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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect20 ”考察:ブレインイーターの正体”


 『こんばんは。10月10日月曜日、午後5時。「ニュース・WHAT」の時間です。・・・いやぁ、今日は全国的に雨模様ということで、急に冷え込みましたねぇ』


 『そうですね、せっかくの体育の日だったので少し残念だった方も多いのではないでしょうか。でも、こういうときは切り替えて読書の秋というのも良いですよね』


 ホールに設置されたテレビでは、夕方のニュース番組が始まった。

 まず客が来ないこの時間帯は、夜のピークに向けた準備に専念出来る。天田雪姫はいつも決まって、この時間に「ニュース・WHAT」を聞きながら厨房で仕込み作業をしている。まぁ、雪姫が好んでこのニュースを見ているわけではなく、店長がいつも決まってこのチャンネルばかり流しているだけなのだが。どのみち重要なニュースはどこの局を選んでも絶対にやっているから気にすることでもないわけだ。

 雪姫は妹の夏姫と二人暮らしという事情で、一応は家長なので、いつもアンテナは高く張っている。情報番組のチェックもその一環として怠らないようにしていた。大抵の場合はスマホの検索アプリにオススメされた記事の中から見たいニュースだけ見て済ませてしまう、いまどきの高校生にはきっと珍しいタイプだろう。

 もっとも、必死にニュースをチェックしたところで大半のトピックは雪姫の生活にそれほど影響を与えるようなものではない。例えば酒税とかタバコ税とか。だから、必ずニュースを見ると言っても、聞き流して「ふーん」くらいに、頭の隅に留めておく程度だ。

 

 ただ、今日に限ってはそうならなかった。


 オープニングのしょうもない世間話を済ませたアナウンサーが、突然こんなことを言ったからだ。



 『今日お届けするニュースはこちらです。まずは、世界を震撼させた謎のモンスターの姿が明らかになりました』



 雪姫ははたと挽肉をこねる手を止めた。


 いま、ニュースはなんと言った?


 謎のモンスターと言えば、この時期では十中八九『ブレインイーター』のことを指すフレーズだ。IAMOの精鋭魔法士ですら影も形も掴めずにいたそうだが、遂に作戦が成功したということだろうか。


 実に気になる。


 あくまで姿が明らかになったとしか言っていないので、きっとまだ討伐は出来ていないはずだ。ならば雪姫にもまだ遭遇する危険(チャンス)があるわけで。


 これは見ない手なんてない。


 雪姫は大量の挽肉の入ったボウルを持ったまま厨房を出た。


 「あら、雪姫ちゃん。テレビ?」


 「まぁ、はい」


 ホールでは掃除を手早く終えた店長の奥さんが先にテレビの真ん前の席で休んでいた。まだ『ブレインイーター』の写真や映像は画面に出ていない。雪姫が見る前に切り替わってしまったのかもしれないが、どうせすぐにまた映すはずなので、雪姫は立って作業を続けながらニュースの内容に集中した。

 話では『ブレインイーター』が現れたのは、日本時間で昨日の午前2時から4時頃で、場所は83番ダンジョンだったという。


 (・・・・・・ん?83番?)


 雪姫はなんとなくその数字が引っ掛かって首を傾げたが、すぐに理由を思い出した。甘菜がしつこく勧めてきた、温泉地開発クエストの行き先がそうだったはずだ。そして、それはつまり―――。

 雪姫は急に胃が締め上げられるような苦しさを覚えた。

 しかし、すぐにキャスターは今回の遭遇で死者はなく、負傷者もいるが命に別状はないということを伝えた。キャスターや解説のために呼ばれた専門家が少し驚いている様子なのは、これまでの『ブレインイーター』の被害をよく知っているからだ。なにしろ、『ブレインイーター』と遭遇した魔法士パーティーのうち、1人の死者も出さずに逃げ切ることの出来た例は、いままでひとつとして存在しなかったのだから。

 胃痛は治まっていた。心底安堵した。隠す必要はない。本当に、ホッとした。誰か1人でも死んでいようものなら、きっと雪姫はあのクエストの受注を拒み続けたことを後悔していた。


