episode8 sect17 ”日帰り温泉は一日にして成らず②”
『DiS』はひとまず転移ステーションの新設予定地に到着してキャンプを設営したわけだが、むしろクエストはここからが本番だ。
今日はもう移動で体力を使っているが、83番ダンジョンの夜は長いのでゆっくりと睡眠を取る前提で、日が出ている内にもうひと踏ん張りすることになった。
まずはキャンプ周辺を囲うように生き物除けを並べることが決まった。作業を消化する目的はもちろんだが、加えて自分たちの寝床の安全面も確保出来るので効率が良い。ちなみにクエストの依頼内容では、生き物除けで囲う範囲はそれほど厳密に指定されていない。とりあえず作業用の機械や工事従事者の仮設宿舎が収まるように少し広めにスペースを考えておくようにだけ要求されている。
ギルドの支給品管理員に聞いた限りでは、一箇所に目安量で設置した生き物除けの有効半径は約7~8mだそうだ。理論上は10mなのだが、確実性を持たせるためにそれくらいの間隔で設置することを強く勧められた。
重機の大きさや数はどれくらいになるかは分からないが、ひとまず余裕を持たせるために大型のものが数台やって来ると仮定する。そうなると、単純に円形で範囲を取るなら、半径は50mくらいあった方が良いだろう。もっとも、高校生(と11歳児)しかいない『DiS』にそのあたりのイメージをはっきり持っている者はいないので、テキトーだが。
ということで、分からないなりに宿舎の配置とスペースなども加味した作業範囲を煌熾が紙の地図に描いた。多分だが、依頼内容が曖昧だったのは斜面が多い地形のため、事前に細かな設定を出さずに現場の判断に任せるつもりだったのだろう。実際、こうして現場を見た彼らだからこそ平坦な地面のある範囲を把握しているわけだし。
「今日の作業はいま描いた部分だけだ。地図は1枚だけだからみんな写真は撮っておけよ」
迅雷がスマホ等のバッテリーを魔法で器用に充電出来るので、『DiS』はダンジョンでもスマホの使用にはあまり制限がない。もちろん通信手段としては死んでいるが、こうして写真を撮ったりメモ帳機能を使ったりと役立てている。
さて、ダンジョンにやって来たときにも煌熾が言っていたが、ここからの作業は基本的にグループに分かれて並行的に進める事になる。いまは概ね円形の範囲を囲いたいので、2組に分かれて円周上をそれぞれ逆回りに半周して合流したら完了、で良いだろう。
「で、グループ分けはどうする?ボクはとっしーとが良いんだけど」
「千影はブレないな・・・。一応、どんな猛獣が出るかも分からないからランク4の俺と千影は別行動の方が良いだろうな」
それぞれのグループで危険に対処出来るようにするためだ。煌熾のもっともな意見を受けて、真牙がスッと手を挙げた。
「歩幅で1m正確に測れる人、手ぇあーげて」
真牙の他は、煌熾だけが手を挙げた。
「いちいちモノ使って7、8mも測るの大変なんで、オレと焔先輩も別の方が良さそうッスね」
「そうだなぁ。じゃあ・・・えーと?俺と神代と東雲、阿本と千影、で分かれるか」
「えー、ボクととっしーの愛の共同作業は!?」
ウンコをひたすら並べるだけの共同作業で愛を確かめ合えるのか誰にも分からなかったので、千影の訴えはにべもなく却下された。しょぼくれる千影をよそに真牙がニヤリと笑う。
「計画通り・・・!!」
「ハッ、さては真ちゃん、ムラコシの意見を誘導して・・・ッ!?なんて卑劣な!!」
「フハハハハ!!なんのことかね千影たん!?オレの考えになにかおかしな点があったかね???」
「そ、それは・・・・・・ないけど・・・?」
「そう、ないのだ!!オレはただ効率を重視し、手早く安全に作業を進めてみんながしっかり体を休められるよう考えてただけなのさ!というわけでヨロシクね千影たん、2人の愛を確かめ合おう!!」
