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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect52


 アーニアの演説の最中、俄にジャルダがバカ笑いし始めると、迅雷は総毛立つ思いがした。狂笑とは違う。アーニアの言葉には笑うべき部分なんてないし、ジャルダの言動も甚だ狂気的だったが、迅雷の目にはジャルダが純粋に歓喜しているように見えた。恐らく、あの男は理解したのだ。迅雷よりも早く、そして深く、アーニアの信じる愛の正体を。


 その上で出た言葉が「殺そう」だ。ついていけない。


 「聞いぃているか、小僧?お前が守ろうとした女は今、我々に戦えと言っとるぞ」


 「どう解釈したらそうなる・・・」


 口を突いて出たその問いは、困惑よりむしろ、迅雷が少しでも理解を追いつかせたいという思いから生まれたものだった。しかし、興奮するジャルダは気の利いた回答など寄越してはくれない。


 「私がこの戦いそのものを譲れんからだよォ!!」


 直後だ。


 ジャルダのシルエットが歪む。


 「アーニアの命を私にくれ、神代迅雷!!」


 千切れた右腕の断面から、指が多すぎる手が生えた。

 失った左手の指が、骨の抜けた触手同然の欠陥品に置き換わった。

 背中から新たな腕が4本飛び出した。


 「譲れんというなら剣を構えろォ!!」


 柄のない剣が6本現れ、ジャルダは6本に増えた腕のそれぞれに剣を持つ。


 言われるまでもなく迅雷は剣の構えを上げた。


 (こいつっ、じ、()()()()()()のか!?)


 『不全にして全能』に作れないものは唯ひとつ、完全なものだけだ。魔力量さえ許すなら、彼は新たな世界すら生み出せる。

 己の体を歪に作り替えたジャルダ・バオースの放つプレッシャーが膨れ上がる。もう考え事をしている余裕などなくなった。ジャルダの言う通り、迅雷はアーニアを守ることを譲れないのだから。


 迅雷が先に動く。ここは屋外だ。ここでなら、崩れる寸前の国会議事堂にトドメを刺してしまう心配はない。だから、今度こそ全力の全力で確実に倒しきる。

 天に向けた『雷神』が烈光を帯びる。


 「『駆雷』(ハシリカヅチ)!!」


 光が走り、地面が割れる。細く、真っ直ぐに。


 ジャルダは受け止めようとするが、すぐに過ったと気付く。迅雷の技が、《飛空戦艦》のミサイルを迎撃するために使っていたものと同じだと高を括っていた。確かに同じ技ではあったが、質がまるで違う。


 「やはりランク2は違うなぁ!!」


 ダメージは諦め、ジャルダは致命傷だけは避けようと横に逃げる。そこに迫るのは『天津風』、『駆雷』に迫る規模の風の刃。

 ジャルダは反射的に跳ぶ。

 せっかく増やした腕は雷光に左側を根こそぎ持って行かれるが、足は守り、翼で空気を掴んで飛翔する。

 一撃必殺の飛ぶ斬撃を持つ迅雷相手に大きく跳躍する行為はリスキーで無駄な隙を晒すことになるが、その無駄こそがジャルダ自身の祝福によって勝利の鍵へと昇華される。


 迅雷は、追撃を途中で諦める。

 ジャルダの落下速度が、千影の挙動を髣髴とさせる不自然な加速を見せたからだ。

 右三本の同時斬りを受け流し、不意打ち気味に現れる歪な銃もいい加減にお約束。

 『サンダーアロー』でジャルダが発砲する前に暴発させてタイミングを崩し、次の斬撃を目で追う。


 「・・・いっ!?」


 が、無理だ。


 2本腕のときでも捌けなかったジャルダ特有の緩急が乗った剣術を、それ以上の手数で迫られていなせるワケがない。おまけに、ジャルダが生み出す歪な剣はサイズが不揃いで、間合いも測りかねる。


