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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect34 ”すすめ、ぼくらの飛空戦艦!!”

 月が隠れて初めて、誰かが気付いた。


 「な・・・・・・なん、だ・・・あれは・・・・・・ッ!?」


 雲――――――などではない。決して。


 地表にまで届く重厚な月震の正体は、海の向こうから飛来した、巨大にして巨大かつ巨大な超弩級の《飛空戦艦》だった。


 次の瞬間、チカッとなにかが瞬いて―――。


 美しい港町は焦土と化した。



          ●

          ●

          ●




 世界の理を知る者には、自らの元を訪れた『運命』を強く意識し、相応しく振る舞う義務がある。それが奪う者であっても、奪われる者であってもだ。次に『運命』が到来するその時まで、その真実を忘れたかのように、理を知らない誰よりも明確に。


 なにも難しいことなど言っていない。自分が富みゆく者であると気付けば、豪遊すべきだと言っている。自分が重税に苦しめられていると知れば、心ゆくまで血も涙もない為政者を呪えば良い。


 それはどちらも、その時しか味わうことの出来ない、快楽なのだから。




          ●

          ●

          ●




 アスモによる宣戦布告の後、何者かが代わって告げた。

 

 『手始めにバベルの塔だ。先に言っておくが、もはやこれ以上傲慢な獣人畜生如きにかける情けも憐れみもない。降伏は認めない。人間もろとも己等らの愚かさを海より深く悔いて死ね』


 閃光に貫かれた『ノル・トゥーリム』は、建設用設備の燃料かなにかに引火でもしたのか、様々な高さで派手な爆発を起こしながら崩壊していく。『ノル・トゥーリム』もろともに焼き払われた街へ、軌道エレベータ建材の成れ果てが降り注ぐ。


          ○


 空飛ぶ巨大戦艦の全長は、ざっと()()()()()()()()

 

 その全体が強力無比な火器に覆われ、その上、空母としての機能までをも有する、まさしく夢の超兵器だ。・・・その超絶火力を向けられる側にしてみれば、夢は夢でも悪夢以外の何物でもないが。

 これまでにこの戦艦(ふね)の出撃が確認された戦闘は片手の指で足りるが、この戦艦が地図から消した都市の数は両手の指じゃ足りない。噂ながらについた異名は、シンプルに《飛空戦艦》。あまりに圧倒的すぎる破壊力の痕には、もはやまともな目撃証言すら残らず、なにか恐ろしいものが空を飛んで来た以上のことなど誰にも分からないのだ。


 だから、皇国以外の国は知らない。

 その《飛空戦艦》が、実はたった1人の貴族が所有する”私戦力”であるということを。


 「はッァ~!!ははははははははァァァァ!?こぉいつはトぉぉンデモない威力だぁぁ!!一撃で!!あの目障りな物見櫓がポッキリだぁ!!今度ばかりは姫様にも心から感謝せねばなりませんなぁぁぁ!!」

 

 《飛空戦艦》の甲板から、一直線に街を引き裂き現れた煉獄の大地を見下ろして狂笑する悪魔がいた。

 ジャルダ・バオース侯爵。皇国民でありながら、皇族から政治の実権を奪い、貴族議会による新政権樹立を狙う、通称”貴族派”の筆頭である。そしてまた、皇国で最も戦争を愛する男だ。

 

 しかし、今のジャルダは謂わば政敵筆頭の1人であるアスモ、厳密には彼女の摂政であるルシフェル・ウェネジアと結託している。

 両者共に不本意な部分はあったが、全ては皇国のためだ。民連を中心とする第3勢力の誕生を許せば、遠からず魔界の勢力間で経済的要因による相互確証破壊が成立してしまう。故に、交流式典は力尽くでも潰さなければならなかった。

 アスモとルシフェルは、皇国の力を改めて全世界に示すためには派手な戦力が必要で、夜襲に求められる機動性に関しては皇国の騎士団ではどうしたって《飛空戦艦》には及ばないから、効率のために力を貸して欲しいだなどとのたまっていたが、どうせ裏はあるだろう。だがしかし、暴れ回った上で母国の利益に莫大な貢献を果たせる以上は是非もない。そうして、ジャルダは彼らの口車に乗ることに決めた。


 「さぁぁてぇ・・・本番はここからだ。ゆけぃ、精鋭諸君!!無抵抗の女子供にも容赦はするな!!我らが麗しの姫様がそれをお望みだぁ!!」

 

 率いるは己が屈強なる私兵団と、アスモから借り受けた選りすぐりの騎士たち。

 悪魔の号令で、《飛空戦艦》の甲板から爆撃戦闘機4個小隊と人員輸送機6機が射出された。魔術の「ま」の字もない純粋な科学の結晶による侵攻は、先端科学技術を誇示しながら頑なにそれを武力に変換せずにきた民連への当てつけのようだった。

 洋上を一切燃料を使わずに運ばれてきた爆撃戦闘機の群れは、すぐさま編隊を成して、出し惜しみなしの最大加速を行った。道すがらも地上を爆破しながら、散開する。彼らを脅かす対空防御装置さえ、民連には存在しない。生かすも殺すも、壊すも残すも思うがまま。

 ほどなくして、東西南北いずこからも爆炎と悲鳴が上がり始め、ジャルダは愉悦に顔を歪めた。


 「さぁてぇ。進め、イィブラットゥォ。目指すは首都だぁ」


 『バオース侯。お楽しみのところすまないが、味方は巻き込まぬよう配慮はお願いしますよ』


 「おんやぁ、ウェネジア殿。なぁに分かっておりますともぉ。そぉうご心配召されるな。味方は、大事にいたしましょうぞ」



          ●

 


 今さっき、空を突っ切っていった細身の飛行機はなんだ?あの飛行機から聞こえた少女の声はなんと言った?さっきの爆発は?どこから?


