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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect16 ”日帰り温泉は一日にして成らず”


 自分で騒動を起こしたくせに、雪姫はまるで何事もなかったかのようにいつもの澄まし顔だ。ただ、少し不機嫌なのは見て分かった。伊達に雪姫が中学生だった頃から話している間柄ではない。分かるところは分かるようになったつもりだ。甘菜は、なんだかんだ自分の担当するカウンターに来る雪姫の不貞不貞しい態度に大きな溜息を吐いた。


 「あのね雪姫ちゃん、私もあなたの気持ちは分かるのよ。オドノイドが戦争の原因だっていうのは事実だし、セントラルビルの一件で千影ちゃんがしたことは、理由とか結果がどうあれ許して良いことじゃなかったもの。でも、だからといって雪姫ちゃんがあの子を・・・どうこうしようっていうのは違うと思う。あの子が分かんないなりに人間として真っ当に生きようとしてるのは、雪姫ちゃんも分かってるんじゃないの?」


 「・・・オドノイドは人間じゃない」


 「そうかもしれないけど、言葉で通じ合えるならきっと並んで歩けるようになるよ。そうなったら人間もオドノイドも関係ないと、私は思うよ」


 「そんな話はもう良いですから、クエストの受付お願いします」


 「それならオススメのクエストがあるんだけど―――」


 「いいです」


 「まだなんも言ってないんですけど!」


 「これで何回目だと?」


 「・・・5回くらい?」


 「15回」


 それ多分遠回しに勧めたときのやり取りまで含まれている数だろ、どんだけ細かく憶えてるんだよ。・・・と腹の内のブラック甘菜が舌打ちをして、『日帰り温泉は一日にして成らず』のページを開いたタブレットを引っ込めた。


 「さっきのこと少しは反省してるんでしょ?素直に謝るのが恥ずかしいなら『DiS』の仕事を手伝ってあげれば良いんだよ」


 「反省してない。いい加減しつこいんですけど。大体、なんであたしがそっちの尻拭いしなくちゃならないんですか?こっちは被害者なんですけど?責任の取り方も分かんないんですか?しかも挙げ句の果てに人の罪悪感につけ込んであんなクソクエスト押し付けようとする受付嬢とか性格サイアクじゃん。どうでも良いからさっさと手続きしてくださいよ」


 「そ、そこまでボロクソに言わなくても良いじゃない・・・。ひょっとしてまだ最初の頃にオススメしたあのクエストのこと根に持ってる?」


 甘菜は冗談抜きに目に涙を浮かべながら言われた通りにクエストの受注手続きをした。ただ、罵詈雑言とはいえ雪姫にしては珍しく口数が多かったので、言葉に反して多少は思うところがあるのだろう。

 甘菜だってまだ千影以外のオドノイドと会ったことはなく、交流式典の中継でIAMO所属のオドノイドたちの奮闘を見たあとのいまも、正直オドノイドについての不安はある。当然、バンザイでオドノイドを受け入れることを正しいとは思わない。いまはとりあえず、雪姫が可能な限り穏やかに、千影について納得してくれることを願うばかりだ。



          ●



 支給品の受取カウンターは本館裏にある転移門棟の1階入り口の右手側にある。『DiS』がいつも受ける、害獣駆除や採集系のクエストなんかは大抵の場合、一般人が個人的に用意出来る範囲の道具で達成可能なので支給品がもらえることは稀だ。そういった背景もあって、みんなで一体どんな珍しいアイテムを使わせてもらえるんだろうとワクワクしながら支給品カウンターの受付係に声を掛けると、待っていましたとばかりに受付係がカウンターから出て来た。


 「すみません、皆様に使っていただく支給品はちょ~っと他の物と一緒に保管出来ないので外に置いてるんです。ついてきていただけますか?」


 支給品カウンターの受付係に案内されながら、慈音が期待に満ちた目をしている。


 「ねぇとしくん、支給品ってなんだろね!きっとなんか特別な道具なんだよ」


 「中に置いとけないってことはデカいんじゃね?」


 「ハッ、もしかしたら転移ステーションのあの機械だったりして!自分たちで設置、みたいな」


 「そんなもん運べねぇだろ。てか生き物()けって言ってたじゃん?だから例えば・・・例えばぁ・・・動物が近付いてきたら追い払うロボット的な?・・・ごめんウソ、忘れて。咄嗟に思い浮かばなかった。千影はなんか知ってる?」