「とっしーもなんか言ってよぉ」
「え?別に・・・まぁ、なんかされたら真牙なんか斬ってクソと一緒に埋めといて良いよ」
「千影たんに斬られるのならそれもまた良きかな」
にやけた口元から熱い吐息を漏らし続ける真牙はきっと幸せな最期を迎えることだろう。
ともあれグループも決まったので、日が落ちきる前にはキャンプに帰ってくるためにもさっそく作業に取りかかることにした。肝心の生き物除けや設置用の杭は迅雷が出発前に『召喚』のマーキングをしておいたので、それを呼び出した。大元となる巨大な容器にどっさり詰め込まれた生き物除けを、各々のクーラーボックスに必要な分量だけ移して運ぶ。
生き物除けだけでも結構な重さなので、杭は男衆がまとめて担ぐことになった。どうせ距離を測るのも煌熾と真牙なので、測って杭を打つまでが仕事と思えばそんなものだろう。
○
「神代と東雲はどんどん杭に生き物除けを盛っていってくれ。あと、俺はスピード重視でバンバン杭を立てていくから、刺さりが甘いやつは刺し直しておいてくれ。地面が柔らかいからな」
煌熾は手際よく7歩、8歩と繰り返しては杭を立てていく。きちんと半円の軌道上を辿らなくてはいけないので方向を意識する必要があるが、もちろんそれもちゃんと考えた上であのペースなのだろう。魔法以外の能力もバッチリなところが素直に感心出来る先輩だ。
「俺も歩幅で1m測るやつ練習しとこうかなぁ」
今日の時点で出来ていたら千影と一緒に作業出来ていただろうな、と迅雷は小さく嘆息した。いや、迅雷が測れても結局は千影がウンコまみれになってしまうか。肩に掛けたクーラーボックスからは、蓋を閉めている間でも関係なく芳しいかほりがプンプン漂ってきて、実に実に悩ましい。慈音もだいぶしんどそうだ。綺麗なおでこに今回の仕事で変なシワが増えなければ良いのだが。
「ほら、としくんもどんどんうんち入れてくよ!」
「うんち」
慈音の口からでる”うんち”という単語の絶妙な幼稚さに迅雷はニヤリとした。だが、現実はそんな可愛いもんじゃない。
杭の頭には、生き物除けを入れるカゴがある。まずは、カゴの蓋を開いて、次にクーラーボックスの蓋を開けて―――。
「うえ"っほ!!ぐぅぉ"え"っほ、おえっ・・・」
園芸用のスコップのスコップで適量に生き物除けをカゴに入れる。そして、最後にカゴの蓋を閉め直す。これがまた結構硬くて、力任せに閉めなくちゃならない。踏ん張ろうとして息を吸う度に、また臭いにやられて大きく咳き込んでの繰り返しだ。あまりの硬さに、慈音なんかは結界魔法でトンカチを作って足りない筋力を補っていた。
しかし、本当に酷い悪臭だ。なぜギルドはガスマスクを支給してくれなかったのだろうか。若干の恨みを覚えつつも、迅雷は黙々と作業に集中した。一言でも発すれば、それに伴う呼吸で体内をこの悪臭に蝕まれてしまうので、まさしく”黙々”だ。
(しっかし、コレの効き目はマジモンだな。俺が近付いただけで動物が逃げ出すぞ)
茂みに近付けば木の実を食む小さな獣が、木立の下に立てば眠っていた鳥の群れが、迅雷(のクーラーボックス)が放つ強烈な臭いに怯えてどこかへと逃げていく。一番すごいのは、まさに餌を運んでいる最中の巨大なフンコロガシでさえ、餌を放り出して退散してしまったことだろう。謳い文句に偽りなしの効力に感動すら覚える反面、そんな代物の臭いをセンチメートル単位の距離でかぎ続けて大丈夫なのか心配になってきた。ダンジョンから帰った後も咳が止まらなくなって、病院で診てもらうと肺のレントゲンが真っ白になっていたりとかしないだろうか。
『こりゃウンコですねぇ・・・っと。なにしたら肺がクソまみれになるの?ハハッ☆』
とか言って笑う医者の顔がなぜか想像出来た。・・・いやいや、迅雷は信じている。あの脂ぎっとりの医者は患者の不幸を笑ったりはしないはずだと。
