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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect12 ”コース交流試合”


 空中で頭を下に向けたまま風魔法を展開し、強力な追い風によるブーストをかけつつ魔法陣を蹴って地上へ爆速で跳び戻る。人間が宙を舞う物体を見て確実に想像する放物線軌道を任意のタイミングで急にキャンセルして攻撃へ移ることが出来る、実に迅雷らしい強引なアクション。

 迅雷と真牙の試合で最後を飾った、迅雷の新技『多重雷撃』は、疾風に稽古をつけてもらう中で考案されたものだった。

 接近戦のノウハウに関しては迅雷に比べて一日の長がある疾風に言わせれば、最後に勝敗を分けるのは”タイミングを外す技術”だそうだ。

 クロスレンジの戦いは、レベルが上がるにつれて、まずなによりも速さの次元が急激に上がっていく。そして、いつしかその速さはおよそホモサピエンスの神経系では追従不可能な領域へと突入する。千影などが良い例だ。ライフル弾と100m競走したってハンデ付きでぶっちぎるほどの速度域で、千影のような高速移動能力を持たない迅雷や疾風が同じ土俵に立てるはずがない。


 だから、本来なら人間が認識出来ない速度の世界に踏み込むために、人は必ず相手の呼吸を読む技術を磨くことになる。吸い込む気体が酸素とは限らないが、少なくとも異世界含めほとんどの生物は肉体活動をするために呼吸を行わなければならない。それが戦闘行動となれば必要なエネルギーも膨大となり、一層呼吸の重要性は増す。だから、呼吸は必ず行動の合間に発生する貴重な情報源となるのだ。目で見えない技を肌と心で解析し、見出した刹那の隙に、極限まで磨き上げた技を叩き込む。これが常道だ。

 しかし、往々にして強者は隙を見せない。つまり、隙は自ら仕掛けて作り出すものなのである。そこで重要となってくるのが”タイミングを外す技術”というワケだ。

 実践するには、その技を使う側も己が敢えて崩したリズムに適応出来なくてはならないのが難点だが、成功すれば効果は絶大だ。迅雷の『多重雷撃』はまだまだプロの目からすれば付け焼刃もいいところだが、それでも真牙の優位を一発でひっくり返すほどの成果を出した。


 ちなみに、迅雷が『多重雷撃』を思いついてから使いどころを理解するまでは早かった。多分、直近の記憶であるジャルダ・バオース戦が緩急地獄だったせいで、体が痛みという形でコツを憶えていたのだろう。


 「ほら、俺のは教えたぞ。次は真牙の番。お前なんで『駆雷(ハシリカヅチ)』を斬れたんだよ。まともな魔力量じゃ無理なはずだぞ、自分で言うのもアレだけど」


 「オイ、それ逆にオレが斬れなかったら大惨事だったパターンじゃねぇのか?まぁ結果オーライだけど。なにしたかって言えば、そうだな。オレは迅雷が出来てねぇことやっただけだぜ」


 あの時、土煙の中に取り残され、不明瞭な視界で迫り来る『駆雷』を迎え撃つ真牙の取った行動は、納刀、だった。


 常識的に考えて、戦闘の最中に刀を鞘に納める意味はない。はっきり言って無駄な動きだ。()合い術は、互いに座って向かい合っている状態で突如攻撃を仕掛けられた際に、先に動いた相手より後に刀に手を掛けて、しかし相手より早く抜刀して返り討ちにするための斬術である。互いが剣を構えて睨み合う()合いの場でその真似事をすることが甚だ見当違いなのである。

 しかし、真牙は敢えてその見当違いを立合いの場で演じることを選んだ。無駄を知っていてなおそうするだけのメリットがその行為にはあったのだ。


 真牙は、『八重水仙』の鞘を迅雷に渡して見せた。


 「コイツは魔力を外に逃がさないように内側に特殊な塗料が使われてるんだ」


 「・・・ホントだ。籠もるなコレ」


 真牙は、この鞘に入れた状態の刀に普通であれば刀身内に留めきれないほどの魔力量を注ぎ込んだ。そして、魔力の放散を妨げる鞘のサポートを受けた真牙は抜刀直後のほんの一瞬だけ、刀身から一切の魔力を漏出させない、すなわち最大威力・最高効率の斬撃を実現したのである。その一撃の鋭さは、まだ魔力制御に甘さが残る迅雷の『駆雷』など相手にならぬほどであった。


