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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect41 ” The Reason for Repeated Overlooking ”


 「チッ・・・」


 微生物たちを伝って捕捉し続けていた『ブレインイーター』の反応が、消えた。だが、どうやら死んだ訳でもないらしい。変化の前後で人間の数がひとつ、増えていたからだ。つまり、本体が引き摺り出されたということだ。しかも、引き摺り出されてまだ生かされている。一番厄介なパターンかもしれない。

 こんなに不愉快なことが、まだあろうとは。ロビルバは舌打ちが止まらなくなりそうだった。ロビルバの思惑を外れて暴走し、あろうことか人間の学生に手伝われて万が一のストッパーのはずだったアイナカティナをも殺害したネビア・アネガメントに、そのネビアを生きたまま無力化した介入者。介入者―――なんてぼかす必要はない。九割九分九厘、あの少年とオドノイドだ。

 つくづく。つくづく、奴らは、一体どこまでロビルバを馬鹿にすれば気が済むのだ?忌々しい、なんて言葉では何度繰り返そうとも生易しい。


 「マルコス、『()()()()()()ター()()()()()。目的は達せられました。これ以上その人間どもと戯れている意味も理由も、もうなくなったワケですが―――」


 『だがそれは姫様の望まれるところではない!!これで退けば無様で不誠実な敗走と変わらんよ!!』


 「そうですか・・・。じゃあ僕はもう行くので―――ここを頼めますね?マルコス」


 『・・・、フッ。良かろう。だが、ロビルバ君。ここをどう離脱するね?』


 マルコスには『レメゲトン』がない。冴木空奈と聖護院瞑矢はそれぞれが七十二帝騎に対抗しうる実力者であり、かつ連携もなかなかのものだ。力関係を決定的に引っ繰り返す手段がない以上、ロビルバも安易にマルコスを頼るだけではこの場を離れることは出来ないことは分かっていた。というか、それが出来たのならとっくにロビルバはここにいない。


 「問題ありません」


 しかし、その上で言うと、全く方法がない訳でもない。当然と言えば当然だが、本気の殺し合いをしているからといって常に全身フルパワーで何分何十分と殴り合っているかと言われれば、そんなはずがない。体力テストの50m走じゃないのだ。敵を先に殺すための出力と、敵より先に倒れないための抑制は、どんな戦いにも存在する。

 つまり、敢えてその出力と抑制の均衡を瞬間的に崩せば、戦況は確実に変化する。ただの駆け引きだ。そして、この駆け引きはイカサマに機能することが確定している。なぜなら、冴木空奈も聖護院瞑矢も、ロビルバたちが『ブレインイーター』討伐という名目上の目的を帯びてここにいることさえも知らないからだ。要するに、なぜロビルバとマルコスがここにいるのか全く分からない―――よしんば予想したとして、開戦以来ダンジョンで日夜繰り返されている騎士団とIAMOの魔法士たちの衝突との違いに確信を持てないことだろう。

 要するに、仮にいまロビルバがいきなり抑制を緩めようとも、彼らにそれを予測する材料はない。絶対に後手に回らざるを得ない。必ず不可解なタイミングで仕掛けてきたことに困惑する。


 「僕、こう見えて一発芸も得意なんですよ」


 冴木空奈の水魔法は強烈だが、水量のおかげで回避出来れば僅かな時間ではあるが、身を隠すのに便利な遮蔽物になる。ロビルバは鼻血を噴くほど全力の集中をもって、その刹那で自身の周囲に100もの黒い球体を作り出した。

 その黒球のひとつひとつが最大火力の『黒閃』だ。最大の個性である特異魔術(インジェナム)が直接戦闘に向かないロビルバが、なぜそれでも皇国七十二帝騎として堂々と活躍しているのか。その理由がこれだ。狙撃のみに留まらない、変幻自在にして卓抜した『黒閃』の技術が、彼という騎士個人の破壊力を国にまで見せ付けた。

