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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode8 『Andromedas' elegies』
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episode8 sect3 ”マンティオ地下大空洞”

サブタイはダンジョン名・・・です?いや、実はダンジョンの名前は特にないです。従来の全てのダンジョンには名前の代わりに番号が振ってあるので。果たしてマンティオ学園に現れたダンジョンが、これまでの発見されたどこかのダンジョンと同一の位相の別の場所なのか、はたまた完全に新しいダンジョンなのか。


 マンティオ学園で発見されたダンジョンの構造は、事前に言われていた通り、どこまでも続く洞窟になっていた。ただし、少なくとも今日通る予定のルートは全体的にかなり開けているそうだ。実際、『門』をくぐってすぐに出た空間は、広場と言って差し支えない場所となっていた。この場所を、仮に「分岐路の広場」とでも呼ぶこととしよう。

 分岐路の広場からは、その名の通り大小様々な洞穴がいくつも続いている。地図を見る限りは、その分岐路の先でもさらに多数に枝分かれした道がある。今日の実習では使わないルートもたくさんあるようだ。いよいよ少年たちの冒険心を刺激するステキ仕様だ。このダンジョンを学校に置いたいつぞやの人間はセンスが良い。


 それと、洞窟だからテッキリ真っ暗で懐中電灯が必須かと思われたが、意外にも中は明るい。どんな化学反応を起こしているのか、内部から街灯並みに明るい光を放つ、丸みを帯びた結晶がそこかしこから顔を出しているおかげだ。無論、太陽光の明るさとは比べるべくもないが、人間が活動するには十分な明るさだ。

 前の班が出発して5分が経過した。迅雷の班も、そろそろ出発である。1年3組に割り当てられたルートの入り口の前に立つと、風の音が聞こえてきた。洞窟に出口があるということなのか、あるいは穴のどこかに空気を循環させる能力を持った生物がいるのか、興味深い現象だ。


 「それじゃモブオ、佐々木さん。俺らも行こうか」


 「お、おう・・・」


 「レッツゴー!」


 先生たちが前もって安全を確保しているとは言われているが、それでもモンスターは出るときは出る。その場合の対処も、この授業の目的のひとつだ。体の各所の怪我については学校にも申告してある迅雷は、実は授業の前にその点で参加出来るのかと心配されたが、一応無理のない範囲であれば好きにして良いと医者からも許可をもらっているという風に説明した。無理のない範囲、というのがやや曖昧なところではあるが。せっかくマンティオ学園に入学したのだから、やれることはなんでもやっておきたいと思ったのだ。


 迅雷はいつも通り背に『雷神』の鞘を掛け、仲間たちより一歩前を歩く。


 「・・・前の班、意外と先まで行ってるのかなぁ。声も聞こえてこないぜ」


 迅雷の背に隠れてビクつくのは、茂武夫だ。小さいトカゲが視界を横切っただけで悲鳴をあげかねない。一方で、果津穂の方はと言えばキョロキョロと周辺を見て回ってせわしない。


 「見て、なんかカリフラワーみたいなの生えてる!」


 「へー、ホントだ」


 「結晶の光で光合成してるんだよね、きっと。・・・・・・これ、おいしいのかな?」


 「佐々木さんってその場で野草食べちゃう系女子なん?」


 「そ、そんなことはしませんけど!?・・・基本」


 基本ってなんだ。休日、散歩している果津穂の後をつけたら河原で突然雑草むしって生でボリボリ食い始めて・・・とかないだろうな。まぁ、人の趣味にとやかく言うものでもないけれども。

 迅雷の中で勝手に果津穂のイメージが変わったところで、今度は茂武夫が短く悲鳴を上げた。見れば、体長1メートルほどの、6本足のイモリみたいな動物が天井から迅雷たちを見下ろしていた。天井と言っても、先に説明したとおり穴の径は広く、天井もかなり高い。あの高さから飛び降りて体当たりでもされれば、痛いでは済まないかもしれない。

 しかし、迅雷は剣を抜かず、スルーした。ダンジョンに生息する生物は、人間界で出会うモンスターほど凶暴ではないからだ。自然で暮らす野生動物が人を見るなりもれなく襲い掛かってくるわけではないのと同じだ。


