だったので、それならついでに話を聞かせてもらおう、くらいのノリだったのかもしれないが。

 ところで、兼平にとってその報告会に出席することのなにがそこまでストレスフルなのかというと、別に大勢の前に立って面倒臭い質疑応答をしなくてはならないことが嫌なのではない。むしろ昔から顔面のおかげでチヤホヤされてきた自己肯定感高めの青年にとってプレゼンテーションは楽しい舞台であることの方が多い。つまり、緊張の原因はそっちではなく。


 「やっべー。胃ぃやっべー。ぶっちゃけなんも活躍してないくせに手柄だけ分けてもらった若造が一番訳知り顔で報告しくさって、いままで少なくない犠牲を払いながら必死に活動してた対策室の人たちどんな反応すっかなー。あー、やっべー・・・」


 対策室の招集された魔法士は全員が兼平なんかよりも実力高く、その評価から選抜された精鋭だ。そのことにプライドを持っている者も少なくないだろう。IAMOの実働部には荒事担当の性格上、血の気の多い連中が集まっているわけで。ああいけない、せっかくの甘いマスクに皺が増えてしまう。


 「こうなったら総司令だけが頼りだな・・・」


 「私がどうかしたのかい?」


 「ふォォォう!?そっ、そそそそ総司令いつの間に後ろに!?!?!?」


 「人を脅かし魔のように言うなよ、傷付くじゃないか」


 「す、すみませんッ!!」


 実にジャパニーズらしくペコペコ頭を下げる兼平に、IAMO実働部総司令ことギルバート・グリーンはHAHAHAと爽やかに笑う。


 「こうして直接話をするのは初めてだったかな、カネヒラ。君の一報があったおかげでいろいろとうまく事が進んだんだ。我々組織にとって大事なのは目的を達したかどうか、そう不安がることはないさ。むしろお礼を言わなくちゃあね、ありがとうカネヒラ」


 「いいえ、そんな。僕はただ」


 「それでもさ。私個人の都合としても助かったしね」


 「はぁ、そうなんですか―――」


 ギルバートは世辞を言っているわけでもなさそうだ。いつも正しいと評判の彼がそう言うのだ。兼平はもっと自信を持って前に立っても良いのかもしれない。兼平はギルバートと直接会うのは初めてだったが、想像以上の頼もしさだ。表情や語調に限らず、姿勢や歩調まで取っても、こういう何気ない立ち振る舞いに自然と人を安心させるエッセンスが溶け込んでいる点が、ギルバートのカリスマ性のベースなのだろう。ただ強い、賢いだけの人間に大組織は動かせない。

 兼平はギルバートの振りに返す形でいろいろ身の上話をしながら長い廊下を歩く。目的の会議室に着く直前で、ギルバートは「ところで」と話を切り替えた。


 「彼女はいまどこにいるのかな?」


 「ああ、それなら―――」


          ●



 パンパカパーン!!ようこそ、IAMOへ!!



 (!?!?!?)


 ドアを開けた途端、けたたましいくらいのクラッカーで歓迎されたネビアは、思わず身構えてしまった。なにしろネビアはたったの1ヶ月や2ヶ月という短期間で100人超の人間を酷たらしく殺害したのだから、こんな調子で武装集団に待ち伏せされても、なにも不思議ではなかった。IAMOの中にも『ブレインイーター』としてのネビアに恨みを持つ人間はいるだろう。だから、クラッカーの音だったと理解したのは、髪に絡まったカラフルな紙リボンを摘まみ取ってからだった。

 そもそも、ネビアは今日、ここへは身体検査やら魔法士情報の登録やらのために来ただけのはずだった。国籍も住所も名前さえも、正式な戸籍を持たず、どの国の法律でも存在を定義されていないオドノイドであるネビアがIAMOに所属するための面倒な手続きの数々である。で、その面倒が全て済んで最後にIAMOの一員としての心構えについて講習があるからと言われて来てみたら、これだった。

 派手さに欠ける古城の一室を目一杯に盛り上げる色とりどりの装飾に、若い胃袋を誘惑する実にハイカロリーなご馳走の香り。部屋の真ん中のテーブルにはデリバリーでかき集めたと思しきたくさんの料理と、ジュースやお酒が山ほど用意されていた。