 「あれ、雪姫ちゃん。この『DiS』ってパーティ、雪姫ちゃんの学校のお友達じゃなかった?」


 「友達じゃないです」


 「へー、すごいわねぇ・・・。写真撮ったのもその子たちなんだって!」


 「写真―――」


 テレビには『DiS』が撮影したという『ブレインイーター』の写真が映し出された。


 背後でガシャンという音がして、()()()はビックリして振り返った。

 雪姫が手に持っていたボウルが床に落ちて、せっかく掃いたばかりの床をよくこねられた肉が汚していた。


 雪姫はボウルを落としたことにも気付かない様子で、心配した奥さんが名前を呼んでも反応しない。

 

 雪姫は、まるで魅入られたように、画面に映った黒い化物を見つめていた。



          ●



 夜になって、迅雷はようやく家に帰ってこられた。当然、千影と慈音も一緒だ。

 帰って来て一番に、迅雷たちは玄関まで飛んできた直華にメチャクチャ心配された。これからどこかの王様に会うのかと疑うほど全身を念入りにチェックされた迅雷は、目を腫らしている直華の頭にポンと手を置いた。


 「電話でだいじょーぶっつたじゃん」


 「でもぉ・・・。腕とか包帯してるじゃん」


 「これは逃げてる最中に枝に引っ掛かってちょっと切っただけだよ」


 「・・・うん。・・・ホッとした。ホントに」


 「よしよし」


 自然な流れを確信した迅雷は、優しく直華を抱き寄せ、背中を撫でて落ち着かせてやった。鳩尾より少し上に当たる柔らかい感触にそっと心を躍らせていたら、千影に背後から殴られた。


 「ぐぁッ!?デ、デメェ"、ぞご反"則"だがら"ッ!!」


 「とっしーが悪いんですぅー」

 

 ボクシングでは背中側から腎臓を殴る行為をキドニーブローと呼んで実際に反則技としているようだ。とりあえず超痛そう。結局迅雷の近親セクハラに気付いていない直華は千影の暴挙にあたふたしていた。

 居間に戻れば、まず慈音が両親に抱き締められていた。直華の手前、多少は冷静でいようとしていたようだが、やはり一人娘が『ブレインイーター』と遭遇したとなれば気が気でなかったのだろう。


 「ありがとうね、とし君、千影ちゃん。慈音ちゃんのこと守ってくれて」


 「晴香さん、しーちゃんだってもうランク1ですよ。今日はしーちゃんいてくれなかったら絶対に助かってなかったくらいです」


 「と、としくんそれは褒めすぎだよぉ!だってあれ全部真牙くんの作戦だったし!?」


 「それだけしーちゃんのことアテにしてるんだよ、みんな」


 迅雷は、それからキッチンで普通に子供たちの夕飯を準備する真名を見つけて声を掛けた。


 「ただいま母さん。・・・父さんは?」


 「おかえり。父さんなら縁側で電話中」


 「ふーん・・・あ。それで母さん、風呂入れてくれてた?PINEはしてたんだけど」


 PINEとは、まぁ、スマホを持っている日本人ならみんな使っているチャットアプリだ。


 「入れたわよー。臭うから早く入っちゃいなっさーい」


 「え、そんな臭う!?」


 リビングの真ん中からキッチンまで届くらしい生き物除けの残り香に、迅雷だけでなく千影と慈音もギョッとして自分の臭いを嗅いだ。慣れてしまった鼻では分からなかったが、とにかく臭いのだろう。

 不眠不休でダンジョンから脱出し、その後も病院で検査を受けたり、『ブレインイーター』に関する報告資料のためにギルドで聴取を受けたりで疲れ切っていたが、まずは風呂だ。汗と悪臭をどうにかしなければ飯は食えないしベッドにも入れない。


 「待ってとしくん。えっと、ジャンケンで入る順番決めよう!!」


 「ほう・・・?俺は結局温泉にも入れずじまいだったんですが?」


 「あ、ボクはとっしーと一緒に入るんでジャンケンはパスでいーよ」


 「んなぁっ!?じゃ、じゃあしのも一緒に入りますぅー!!ね、それなら文句ないよねとしくん!」


 「わぁーい、じゃあもうそれでー」


 深夜テンション絶賛継続中の少年少女たちだったが、脱衣所で服に手を掛けた瞬間ハッと我に返るのだった。


          ○


 子供たちは風呂から上がるなり、食事もおざなりにして早々に床に就いてしまった。

 彼らの無事を祝う晩酌をしながら、慈音の両親、雄造と晴香は感慨深そうな面持ちで溜息を吐いた。

 迅雷に褒められて緩みきった表情をする慈音を見たとき、感動にも心配にも似た、ふわっとした寂しさを覚えた。こう、形容しがたいのだが、ただ少なくとも、慈音が遊びや付き合いのつもりで『DiS』にいるわけではないということだけはハッキリ理解した瞬間だった。