 血が舞う。


 防げたのは一太刀目のみ。

 すぐ後ろに退かねば左足が飛んでいた。

 距離を取りたい。悔しいが、近接戦では不利だと思い知った。

 迅雷は『雷神』の鋒を地面に当て、『紫電』と唱える。

 地を這う電撃弾ける。

 追撃の銃弾がプラズマを突っ切って飛んでくる。

 自分で目薬を差すときでもそう上手くはいかないほど、正確に両目の中心を狙ってやって来る。

 ビビるが、目は瞑らない。

 両手の剣を振り上げ、2発とも斬り捨てる。

 上げた両刃に魔力を通す。

 しかし、斬り下ろすより先にジャルダが肉薄する。

 『駆雷』の間合いの内側、狙えない。

 無理矢理腕を下ろし、挟み切るために剣を振る。

 ジャルダの左腕が3本、新造され、迅雷の剣は両側とも止められる。

 ガラ空きとなった迅雷の顔面に拳が迫る。


 「ブッ―――!?」


 首の骨が変な音を立てた。

 顔の右側に熱が走る。

 反射的に重心を後ろへ逃がした。

 転ぶために。

 耐えようとしちゃいけないと直感した。

 錐揉みしながら吹っ飛ぶ。

 激突したのは、アーニアが乗ってきた装甲車。

 その頑強な装甲車がひしゃげる勢いでぶつかった。


 「あ、れ・・・?」


 右目がよく見えない。失明してはいないが―――見え方がなにか変だ。瞼が腫れた・・・・・・だけだ。そうに違いない。そう自分に言い聞かせ、迅雷はフラフラと立ち上がる。バランスが取りにくい。右側が耳も目も不自由だからか。


 (くそっ。距離取りたくても接近を止めれねぇ・・・!!受けはダメだ、もうやめだ、後手に回るな腹括れ、潜り込め、このまま続けてたら次で死ぬ!!)


 隙の多いジャルダだが、学習したのかもう『黒閃』を撃ってくれる気配だけはない。

 力で押し切る。ジャルダは元騎士の経歴に相応しい対応力があり、加えて『不全にして全能』などという便利極まりない特異魔術(インジェナム)を持っている。迅雷も決して潜ってきた死線の数は少なくないが、それは一般と比べての話だ。ジャルダと技で戦うのは無理すぎる。だから、もう迅雷に残された戦術はそれしかない。この魔力量を、どこまで使いこなせるか―――。


 神話に謳われる阿修羅さながらに6本の腕をいからせ、ジャルダは飛び掛かってくる。

 背後には、横倒しの装甲車。


 迅雷は一息にその車体を叩き斬った。


 燃料が閃光と灼熱に変化する。


 「ほォッ!!」


 爆風に呑まれる。

 ジャルダは目を瞑り、呼吸を止める他ない。

 いくら能力で代わりの肉体を作れるとはいっても、所詮はいずれ自壊する不便な代物に過ぎない。目や肺をやられるのは、手足とは訳が違う。


 火だるまになったジャルダは、しかし無駄に増えた手を器用に動かしてうまく着地した。

 それから、魔術を使って体を包む炎を、引き剥がす。まるでガムテープでも剥がすような挙動であり、実際、剥がされた炎は丸めたガムテープのようにジャルダの掌に収まっていた。