 「モブオは恐がりすぎ。いっつも町中であのくらいのデカさのモンスター見てるだろ?」


 「お前らはホラー映画を映画館で見たときと家で見たときの違いが分かんないタイプか!!人生半分損してるよ!!」


 「いや分かるし。損してねぇし」


 大方、ダンジョンの薄暗さで臨場感が増しているから普段とは訳が違うのだ、と言いたいのだろう。それは迅雷にも分かるのだが、女子の果津穂の前でくらい少しは強がって見せようとか、そういう気持ちはないのだろうか。


 「ったく、頼むぜホント。ぶっちゃけあんま無茶したらまたお医者さんにねちねち怒られるんだから、せめて俺の背中掴むのだけでもやめてくれ・・・」


 6本足のイモリエリアは無事素通りして、そろそろ1つ目のスタンプが隠されているエリアだ。道草食いの果津穂に構っていたせいでややペースが遅い。ここは急ぐべきだろう。


 「わあ、大きな結晶がある!」


 そのエリアも、分岐路の広場のような大部屋状の空洞となっていた。果津穂が目を輝かせたのは、広間の中央に小山のようにドンと盛り上がった、光る結晶だ。今までよりさらに高い天井からは、結晶の頂上に向けて細い滝が落ちていて、結晶表面をその水が幾筋にも分かれて流れ落ちている。結晶の光は、その絶えず流れる水によって屈折し、広間の壁や天井に幻想的な波紋を投影していた。

 この景色には、さしもの茂武夫も見入っているようだ。ひときわ明るいためにたくさんの生き物たちがこのエリアに集まっていたが、茂武夫はそれを気にしていなかった。


 「すげぇ・・・迅雷、ダンジョンって楽しいんだな・・・!」


 「だろ。写真撮っとこ」


 今日、帰ったらこの景色を千影にも見せてあげられるように、迅雷はスマホのカメラで何枚かパシャリ。


 「よぅし、じゃあスタンプを探そうか」


 「って言っても、こんな広いところで探すのって大変じゃない?」


 「ヒントくらいあるでしょ」


 大部屋の広さは学校の体育館が4つか5つは入りそうな規模だ。しかし迅雷の言う通り、ちょっと探すと立て札があった。もちろん、マンティオ学園の先生たちが立てたものだ。

 

 「『星無き夜空の下で待つ』・・・?」


 なんかそれっぽい謎解きが書いてあって、それを声に出して読んだ果津穂が首を傾げた。


 「まぁ十中八九このヒントの場所にスタンプを置いてるんだろうけど・・・夜空って言われてもな。空なんて見えないし」


 天井を見上げても、そこら中に例の光る結晶があるばかり。あるいはそれが星になぞらえられているのかとも考えたが、明確に「星無き」感じがする箇所は見当たらない。場所を変えながら探しても同じだった。


 「1問目でこんなハードなことあるか・・・?」


 なんとなく、なにか分かるかと思った迅雷は広場の中央の巨大結晶を登ってみた。長い年月をかけて浸食を受けた影響か、表面が非常に滑らかになっていて、足を滑らせて一回、斜面の中腹くらいから地面まで転げ落ちてしまったが。慎重な茂武夫はファーストトライで登頂に成功していたので、彼に笑われた屈辱を力に変えて、迅雷は全力でよじ登った。最後に果津穂を引き上げてやって、迅雷は打ったところをさすりながら天井を見上げた。


 「高さ変わっても見えるもんは変わんないか」


 「滝が近いからマイナスイオンが気持ち良いね。時間があったら水遊びしたいのに」


 「滝があるそばで水遊びはダメだからね・・・?」


 細いとはいえ滝の落差はそれなりだ。滝壺に飲まれれば無事では済まない可能性が高い。

 さっきからやたら天然発言の多い果津穂に迅雷はツッコミを入れた。教室でのイメージと違いがあって困惑してしまう。若干、慈音を見ているような気分にさえなってきた。あっちもあっちで大概天然なところがあるからだ。


 「なあモブオ。お前、なんか分かんねーの?」


 「多分だけど、あの辺じゃないか?」


 「んー・・・?なんで?」


 意外にも即答した茂武夫は、天井のある一点を指差した。だが、迅雷も果津穂も、なぜ茂武夫がその結論に至ったのか分からない。当の茂武夫は、なんで分からないのかが分からないといった風に眉を寄せた。