気が付けば肺よりも先に頭の中がウンコのことでいっぱいになって、はや1時間。煌熾の先導のおかげで、迅雷たちが予定していた分の生き物除け設置数は9割を達成していた。ここまでくるともう鼻がバカになって、あまり異臭を異臭と感じなくなってしまっていた。次からは30分に1回くらいはちゃんと鼻を休める時間を挟みながらやらないと、危険だろう。
「これで・・・最後ぉ!!」
感慨を込めて、迅雷は最後の杭にブニョっと生き物除けを盛った。
3人がすっかり軽くなった荷物を持って揚々とキャンプに戻ると、まだ千影と真牙は戻っていなかった。まぁ、元々2人組のあちらがそう早く終わるはずもないか。
「仕方ないな、ちょっと休んだら補充して手伝いに行くとしようか」
「え"ぇーッ!?もうやだぁーんカンベンしてくださいよォ!!」
「神代なんか口調おかしいぞ」
そもそも、互いのグループが合流するまで杭を打ち続ける約束だ。渋々、迅雷はクーラーボックスに生き物除けを詰め直した。重みを取り戻した荷物にひたすらウンザリする。
「としくん、もうちょっとだからがんばろう!」
「そうだぞ。さすがに日も沈みかけているし、テキパキいこう」
○
一方、千影・真牙ペアも一応、順調に仕事を進めていた。真牙も煌熾に負けず劣らず手際が良いおかげだ。千影もさっさとこの臭いから解放されたいからか、作業が始まってからはウンコ詰めを担当させられることに文句は言わなかった。
しかし、クーラーボックスの生き物除けを7割ほど消費したあたりで、千影はそれとは別の問題に気付いてしまった。
「ねぇ真ちゃん。ボクはひとつ、とても簡単な見落としをしてた気がする」
「ほう?言ってみてよ」
「別にとっしーがこっちに来ても良かったんじゃないかな、と」
「―――君のような勘の良いロリも好きだよ」
「ごめんなさい」
フラれた真牙は残念そうに次の杭を立てて、千影はすかさず生き物除けを詰めていく。
「まぁ、安全面で言やぁ千影たんいたら百人力だし、それなら迅雷は向こうにいた方が良いかなとは思ってたんだぜ?」
「本心率は?」
「2割・・・・・・やっぱ1割くらい」
「ほらね」
「しっかし、千影たんはこんなに素直なのに、迅雷はなかなか素直になんねぇな」
「それそれのそれ。ま、ツンデレなとっしーも悪くはないんだけど」
「その割に内心じゃ千影たんちゅきちゅき星人だもんな。こないだ千影たんとくっついたんだろって言ったときの慌てようときたら」
「待って、なんで知ってんの?」
「そう、そんな感じ」
真牙には、千影でもこの手の話題で赤面することがあるのがかなり意外だった。実は千影も千影で迅雷への好意アピールには一枚、演技の層を被せていたのかもしれない。
でも、分かるような気はする。長年吸い続けた煙草の灰は禁煙に成功しようとも死ぬまで抜けないという。同じように、オドノイドになってしまった過去もまた消える日は遠いということなのだろうか。千影は、いまはもうちゃんと愛されているのに、それを分かっているのに、なおも愛されるべき少女を演じることがやめられなくなっているようにも見えた。
(いいや、どうなんだろうな。オレはまだ迅雷を信じてるだけなんじゃないか?オレも、ちゃんとこの子を―――)
「あ、真ちゃん!あれってとっしーたちじゃない?」
「へ?あ、ああ、みたいだね千影たん」
「なに、ボーッとしてたの?」
「夕陽に照らされる千影たんの横顔に見惚れてました」
「1分に1回告白されても困るんだけど・・・。てゆーか、ボクたちノルマ達成する前に合流しちゃったね」
「いえーい、むしろラッキー☆」
などと調子に乗っていると、聞こえていたのか迅雷にこやし玉を投げつけられた。間一髪で躱せたから良かったものの、もし直撃していたらこれから大惨事になっていた。なにせ、男子3人は、夜、一緒のテントで眠らなくてはならないのだから。