 「自爆・・・とぉいうことはなかろう!?」


 「らァッ!!」


 迅雷は、空から降ってきた。


 思い切りの良い大振りの一斬―――を、ジャルダは盾を作って受ける。持ち手しかない、歪な盾だ。だが、その持ち手が尋常ならざる強度を発揮してジャルダを守る。

 ジャルダは迅雷に向けて、剥がした炎の玉を投げつける。

 迅雷は体幹を酷使して空中の体を強引に横へ動かし、炎を避ける。

 ジャルダが空いた腕で剣を振り上げる。迅雷でも真似しないほど、仰々しく。

 今までならカウンターを恐れて見送ってきた、作り物の隙に、迅雷は全力で突撃する。

 全身の『マジックブースト』のアクセルを、さらにもう一段、踏み込んだ。


 考えて取ったはずの動作が、

     微妙に思考を置き去りにするような、

                    浮遊感。


 構わず、左手の剣を水平に薙ぐ。

 一瞬先に迅雷が届く。

 痛みでジャルダの剣が僅かに揺れる。

 迅雷は左腕を投げるように『風神』を振り抜きながら、掴み取ったチャンスで体に回転を与え、次は二刀同時の水平斬りへ。

 突如ジャルダの腹から手が飛び出す。手刀。

 咄嗟に迅雷は剣を交差し、喉を守る。

 火花が散り、弾き飛ばされる。

 構わない。

 追撃を許さぬよう、迅雷は足が地に着くなり二度、三度とサイドステップを刻む。

 そして再び、獣の如く襲いかかる。

 ジャルダがなにかを投げる。爆竹。

 その中に火薬はない。でも爆発する。それも、人を殺せる威力で。


 「があああああああ!!」


 構わない。吼える。

 不調の眼球を『マジックブースト』で強制的にオーバードライブさせる迅雷には、爆発の瞬間さえ視える。

 靴底が燃えるようなスピードでピボット。

 爆風を受け流し、一歩、二歩。

 両手を振り上げ、三歩目。

 ジャルダの剣、6方位から。

 跳ぶ。剣を叩き下ろす。

 金打つ音。剣と剣、敵頭上で魅せるハンドスプリング。

 ジャルダの剣は全てが彼の正面へと飛んでいく。

 無防備のうなじ。

 着地、振り向かない。時間が惜しい。

 『雷神』を逆手に翻し、後ろ手に突く。

 ジャルダの右足が唸る。

 背を蹴られ、間合いが大きくズレる。

 構わない、次だ。

 下から掬い上げるようなジャルダの斬撃。

 迅雷は前傾の転びかけ。躱せない。


 「ッ、『サイクロン』!!」


 腹に自ら突風をぶつける。

 胸部の異物が軋みを上げる。

 構わない。死ぬよりマシだ。

 ジャルダを背を合わせるような姿勢から、ヌルリと体を捻り、振り返ろうとするジャルダの脇の下を潜り抜ける。

 見下ろすジャルダと視線が交錯する刹那。

 頭突きが迅雷の側頭部を叩く。

 金槌で殴られたような衝撃が迅雷の頭部を地面に叩き落とす。

 これはさすがに構う。頭でバウンドしたら首がおかしくなる。

 だが、同時にジャルダの歪な腕が一斉に自壊した。背や腹から生えるものも、全て。

 星が舞う視界に究極のラッキータイムを知った迅雷は、ほぼ倒れかけの姿勢から地を蹴り『雷神』で斬り上げる。

 しかし、ジャルダの笑みは消えない。


 (速ェッ!!)


 (間ァに合うんだなァこいつがよぉぉぉ!!)


 ジャルダは、新しい腕、一本だけを間に合わせてきた。

 肉壁となった腕が宙を舞い、ジャルダの口からメガホンが飛び出る。


 「・・・っ!?」



 「 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

   | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | 

   |_|       | | 

             | |

            | |    |_| |_|  

           | |        ||

          ノ_ノ        ノ_ノ 」



 左耳を肩に押し付け、鼓膜を守る。 

 間に合ったのは、たまたま姿勢的に耳を塞ぎやすかったのと、既に潰れた右耳を守る必要がなかった2点のおかげだ。もっとも、右耳については咄嗟のことで迅雷自身気が回っていなかったが。