 「お、おぉう・・・?講習は?これは一体どういう状況なので?カシラ」


 「そんな堅苦しいのはナシ。歓迎会だよ、歓迎会!」


 聞こえてきたのはアルトボイスの日本語だった。赤い髪に赤い目の少年・・・少年?だ。


 「ま、いろいろあったのは知ってるけど、お前だって好きで暴れ回ってたわけじゃないんでしょ?ならせっかく仲間が増えるんだし、ここはひとつ、細かいことは抜きでいこう!俺はナナシ。よろしくな、ネビア!」


 「あ、うん。ヨロシク・・・?カシラ」


 なんか勢いで握手に応じてしまってから、ネビアは首を傾げた。果たして、自分の罪はそんな軽いノリで流されて良いものなのか、と。だが、それを否だと言うより先に、ネビアはナナシに手を引かれて部屋の中央に連れて行かれ、飲み物をボトルごと渡されていた。


 「それじゃ、新たな仲間の新たなる門出を祝福して―――!!」

 『カンパ~イ!!』


 日本でも飲み慣れた世界的炭酸飲料をボトルで一気に飲み干して、ネビアはちょっと笑った。悪くはない。ネビアの重ねた罪の数々は全て、ネビアだけのものだ。だから水に流すかどうかもネビアが決める。ただ、もうその罪悪感から逃げて、誰かに罰を求めるのは終わりにするのだ。

 もう独りじゃない。独りになんてならなくて良い。ネビア・アネガメント、人生四度目のリスタートライン。思えばたったの16年でこんなにやり直してきた。だから大丈夫。少しずつ、一歩ずつで良い。あの少年が言ってくれたように、ハッピーエンドを目指して進んでみよう。


 「改めまして、私が『ブレインイーター』ことネビア・アネガげふっ」


 爆笑の渦。


 「よっ、いい飲みっぷりだね、ネビア・アネガゲフ!」


 ハイもう無理。ラウンド4ゲームセット。帰ろ帰ろ。どうせこんな人生終了シーンでなぜかまとめ動画作れちゃう系根暗女には何回やり直したって碌な人生送れませんよ。


 「んっんー!!ネビア・アネガメント、ですぅ!!カシラ!!よろしく、()()、カシラ」


 この仮設パーティー会場でネビアを迎えてくれたのは4人の若い男女だった。名無しを名乗る目の前の赤髪に加えて、花のように良い香りのする長い緑髪のお姉さん、あんまり覇気のない茶髪眼鏡の青年、それから乾杯もそっちのけでピザやフライドポテトを貪っている黒髪の東洋人っぽい少年だ。全員から千影と似た、黒色魔力の気配が感じられるので、すぐに彼らがIAMOの実働部で秘密裏に飼われていたオドノイドたちなのだと分かった。

 多分ネビアよりは年下だと思われる無口な黒髪少年―――名前はタオと言うらしい―――にご馳走を平らげられないよう皿にこんもりと盛りながら、ネビアは改めてナナシの体を下から上まで観察した。


 「ところで・・・結局あなたってナナシくん?ナナシちゃん?どっちなの?カシラ」


 「お前、平気でデリケートな質問するねぇ」


 「考えても分からないことは迷わず質問するのが社会人ってもんよ、カシラ」


 「なんつー屁理屈だ!まだゲップからかったこと根に持ってんの!?まぁいいけど!!」

 

 「で、よーするにどっちなの?カシラ」


 「どっちでもないよ」


 ネビアは少し怪訝そうに眉をひそめ、それからハッとしたように左手の甲を右頬に当てる格好で首を傾げると、ナナシがまた不機嫌になった。すると。


 「『ナナシは本当に性別がない()()、自分の能力の影響でね』」


 と言ったのは、茶髪眼鏡の()()だった。


 「じゃあ、コッチなのはあなたの方だった?カシラ」


 同じポーズのままネビアがギギギと体の向きを変えると、茶髪眼鏡の青年もまた心外そうに両手を振って待ったを掛ける。


 「お、俺はロゼの通訳しただけだってば」


 「通訳―――」


 そういえばそうだ。IAMOはグローバルな組織で、構成員の国籍や話す言葉も本来様々だ。それはオドノイドであるネビアたちにとってもそうだろう。サプライズの文言から全て日本語だったのですっかり失念していた。