 「それに結局カッケーんだよな、居合い抜刀」


 「超分かる」


 迅雷もそのうち抜刀技を考えてみようかな、と思った。


 「ま、次はもう食らわないけどな」


 「ハッ。オレだってもうあんな小手先の技術なんか引っ掛かんねぇし」


 「ああん?小手先だからってナメてるうちは何度でも引っ掛かんだよバーカ」


 「はぁん?バカっつー方がバカなんだよバァカバーカ」


 迅雷と真牙が目くじらを立てて額を突き合わせていると、横から口にアメ玉を突っ込まれた。


 「2人とも切磋琢磨するのは良いですけどここ保健室なので静かにしてくださいねー」


 「「ふぁーい」」


 見かけが中学1、2年生にしか見えない養護教諭の一ノ瀬由良に注意され、2人は絆された笑顔で気の抜けた返事をした。


 「まったく、本当に神代君と阿本君が試合すると必ず私のところに来るのなんとかなりませんかねぇ。今日は学内戦の時よりだいぶマシなので安心しましたけど」


 「そんなこと言われましても・・・」


 「なんで私が無茶な要求してる雰囲気なんですか!?」


 「由良ちゃんセンセ、しーっ、だよ」


 迅雷と真牙に遊ばれっぱなしの由良は顔を真っ赤にして頬を膨らませている。


 「もう、ホントにもうっ。はい、手当てが終わったら教室に戻る!しっしっ!」


 「ありがとうございました、由良ちゃん先生」


 「じゃねー、由良ちゃんセンセ。また来るね!」


 「本ッ当にお大事にしてください」


 茶化しただけだが釘を刺されてしまった。

 教室に戻る道すがら、迅雷と真牙の話は今度の実技魔法学のコース交流試合のことになった。


 「負け惜しみじゃねぇけど迅雷、さっきの試合さぁ、授業の割にガチすぎじゃなかったか?」


 「俺はいつだって真面目ですぅ・・・と言いたいところだけど、実はちょっと考えてたことがあってさ」


 「ほう?このオレを踏み台にするほどの狙いとな?へぇ?」


 「嫉妬するな気色悪い。けど実際、真牙を超えていかなきゃ話にならなかった」


 「というと―――なるほど、そうきたか。試合となればその間は雪姫ちゃんの気を引けるって考えだな?」


 「そういうこと」


 こう言うと少し殺伐として聞こえるが、魔法士を目指すマンティオ学園の特別魔法科の生徒たちにとって、魔法戦の舞台ではコミュニケーションを取りやすい。互いが互い一人に意識を集中する場面であり、勝負を終えれば互いを認め合うことにも繋がるからだ。スポーツと変わらない。

 恐らく、雪姫もそれは同じはずだ。彼女の場合は極端に負の感情に偏っているが、それでも日常生活と比べれば試合中の彼女はよく表情を変えるように見える。教室で必死に話し掛けるよりも勝負の場で食らいつく方が雪姫からなにか引き出せるチャンスは多いだろう。


 「そこは分かったけど、なんでいまさらそんなに雪姫ちゃんのこと気にするようになったんだ?悪いことじゃねぇとは思うけど」


 真牙に訊かれて、迅雷は夏姫の頼み事について話をしてやった。天田姉妹の両親のことに関してはちょっと悩んで話をぼかしたが、真牙ならある程度天田家の事情についても察したことだろう。


