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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect23 ”波と粒”

 10月も、はや折り返し。

 一央市ギルド登録者に降りかかる連日の『ブレインイーター』被害を重く受け止めたIAMOにより、20名の魔法士が派遣されて、同ギルド主導の捜索活動に加わっていた。それ以前から捜索活動に協力していた地元のアマチュア魔法士たちの本音としては、たった20人ぽっちかよ・・・と残念というか本当に重く考えてくれているのかIAMOを疑いたい気持ちがあったのだが、実際に不服をぶちまけるような者はいなかった。

 魔界との小競り合いが続いている現状をなんとか悪化させずに持たせ続けるだけでも、IAMOは相当のリソースを割いている。それに、そもそもIAMOは一連の事件の初期から『ブレインイーター』対策に十分取り組んでいて、その上での今回の派遣だ。人手を貸してくれるだけでも感謝すべき状況であることはみんな理解していた。

 もっとも、こうして一央市ギルドで不和が起こらない一番の理由は、神代疾風で間違いないだろう。IAMOの職業魔法士と一央市のアマチュア魔法士たちの考え方の違いや状況の認識をしっかりと理解して、両者の橋渡し役を買って出てくれた貢献は極めて大きい。ランク7の昇格要件に優れたリーダーシップが含まれていることも伊達ではないわけだ。


 そうして今日まで捜索活動は規模を広げながら続き、そして未だ『ブレインイーター』には翻弄され続け―――気の休まらない日だけがずっと繰り返している。IAMOの先行調査や『DiS』など一部の民間魔法士が提供した情報の蓄積によって、当初と比べれば『ブレインイーター』と遭遇して生還出来る確率は大幅に上がっていたが、それでも討伐も捕獲も出来ないままに犠牲者数だけがじわじわと増えていく。小遣い稼ぎや頼まれ仕事で適当なクエストをこなす魔法士たちで賑わう一央市ギルドの日常風景からはとっくにかけ離れていて、現場はまさに戦場の様相を呈していた。

 

 しかし、そのような状況でも、出来る人間というのは気分を切り替えることを忘れない。

 先週の中頃にようやく利用が再開された一央市ギルドの魔法戦用大型アリーナに、荒々しくもどこか快活で、ことこの場においては小気味の良い剣戟の音が響いていた。30分ほど続いた試合(と呼べるかも分からないが)は、一際甲高い金属音を最後に、一度落ち着きを迎えた。

 きぃぃぃん・・・と、耳のくすぐったくなる残響に混じって少年と少女の疲れ切った呼吸があった。


 「ちくしょう、はあ・・・朝からずっと、はぁ、捜索活動手伝ってさっき、はぁ、帰ってきたばっかだろっ、はぁっ・・・」


 「ふはは。鍛え方が違うからな。俺は普通に三日三晩寝ず食わず戦い続けられるぞ?ましてこうして毎日自分の家でゆっくり休めてるんだからこの程度でバテるわけにゃあいかないさ」


 捜索活動から帰ってきたばかりの疾風に、迅雷と千影は2対1で挑んだが、やはり一発のジャブさえも食らわせられなかった。疾風と一緒に捜索活動に参加している千影は最初からくったりしていたというのに、疾風はこの調子である。年齢を考えたら普通逆じゃないのか。父親の超人ぶりに呆れた迅雷は剣を投げ出してアリーナの床に大の字で倒れ込んだ。その隣で千影も地団駄を踏む。


 「ムキーっ!!この程度ってなにさ!!もーやだこんなバケモノじみたオッサンばっかの世界やだー!!」


 神代疾風とかギルバート・グリーンとか岩破とか、まぁ、その他諸々。


 「頼れるおじ様と言いなさいこの野郎。とはいえ、今日の連携は良かったと思うぞ。ダンスの成果が出て来たんじゃないか?」


 疾風がそう言うと、迅雷は体を起こして千影と互いの顔を見合わせ、それから疾風の言葉を待っていましたと言わんばかりのドヤ顔になった。


 「・・・どうしたお前ら?急にニヤニヤして」


 「フッ。まぁ父さん、まずはコレを見てくれよ」


 迅雷はスマホで一本の動画を再生した。最初に映ったのは、自宅の庭で互いの手を取り神妙な面持ちで見つめ合う迅雷と千影だった。


 『としくん、千影ちゃん。いくよー』


 撮影者は慈音のようで、彼女の声かけの数秒後、爆速のダンスミュージックが流れ始め、それに合わせて迅雷と千影も地面を蹴った。

 もはやダンスとは思えない人外じみた動きだ。しかし数秒後、音楽が止まると共に2人ともビシッとダンスの終わりらしいポーズをキメていた。そして、喜び抱き合う2人と慈音の拍手で動画は終了した。