●
一夜が明けて、風情のないスマホの目覚ましアラームでみんながテントから這い出てくる。一帯に設置した生き物除けの効果は覿面で、近くからは動物の鳴き声ひとつ聞こえない。もはや誰かがテントの外で見張りをする必要すらなかったので、少しは昨日の苦労も報われた気分になる。
「おはよー、みんなよく寝れた?」
慈音はいかにも熟睡出来ましたといった顔だ。同じテントの千影とはえらい違いである。千影は迅雷と一緒じゃないとぐっすり眠れないのだ。
迅雷はテントから出たらまず一番に大きな深呼吸をした。
「はぁ、空気が綺麗だ。おはよ、しーちゃん。こっちはウンコ臭いし汗臭いし暑苦しいしで酷いもんだったわ」
「ウンコ臭いのはボクたちの方もだったけどね・・・。しーちゃんの適応力がすごい」
ひとまず、駄弁る前にみんなで近くの湖まで顔を洗いに行った。飲まないなら自然の水でも問題ない。他にも、衣服の洗濯程度なら出来そうだ。朝食の準備をする前に、慈音と千影が生き物除けの臭いが染みついたみんなの服を洗ってくれた。もっとも、千影は慈音の手伝い程度しか出来なかったが。
真牙の作った朝食を終えたら一日が始まる。まずは昨日同様に煌熾が中心となって一日の作業計画を確認・調整していく。
といっても、やること自体は昨日と変わらず生き物除けの設置だ。ただし、今日は転移ステーションから温泉施設の開発予定地に至るまでの正味5kmほどの道を辿って、その両脇を囲っていく。恐らく1日で全部は終わらないだろうから、出発前にキャンプも片付けないとだ。
それと、昨日の反省を行かして、今日は進行方向の調整も兼ねて30分おきに集合しながら作業することに決まった。日中は気温も高いし、荷物も重いので、それくらいの頻度で休んでも変ではないだろう。
「よし、じゃあ班は昨日のままで良―――」
「ダメ!とっしーはボクのとこ!」
「あー・・・ハイ。じゃあ今日は俺は東雲と2人、そっちは千影と神代と阿本な。あんまり離れないよう気を付けろよ」
千影に全力でしがみつかれて満更でもなさそうな迅雷を見て、煌熾は少々気まずい嘆息をした。迅雷は迷惑そうな顔のつもりなのか眉だけ寄せているが、分かりやすいヤツだ。
ともあれ、グループ分けが決まったらぐずぐずしている時間も惜しい。83番ダンジョンの現在は早朝だが、人間界はいま土曜日の13時だ。出来れば月曜日の午前中くらいには家に帰りたい。
人間の歩行速度は大体時速3kmとか4kmと言われている。長くて5キロ程度の道程だと言えば割と簡単な作業に思えるかもしれない。だが、杭一本をきっちり地面に突き立てて悪臭で顔を近付けるのもままならない生き物除けを詰めるという手順は、ワンセットで1分ほどかかることが昨日の時点で分かった。これを約7m間隔で置くので、5km並べるには単純計算で杭が700本以上、時間にして約12時間。しかもそれは一切休まず、ペースも落とさずの話だ。
「・・・つーか、そもそもたった5人しかいない俺たちがパーティー単独でやるクエストじゃねーと思うんすけど」
作業開始からかれこれ3時間ほど経った際の集合タイムで、迅雷が愚痴をこぼした。12時間の予測だって、転移ステーションから開発予定地を繋ぐ道のみを考慮した話だ。その後には大規模なアミューズメント施設を囲えるだけのウンコバリケードを別に用意しなくちゃならないのだ。軽く死ねる。
誰も迅雷の不満を咎めはしなかった。全員が同じことを思っていたからだ。
「甘菜さんって恐い人だぜ・・・」
「真牙、それ絶対本人に聞こえるところで言うなよ。次はなにさせられるか分かんねぇ」
「もう既に盗聴されてるかも」
千影が脅すと、迅雷と真牙はバッと背後を確かめた。いや、本当に聞かれていたらそれだけでホラーだ。もちろん誰もいやしない。