 「ボクもこういうクエストは初めてだから知らないなぁ。もしかしたら長距離移動用の車だったりして!走りながらモンスターを追っ払う感じで!」


 「全員無免許だわ」


 「ダンジョンなら人を轢く心配ないし?」


 「とんだ無法地帯だな」


 まぁ、ぶっちゃけ依頼主の温泉協会だって勝手に温泉地開拓しようとしてるくらいだからダンジョンに法律もへったくれもないのは間違っちゃあいない―――と煌熾がぼやく。


 「ダンジョンの資源開発ってハッキリしたルールがないままって聞いたことがある。無法地帯ってのも言い得て妙かも知れないな」


 「未開の土地ってのはなにやってもバレにくいッスもんね。5番の『ファーム』の件なんかマジでいい迷惑だったぜ」


 真牙は、魔族が5番ダンジョンに勝手に作っていた『ゲゲイ・ゼラ』牧場のことを思い出して身震いした。

 『ファーム』と呼ばれる例の施設は、皇国とリリトゥバス王国が共同出資して生物兵器化した『ゲゲイ・ゼラ』を量産するために作ったものと見られている。というのも、正確には『ゲゲイ・ゼラ・ロドス』という改良品種が皇国側の技術の産物であったのに対し、実際に『ファーム』に駐留して飼育・調教を行っていたのはリリトゥバス王国の生物兵器調教師たちだったからだ。普段はそれほど親密でない二国も現在の戦争においては協力関係にあるので、『ファーム』に関してもその一環だったと考えるのが自然だろう。


 さて、過ぎた話は置いといて、一行は支給品があるという場所に到着した。

 しかし、彼らの前に現れた()()は、初めての支給品に高まる期待を全力で裏切る代物だった。


 「くさッ!!とっしー、くっさ!!」


 「ほへはふはいひはいひいふはほ!!」


 訳、「俺が臭いみたいに言うなよ!!」。あまりの刺激臭に迅雷は鼻をつまんだ。みんなも涙目になって咳き込んでいる。それはここまで案内してくれた受付係も同じようで、むせ返るあまり説明がたどたどしい。

 これではどうしようもないので、一旦全員で臭気の届かない場所まで退避した。・・・が、既に衣服に臭いがついてしまっており、特に女子2人がうんざりした顔をしている。

 煌熾が改めて、さっきの臭いの正体を確認した。


 「動物の糞みたいな臭いでしたけど、なんですアレ?」


 「概ねその通りですよ。アレはギルドで研究用に飼育している危険種モンスターの排泄物をいろいろブレンドしたものでして、獣除けの効果があるんです」

 

 「なるほど、縄張りを示すマーキングみたいな感じですかね?強い動物の臭いがする近くには弱い動物は寄ってこないって話は聞いたことあります」


 「そうですね。それから虫除け成分のある植物も練り込んであるので、害虫対策にもなる優れものなんですよ。・・・その分あの悪臭ですが」


 要するに、後々の工事のために、開発予定地周辺にこの一央市ギルドオリジナルブレンドウンコを設置して動物を追い払えば良いらしい。一緒にウンコを詰めて運べるクーラーボックスくらいのケースが人数分と、ウンコの効果をより長持ちさせられる杭のような道具もたくさん一緒に支給された。どうやら、杭は頭の部分についているカゴにウンコを詰めて、地面に一定間隔で立てて使うらしい。


 「じゃ、あとよろしくお願いしまーす!」


 始まる前から心底イヤそうな顔をする『DiS』らを見送る受付係は満面の笑みだ。やっとあの悪臭源の管理から解放されるとなってホッとしたのだろう。一体いつからこのウンコが置いてあったのかは知らないが、心中察するにあまりある。


 

          ●



 夏季が終わって間もない83番ダンジョンの気温は、まだ30度程度まで上がる。人間にとっては十分高い気温だ。夏季の終わり頃には激しい雨が続くため、甘菜が事前に注意を促していたように、大変蒸し暑い気候となっていた。

 現在は第二花季とのことだが、シーズン初頭は残念ながら、ネットで調べてトップに出てくるイメージ画像ほど華やかな景色が見られるわけでもないようだ。とはいえ、それでも既に遠くまで続く山々は七色の草花に彩られており、それを見た慈音が目をキラキラさせていた。