 それを見せられた疾風は、ほう、と唸る。


 「つまり?」


 「5倍速オクラホマミキサー、クリアしたぜ!」


 「まぁ?ボクととっしーの絆に掛かればこれくらいちょちょいのちょいだったけどね!」


 「おお、やったな!この頃はダンス練習の方は見てやれてなかったが、ちゃんと続けていたようでなによりだ」


 疾風に頭を撫でられ、千影はすっかり機嫌を持ち直していた。迅雷も恥ずかしがって疾風の手を払うような仕草はしつつも、満更でもない様子だ。


 「で、父さん。前に5倍速まで達成したら次のアドバイスしてくれるって言ってたよな」


 「ん?ああ、そういやぁな。まぁ、今日はもう遅いし帰りながら話すとしよう」


 さっきも言ったが、疾風と千影は『ブレインイーター』の捜索活動から帰ってきたばかりだ。毎度捜索は人間界での18時頃には切り上げるようにしていて、今日もそれは変わりない。現在時刻はちょうど夕飯時だ。いまごろ家では真名あたりが温かいご飯を作って待っていることだろう。

 3人がアリーナを出ると、子供らに稽古をつける疾風の様子を見ようとアリーナに寄っていた捜索活動の仲間たちが声を掛けてきた。その中には、一央市ギルドを代表するパーティーである『山崎組』のリーダーである山崎貴志の姿もあった。


 「疾風、あんまり子供たちをいじめるもんじゃないぜ?天下の《剣聖》が大人げない」


 「むしろこいつらにはこれくらいで丁度良いんですよ。なぁ、迅雷」


 「助けて貴志さんいじめられてるんです」


 「オイこら迅雷」


 「へっ。しっかし、とし坊と千影の連携がとんでもねぇのは見てて分かったよ。俺1人で相手しろって言われたらもう手には負えそうにないな。まず動きが目で追えねぇ」


 一央市の魔法士で知らぬ者はいないベテランに褒めそやされて迅雷と千影は堪らず頬を緩めた。

 それにしても、まぁやはり疾風がいると擦れ違うギルド職員や魔法士たちのほとんどが声を掛けるなり、最低限会釈なりはしてくる。それも悪い意味ではなく、自然で気兼ねない様子だ。それだけでも疾風が一央市の魔法士たちから信頼と尊敬を集めていることが窺えて、迅雷はちょっぴり鼻が高かった。

 しかし、調子が良いのも廊下を歩く間だけ。帰り際、大型アリーナを使い終えたことを伝えるためにギルドロビーに寄ると、受付から声を掛けられた。


 「あ、迅雷くん。今日はアリーナぶっ壊してないよね?」


 「その節は本当にすみませんでした」


 甘菜に伸びた鼻っ柱を思い切りへし折られ、迅雷はその場で土下座した。そもそも先週までギルドの魔法戦用アリーナが使えなかったのは、8月末に迅雷がギルバート戦の最後にぶっ放した攻撃で建物の大部分が吹っ飛んでしまったせいだ。修繕費用のことを考えると気が遠くなる。ギルドの設備費は上部組織であるIAMOの基金と日本の税金から出ているので、将来はせめて高額納税者になって償おうと迅雷は心に誓うのだった。


 「まぁそうしょぼくれるなよ、迅雷。千影の命と比べれば安いもんだろ?」


 「そんなのは当たり前だろ!・・・けどなぁ、甘菜さんゼッタイこれからもネタにし続けるつもりなんだろうなぁ。はぁ・・・」


 急に自分の命の価値について熱く断言された千影はちょっぴり居心地が悪そうだ。帰り道は疾風の車なので照れても逃げ場などないが。


 