 「水を下から照らした光が天井に模様作ってるだろ?あれってキラキラしてるから星っぽいと思ってさ。で、その光があのあたりの天井にだけは届いてないじゃないか。それに、ほら。川もあっちの方向にだけは一本も流れてない。なにかが”無い”条件を満たしている場所と言えば、あそこしかないだろ」


 「え、室井君天才じゃん・・・」


 「へっ、へへへ・・・まぁなんというか・・・?」


 陰キャ男子あるある。女子に褒められるとニヤニヤしながらボソボソとなんか言う。でもぶっちゃけなに言ってんのか自分でもよく分かってない。(※ソースは作者)

 さっそくその場所を目指そうとする一行だが、おだてられた陰キャが案の定急にイキりだして、斜面を降りようとした一歩目で足を滑らせた。


 「うっ・・・おわはああああああッ!?」


 「モブオ!?」


 さすがにこの高さから落ちるのはマズい。迅雷は頂上から飛んで茂武夫に空中で追いつき、捕まえた。そのまま『雷神』を抜いて、一気に魔力を込めつつ巨大結晶の斜面に投擲した。剣は見事に結晶に突き刺さる。迅雷は続けて『召喚(サモン)』で結晶に刺さった状態の『雷神』を呼び出した。固定された剣を掴んでぶら下がろうという目論みだ。狙いは上手く成功して、地面に激突する1秒前に迅雷と茂武夫は停止することが出来た。


 「あっ・・・・・・ぶねぇ」


 「死ぬかと思った・・・・・・」


 地面まではあと1メートルちょっとだ。迅雷は掴んでいた茂武夫を改めて地面に落とし、それから自分も着地した。


 「あ"あ"あ"~!!迅雷ぃぃ、いや迅雷様!!本当にありがどお"お"お"お"ぅ"!!」


 「汚い!抱き付くな!汚い!!」


 「2人とも大丈夫ー!?」


 結晶のてっぺんから顔を青くして叫ぶ果津穂に迅雷は手を振った。


 「なんか恐くなったから私も受け止めてー!!」


 「分かったー!!気を付けてなー!!」


 滑り台の要領で遠慮無く飛び込んできた果津穂を、迅雷はなんとか受け止めてやった。最後はちゃんと『雷神』も回収し、気を取り直して茂武夫の示した場所へ。

 天井に水を照らした影の映っていない場所を少し探すと、茂武夫の予想通り、1個目のスタンプがあった。


 「よっしゃ、やっと1個目クリアだな」


 「室井君お手柄~」


 「やめて・・・褒めないで、死ぬから・・・」


 陰キャあるある。自分で考えたジンクスを割と本気で信じ込む。というかぶっちゃけ、ただ無駄にプライドだけ高いから失敗を素直に反省することが出来ない。(※ソー(以下略))

 まぁ、ボロクソには言ったが、これは確かに茂武夫の手柄だ。そういえば、茂武夫のテストの成績は、地味に良い方だったか。頭は回る方なのだろう。


 「モブオ、次のスタンプも頼むぜ。メッチャ時間押してそうだからバンバン行くぞ」


 「はい、頑張ります迅雷様!!」


 「え、そのノリ続くの・・・?」



          ○



 その後、果津穂の寄り道で遭難しかけたり、空飛ぶヒトデのようなモンスターに襲われたりしたが、迅雷たちはなんとか全てのスタンプを集めることが出来た。茂武夫のおかげで謎解きには苦労せずに済んだので、道に迷った割にはペースも順調だ。最終的な貢献度で言えば、多分茂武夫がMVPだろう。とはいえ、果津穂も冒険を楽しむという意味では居てくれて良かったかもしれない。

 とにかく、あとは道なりに進んで分岐路の広場に戻って終了だ。


 「なんか神代君のさっきの戦い方スゴかったね。あれなに?ヒトデ一発で真っ二つにしてたよね?」


 「『駆雷』(ハシリカヅチ)っていう剣技魔法だよ。俺のオリジナル技」


 「へー、カッコイイねぇ」


 果津穂は素直に感心した様子だ。学内戦の選手紹介でネタにされて以来、しばしばクラスメートにも中二病ネタでイジられる迅雷だが、実際に出来るならイタくはない。むしろオリジナルの魔法を持っているのは結構すごいことだ。