 転移ステーションから景色を一望して気分を盛り上げたところで、一行はまず煌熾が用意した紙の地図に注目した。ギルドに貸してもらったマップデバイスは取り回しが良く便利だが、こうしてブリーフィングに使うときは大きな図面を共有出来る紙の地図の方が都合が良いのだ。


 煌熾は地図の右端付近にある青いマークを指す。


 「現在地はここだ。それで、新しい転移ステーションの建設予定地はここ。現在地から12、3キロくらい西だな。そこからさらに直線で3キロくらい進んで、この範囲が開発予定地だ。ただ、実際のルートは一部つづら折りになっているから道程としては5キロくらいになるだろうな」


 ダンジョンの中では本来なら東西南北の定義もままならない。幸い、マップデバイスには最寄りの転移ステーションと通信を行って大体の現在位置を表示する機能があるため、紙の地図と合わせて方角を意識することは出来る。こういう小技はギルドで出会う先輩魔法士から教えてもらったり、ネットや雑誌で調べることが出来るので、将来は魔法士になりたい人は今のうちからコツコツ勉強しておくと良いだろう。キャンプの知識やサバイバル技術も併せて身に付けておくとなお良い。


 「今日のところは、ステーション新設予定地付近にキャンプを設営することをノルマにしよう。結構遠いから、ここまで移動するだけでも4時間はかかるかもしれん。各自体調はキッチリ管理しろよ。絶対に無理はしないように」


 『いえっさー』


 「ねぇ君たち、俺がマジメすぎるだけなの・・・?」


 後輩たちが示し合わせたように軽いノリなので煌熾は少しションボリした。


 「ムラコシもリーダーが板に付いてきたって感じだね」


 「そうか?自分じゃそこまで分からんな」


 「マジメなのは良いことだよって意味!さ、出発するよ!」


 支給された生き物除けを含めて、いつでも使えるようにしておく必要性の薄い荷物は『召喚(サモン)』を施して人間界側に置いてきた。ただ歩くだけでも熱中症のリスクがある環境なので、少しでも荷物を減らせるならそれに越したことはない。持ち込んだ荷物は、各々の武器や救急セット、飲食物のほか、バックパックに入れてかさばらない程度の道具類に留まる。


 「今回のクエストは手分けして進めることになる。まぁいつも通りだが、念のために別行動中の合図の出し方を確認しておくぞ」


 一度でも地図を読み違えれば方角を見失いかねないダンジョンで最も気を付けるべきことは、仲間とはぐれないこと、だ。自分の状況を知らせること、仲間の位置を逐一把握することの重要性は、集団行動を取るに当たって、帰り道を確実に把握することにも優ると言って良い。彼らは『DiS』を結成して間もない頃に一度これでかなり痛い失敗をしているので、このことの重要性をよく理解している。

 そして、別行動中の仲間とはぐれないための一番シンプルな方法は、遠くでも一目で分かる合図を事前に決めておくことだ。自由に電波を使って通信出来ないダンジョンでは、魔法が連絡手段としての役割を持つことが多い。『DiS』でも、空に向けて魔法を打ち上げる方法を採用している。

 『DiS』の合図には、日中でも分かる程度に光を発し、かつ遠くまで音が届くような魔法を使い、打ち上げ方で合図に複数の意味を持たせている。合図のパターンは次の通りだ。


 《打ち上げ回数:意味》

 ・1回:位置を知らせる。

 ・2回(素早く):危険と遭遇したことを知らせる。

 ・2回(少し間隔を空けて):仲間を召集する。

 ・3回(素早く):緊急事態を知らせる。緊急召集。

 ・3回(少し間隔を空けて):緊急事態を知らせる。自分を置いて逃げるよう指示。


 基本的には、1回か2回の合図を打ち分けて連絡を取る形だ。ただ、真牙だけは重力魔法しか使えない関係で合図を打つのが苦手だ。万が一単独行動する場合に備えて、真牙は信号弾とピストルを『召喚(サモン)』出来るように準備している。