 「俺はベルモンド。長いから気軽にベルって呼んでくれて構わない。あと見ての通り、男な。それで、彼女がロゼ。みんなのお姉さんさ!」


 なぜかちょっとテンションの上がったベルに日本語で紹介されたフローラル美人、ロゼはニッコリ笑った。多分、ベルの仕草で概ね話の内容は推測したのだろう。


 『初めまして、ネビア。私も貴女と同じオドノイドの、ロゼ・サルトルよ』


 『ええ、よろしく』


 ロゼの自己紹介にネビアがベルの通訳を待たず返答したので、ロゼもベルも揃って可愛らしく目を丸くしていた。


 「なんだ、フランス語分かるのね」


 「まぁね、カシラ。私も能力の影響でね、カシラ」


 「それじゃあもう全部フランス語で良いか。ナナシも一応はフランス出身だったろ?」


 ロンドンに来て、まさかフランス語が公用語になろうとは。ネビアはちらっとタオの方を見て。


 「あの子も?カシラ」


 「いや、タオはそもそも会話にあんま入ってこないし。まぁ一応、中国語なら片言程度にしゃべるけど」


 「なるほど”(タオ)”ね、カシラ」


 「へぇ、ネビアはそっちも分かるのね。良かったじゃない、ベル。通訳係が増えるわよ」


          ○


 オドノイド同士、話してみれば結構積もる話もあるものだった。思えばネビアは、表面上はともかく、千影と友好的に接したことはなかったかもしれない。オドノイドのことを真に理解出来るのは同じオドノイドしかいないというのに。

 例えば、食事の悩み。人間を食べるか、あるいは黒色魔力を持つモンスターを捕食するかしないと生命維持に必要な黒色魔力を確保出来ない体質のことだ。人々には恐れられ、気味悪がられ、ネビア自身もそれを悍ましく感じてきた。だが、ここではそんな話でさえ肌荒れやニキビと大差ない、ちょっと困った体質程度のノリで出来てしまう。

 それに、こんな体を手にしている以上、全員が割と笑えない過去と争いの歴史を持っている。そう思えば逆に、お互いこれまでどんな場所でどんなことをしてきたのか、なんていうある種とてもありきたりな会話も気兼ねなく出来た。不幸自慢や実力の誇示などではない。そもそも、いままで話す相手がいなかった話をようやく出来たのだから。これほど開放的な気分になるのはいつぶりだろうか。純粋に会話が楽しかった。


 山ほどあった料理も半分くらいに減って、宴も酣。酒では酔いにくいはずのネビアが、久々にしゃべりすぎの酸欠で軽い酩酊感を得ていると、パーティ会場のドアを遅れて開く少女が現れた。


 「なんじゃ、わちき抜きで随分と盛り上がりおって。む・・・おい、わちきが食べる分はちゃんと残してあるんらろうな?」


 「なんかやたら尊大なガキンチョが来たわね、カシラ」


 その少女は独特な日本語で話し(ネビアが言えたことではない)、白を基調とした着物を着崩して、目に穴のない狐の面で顔の右半分を隠していた。これだけでもその少女を特定するのに十分な特徴の数だったが、少女は身に着けるものだけでなく、耳のあたりで癖はねのある白銀の髪や奥深いエメラルドの瞳、一切の穢れがない白い肌、はだけた着物の胸元から覗く未成熟ながら妙に扇情的で目を引く膨らみ等々、どこをどう切り取っても特徴だらけだ。おまけに近くに寄ってきた少女からは、なんとも心惹かれる甘くて柔らかい香りまでしてくる。


 「ガキンチョ呼ばわりか、道理を弁えん新入りのようらな。まぁ良いさ。ようこそネビア・アネガメント、人類史上最も業の深い組織の裏側へ。わちきはツタラ、伝えるに楽しいで伝楽というのら」


 「うんうん、よろしくなの()、伝楽たん、カシラ」


 「真似するな!!マジでムカつく新入りらな!!」


 クールぶった3秒後にキレ散らかす伝楽をナナシが羽交い締めにした。あんまり暴れるといよいよ発育の良いトコがこぼれちゃいそうだ。


 「なによこの子、可愛いじゃない、カシラ。オドノイドチームの癒やし枠?カシラ」


 「ネビアも!あんまりおでんをからかうのはオススメしないぜ?見かけは確かに可愛いかもだけど、ぶっちゃけコイツは俺たちの中じゃぶっちぎりでヤバいんだからな」


 「あン?」


 そりゃあ、まあ、オドノイドはそれぞれ固有する能力の特異性故に例え幼子だろうと大人だろうと侮れるものではない。かつて《神速》の二つ名に違わぬ速さでネビアを解体した千影が好例だ。あのとき、千影は奇形部位を発現させないレベルまで魔力をセーブした状態でありながら全力のネビアを完封したのだ。それを思えば伝楽―――ニックネームは”おでん”らしい―――だって千影と同等以上の実力はあるのかもしれない。

