episode8 sect31 ”集めろ、天然素材!”
広い部屋と、そこから幾条にも分かれた道があり、その道はさらに別の空間へ繋がっている。それぞれの空間もまた幾つもの分岐路を通じて繋がっている。洞窟でありながらそこかしこに生えている光る結晶と豊かな水源により、松明要らずの幻想的なダンジョン。今日はいつになく洞窟内に響く六本足トカゲのぎぃ、こここ、という鳴き声。まるでゲームの不思議のダンジョンを果てしなく巨大にしたバージョンのようだが、そろそろこの異界の景色も見慣れてきた。学園の雑木林にある『門』を潜ってすぐの大広間、通称「分岐路の広場」から2つ先の大部屋くらいまでなら、迅雷はどの部屋を指定されても地図なしで迷わず到着する自信がある。恐らくは他の生徒の多くも同じようなものだろう。
今日、これから始まるのはダンジョン実習のカリキュラム始まって以来初めての泊りがけの実習だ。日帰りどころか半日の滞在もしなかったこれまでとは探索する深度も内容の充実度も大きく異なる。むしろ、1ヵ月かけて全員が一定以上の水準でダンジョンに慣れてきたからこそ、今回のようにステップアップした実習が始まったと考えるべきだろうか。
もっとも、滑り出しはこの通り、あいにくの縮小ぶりだが。
「ふぉ~!とっしーとっしー、ホントに滝ある!写真で見るよりキレイだね!」
「千影は仕事なんだからあんまりはしゃいで注意緩めるんじゃないぞ。あ、ほらあっちで丘から滑り落ちそうな人が」
「わーっ!!危ない!?」
さすがは千影だ。落ちるのを見てから救出でも余裕で間に合った。千影の速さなら迅雷が教えなくても、悲鳴を聞いてから駆けつけることだって出来ただろう。しっかり先生たちに混じって働く千影を見て、迅雷は大義そうに頷いた。
え、千影に普通の人生を手に入れてほしいと考えているくせに働かせるのか、だって?そんなツッコミは野暮だ。別に迅雷は子供が給料をもらってはいけないとまでは言っていない。
まだまだ注意力不足の学生たちではヒヤリハットも少なくないが、それを込みでもグループCは順調に予定していたコースを進んで最初のチェックポイントである大部屋に到着していた。ここで実習目的のひとつである素材採集をしているところだ。
この大部屋で見つかる素材としては、分かりやすいところだと光る結晶で出来た小高い丘がいくつかある他、その光で育った植物がある。もちろん生物由来の素材でもOKだ。乱獲はいけないがせっかくなら狙ってみたい素材だろう。
「さて、俺もなんか集めないとな。せっかくなら面白そうなのが良いんだけど」
悩みつつも、迅雷はとりあえず思いつかない人はいないであろう光る結晶を確保することに決めた。グループの荷車から実習に合わせて学校が用意してくれたツルハシを借りてきた迅雷は、地面から頭を出した結晶の中から手頃な大きさのものを選んでツルハシを高く構えた。このツルハシ、なんと魔剣等と同じように『エレメンタル・エンファサイズ』に対応しているとのことで高硬度の物質でもしっかりと砕くことが出来るそうだ。
「こんな具合かな?よッ―――!!」
いつも使っている魔剣の『雷神』とは強度が違うので、ツルハシに負担がかかりすぎない程度に魔力を通し、ツルハシがほんのり黄色く光り始めたところで結晶に振り下ろす。ガイィィン!!という音が響いた。気が付いたときには、迅雷はなぜか地面に寝転がっていた。気付いたすぐ次の瞬間に、なにかがクルクル回って落ちてくるのが見えた。
「・・・?・・・うおぁああっ!?あっぶねええええ!!」
落ちてきたのはまだほんのり輝きを保ったツルハシだった。慌てて避けた迅雷の心臓があったあたりの地面に、ツルハシがドスリと重く突き刺さった。バクバクする心臓を手で押さえて落ち着こうとした迅雷は、今度はメチャクチャ手が痺れていることに気が付いて土下座のまま腕だけ万歳するような恰好になって悶えた。