 水流が捌けて現れたそれに冴木空奈と聖護院瞑矢がギョッとした表情に変わる。気付いたか。良い顔だ。散々邪魔をされてきた分、多少は胸も空くというものだ。


 「凌げるかい、この数を!!」


 順繰りに、なんて言わない。全ての『黒閃』を一斉に解き放つ。

 巨大爆弾でも落ちたような破裂音がした。

 あらゆる物理的障壁を消滅させて直進する『黒閃』を、視界が真っ暗になる規模で放ったのだ。冗談抜きに、大気そのものが消し飛んで大爆発にも等しい急激な気圧変化を併発したのだ。並の生物なら『黒閃』が直撃しなくても、この場にいるだけで卒倒、最悪の場合死に至るほどの理不尽な破壊の嵐。

 だが、あの2人はきっとこれでも平気で生き残るだろう。驚きはしても、驚く以上の事態にはならない。恐らく既にこの猛威の本質を理解し、次の反撃策を考えていることだろう。だから、ロビルバはまだ放射の続く百条の『黒閃』をほうってすぐさま洞窟の奥を目指し、走り出した。


 「では、出来ればご無事で」

 「また国で会おう」


 去り際、ロビルバは直接マルコスの肩を叩いた。

 ロビルバはマルコスほどアスモ姫への忠誠心が強いわけではないし、だから彼女の望みが叶おうが破れようが大して気にするつもりはない。ロビルバは徹頭徹尾、自分に正直に行動するだけだ。

 もっとも、マルコスも単なる忠誠心の権化ではない。七十二帝騎を外されたとて長きに渡り皇国の精鋭として活躍したベテランだ。状況は理解しているだろう。実際、彼の笑みにはそれが表れていた。


 「なっ!?あ、待ちィ!!ゴルァ!!」


 やはり無事だった冴木空奈の怒鳴り声が響き、続いて聖護院瞑矢の追撃が飛んでくる。頼んだはずなのにマルコスが追撃をカットしてくれないのは、ひょっとしてちょっとした意趣返しのつもりだろうか。


 「まったく・・・!!」


 電撃の矢を防ぐため一瞬足を止めたロビルバに、聖護院瞑矢が告げた。


 「今し方、ダンジョン内に増援が到着したぞ。良いのか?剣士一人置き去りにして」


 「つまらない嘘だな。じゃあね、クソ野郎」


 ロビルバは洞窟内のほぼ全域で微生物や細菌に人間の出入りと行動をモニターさせている。当然、人間たちがダンジョンの出入りに使用している『門』のあるエリアも監視範囲内だ。異常があればすぐにロビルバにも伝わってくるが、現時点でそのような気配はない。悩むまでもなく分かるブラフは無視して、ロビルバは今度こそマルコスに守られ戦場を離脱した。



          ●



 「ば・・・ばぶぅ・・・」

 「よしよし頑張りましたね~、とっしー♡ほら、とりあえず手当てするから服脱いで?ばんざーい」

 「うー・・・」


 「・・・・・・」


 果たして自分は一体なにを見せられているのだろうか。ほんのりと温かい光る結晶の柱に体を預けた日本最強のJKは、心底うんざりした様子で口の端を下げた。

 『ブレインイーター』の体内からネビア・アネガメントの体を切り離すことに成功したまでは良かったのだが、それから間もなく迅雷が纏っていた黒い嵐が消えて、そのまま魔力切れでぶっ倒れたのだ。まぁ百歩譲ってお荷物が一人増えたのは良いとして、男子高校生が女子小学生に赤ちゃんプレイで嬉しそうになにからなにまで甲斐甲斐しくお世話されているのってどうなのよ?いやまぁ魔力切れで全身に力が入らないのは雪姫も同じだから分からないでもないけど、それにしたってあいつプライドとかないんか?