 「ふぅむ。雪姫ちゃんって妹いたんだ」


 「多分、小学3、4年生くらいかな。雪姫ちゃんそっくりで超可愛いぞ」


 「千影たんとどっちが可愛い?」


 「む?んー・・・いや、ルックスだけで言えばダンゼン夏姫ちゃん」


 「マジか、会いてぇ。お前なんで夏姫ちゃんとそんな仲良くなってんの?」


 「迷子になってる夏姫ちゃんを公園で見つけて後ろから声かけて一緒に遊んだり餌付けしたりしてたら懐かれた」


 「それお巡りさんにも同じ説明してみろ」


 「父さんは笑って済ませたぞ」


 ※一応、疾風の職業は警察官です。


 「貴様さては上級国民だな!!両手に青いツボミとはけしからん実にけしからん!!」


 「ふはははは」


 迅雷の悪ノリのせいで脱線してしまった。話はなぜ雪姫に拘るのかだ。


 「それにさ、真牙」


 「ん?」


 「俺も見てみたいんだ。俺たちの知ってる『雪姫(ユキヒメ)』が卒園アルバムの写真みたいに無邪気に笑ってるところ。いまの俺なら、なにかひとつくらい雪姫ちゃんにぶつけられるものがあるんじゃないかって思ってる」


 「本気だな。・・・そういうことならオレもアドバイスくらいはしてやるよ。学園内でも数少ない雪姫ちゃんとまともに戦ったことのある人間としてな」


 「ああ、頼むよ」



          ●



 そして、実技魔法学のコース交流試合当日がやってきた。試合会場は魔法戦用アリーナAだ。普段の授業は校庭でやっている剣技魔法コースの生徒にとってはアウェー戦である。

 試合は全てトーナメント形式とのことで、まずはトーナメント表を決めるためにくじ引きを行うらしい。

 迅雷を含む個人戦の出場選手たちも、くじを引くためにフィールドの中央に集められた。ただくじを引くだけなのに、観客のいるアリーナということもあって、とんでもない注目度だ。


 選手は9人。通常魔法コース、剣技魔法コース、槍術魔法コース、槌術魔法コース、弓術魔法コース、銃魔法コースから集まった生徒らだ。通常魔法コースは生徒の母数がダントツに多いので選手が2人いるのと、剣技魔法コースはさらに3つのコースに細分されているところから1人ずつ選んでいるため、コース数と選手数にズレがある。


 迅雷と同じ3組からの出場選手は、雪姫と向日葵がいる。向日葵は短剣コースで辛くも個人枠を勝ち取ったようだ。


 「なんだかんだ言って学内戦のときから向日葵って優秀だよな」


 「フフン。もっと褒めても良いのよ。でもトーナメント当たったら手加減してね」


 「自信あるのかないのかハッキリしろよ」


 向日葵と一緒にフィールドに出ると、他のコースの選手たちも集まっていた。


 「通常コースのもう1人って光だったのか」


 1年6組の細谷光(ほそや ひかり)。灰色の髪がクセっ毛気味の大人しい少女だ。風魔法を操るランク1のライセンサーでもあり、防御型の魔法を得意としている。迅雷はライセンサー講習で彼女と同じ班になったことがあり、クラスは違えども話はする仲だ。

 そして、光は向日葵にとっても因縁浅からぬ相手だ。


 「ほ・そ・や・さーん!今日は学内戦の借りを返させてもらうからヨロシクゥ!!」


 「私だって負けないよ」


 光も以前より顔に自信が表れている。日頃からそれなりに魔法士としての経験を積んでいるということだろう。

 そうしていると、今度は迅雷が脇から声を掛けられた。


 「あら、今回は迅雷君が勝ちましたのね」


 「そういう矢生はまだ師匠のメンツを守れてるみたいじゃん」


 2組の聖護院(しょうごいん)矢生(やよい)。弓術魔法コースの絶対的エースであり、現在の1年生では迅雷と並んでもう1人のランク2ライセンサーでもある。今日もお嬢様はツインテと豊満なバストが魅力的だ。