「ぬぐおぉ・・・・・・!!なにコレ、くっそ硬ぇ・・・!!」
「あ、としくん見っけー・・・って、な、なにしてるの、としくん?新しい宗教でも始めたの?」
「ちゃうわい・・・。結晶をツルハシで砕こうとしたら返り討ちに遭ったんだよ」
「ああ、なるほどね。なんか他のとこでもいろんな人がとしくんと同じことで困ってたよ。学校のツルハシじゃムリだーって」
そういう慈音の素材バッグから見覚えのある仄かな燐光が漏れていた。見せてもらうと、やはり光る結晶だった。
「どうやって採ったの」
「しのは、ほら。魔法でスパーって」
「なんかズルい」
「えー、ズルくないもん。知恵と努力の勝利だもん」
慈音は唇を尖らせた。
慈音の話から考えれば、意外にもこの結晶を素材として持ち帰れる生徒は少なくなりそうだ。採集クエストを模した実習なのだから、当然より貴重な素材を手に入れた生徒の方がより良い成績をもらえるに違いない。
「なんかしーちゃんには負けたくないな・・・。なんとかして結晶を持ち帰らないと」
「えー?えへへー」
「なんでちょっと嬉しそうなの」
「だってなんか、としくんがしのと張り合おうとしてるのが珍しくって。まぁ?しのももうライセンサーですし?としくんのライバルとして不足なしってことでしょうかね!なははー」
「ぐぬぬ。おナメになってもらっては困るのですよお嬢さん。こちとらランク2なんですからねー」
慈音には今までもたくさん支えてもらってきた。だから迅雷は慈音のことを認めていないわけでは、もちろん全くないのだが、魔法士としての実力という点だけではどうしても一歩前を歩いていたいとも思っていた。なんということはない、男の子の意地みたいなものだ。慈音では力の及ばないことを颯爽と駆けつけ「これはこうしてこうだ」と一仕事してやれる、カッチョイイとしくんでいたいのである。そんなわけで、意地でも光る結晶を手に入れなければ気が済まない迅雷は、慈音を少し下がらせてから背負っていた『雷神』を躊躇いなく引き抜いた。
「ちょちょちょ、としくんなにする気!?」
「思えば前に『雷神』投げたら結晶に刺さったなぁ、と。てなわけで―――オラァ!!」
うっすらと甲高い金属音が大気をくすぐった次の瞬間、視界が白黒反転するほどの閃光が走った。
結晶どころか周囲の地面までゴッソリ吹っ飛んだ。只事とは思えない音を聞きつけて飛んできたグループCの仲間たちが目にしたのは、特大の光る結晶塊を天高く掲げて高笑いする迅雷の姿だった。なにやら素潜りで銛漁でもしたような雄叫びを聞いて、無駄な心配をしたと悟った者から順に作業に戻って行った。
「としくん、これはやりすぎだよ・・・」
「はい。ちょっと変なテンションでした。つーかこれデカすぎるな。どうしようか」
これも疾風と一緒に行っている魔力制御能力向上訓練の成果の現れだろうか。手頃な大きさに砕いたつもりが、思いのほか綺麗に斬れてしまって、迅雷の入手した結晶は米俵くらいのサイズだ。そもそも地表に見えていたサイズ感よりも大きかったのだが、抉れた地面を見れば、どうやら光る結晶の根は想像以上に地中深くまで伸びていたようだ。途中で切断された結晶柱に加えて、地表に顔を出していなかった結晶も多数発見出来た。
ここから改めて細切れにして運ぶという手もあるが、ここまで立派なものが採れてしまっては勿体なくてなかなか思い切りが付かない。少々容積を食い過ぎる点は申し訳なく感じつつ、迅雷は結晶をグループの荷車に積んでおくことにした。荷車といえば、さっきツルハシを借りてきたものが近くに置いてあったはずだ。ただ、誰かが移動したかもしれないので、迅雷は慈音にも結界魔法で御輿を作って結晶の運搬を手伝ってもらいながら荷車を探しに出た。
すると。
「いぃやぁぁぁ!なになになにこっち来んなぁぁああぁぁあっ!!」