 しかし、迅雷が耳を守る隙に、ジャルダは新しい腕を作り終えている。

 耳を塞ぐために動かせなくなった迅雷の左腕が掴まれる。

 自分の腕ごと斬らんとばかりにジャルダが剣を掲げる。

 5本の太刀筋。迅雷の腕は右一本。

 迷わず迅雷は体幹を酷使する。

 ジャルダの頼もしい奇腕を掴み返し、足を畳み込み、ジャルダの胸にドロップキックを叩き込み、



 「は、なあぁぁあせええええええええッ!!」



 ブチィ、という聞いたこともない音と共に迅雷は吹っ飛んだ。

 左腕が残っているか確かめると、そこには腕が2本あった。片方はジャルダのものだ。狙ってやったとはいえ、エグい感触が肘から先全体に残っていた。


 さしものジャルダも自分の腕を無理矢理引き千切られた経験はないのか、明らかに苦悶の表情だ。

 迅雷は千切れてなお腕を離さないジャルダの残骸を振り払い、再度仕掛け―――。


 「ぁぐっ・・・・・・?」


 地面を捉え損ね、迅雷は焦って自分の両足を見た。

 一応、ついてる。ギリギリセーフ。転がる。このチャンスは逃さない。


 「『スパあああああああああク』!!」


 戦車砲と間違いそうな大爆発。

 迅雷は剣を捨て、動物になってがむしゃらに走る。

 あっという間に何枚もの爪が剥がれていく。

 ジャルダの背後へ。

 声で気取られるな。

 詠唱破棄、『サイクロン』。

 暴風で脚力を補う。

 同時、『召喚』で剣を回収、口を開けば風圧で仰け反りかねない速さで、ジャルダの首を


 (獲る!!)


 白銀の反射。

 

 嗤。


 「ヒッヒ、ハハァァァァァッ!!」


 (コイツ後ろに目ェついてんのかよ―――!?)






          ○





 「神代のぉ。お前はぁ強いな。老い衰えたとて、この私がこうも手こずる敵もそういないだろぉうよ」


 最後の一撃。獲ったと思ったし、実際、普通ならあれで終わっていたはずだ。

 でも、ジャルダはまるで初めから見ていたかの如く動いた。綺麗にクロスカウンターを合わせられた。

 油断と言うより、焦っていた。だから、どうしようもなかった。


 「両足の筋肉を削がれてなおあれだけ走るたぁ感心。たぁだ、いかんせん雑だぁな」


 左手の感覚がない。手首から先を切断されたからだ。

 右手も手首の骨が粉々だが、くっついているだけマシか。わずかに右手の剣が左手に遅れていたおかげだろう。・・・このザマでは、今から改めて斬られるかもしれないが。

 もう両手も両足もダメだ。ジャルダの特異魔術が羨ましい。それさえなければ、アーニアの演説が始まった時点で迅雷の勝ちだったのに、ズルい。超、ズルい。

 迅雷は肘を使って、なんとか体を起こす。立てないから、座る程度に。


 「・・・・・・あなたは、弱かったですよ。・・・少なくとも、アルエル・メトゥよりは」


 「あの噂は真実だったかぁ・・・たぁまげた話だ。どぉうやって勝ったんだ」


 「さぁね・・・分かりませんよ」


 下らない抵抗だった。確かにジャルダはアルエルと比べたら数段レベルが低かったが、それでも迅雷はこの体たらくだ。


 「痛かろうが我ぁ慢しろよ」


 ジャルダの足が動く。蹴り飛ばされ、迅雷は崩れた国会議事堂の入り口にゴールイン。走ってくるジャルダは、その勢いのまま迅雷の右腕の上腕骨を踏んで折った。嗄れた絶叫が屋内に木霊する。


 「頑張った褒ぅ美に、アーニア姫の陵辱ショーを開いて招待してやるからなぁ」


 「俺は殺さないんですか・・・」


 「死にたいかね?」


 「死にたくない」


 「なぁら来たまえよ」


 「・・・・・・」


 「・・・まぁだやぁり合う気かねぇ?」


 やれやれとばかりにジャルダは鼻で嘆息し、迅雷と少し離れた床に腰を下ろした。こんなときばかり年寄りらしい間延びした掛け声を出されても反応に困る。存在を維持できなくなった作り物の腕が、またボロボロと崩れ去った。今見ればジャルダの本当の姿もまた、迅雷に劣らず無惨なものだ。