 「慈音がマンティオに行くって言い出したときはどうしようかと思ったのに、いまやランク1の魔法士で頼りにされてるんだもんなぁ・・・。あの慈音が。疾風さんは、迅雷君が魔法士になりたいって言い出したときはどう思ったんです?」


 「あいつは昔っから魔法士に憧れてたから、言い出した最初は別に。幼稚園児の夢に反対なんかしませんよ。ただまぁ、親が子供になって欲しい職業じゃないのは間違いないですよね」


 「でも、その割には最近いろいろ教えてあげてるじゃあないすか」


 「なりたいって言うんだから、仕方ないでしょうよ。俺は普通に、父親として迅雷の将来が少しでも良くなるように残せるものは全部残そうとしてるだけ」


 「普通に、ねぇ」


 親がどう言おうと魔法士になることを目指す子供はごまんといる。そして、実際に魔法士として働いている人間は、IAMOとか警察とか軍とか医療機関とか、場合によっては民間企業にだって、いくらでもいる。職業にはしていないがライセンスは持っているという魔法士なんて数えようもない。ライセンスはIAMOから勝手に送られてくるのだから。世の中、魔法士なんて普通にいる。魔法士になりゆく子供のために、その親が出来る限りのサポートをしようとするのも普通だろう。

 普通ってなんだろう。これっぽっちも悪いことではないけれど、なんとも度し難い。心を持つ人間が普通を貫くのがどれだけ難しいことか。


          ○


 最終的に順番を譲ってもらって一番風呂を浴びた迅雷は、どうせ女子2人も長風呂で待っているのも面倒だと思い、一人で軽い夜食を済ませて自室に戻ってきた。

 ベッドで横になっていると、しばらくして千影も部屋に戻ってきた。布団を被っている迅雷を見て、千影はその脇にちょこんと腰掛けた。


 「とっしー、もう寝る?」


 「んん。・・・けど、ちょっと話したい」


 「ボクも」


 話したい、なんて言って、迅雷はただ天井を眺め続け、千影も足をパタパタ揺らす。


 「なぁ千影。俺、頭おかしくなったかも」


 「実妹のおっぱいに興奮するくらいだもんね」


 「それはナオが可愛いので普通です」


 「じゃあ?」


 「いや・・・本当、変なこと言うんだけどさ。嘘じゃないんだ、先言っとく」


 「とっしーの言うことなら信じるよ」


 千影の微笑みが迅雷にはありがたい。

 迅雷はなにから話すべきか悩んだが、最も確信を持てる記憶はこれだ。



 「『ブレインイーター』に名前を呼ばれた」



 それは、千影が駆け付ける直前。

 『ブレインイーター』に頭を喰われそうになったとき。

 

 「口の中でずっと―――誰かの声がしてた。その誰かが『トシナリ』って、確かに言ったんだ」


 一央市ギルドに帰って来て、救急搬送される煌熾を見送った後、迅雷は真牙にこんなことを訊かれた。


 『迅雷。お前・・・・・・なんで手心加えたんだ?』


 『・・・え?』


 「焔先輩助けるときだよ。別に責めるつもりはねぇんだ。けど、お前、あのとき全力で「駆雷」ぶっ放してたら『ブレインイーター』だって殺れてたんじゃねぇのか?けど、敢えてそうしなかった。なんでだ?」


 真牙の言う通りだった。煌熾を吐き出した『ブレインイーター』に攻撃を躊躇する必要性は皆無だった。本当に倒せていたかまでは分からないが、しばらくは動けなくなるほどのダメージは与えられていた可能性はある。でも、そうしなかった。迅雷には出来なかったのだ。

 その出来事は『ブレインイーター』の中の”誰か”に名前を呼ばれるよりも前だったが、迅雷にはその時点から既に『ブレインイーター』に対して奇妙な感覚を抱いていた。親近感―――と言うのは甚だ語弊があるが、少なくとも命のやり取りをするのを躊躇う程度の距離感を覚えていた。そのことがあまりにも不可解で、気持ち悪くて、恐かった。