 「だから私と愛貴さんの関係は師弟のそれではありませんわよ。・・・というかメンツってなんです!余計なお世話ですわ!!いまここで射転がして差し上げましょうか!?」


 「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」


 人生で1回は言ってみたいマンガの名言第8位くらい。迅雷がキメ顔で強者風を吹かせていると、矢生に白けた顔で「どなたのマネか知りませんがイタいですわよ」とツッコまれた。どうやらまだ迅雷にはこの台詞に見合う貫禄が備わっていないらしい。

 しかも、後ろから本物の強者が現れた。会場全体の空気がピリつく。集まったライバルたちに一切興味を示さない絶対零度の『雪姫(ユキヒメ)』だ。


 「今日こそ私が天田さんの鼻を明かしてやりますわ」


 「ははっ。まずは試合が当たれば良いな。今までそもそも試合すら出来てねぇんだから」


 「だから余計なお世話と言っているでしょう。決勝まで行くのですからどこかで必ずぶつかりますわよ」


 「悪いけど俺と先に当たったら諦めてくれよ」


 「言うようになりましたわね。良いでしょう、むしろ迅雷君とも当たることを願っていますわ」


 バチバチと火花を散らす雷魔法使い2人を見て、向日葵と光は互いの青くなった顔を見合わせた。


 「さすがランク2連中はなんかが違うねぇ」


 「そ、そうだね・・・ちょっと試合するの恐いかも」


 全員が揃ったので、いよいよくじ引きタイム・・・かと思ったら、雪姫だけくじから除外された。彼女はシード枠で確定らしい。妥当と言えば妥当か。残った8人で、1回戦の組み合わせを抽選した。

 1回戦の迅雷の相手は槍コース代表に決まった。特に問題なく勝てる相手だ。そして恐らく、2回戦は矢生だ。言霊の力だろうか。

 それと、向日葵と光は初戦で当たることになったらしい。








          ●







 今日の由良は迅雷が怪我の手当てにやって来ても小言を言うことはなかった。いつもみたいな真牙との頭のおかしいじゃれ合いではなく、キチンとした試合の場での怪我だからだ。


 「はい、じゃあ消毒しますからねー」


 「ぎっ!あ"ーくっそ、痛ッつ・・・」


 「我慢ですよ、男の子なんですから」


 「男女差別はんたーい!」


 迅雷が喚く間にも、由良は医療魔法でテキパキと傷を塞いでいく。見た目をネタに生徒から可愛がられてはいるが、やはり由良の腕はかなりのものだ。


 「いや由良ちゃん先生、これマジで痛いんですよ?大体、矢をもろに食らったの初めてですし、矢生のヤツ、加減ってものを知らないんでしょうかね・・・」


 「そうですねぇ・・・本当に痛そうです。私だったら一発で気絶してますよ、多分。よく頑張りましたね、神代君」


 由良はそう言って迅雷の頭を撫でてやった。せめてもの年上のお姉さんアピールのつもりらしい。微笑ましくて、迅雷はニンマリした。

 傷は治してもらえても痛みの記憶が残っていると迅雷が相談すると、由良は痛み止めではなく創傷部に包帯を巻いてくれた。


 「気休めですが、傷もないのに痛み止めを使うよりは良いですよ」


 「右手が疼きそうですね」


 迅雷は右手に宿るなんか邪悪なパワーが暴走する寸前のポーズを取った。妙にサマになっているのは実際に何度も魔力暴走を体験しているからだろう。


 「じゃ、由良ちゃん先生、ありがとうござました!」


 「ええ、()()()()()()()()()()()!ただし無茶はしないこと!」


 「はい!みんなをあっと言わせてみせますよ!」


 次も、だ。


 そう、迅雷は1年生のナンバー2であるあの聖護院矢生を下し、交流試合の決勝へと駒を進めていた。


 決勝の対戦相手が誰であるかなど、わざわざ言う必要もあるまい。

 緊張と興奮の入り交じる独特の恐怖感。絶好のコンディションだ。ようやく掴んだこのチケットを幻の笑顔と引き替えられるかは、迅雷次第。

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