 現代の魔法教育では、基本的な魔法はとっくに体系化が完了しており、子供らは小中高と12年間の学校教育を通して、そのガイドラインに沿って魔法を教わる。その方が教える側にとっても教わる側にとっても効率的で、想定外が起こすリスクも低いからだ。魔法科専門として名高いマンティオ学園も、この方式を採用している。

 だから、魔法に付ける名前は人によって様々でも、大抵の場合、同じ現象を起こす魔法は本質的に全く同一の魔法である。嘘だと思ったら千影の『火吹芸』という魔法と、焔煌熾の『ファイア』の魔法陣を見比べてみると良い。どちらも小規模に火炎を発生する魔法であり、きっと魔法陣の模様は完全に一致するはずだ。それはつまり、魔法の教本では「こういう模様の魔法陣を組むとこの魔法が使えるよ」と脳に刷り込んでいるということもある。

 

 余談が長くなったが、そういう時代だからこそ、自分だけの完全にオリジナルな魔法を持っている魔法士は珍しい。マンティオ学園では剣技魔法の授業コースがあるように、剣技魔法も剣術面の指導を含めて体系化が進んでいるし、それを極めれば十二分に実戦で通用する。だから果津穂が、我流に拘って、かつそのスタイルで活躍している迅雷に感心したのは魔法を学ぶ者としておかしなことではない。


 「興味あるなら教えるよ?実は魔法陣いらないタイプの技だし」


 「いやぁ、私は剣は使わないから」


 「それもそっか」


 「ていうかさ」


 「?」


 なぜか果津穂にジッと見つめられ、迅雷は首を傾げた。


 「いや、私そんな神代君と絡んでなかったから分かんないけど、夏休み前と雰囲気変わった・・・?」


 「あ、それ俺も分かる。なんか大人びたっていうか・・・・・・ハッ、まさか!!」


 茂武夫もようやく会話に混ざってきたかと思ったら、衝撃的な顔になって固まった。


 「おおまおまえまさかしっ、しし東雲さんとなにかあったのではなかろうな!」


 「え?」


 「とぼけるな!!聞いたぞ、最近同棲してんだろォ!?今朝もなんか騒いでたもんなァ!!てめー大人の階段登ったな!?」


 「いや、違うから。一緒の家なのもこないだの『迎撃戦』でしーちゃん家がぶっ壊れたから仮設取れるまで部屋貸してるだけで」


 「その落ち着いた態度がなおさら怪しいんだよ!!」


 もし仮に茂武夫の言う通りだったとして、一体なにがそんなに恨めしいのやら。迅雷は荒ぶり迫る茂武夫の暑苦しい顔面を鷲掴みにして押し退けた。


 「俺のことはいーから早く戻ろうよ」


 「でもでも、実際のとこ、慈音ちゃんとはどうなの?告られたんでしょ?気になるー」


 「ぬぐっ・・・。いや、まぁそうなんだけど・・・別に付き合ってるわけじゃないんだよ、マジで・・・」


 「えー、フッたの?の割に仲良くない?キープってやつ?信じらんなーい」


 「人聞き悪ッ!!・・・・・・あれ?でも状況的にはまさにそんな・・・・・・う、うがあああああッ!?」


 果津穂の容赦ない一言で迅雷のメンタルが爆発四散した。なんかアメリカのB級映画でマシンガンに蜂の巣にされるヤツみたいなヤバイ震え方をして、迅雷は受け身も取れずにぶっ倒れた。虚ろな目で洞窟の天井を見つめて、迅雷はうわ言のように「違うんです」と繰り返している。怖い。予想の100倍くらい深い傷を与えてしまった果津穂が手を合わせた。


 「ご、ごめんね、冗談だから!他に好きな子がいたから返事出来なかったんだよね!?」


 「うん・・・そんなところです。うん」


 そうとも。確かに迅雷は慈音のことを心から大切に思っているし、彼女から向けられる好意も非常に嬉しく思っているのだが、それでも一番好きなのは千影なのだ。その気持ちにだけは嘘をつけない。

 分岐路の広場に戻ってきた迅雷の顔色を見た先生たちが、なにかあったのかと騒ぎになりかけたのは、どうでも良い話だ。

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