          ●



 夕飯を終えた迅雷は、珍しく能動的に机に向かっていた。その傍らには千影も一緒だ。2人がノートにまとめているのは、疾風が5倍速オクラホマミキサーを達成した2人に新たにくれたアドバイスの内容だ。


          ○


 「迅雷、5倍速を成功させるために、お前はどんな工夫をした?気付きとかコツとかでも良いぞ。なんか挙げてみろ」


 迅雷はあまり体を動かすことにロジックを意識しないタイプだ。元から運動神経に関してはズバ抜けていたこともあり、体操や球技、水泳など大抵の動きはあれこれ適当に試す内にいつの間にか出来るようになっていた。もちろん、剣術や魔法戦についてもそうだった。実際のところ、それでも世の中十分に通用する。深く考えず、とりあえず順当に経験を積んで出来ることを増やしていけば、あと10年、20年でランク6も夢じゃないだろう。それくらいのポテンシャルはいまの迅雷にはある。

 しかし同時に、迅雷は戦いの中での立ち回り、行動にロジックを付与することでなにが起こるのかを身をもって思い知った。ジャルダ・バオースの緩急を重視する戦い方を参考に、相手の予測を裏切るための新技『多重雷撃』を考案したように、迅雷自身もロジックの重要性を意識し始めていた。


 とはいえ、まだそれも始めたばかりで慣れてはいない。日々のダンス練習にまでロジカルシンキングを持ち込むことまでは思い至らなかった。

 疾風の質問にしばらく悩んだ迅雷は、得心はしかねる様子ながらもひとつ答えを出してみた。


 「千影の動きをより細かく予測した・・・とか?」


 「フーム・・・まだなんとなくの領域からは出てないらしいな。千影は迅雷の変化、なにか気付かなかったか?」


 「んー。とっしーがステップをちょっとアレンジしてたかな」


 「正解だ」


 迅雷は言われてみて、改めて動画を確認した。あまり細かい動きまで見えたものじゃないが、撮影当時の記憶とも照らして頭の中で5倍速を踊るためにステップを繰り返す。


 「・・・あ、確かに等倍のときより合計の歩数が少なかったかも」


 「アレちょっと振り付けごまかしてたよね」


 「う、うるさいな。結果ビシッと決まったんだから良いじゃん!」


 千影はからかったが、疾風の反応は真逆だった。


 「大正解。別に誤魔化してたって、それで狙った成果が出せるならなんの問題もないんだ。だから、最初に言っただろ?少しはアレンジしても良いって」


 それから疾風は少し難解かもしれないが、と前置きして、とある物理現象の話を持ち出してきた。


 「2人は『群速度』と『位相速度』って言葉は聞いたことあるか?」


 「なにそれ」

 「あるよ」


 「えっ」


 「え?」


 なんだか迅雷だけが無知みたいだが、普通はそんなものだ。


 「まぁ一応量子力学の基礎で学ぶ概念だからな。高校じゃさすがにやらんか」


 「りょ、量子力学・・・っ!なんかテレポート出来そうだな!もしかしてそこを理解したら10倍速でも余裕で踊れる的なパターン!?」


 「バーカ。そんなわきゃねーだろ。今回俺が教えるのは、群速度と位相速度の概念までだ」


 「前置きは良いから早く教えてよー」


 千影は純粋に食い気味だ。知っている、とは言ったが、千影の物理学の知識は古典力学の範疇に含まれるものでしかない。これでも学問には強い興味がある千影にとっては、気になる話題だったわけだ。


 「おっほん。え-、まず『波』ってあるだろ?波動。例えば水面に石を落としたら波立つみたいに、波ってのは発生した場所から、なんかまあ、正弦波・・・SIN関数・・・とにかく波の形を持って広がっていくのは分かるはずだ」


 まだ高校1年生の2学期に入りたての迅雷は疾風の繰り出す謎の単語に眉をひそめるので、段々と疾風の説明は噛み砕いたものになっていった。とはいえ、ここまで有り体な表現を使っていればさすがにこれを想像出来ない人はいるまい。そして、スマホに衛星放送にレーダーに―――このご時世にまさか”電磁波”という単語を知らない人もいないだろう。