 さて、取り急ぎ確認すべき事項は以上だ。


 なお、83番ダンジョンの一日はおよそ33時間だ。IAMOが定めるダンジョン内の時刻設定において、第二花季の一日は、日の出が9時、日の入りが26時頃とされている。日の傾き方から推測するに、現在は夕刻、ダンジョン時刻にして大体20時頃だろう。なまじ日が昇っているだけに、地球にいる感覚から逸脱しない一方で、日中に活動する習慣があるほど頭が勘違いして無理をしてしまう。地球の時間感覚を忘れないようにして、適切なペースで睡眠や食事を取ることを心掛けなくてはならない。


 とはいえ、せっかく花季の83番ダンジョンを探索しているのだ。気を張りすぎては勿体ない。


 今日の目的地である転移ステーションの新設予定地までの道程は、ほとんどが森の中だ。

 数週間前まで降り続いていたという雨でぬかるんだ苔くさい土。まだ烈々と注ぐ日差しを和らげてくれる緑の天井。10メートル進むごとにやんわりと移り変わる花々の香り。時折聞こえてくる動物たちの声。人間と同じくらい大きな虫が列を作って毛むくじゃらの獲物を巣へと運んでいく。炭化した木々と開けた土地があるのは、夏季の前半にあるという大規模な山火事の名残か。そこから見渡すと、遠くにいくつもの薄ら白い狼煙が上がっていて、温泉の在処を教えてくれていた。噂に違わぬ温泉郷に自然と足が軽くなる。

 出会う生き物は大抵が大人しかった。唯一、尻尾を踏んでしまった猛獣に襲われたくらいだ。猫科の大型種を思わせる頭部と筋骨隆々の霊長類のような体躯にはビビらされたが、何度となくダンジョンを攻略してきた『DiS』のチームワークの前ではそれほど脅威にはならず、少しぶっ飛ばしてやったら森の奥へと逃げ去ってしまった。

 適度に休憩しながら歩き続けて3時間と少し。せせらぎを追っていると、木々の向こうに大きな湖が見えてきた。地図にもある、分かりやすい目印だ。遠くの水面では大きな魚が跳ねていた。生命の豊かさを感じる透き通った湖の畔をなぞってさらに進むと、ようやく転移ステーションの新設予定地に到着した。ジメジメした気候に体力を奪われたからか、少し想定より遅れた感もする。


 「こっちはまだ明るいけど、人間界(あっち)ならもう21時だな」


 迅雷は適当な木立に寄りかかって休みながら、腕時計を確かめた。もちろん電波式のものではなく、ゼンマイ式の時計だ。


 「そっかぁ、学校終わってから来たもんね。なんかおなか空くなーって思ってたんだよ~」


 「ひとまずテント立てられそうな場所を探して飯にしようぜ。その後のことは食べながら考えても大丈夫でしょ」


 そう思って近くを散策したが、湖近辺はやや背の低い樹木が密集していて、なかなかテントを張れるほど開けた場所が見当たらない。湖畔もギリギリのところまで木が生えているし、ここまでの道にあったような山火事の痕にも期待は出来なさそうだ。それに、斜面も多い。仕方がないので、ある程度平らな地面が広がっている場所を選んで、いくらか木を倒してスペースを確保することにした。どうせ転移ステーションだって開けた平地にしか作れないのだから、ここで木を切っておけばむしろ後の役にも立つことだろう。

 煌熾と真牙がいろいろ考えながら、木を切る範囲をロープで指定したり、範囲内でも切らずに残す木を決めたりした。そこが決まれば、今度は迅雷と真牙の剣士2人が木こりに転身する・・・かと思いきや。


 「じゃあ。この範囲でよろしく、しーちゃん」


 「はーい。いっくよー、『オフェンシブ・バリア』!!」


 慈音が手を振りかざすと同時、彼女の正面3m四方程度の範囲の木々がまとめて根元から切り倒された。

 忘れているかもしれないので改めて紹介すると、慈音が得意とする結界魔法は、物体の内部にも展開が可能である。このとき、結界は元々そこにあるものを押し退けて形成されるため、応用するとこのようにとんでもない破壊力を有する攻撃手段にもなる。動物の体内だったり、魔力に高い耐性を持つ素材のように魔力的な抵抗の強い物体内部に展開するには相当のパワーが必要なため慈音には向かないが、こういう作業にはもってこいだ。

 大まかな伐採作業は慈音に任せて、迅雷と真牙は切る高さだったりで工夫したい部分を担当した。倒した木々は迅雷と煌熾で一ヶ所に集めつつ、その間に残り3人でテント設営。寝床はきちんと男女別である。健全だ。