 「寄る年波にゃあ敵わん。若ぁい頃ぁ剣も銃も10分は保ったのだがねぇ」


 「『サンダーアロー』」


 「やめたまえよ」


 迅雷が魔法を撃とうとすると、ジャルダは得意の歪な銃を生成して迅雷の右手を撃ち抜いた。


 「なぁぜ殺さないか訊いたな。なぜ私がこぉうも無益なことばかりするか気になっとるだろ?」


 ジャルダはまた、急に自分語りを始めた。


 「自覚はある。私のォ・・・性癖、ウン。性癖だ。そぉういう趣味なんだ」


 さっさと迅雷にトドメを刺して脅威を排除すれば良いのに、そうしない。アーニアの命が目的だったはずなのに、こんな場所で敵と与太話。部下だって今、必死に戦っているかもしれないのに。怠慢とみられても文句は言えまい。

 多分、ジャルダはそういうビョーキだ。変態なのだ。騎士退役後に侯爵位を与えられている通り仕事はこなせるが、それは物の道理に従ってやってきただけで本質ではない。片手と片耳を欠いた迅雷を見つめ、その迅雷に一世紀の七割を共に過ごした両腕を一夜のうちに奪われたジャルダはウキウキしていた。


 

 「欠けたものこそ美しい・・・。蛇足なものこそ愛おしい。君は、良いよぉ、本当に。余分な魔力、戦の前からボロボロの体、そこからさらに傷付いた無惨な有様、画になるなぁ」



 「最悪に歪んだフェチですね・・・」


 「そうとも歪んでおるともそぉうだとも。私はなぁ、人も、不完全なヤツのが好みなんだ。精神的でも肉体的でも。まぁ美形も好きだから、具体的には肢体を欠いて、人の身に余る魔力を持ぉっとる美少年とか、なァ?」


 ニチャアと頬を綻ばせるジャルダ。迅雷はケツの穴が締まる感覚に身震いした。死ぬことの次に嫌なのは、しわくちゃジジイの衰え知らずの夜の剣技で男を知ることだ。


 「冗ぅ談だよ、君。私ももう歳だと言っておるのに。・・・が、なぁるほど。道理で私ぁああもペトラに惹かれたのだろうなぁ。不妊の美女など抱きたくならんでいられようかね」


 すぐ昔を思い出すのは年寄りの悪い癖だ。ジャルダは「おっと」と言葉を止めた。だが、今の回想でひとつ思い出したことがあった。


 「そういやぁ、オドノイドってのはぁ、どうも皆揃って生殖機能が停止しとるらしいじゃあないか」


 さっきまではなんだかんだと言って返ってきていた迅雷の反応が消えていた。気付いたジャルダは、笑みを深め、なおも語る。



 「アーニア姫の演説を聞いて私も考えを改めたよ。オぉドノイドは、殺して終わらすべきじゃあない。神代迅雷、君ぃ、()()()()()()()()()()()?共に我が愛しの姫君にぃ『オドノイドは我々皇国の手で保護しよう』と提案しよう。なぁに心配するな。君の身分は私がキチンと保証するし、話を通すアテにも思い当たりがある。無論怪我の手当もしてやろう。君はあの金髪のオドノイドに恋しとるんだろう?悪い話じゃなかろうよ。事が上手く運べば君ぁ晴れてあの少女と平和に暮らせるようになるんだ。もし仮にダメでも私が最低限君ら2人のことは保証してやっても良い」



 ここで念のため断っておくが、今、ジャルダは素直な気持ちで迅雷を勧誘している。打算はあっても、そこに悪意はほとんどない。裏を返せば悪意皆無というわけではないが、そこは一応、悪魔の囁きだ。残りの人生、愛する者のために憎いであろう皇国に媚びを売って末永く苦悩する青年を見て過ごすのはさぞ愉しかろう、程度の考えは頭にあった。


 だが、そんなものだ。


 迅雷にとって、メリットは確実に、ある。

 それどころか、これ以上の犠牲を生むことなく戦争の原因そのものすら解決し得る。

 

 10秒、沈黙が続いた。



 その10秒が神代迅雷のターニングポイントだった。



 そして。

episode7 sect52 ”くそくらえのバナナ型神話”

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