 「電子が粒子と波の2つの特性を持つって話は、迅雷も知ってるだろ?観測によってどうこうって、前にはしゃいでたもんな」


 中二病御用達の有名な物理学の知識だ。赤面する迅雷。若気の至りってやつだったのだ。もう許してやってくれ。

 まぁ念のために少し掘り下げて説明しておくと、我々が普段からやれ電子レンジだの電子マネーだのと気軽に名前を使っている電子さんは、粒子である。その認識に間違いはない。人間界に存在する中で最も軽い原子が水素原子(質量1.66×約10のー27乗キログラム、馬鹿馬鹿しいが敢えて数字で書くと0.00000000000000000000000000166 kg)であるが、電子はなんとビックリ、そのさらに約1800分の1程度の質量しか持たない、それはそれは小さな粒子だ。

 さてしかし、今日我々の多くがどこかで目にしたことがある原子モデル―――土星モデルと呼ばれる、原子核の周りを電子が回っているモデル―――をうまいこと説明しようとした偉大なる先人たちは死ぬほど頭を悩ませたわけだ。その末に導き出されたのが物質波、すなわち電子が動く時に、その動く様子が波の形になるという事実だった。

 たぶんその手の専門家の方々がこれを読んだときにとんでもない語弊だらけだと怒るかもしれないのだが、敢えて恐れず要約すると、こうイメージして欲しい。電子の粒は、メリーゴーラウンドに乗った諸君が一本の軸の周りを馬と共に上下に揺れながら一定の周期で回るように、原子核の周囲を回っているわけだ。


 ここでようやく群速度と位相速度の概念が登場する。

 イメージしやすいように、いま一度水面の波を思い浮かべてもらう。その波は、山と谷が交互に繰り返す形をしているだろう。群速度とは、大雑把に言えばそういう形を持つ波の塊が進む速さのことである。

 一方で、水の波はよく見ると無数の水分子が集まって出来ている。位相速度とは波の形を構成する、水分子ひとつひとつの速さのことだ。もう少しイメージしやすそうな表現としては、そう、仮に波の中の水分子ひとつに赤い色を塗ったとしよう。赤く染まった水分子が動く速さだ。


 この2つの速度の概念を表す際によく用いられる図がある。いま、手元の白紙に諸君は円(楕円でもまったく問題ない)を描いて、その直径を示す線を引いたとしよう。そして、次に諸君はその直径の線の始点から終点に向けてとある波形を描き加えた。ただし、その波の全ての頂点は必ず円周にくっついていて、なおかつ終点できちんと直径の線で止まるものとする。

 そのような図を作ったら、描いた順序とは逆に、最初に描いた円が、波形の頂点をなぞって波を包絡するひとつの大きな波形となっているということだ。群速度はしばしばその円(包絡波)の動く速さとして説明される。実は世の中の波の大体は位相速度と群速度が異なるらしい。波そのもの、つまり包絡波と、それを作っている粒子、つまり赤く染めた水分子の動く速さが違うのだ。

 まぁ、ぶっちゃけそんなことをいきなり言われてもワケが分からないので、ひとまずはいま説明した概念図のイメージが出来ればOKだ。


 「まぁ・・・図は分かった。要はこんな風な波の塊があったとき、それを包むような周波数の低い波があるんだよな」


 千影からもいろいろ指南を受けつつ、迅雷はググって出て来た画像を理解した(つもりになった)。


 「その図、パッと見たら激しく動く波に大きな波が被さっているワケだろ。で、内側の激しく動く波が千影で、大きい方が迅雷だ」


 「分からん」


 「つまりボクがとっしーに押し倒されて激しくイかされてるって認識でOK?」


 「おまわりさんこの人です」


 おまわりさんはいま運転中なので手錠を掛けられません。残念。


 「いまので分かれとは言わないさ。まぁ、A地点からB地点に行くまでの間に千影はたくさんの行動を取っていると思ってくれ」


 「激しい波のそれぞれの頂点で千影がなんらかの行動をしている、的な?」


 「そうそう。で、そうだとすると迅雷はどうなっている?」


 「一応、全部の頂点にはくっついてるけど」


 「お、勘が良いな。つまり迅雷はその包絡波のように千影の行動の大枠だけは確実になぞれば良いんだ。例えば、目の前のモンスターに接近するために千影はジグザグ動きながら5歩走るけど、迅雷は同じ距離を1歩で詰めて、結局は同時に攻撃を命中させる、みたいにな」