「まぁ・・・3連休のうちにどうにかするのははっきり言って無理だろうな。日野さんが言うにはクエストの達成期限が次の週末だったはずだから、今回の最終目標は道の部分の生き物除けを完了させるところまでにしとこうか」
煌熾の提案にみんなが二つ返事で賛成した。無理をすれば最後まで一気にやりきることも不可能ではないだろうが、いくらなんでも学生にそこまで要求してくる依頼主もいるまい。ゴールが近付いて少しは精神衛生状態が改善したので、ついでだから昼食を取ることにした。一日の時間が9時間ほど異なるので感覚が狂いがちだが、時計の針は既におやつの時間を指していた。いくら手を洗ってもほとんど取れない悪臭に食欲を削がれつつも、肉体労働に必要なカロリーは摂取しなくてはならない。
○
食後の時間に、真牙が近くに咲いていた花の香りを嗅いで回り始めた。急にメルヘンなことを始めた彼に、迅雷がついて回る。
「なにしてんだ?」
「花季ってだけあって結構いろんな匂いの花があるだろ?これを臭い消しに出来ないもんかなぁと思って」
「それは良いアイデアだな」
せっかくなので、迅雷も真牙と一緒に良い匂いがする花をいくつか選んでみた。真牙が言うには、特にそのまま嗅いだらむしろキツいくらい香りの強い花が欲しいらしい。
「迅雷、集まったか?」
「まぁボチボチ。で、コレをどうするんだ?」
「こうするんだよ」
真牙は集めてきた花々を石ころを使ってすり潰し始めた。元々香りの強い花なだけに、強烈な芳香が周囲にまで広がった。
「迅雷、ちょっとバケツに水汲んできてくれ」
「分かった、水に香り付けしようってんだな!」
「ご名答。ちょうど鼻を覆うためにタオル巻いて作業してっから、そこに染み込ませれば良いって寸法よ」
迅雷は、真牙のこういう工夫が出来るところを素直に尊敬している。勉強に限らず頭の回転が良いのだ。言われた通り、迅雷はさっそくバケツを盛って近くの水場に向かった。そこでは慈音と千影が使い終わった食器を洗っているところだった。
「とっしー、バケツなんて持ってきてどうしたの?」
「まぁ出来てからのお楽しみだぜ。2人とも期待しとけよ~」
顔を見合わせ首を傾げる2人を残し、迅雷はさっさと真牙のところに戻った。
「これくらいでOK?」
「少し多いかもな。これ・・・くらいに減らして―――すり潰した花をぶち込んで、よく混ぜて」
つーんとくるほどの芳香が水に溶け、多少マイルドになった。それでもまだ強いが、ここから改めてタオルに香り付けして生き物除けの臭いを上書きするのだから、こんなものだろう。まずは製作者の真牙が試しに自分のタオルを香水に浸けて、顔に巻いてみた。
「うむ、結構な匂いだな。迅雷、ウンコちょっとだけ持ってきてくれ」
「ほい。どう、いける?」
「スンスン。スー、ハー。・・・ヨシ、完璧とはいけねーけどだいぶマシだな!」
「マジで?俺も俺も」
迅雷もタオルに香り付けして、生き物除けを嗅いでみた。直接嗅いでもむせ返るようなあの苦しみがない。精々、ちょっと古い公園のトイレ程度の嫌悪感で済むといったところか。作業中にわざわざ生き物除けに顔を近付けるようなことはないので、実際はもっとマシになることだろう。
なにやら盛り上がっているのが気になって様子を見に来た煌熾も試してみて大絶賛。
女子組も食器を洗い終えて戻って来たのでさっそく真牙の大発明を使ってみてもらった。
「わぁ、すごーい!お花の匂いしかしないよ!」
「真ちゃん天才!見直したよ!」
「惚れちまっても良いんだZE☆」
返事がない。ただの失恋のようだ。
と、冗談はさておき、真牙の作った香水は好評だ。香りの補充用としてペットボトルに残り液を注ぎ、各々が携帯できるようにして、生き物除け設置作業が再開された。