 とはいえ、ネビアには伝楽という人格が無闇に暴力に走るような馬鹿には見えなかった。伝楽を押さえ付けるナナシがそこまで彼女の機嫌に神経質になる理由が分からない。言葉足らずなナナシの補足解説を求めて、ネビアがこの部屋で一番のお姉さんに視線を投げると、お姉さんは少し困ったように微笑して首を傾げた。


 「確かにこの中じゃ私が一番年上だけど、この中で一番の先輩はその子なのよ」


 「というより、正式にIAMOに魔法士登録された初めてのオドノイドなんだよ、おでんは。その制度を作らせたのすらも、ね」


 「そりゃあ大物ね、カシラ」


 ロゼとベルの説明ではパッとしない部分もある。恐らくは小学6年生から中学1年生くらいの少女だ。そんな話をされたところでオドノイド魔法士の制度の歴史の浅さを教えられているだけか、または単なる先輩風吹かせまくりのパワハラ上司ですとパワハラ上司の目の前で紹介しているだけのような―――。


 「ちなみにこないだの民連でオドノイド部隊の介入を提案、実行、指揮していたのもおでんな」


 「そりゃあ・・・大物ね、カシラ」


 前言撤回。事変当時、皇城で飼われていた頃のネビアの耳にも断片的ではあるが情報は入ってきていた。城内がゴタゴタしているな、くらいの感覚ではあったが、オドノイド魔法士たちに随分と戦況を翻弄されていたようだったのはなんとなく憶えている。


 「お見逸れしましたわ、おでん先パイ、カシラ」


 「まらナメてるじゃろ」


 「悲しいなぁ。お友達になりましょうって意味よ、カシラ」


 「ふん」


 ネビアは新しい取り皿にいくらか料理を乗せて伝楽に寄越し、伝楽も頬は膨らませたまま素直に受け取った。やはり、伝楽はそこまで幼稚な人物ではないらしい。


 「そういえば、さ」


 場が一応の落ち着きを取り戻したことで、ロゼがふとこんな話題を振ってきた。



 「どうなの?()()()()()



 「・・・?どうって、なにが?能力の話?カシラ」


 「それも気になるけど、違うわよ。いるんでしょう?”パートナー”ってのが。どんなヤツ?」


 言われて、ネビアは「ああ」と納得しながら曖昧な相槌で考える時間を作った。そういえば、IAMOのオドノイドに飼い主(パートナー)が宛がわれるのだったか。かく言うネビアも、さっき登録手続きで自分の名前より上の欄に川内兼平の名前を書いたのだった。

 噂に聞くオドノイド魔法士のパートナーとやら―――。


 「まぁ、気の良い奴よ、カシラ。ナルシストのきらいはあるけどね、カシラ」


 「・・・・・・・・・え?それだけ?っていうか、え?」


 「えーと、それから、そうそう。どうやら私、お茶汲みから書類整理まで、あの人の部下としてこき使われるらしいわ、カシラ」


 パートナーのことを虚仮にしているのは確かなようだが、くすくす笑って語るネビアの顔には影がない。そんなネビアに、伝楽以外の全員の唖然とした視線が集まっていた。


 『―――ろで、なぜあなたまで一緒なんです?』

 『すぐに分かるさ』


 噂をすれば影。


 「うぉーいネビアー。迎えに来た、ぞぅ・・・?って、なんだこりゃ?」


 川内兼平は、『ブレインイーター対策室』での仕事で今日の主な用務は全て済んだので別行動中だったネビアを回収しに来たのだ。だが、彼女が待機している予定だった会議室は、なぜかパーティ会場になっていて、なんか子供も混じった謎の集団がいて、でもなんかコイツらの顔はどっかで見たことあるような気がするようなしないような。