 雪姫は耐えきれず、視線を自分の横に逸らした。そちらでは、迅雷が助け出したネビアが寝かされている。


 「・・・こいつもオドノイド―――ね」


 ネビアは至って正常な呼吸を続けてこそいるが、その腹部には大きな傷がある。迅雷と千影が取った彼女の救出方法はとんでもなく乱暴だった。なにしろ、剣で『ブレインイーター』のガワの外からネビア本体を串刺しにして、そのまま力尽くで押し出したのだ。しかも、ネビアを引き摺り出したかと思えば今度は千影がなにを思ったか、ネビアの腰回りの肉を炭化するまで焼いたのだ。あのときは、雪姫は危うく千影をぶっ飛ばすところだった。


 「まだ気にしてる?」


 「治るんでしょ?」


 すっぽんぽんで摘出されたネビアには雪姫のジャージの上着を掛けているので、本当に傷が塞がっているのかは分からない。だが、あんな化物の姿に変身していた以上、少なくともネビアがもはや普通の人間でなかったことは明らかで、だとすれば彼女がオドノイドであると言われればそっちの方がまだ信じやすい。オドノイドは人間なら致命傷になる怪我でも問題なく再生するらしい。それでも限度はあるようだが、とにかく死なないならそれで良いのだ。とりあえず。


 「・・・やっぱり気にしてるよね・・・?」


 「・・・・・・」


 「ゴメンって」


 「しつこい」


 雪姫が舌打ちすると、千影はションボリと項垂れた。迅雷に慰められて機嫌を直す千影をしばらく眺め、ネビアを見て、また迅雷とじゃれる千影を見て、雪姫は自分の右手に目を落とす。

 千影(あいつ)ネビア(こいつ)もニンゲンモドキのバケモノで、人間界と魔界の戦争の原因で、居なくなった方が面倒が少なく済むこの世のバグだ。それがオドノイドという存在のはずだった・・・のに。

 

 「殺せなかったわけだ」


 雪姫の呟きをよく聞き取れなかったのか、千影は反応だけして首を傾げていた。


 数分後、目立った傷だけは繕い終えた迅雷も、雪姫同様にゴツゴツした洞窟の岩壁に預けられた。


 「・・・で、こっからどうすんの?」


 「「それな」」


 雪姫が問うと、迅雷と千影は仲良くなんの発展性もない答えを返してきた。使えねぇ。もうダメだ、本当にキレそう。

 いま動けるのは一番小柄な千影だけだ。とてもではないが高校生3人を一度に運べる体格ではない。一人ずつ運ぶにしたって、こんな危険な場所に動けない人間を放置するわけにはいかない。だが回復を待っている時間もない。そもそも歩けるようになったところで、ここから『門』がある分岐路の広場まで、徒歩では数時間かかる遠さだ。


 本当はこんなことに頭を悩ませるはずじゃなかった。

 

 「・・・ハッ。そうだよ、あたしは帰るつもりなんてなかった。あたしは『ブレインイーター』に殺されていままでの人生を精算するはずだったのに」


 「それ本気で言ってんのか・・・?」


 今度の呟きは聞こえたらしい。千影ではなく、迅雷に。さっきまで伸びたカップ麺みたいにだらしなかった迅雷に、雪姫は胸ぐらを掴まれた。そもそも雪姫と迅雷の間には信頼関係なんてなかったはずなのに、迅雷は怒りに混じって失望したような目をしていた。雪姫は挑戦するように至近から迅雷を睨み返す。


 「だったらなに?」


 「本当に分かんないのかよ。天田さんは、夏姫ちゃん(あの子)を本当に独りぼっちにする気かよ!!」


 二度目でもよく刺さる。千影の方を見れば、彼女は「ほらね?」とでも言いたげに肩をすくめてみせた。どうやら千影が迅雷を妄想していたわけではなかったらしい。確かめたいことを確かめられて、雪姫は少し悔しそうに、頬を緩ませた。


 「おい、聞いてんのかよ!なんとか言えよ!!・・・って、なんだよ千影、その顔は」


 「ごめんねとっしー。その話はさっき



 銃声は、遅れてやってきた。


 そして。



 そして。



 「とっしー!!」


 「あ、ああっ、ああああああああああああ!?!?!?!?!?」



 そして、少女たちの悲鳴があった。


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