 スタートとゴール、そしてそれを結ぶ大まかなルートを一致させれば、迅雷と千影のスピード差はあってないような架空の概念と化して行動が同期する。その説明を受けた千影は少し得意気な顔をした。


 「それだったらボクたちもう出来てるじゃん!」


 「アホ。まだまだ甘いから言ってんだ。素直にありがたく聞きなさい。5倍速の成功はこの考え方を理解するための第一歩だったんだ。これからはこれをキッチリ意識して、積極的にステップをアレンジしながら10倍速を目指してみろ」


          ○


 というのが、疾風のくれたアドバイスだった。まだ分かったような分からないような感じだが、忘れる前に迅雷は話の内容をノートにまとめてみた。

 疾風は敵に近付くための歩数を例に”行動の大枠をなぞる”ことを説明したが、実際はもっと細かく、様々な場面に当てはめることが出来るのだろう。

 そして、ここまでの話ではあくまで迅雷が千影に合わせるためのイメージという側面が強かったが、そればかりではない。逆に迅雷が取る行動を、千影が手数でサポートしてやるためのイメージでもある。

 とにかく、重要なのはスタート・ルート・ゴールの3つを一致させること。言い換えるなら、目的・手段・結果の全てを常に同期させるということだ。

 疾風は、特に目的と結果の決め方が難しいと言っていた。例えば、敵がめちゃくちゃ弱ければ最初から倒すことだけ考えても良いだろう。だが、相手がギルバート・グリーンだったらどうだろう。倒そうと言ってワンアクションで倒せる相手ではない。魔法を封じるとか、なんとかして足を攻撃して動きを止めるとか、作戦が必要だ。つまり、目的と結果の組み合わせは作戦の手順の分だけ存在すると言える。そして、魔法を封じる作戦を取る場合、その作戦を成功させるために必要な手段を成功させるための作戦、さらにそれを成功させるための作戦、と細分化することも可能だ。しかし、あまり細分化してしまうとせっかくの”大枠をなぞる”という前提が崩れてしまう。


 一手の誤りが致命的になり得る強敵相手にどこまで目標設定を大まかに出来るか。

 

 全体の最終的な結果に向けて、どう作戦を立てて、その手順をどこまで細分化するのか。それもこれも、結局は迅雷と千影がリアルタイムでどれだけ思考を共有して互いの役割を定めるかが肝となる。


 「ボク、もっととっしーのこと知らないとだね」


 「お互いにな。それに、事前にこういう状況ならこういう作戦にするとか、大まかに決めておけば実戦で考える負担を減らせるかも」


          ○


 先ほど世の中に存在する波のほとんどは群速度と位相速度が一致しないと言ったが、ひとつだけ2つの速さが一致する波がある。真空中を伝搬する電磁波だ。そこでは波の塊は決して形を崩すことはない。どこまで進んでも美しく元の形を保つことが出来る。逆に言えば、光はガラスや透明フィルム、果ては空気であっても、なにかがある場所を通るとそれに惑わされ、気を散らせてバラバラに崩れてしまうかのようだ。

 迅雷と千影も、同じだ。どんな状況でも互いを信じて迷わなければ、きっと千影は決して迅雷を置いてけぼりにせず、迅雷も決して千影に置いていかれない。それでいて誰にも負けないことだろう。

 信じるなどと簡単に言うが、容易なことではない。いまの2人はどちらかが怪我をすれば、それだけでも不安になって波は崩れるだろう。疾風でさえ勝てなかったという皇国の将軍を前にすれば、千影が焦って先行して迅雷が置いていかれるかもしれないし、迅雷が力任せな攻撃を繰り返して千影がお膳立てをする合間を潰してしまうかもしれない。

 まるで真空のように、何事もないかのように、ただ徹底的に互いの行動のためだけに思考する。それが、疾風が伝えたかったいずれ2人の目指すべき理想型だ。


しれっと荒唐無稽なことを要求するあたり、ランク7みが滲み出ている。


というか、挿絵なしで群速度とか位相速度を説明するのって不可能じゃね?と書いてから後悔した。作者の理解度では全然うまい例えが思いつかないんだもの。でも、雷魔法を完璧にコントロールする疾風が包絡波の図を説明しようとしたときに最初に思いつくのもこれなわけで。大人しく許して図はググってください。

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