呼んでもいないのに荷車の方から迅雷たちの方へ走って来た。なかなか迫真の悲鳴である。迅雷は知り合いではないが、確かあれは2年生の女子だ。
「としくん、上見て!」
慈音が荷車の上を指差した。宙を轟々と泳ぐ巨大なヒトデが荷車を押す女子生徒を追い回していた。それを見た迅雷は獰猛に犬歯を光らせ、一度は仕舞った剣を構え直した。
「そういやそろそろアレのテリトリーだったっけな―――!」
〇
相変わらず1年生とは思えぬ技量だ。口から足の先までが10mはあろうかという巨大なヒトデを、視認してから3秒で粉々にしてしまうとは。
「私たちの出番はいつになったらもらえるのかしらね」
「早い者勝ちなんじゃ?」
かつてはヒトデだったものは、キラキラと雪になって洞窟内を漂う気流と共に消えていった。勝利さえも鮮やかで惚れ惚れする。グループAが出くわし、戦闘になったモンスターはいまのところ全て天田雪姫の手によって始末されていた。
この頃はギルドの利用制限のせいで碌に強力なモンスターと戦えていない雪姫は欲求不満な状態だ。学園のダンジョンに出るモンスターもハッキリ言って雑魚に過ぎないが、一央市内の位相歪曲で頻繁に出現するモンスターよりはマシだ。雪姫は溜まった鬱憤を晴らすように次から次へと目が合ったモンスターを叩き潰していた。
だが、違う。こんなことをしていたって雪姫の心のモヤモヤは晴れやしない。別にダンジョンに潜れるならなんでも良いわけじゃあない。ダンジョンにいることは、目的から逆算して推測されるギリギリの最低条件に過ぎない。
「サイテーのクソガチャ。・・・けど、他に手もないし。・・・・・・縁でも信じるかなぁ」
自分自身に向けて、雪姫は心にもない励ましの言葉を捻り出した。なんなのだ、縁って。意味不明すぎて笑えてくる。いや、実際に独りでニヤニヤしたりはしないけれども。
ぎぃ、こここ、ぎぃ、こここ。トカゲたちが天井でさんざめいている。気を紛らわせるように食材になりそうな草でもないか探していると、また萌生が声を掛けてきた。
「どう?素材集めは順調かしら?」
「ハァ・・・」
「返事が溜息ってさすがに酷くないかなぁ!?まるで私が呆れられるようなことしてるみたいじゃない!」
雪姫はしぶしぶジト目を萌生に返した。言い分は理解出来るが、実際に雪姫は呆れてもいる。萌生の性懲りのなさには。どうやら萌生は雪姫のルックスに惹かれてなんとか仲良くしたがっているらしいが、あいにく雪姫には同性の先輩に愛でられる趣味はない。異性なら媚びを売って良いという意味ではないし、先輩とか後輩とかも関係ないが。
「植物素材なら、私もちょっと詳しいわよ?これまでの実習でいろいろ持ち帰って研究してるのよ」
「ダンジョンの植物を家の庭で勝手に栽培するのは違法ですけど?」
「分かっているわよ。学校の研究棟に部屋を借りてるの。許可だって学園を通して得ているんだから、心配無用よ」
萌生は細かいことに突っ掛かってくる雪姫に苦笑しつつ、勉強の成果を披露し始めた。植物魔法のスペシャリストとして、萌生はダンジョンで見つけた植物は片っ端から研究室内で育ててみて、利用可能性を調査していた。
「どこまでも続く洞窟の中なのに草がちゃんと緑色をしているのって面白いと思わない?」
「別に」
「でしょ、面白いわよね!」
さすがにイラっとしたので雪姫は萌生が紹介中の草を踏みにじった。萌生が悲鳴を上げるが知ったことじゃない。
とはいえ、萌生の知識量は確かだ。今日の実習で採集する素材にも、きっとあらかた目星を付けているはずだ。いかに雪姫が比類なき天才美少女(妹評)でも、知らないことは知らないので、タダで情報がもらえるというなら面倒でももう少し付き合ってみるのも良いだろう。
「あ、この赤い花あるでしょう?これはね、根っこが解熱剤に使えそうなの。まぁ成分量が少ないから良質な素材とは言えないのだけど」
「そっちの黄色いのは?」
「これは良い匂いがするわ」