 だが、『ブレインイーター』が自分の名前を呼んだ瞬間、迅雷の中でなにかがカチリと嵌まった。とある確信を得たのだ。得てしまった。

 その確信は、そのまま真牙の問い掛けに対する答えになるはずだった。

 でも、迅雷は結局、真牙の問いにはそのときなにも答えなかった。真牙より先に千影に、出来れば他の誰にも聞かれないように伝えたかったから。

 『ブレインイーター』と対峙したあの時間、あの場所で、迅雷と、そして恐らく千影だけがなにか違うものを感じ取っていた。


 迅雷の話を聞いた千影は信じられないかのように口元を引き結んでいた。だが、千影は決して迅雷の話を疑ったわけではなかった。千影もまた、あの戦いの最中に迅雷の態度に不審さは感じていたから。ただ純粋に衝撃だった。

 しかし、その驚きはまさに、誰もが突飛な冗談だと聞き流しそうな迅雷の感覚が正しいことを裏付けていた。


 「とっしー、言ってたもんね。”千影も?”って。・・・やっぱり、分かったの?」


 「そう言うってことは、やっぱり千影もだったんだな」


 「でも待って。どうして?だって、ボクはオドノイドだから気付いたけど、とっしーは違うじゃん」


 「・・・?」


 「だから、ボクは黒色魔力を知覚出来るから『ブレインイーター』になんか違和感を感じれたけど、とっしーは無理のはずじゃん!」


 「え、魔力を感知してたってこと?俺が?」


 それは確かにおかしな話だ。人間には基本的に自分以外の魔力を知覚することは出来ない。よほど膨大な魔力を放つモンスターなどであれば例外的に離れていても圧力や振動のような形で知覚出来ることがあるが、さしもの『ブレインイーター』もそれほどの次元にはない。

 でも、とにかく感じたものは感じたのだ。結果として気付いてしまったのだから。そう言い訳して、迅雷は千影にひとつだけ、最も重要な確認をした。



 「『ブレインイーター』の正体はオドノイドなんじゃないのか―――?」



 千影はしばし呼吸を忘れた。

 迅雷の言葉もここまで来ると、はっきり言って信じられなかった。

 

 「とっしー、一応だけど、なんでそう思ったのか教えてくれる?」


 「俺もはっきりしたことは分かんないんだけど、帰ってからずっと考えてて思い出したんだ。初めておでんと会ったときのことなんだけどさ、実は俺、そのときおでんを見るまで千影が来たんだと思ったんだよな。なんか”そんな感じ”がしたんだけど―――今回、『ブレインイーター』と会ったときのあの感じが、よく考えたらおでんのときと似ててさ」


 おでん―――伝楽は下駄を履いていた。足音を聞いた時点で本来なら千影と間違えるはずがない。仮に間違えるとして、千影以外の可能性もあっただろうに、それでも迅雷は他でもない千影と間違えた。当てずっぽうではなかった。ある程度の確証がなければ、偶然階段で鉢合わせた人の名前を呼びはしないだろう。

 確証。確かな証拠。確証である。千影を千影たらしめる個性と思っていたなにかがおでんにも備わっていたから間違えてしまったのだとして、2人に共通する個性の候補は決して多くはない。

 目にも耳にも鼻にも頼らず、さながら第六感のような確証の得方だった。


 「とっしー、やっぱりそれ魔力だって」


 「そうなのか。ふむ・・・俺にも遂に特殊な能力が芽生えたのかもしれない」


 「笑いごとじゃないよ、なんならオドノイド化してきてるかもしれないんだからね!?えっと、えっと、さ、最近休んでもダルいの治らないこととかなかった!?」


 「な、ない。ないから、大丈夫。ずっと一緒にいるんだから分かるだろ。それより千影―――」


 「それより!?自分の体のことなんだよ!!」


 千影が本気で迅雷のことを心配していることは伝わっていたが、これでは話が先へ進まない。結局、千影を宥めるために突拍子もない約束までする羽目にまでなってしまった。


 「・・・で、千影はどう思う?『ブレインイーター』の正体」


 「どうもこうも、ボクもとっしーと同じこと思ってたよ。その話するつもりだったから、先に言われてビックリしたもん」


 風呂の温もりが失われてきて、床に積もった冷気を嫌った千影は迅雷の体温で快適になった布団に潜り込んだ。迅雷は自然に自分の腕を枕にしてくる千影にキュンとしつつ、あくまでクールに会話を繋げた。