 「よし、こんなもんだな」


 煌熾が最終確認をして満足そうに頷いた。テントは一般的なドームテントだが、オマケでもう一重、屋根としてフライシートを用意した。これで雨風だけでなく、厳しい日射も防ぎやすくなるだろう。地面がぬかるんでいてペグでどれほどしっかり固定出来るかも分からないため、フライシートの端は残しておいた木の幹に括り付けることで固定した。

 これでやっと荷物を下ろして休める。いくら荷物を減らしていたって決して軽くはないのだ。


 「ようし、飯だ飯!準備すっぞー」


 このパーティーで一番料理が得意なのが真牙だからなのか、食事に関しては基本的に真牙が担当している。もちろん他の4人も手伝いくらいはするが。

 調理に入る前に慈音が結界魔法で桶を作り、続けて同じく魔法で水を生成して溜めた。湖で汲んだ水を煮沸消毒して使っても良いのだが、魔法で作った水は完全な純水なので衛生的に間違いない。最近、ダンジョン探索中のパーティーが、加熱しても死滅しない菌のいる水を飲んで全員一度に食中毒になってしまった事例がニュースになったばかりで、一央市ギルドでも注意喚起がされていたところだったりする。


 「まずは手洗い!」


 「ウチはしーちゃん以外みんな有色魔力だから、こういうの本当に助かるな」


 「えへへ。まぁ結界魔法の形でしか作れないんだけどね」


 「出来ると出来ないじゃえらい差だよ」


 戦闘面じゃどの属性にも特化出来ないせいで器用貧乏呼ばわりされることすらある白色魔力だが、生活においてはこれ以上ないほど便利だ。火も風も、電気だって起こせるし、水も出せるし、土魔法だって使えるわけだから汎用性抜群である。ダンジョンに来たって、戦闘よりそれ以外の時間の方が確実に長いので、決して中途半端だとバカにしてはいけない。慈音がいなくなってしまったら『DiS』は終わりだ。

 衛生面でもしっかりと対策をしたら、今度こそクッキングタイムだ。と言っても、食材を現地調達するような手間は掛けていない。事前に買っておいた食材でシチューを作るだけである。そこ、つまんなさそうな顔しない。安全・安定・安心が大事なのだ。ロマンはその隙間に差し込むくらいで十分なのである。


          ○


 「ねー、真ちゃんまだー?」


 「もうちょっとだぜ、千影たん」


 ホワイトシチューの濃厚な香りがし始めたあたりで、鍋を火に掛けている真牙のところに迅雷がなにかを持ってきた。


 「じゃーん。切った木で椅子を作ってみた」


 「ほう。オレに?」


 「人数分な。真牙のやつはシロアリ付き」

 

 「サンキュー、迅雷のシチューにはお礼に特別な具材たくさん入れてやるよ」


 2人がシロアリ(っぽいなにか)が湧いた木材を押し付け合っていたら、周囲の見回りを終えて戻って来た煌熾にしばかれた。ついでに木材も燃やし尽くされた。憐れ、シロアリ(っぽいなにか)・・・。

 虫の湧いていない椅子を並べて鍋を囲んだら、お待ちかねの夜飯だ。空はまだ少し明るいが、空いた腹には関係ない。


 「ちょっと暑いけど、外で飯ってのはやっぱ楽しいもんスね」


 「阿本がちゃんとしたもん作ってくれるしな」


 「やだなぁ、褒めてもゲップくらいしか出ませんでゲフよ」


 「真牙くんきたなーい」


 「慈音ちゃんに嫌われた・・・自殺してくる」


 「冗談、冗談だよ!?大体、としくんもおうちでごはんたべてるときおならとかするし、しのそういうの全然気にしないから!」


 「なんかごめん。今度からちゃんと気を付けます・・・」


 「それボクも気を付けます」


 「千影もしてたのかよ」


 「気付かれないようにスカ・・・あ、いや。オドノイドはおならなんかしませんけどォ!?」


 それは理想のアイドルになれそうでなによりだ。しばらく談笑して、鍋の中身が半分くらいになったあたりでこの後のクエストの進め方についての話になった。

今月マジで忙しいので、ちょっとお休みするかもしれないです。特に11月28日。

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PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

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『魔法少女☆スノー・プリンセス』

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