使えん、とばかりに話の途中で興味を失う雪姫を見て、萌生は「あー」と曖昧に声を伸ばした。
「実のところ、あんまりここで採れる植物にはダンジョンの探索で役に立ったり、薬効の高いものがないのよね。あ、いま分かっている範囲では、よ?もちろんじっくり研究すれば良いものもきっとあるはずだわ。なにしろ環境が特殊なだけに珍しい固有種ばかりだから」
「そんなことより毒の有無とか分かんないんです?例えばそこのカリフラワーっぽいのとか」
「ああ、これ?毒はないわよ。ちょっと独特の臭みはあったけど食感は見た目通りでまぁまぁ美味しかったわ」
「そう、そういう情報」
「あ、あれ?なんだか食いつきが良い・・・!」
なにを隠そう、雪姫はここら辺に生えている雑草を今晩の食材候補としか見ていないのだ!雪姫に趣味があるとすれば料理くらいのものだが、その分、彼女が食に懸ける情熱は普段のぶすっとした雪女ぶりからは想像もつかないほどである。料理は雪姫が自分自身に気紛れを許す数少ない行為であるとも言える。
さて、現代ビジネスは供給側と需要側が一体となったフィードバックシステム、すなわち売り手がお客様のニーズを知るところから始まるものだとも聞く。大変貴重な雪姫の反応を得た萌生は、それはもうウッキウキで一度紹介した植物まで立ち返り、可食性の説明を始めた。一見して見分けのつかないような雑草を端から端まで食レポし尽くす萌生の周りには、いつの間にか物珍しさにグループAのみんなが集まっていた。
「ふぅ~。とりあえずこの辺りに生えている子たちについてはこんなところね!どうだったかしら、天田さん?少しは私のことも見直してくれたでしょう?」
「・・・・・・」
「・・・天田さん?どうかしたの?」
萌生が渾身のドヤ顔をしたのに、雪姫は明後日の方角へ訝しげな視線を送っていた。あの雪姫に限って呆けているはずがないと思った萌生はひとまず雪姫の見つめている点に目をやった。しかし、そこにはただの別の部屋へ続く通路の天井があるだけだ。強いて言えばそこそこ立派な結晶が生えていたり、六本足トカゲがいるくらいの、回れ右をしても見分けのつかない景色である。
「いや・・・別に」
―――気には留めておくか。
雪姫は心の中でそっと呟いた。
〇
「なにチンタラやってんだよ蓮太朗。こんなもんこーすりゃ終わんでしょ」
ぎぃ、こここ、ぎぃ、こここ。パキョ。環境音に混じって小気味良い音が大部屋に響いた。明日葉が拳で光る結晶を叩き割った音だ。
「(やはりゴリラか・・・いや、ゴリラ程度の筋力でこんなこと出来るだろうか?)」
「あ"?」
「いえ、なんでも・・・な、なんでもな"い"でずッ!!」
シメられた蓮太朗が消え入るような声で「大雑把なくせに耳だけは良いな」とぼやくとトドメの踵落としが飛んできた。
鉄骨でも落としたような痕を見て、急激に汗が滲む。九死に一生を得た蓮太朗はジャージについた土を払い落としつつ、明日葉の割った結晶を手に取った。最初に素材集めを行った大部屋で蓮太朗が壊せず断念し、水量の多い現在の大部屋でより強力な魔法でリベンジをして、それでもなお採取に20分は見込まれたというのに。
「一体どうしたらそこまで強力な威力が出るんですかね。人体の神秘ですよ」
「そりゃあ、骨まで魔力で固めておけば多少の無茶はきくんだって言ってんでしょ。蓮太朗も男ならこんくらいパワーないとモテねーぞ」
「そういう発言はセクハラですよ」
「は?なんで?」
そもそも、春先にあった体力テストの握力測定で2年生男子の最高記録は焔煌熾の85kgだ。体力テストなのでもちろん『マジックブースト』はなしだ。この記録は全学年で見ても堂々の男子1位でもある。これだけあればリンゴを片手でつぶせる。すごい。そして、明日葉の握力は100kgである。体力テストなのでもちろん(以下略)。これでは明日葉の発言を真に受けるとマンティオ学園の男子は全員非モテ扱いだ。非リア勢にはさぞかし過ごしやすい場所に違いない。