 「でも、オドノイドってあんなモンスターみたいになれんの?」


 「一応、あり得なくはないよ。ボクの翼とか爪みたいな奇形部位が全身覆い尽くした状態だと思う。・・・けど、そんなのは黒色魔力の出し方ミスって歯止めが利かなくなったオドノイドの成れの果てだよ」


 「つまり、力が暴走している的な?」


 「まぁ、そうだね。ボクはシンプルに”モンスター化”って呼んでるけど、あの状態に自分の意思でなったり解除したり出来るのはボクが知る限りでは1人だけかな。もちろんボクのことじゃないよ?ボクだって、きっとああなったらもう無理だと思う」


 「じゃあ、『ブレインイーター』はもうあの姿から戻れない・・・?」


 「たぶん」


 迅雷は、それはなんだかとても()()()と思った。

 千影は少し厄介そうな顔をした。多分、迅雷が次に言うだろう台詞を予想したのだろう。


 「あいつのこと、助けてやれないかな」


 「それはお人好しすぎない?」


 「そんなんじゃない。だって、俺のこと呼んでたんだ。泣きそうな声で。それに、あの『脚』―――」


 嘘だ。気のせいでしょ。本当は、千影にはそんな言葉で笑い飛ばしてもらうつもりでいた。そうであればどれだけ気楽だったか。

 迅雷にはもうこれ以上『ブレインイーター』の正体に気付いていないフリをし続けることは、不可能だ。


 「オドノイドだからじゃないんだ」


 「・・・もうこれで2回目だよ」


 「なぁ千影さんや」


 「・・・なんだい、とっしーさん」


 「俺にこの話をしようと思ってたってことは、お前も本当は俺がこう言い出すのを期待してたんだろ。いまなら分かる。俺は、もう後悔したくない。だから今度こそきちっとぶっ飛ばしてやろうぜ」


 迅雷は布団の中で体をよじり、しっかりと千影の目を見て確かめた。千影はちょっとばつが悪そうに目を泳がせたが、結局、観念したのか小さく笑った。


 「そうだね。・・・うん、そうだ。今度こそ、これまでの借りは全部きちっとまとめて返してやらねば・・・!」


 「山ほどウンコ食わせといてまだ借り残ってんのかよ」


 「とっしーに手を出した罪は重いの!ヤクザはナメられたらしまいなんだから!」


 千影の目だけが笑っていない。もう足を洗ったんじゃないのか。こえー、ヤクザの娘マジこえー。千影は一度覚悟を決めたら容赦がない性格だからおっかない。

 それはそれとして、『ブレインイーター』を助けるためには、なんとかしてもう一度あれと出会わなくてはならない。また、運良く再会出来たとしても、暴走の止め方が分からない。しかし、諸々の問題について考え始めた迅雷に、千影が待ったをかけた。


 「とっしー、その前にボクもちゃんと言っとくね。ボクも、あの子のこと助けられるなら助けたい。だけど、正直まだ気になることもあるし、多分この件はもう少し慎重にいかなきゃ危ない気がする。ボクもとっしーも、いっつもその場のノリと思い込みで突っ走って痛い目見てるから、今回は冷静にいこう。ボクは、とっしーのことが一番大切だから」


 「お、おう・・・」


 「・・・・・・・・・・・・」


 返事はそれだけか、と言外に訴えてくる千影のジト目に、迅雷はたじろぐ。


 「・・・お、俺も千影のこと一番に考えてるから」


 「むふー」


 ご満悦の様子で抱き付いてくる千影の背中に手を回し、迅雷は部屋の灯を消した。

 

 千影がいる。迅雷がいる。一人じゃない。一人じゃないから、軽はずみなことはしちゃいけない。一緒に頑張るって、こういうことなんだ。

今年のクリスマス投稿はスノープリンセスの方でやってました。

年内の投稿は今回をラストといたしまして。今年も大変お世話になりました、来年もよろしくお願いします。それでは、良いお年を!

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