 頭の上にハテナを浮かべて固まっている兼平を右の親指で刺して、ネビアは少し自慢げに同類たちへ紹介した。


 「この人が私の()()の川内兼平よ、カシラ」


 「皆さんどうぞよろしく・・・って、オイ待てネビア。だからなんだこの状況。いや、もしかしてコイツらは・・・」


 「そ、私の先輩たちだってさ、カシラ」


 これまでずっと匿異政策(ブラックアウト)で隠蔽されてきたオドノイドたちだったが、本部内では意外と自由に動き回っているらしいことに兼平は驚きを隠せなかった。悪いことではないのだろう。少なくともネビアと人間らしい関係を築くことを目標とする兼平にとって、オドノイドが普通に出歩ける職場環境が出来上がりつつあることは、大いに助けになる。

 ・・・と、そこまで考えてから兼平はふと扉を開ける前の疑問に立ち返った。答えは確かにすぐだった。


 「やあオデン、戻っていたんだね。お疲れ様」


 兼平がネビアに話しかけるのに合わせたように流暢な日本語だった。しかし、話者はどこからどう見ても生粋のヨーロッパ系である。兼平はなぜ『ブレインイーター対策室』が解散した後までギルバート・グリーンが自分についてくるのか分からず、無駄に緊張の時間を引き延ばされて若干イラついていたのだが、これってまさか。

 ギルバートにニックネームで呼ばれた伝楽は、もうぬるくなったピザを咥えたまま首だけで振り返る。


 「なんじゃ、次から次に。幼稚園のお迎えかなにかか?保護者の皆様」


 「ハハハ」


 なぜだろう、伝楽の軽口にギルバートは笑ったはずなのに、突然、吐き気を催すほどに空気が重くなったのは。パーティの浮いた雰囲気がいとも容易く消し飛んで、明朗なナナシも、落ち着いていたロゼも、眠たげな目をしていたベルも、揃って怯えたように口を固く引き結んで床を見つめていた。まだよく状況を理解出来ていないネビアでさえも直感的に危険を感じて3人同様固まっていた。気にする様子がないのは、なにを考えているのか分からないタオだけだ。

 

 「生憎わちきもいま来たところでな、悪いがお前に付き合うのは後回しにさせてもらうのら。お互い昼休憩くらい取らんと、面倒らぞ?」


 「もっともだね。それじゃあお相伴に預かろうかな。カネヒラも一緒で良いかい?」


 『え"っ?』


 誰の「え」だったのか、はたまた全員揃って肝を潰されたのか、少なくともギルバートがここに留まる展開ではなかったはずだ。

 この業界では、ギルバート・グリーンのオドノイド嫌いは有名な噂だ。それが事実であることを理由と共に知る者も一定数存在している。ネビアだってその話くらいは聞いたことがある。とてもじゃないが一緒にランチして楽しくおしゃべり出来る相手ではない。千影が真っ向から叩き潰され挽肉寸前までやられた規格外の魔法士に同じ部屋の中でギスギスされてはパーティを盛り上げ直すどころか生きた心地すらしない。


 (断れ!!いや断ってください兼平さん!!そんでもってギルバート・グリーン連れてどっか行け!!お前らだけで仲良くランチしてろください!!カシラ!!)


 ネビアは必死に上司へ流れを断ち切るよう視線で懇願した。それに乗っかるように、ナナシにロゼ、ベルまで兼平に視線を送った・・・のだが。


 「はい、()()()()()()()()()()、自分は全然構いませんよ!」


 完璧に爽やかな愛想笑いであった。数秒と悩まずに可愛い部下より上司を取りやがった。なんならネビアにキラーパスを回してきやがった。


 (断れるかっ!!俺は実働部の下っ端、相手は実働部のトップなの!!そういう無礼は新人の仕事だろ!!)


 (小物ッ!!あいつ超小物じゃねーか!!カシラ!!)


 確かにこの場の主役はネビアだ。なにせネビアちゃん大歓迎パーティだし。だからきっとネビアがイヤな顔をすれば魔法士である以前に紳士であるギルバートはすんなり立ち去ってくれるかもしれない。


 でも、だけど。


 ネビアは上っ面が破けるギリギリの笑顔で飛び入り参加の男2人を歓迎した。


 ネビアも所詮は小物なのだった。

嘘じゃない。友達が出来た。仲間が出来た。もうネビアの人生は行間でひっそり語る必要なんてなくなった。ビルの隙間から一歩踏み出し同じ道へ。それでは、いつか再び交わるその日まで。

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『魔法少女☆スノー・プリンセス』

汗で手が滑った方はクリックしちゃうそうです
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