ちなみに、『マジックブースト』ありの明日葉の握力は推定1~2tほどあるそうだ。なぜ推定なのかと言えば、そんな握力を正確に測れる器具が学校にないからだ。多分、仮面ライダー1号を余裕で超えている。怪人かな?握力は全身の筋力と正の相関関係にあるそうなので、そんな明日葉の繰り出すパンチの凄絶さは言わずもがなだ。嗚呼、かのマイク・タイソンがもっと魔法の腕に秀でていたならば世の男たちの面目も保たれていただろうに。恐らく生身の拳で繰り出せる最大瞬間衝撃力で明日葉に勝てる人間はまずいないだろう。
「はぇ~。明日葉ちゃん、やったっけ?すごいパンチ力やん。ギネス取れんで」
グループBの保護・監督役をしていた空奈は、見回り中に面白いものを見せてもらったので足を止めて明日葉に拍手を送った。
「ふむ、ちょっと失礼」
「のわっ!?んな、なにすんだよ冴木サン!?」
突然空奈に二の腕をつかまれた明日葉は素っ頓狂な声を上げた。
「ええ筋肉しとるけど、不思議なもんやわぁ。まだまだ女の子の腕の範疇にしか見えへん。体の使い方が上手なんやろか。それとも魔力制御?」
「ちょ、はな・・・うぉ!?なんで!?振りほどけないんだけど!?なんで!?」
明日葉は自分以上の怪力女が登場したと思って目を白黒させているが、なんということはない。空奈が上手く関節付近を掴んで押さえているだけだ。
「で、こっちが蓮太朗くん?」
「あ、はい。清水蓮太朗、2年です。生徒会副会長でランク3です」
「2年?その割に明日葉ちゃんと仲ええやん。・・・あ、もしかしてコレやったりする?」
「それもセクハラだ!というか天地がひっくり返ってもありえません!僕に失礼だ!!」
なんともはや照れ隠しの気配もない。全力で怒鳴られた。空奈は傷害事件に発展する前に警察官として明日葉を取り押さえた。
「堪忍、堪忍なぁ、蓮太朗くん。しかし、ほんならアレやね。やっぱりさすがは天下のマンティオ学園や。2年生でもここまで出来るなんて」
蓮太朗と同じ水魔法の使い手である空奈から見ても、蓮太朗の技量は高校生の域を既に脱しているように感じられた。それに、音楽だろうか。魔法のビジュアルにテーマ性を感じられる点も悪くない。空奈が同じ歳の頃はどんなものだったか、あんまり憶えてはいないがもっと乱暴な魔法しか使っていなかった気がする。
「蓮太朗は2年の中じゃ頭ひとつ抜けてるんスよ。高総戦ときも3年連中に混じって上位争いしてるくらいだし」
「柊先輩・・・僕のことそんな風に―――」
「まぁアタシの敵じゃないスけどね~。ゲンコツ構えただけで腰が引けるヘタレだし」
「柊先輩、僕のことそんな風に・・・ッ!!」
やっぱり仲はええんやな、と空奈は微笑ましくなった。
空奈はその後もしばらく2人と一緒に行動しつつ、学校生活の話を聞いていた。授業はどうだとか、食堂が3つもあることとか。しょーもないことに文句を垂れることさえなんだか青春っぽくて、こんな風に表現すると年寄り臭くなるが、空奈には眩しくて堪らない。力を振りかざして孤独を誇るより、こうしてなんだかんだ言い合いながら仲良くやっているヤツの方が100倍格好良かったのだ。
明日葉曰く、マンティオ学園には特別魔法科の頂点に君臨する四天王と呼ばれる生徒がいるらしい。明日葉もそのうちの1人で、残り3人は萌生と煌熾、それから雪姫で、蓮太朗は万年補欠野郎なのだとか。蓮太朗曰く、四天王なんていうのは明日葉の勝手なランキングに過ぎず、実態のない括りでしかないのだとか。
「ええやん、四天王。ほんならウチはチャンピオンな!・・・と、もうこんな時間や。ほなそろそろ次の大部屋行こか」
「・・・あのさ、冴木サン」
「なに?」
「気のせいかもしれないんだけどさ―――」
痺れを切らしたように、明日葉は天井を見上げた。