 過激なシーンチェンジに、迅雷は頭上を見上げたまま唖然としていた。

 不審者と思って追いかけたのがルニアだったから、一度張り詰めた緊張が弛緩していた。故にショックはいっそう強烈だったのだ。

 しかし、迅雷は目の前で突如ルニアが崩れ落ちたとき、我に返った。


 「・・・わたしの、せい・・・?」


 「ルニア様?」


 「わたしのせい・・・わたしのせいなの・・・・・・わたしがぁ・・・」


 「ちょっ、えっ、ル、ルニア様!?しっかりしてください!と、とりあえずどこか安全なところに逃げましょう!」


 「――――――」


 情けなく往来の真ん中でへたり込むルニアを立たせようとした迅雷は、空を見上げたまま瞬きひとつしない彼女の眼を見た瞬間ゾッとした。


 ()()()()()


 そう言うより他にない。

 完全に放心状態だ。

 焦点が定まらない虚ろな瞳と視線を合わせようとしても、いっそ眼球をすり抜けて頭蓋に2つ空いた眼窩そのものを覗いているのと変わらない気さえした。さっきまで普通に会話していたはずの迅雷の声すら全く聞こえていないみたいに、ひたすら「私のせい」とうわ言のように繰り返し続けている。

 皇国から攻撃を受けたのがショックなのは、分かる。分かるが、果たしてそれだけでこんなに生気を失うものか?軍備を推進していたルニアに限って、戦争と縁のない民連国民の、攻撃されることへの拒絶反応なんて説明は通るまい。・・・だから、思うにそもそもだ。


 ()()()()()()()()()()()()てい()()


 彼女が繰り返す「私のせい」という言葉。彼女が率いていたのは民連軍。昨日の民連軍のクーデター―――。


 「くそ、千影!とりあえずルニア様を連れてホテルの中に避難しよう!」


 「あ、う、うん!」


 迅雷と千影は、人形みたいに力の抜けたルニアを協力して肩に担ぎ、すぐ近くの自分たちも宿泊しているホテルに逃げ込んだ。

 ホテルのロビーでは従業員たちが慌てふためき、右往左往していた。しかたのないことだ。誰もまさかこんなことが起きるなどとは思っていなかったはずだから。

 一旦、迅雷と千影はルニアをロビーにあるソファに座らせた。相変わらずルニアはワケの分からないうわ言を呟き続けている。


 「・・・ルーニャさん、なにか隠してたのかな」


 「千影もそう思うか?」


 「さすがにこの状況と無関係とは思わないよね」


 千影が苦笑を見せて、迅雷も少し気分が落ち着いた。例え苦し紛れでも、千影が笑ってくれるだけで全然違うものだった。

 迅雷たちを見つけたホテル従業員たちが、彼らの連れるフードの少女がルニアであると気付いた。一斉に寄ってきてはルニアの無事を確かめてくるが、ルニアはまだまともな言葉を返さない。そんなルニアに代わって、迅雷はルニアに怪我がないことと、彼女が自分たちと一緒に行動することになった経緯を従業員たちに説明した。どうやらルニアの祭好きな性格や城を抜け出す癖はみんなよく知っていたようで、説明そのものはビックリするほどあっさり理解してもらえた。

 従業員たちは、とにかくルニアの無事で大いに安堵している様子だ。おかげで少しは落ち着いてくれた。非常事態だからこそ、冷静でいてくれる方が心強いものだ。

 

 ややあって、ホテルの宿泊者たちが慌ててロビーにまで押し寄せてきた。焦りと恐怖で混沌そのものだ。ホテルの従業員らが一応の対応をしてくれているが、マズい状況だ。

 なにしろ、事態の規模がさっぱり分からない。だから、ここが安全なのかも分からないし、どこに行ったら安全なのかも分からない。しかも敵は皇国で、戦闘機で、そして一央市のときと違ってこの街には魔法士はいない。なにをどうすれば良いのかが全く分からないのだ。


 「おでんはなにをしてるんだろう・・・」


 千影は思わず、ここにいない同胞の名を呟いた。彼女は、こういう事態を防ぐために手を回していたのではないのか。らしくもなく失敗したというのか。・・・いいや、あるいはそもそも―――。


 「どっちにしてもおでんの責任じゃないか・・・」


 千影は自分になにが出来るかを考え始めた。自然と手に力が籠もる。

 しかし、彼女の覚悟を遮ってホテル内に放送があった。その放送は、実際はホテルに限らず民連国内全域に向けられたものだった。


 『国民の皆様。首相のケルトス・ネイです。現在我が国は皇国による攻撃を受けておりますが、ここは落ち着いて、各自治体の指示に従って安全な場所に避難してください。繰り返します。落ち着いて、各自治体の指示に従い安全な場所に避難してください』


 立て続けに、ケルトスによる放送が流れた。


 『この放送はノヴィス・パラデー、ニルニーヤ城周辺地区にお住まいの皆様向けにお送りしております。市内の皆様はニルニーヤ城地下防空壕跡に避難してください。既に受け入れの準備を進めております。本当に必要なものだけを以て、慌てず、速やかな行動をお願いいたします』


 放送の内容はそれきりだったが、気付くとホテル内にある公共モニターには全て避難経路と行動時の注意点やお願いが交互に表示されるように切り替わっていた。そして、すぐにホテルの従業員らによる誘導が開始された。


 「すげぇ・・・」


 攻撃が始まってから、まだ10分程度しか経過していない。それも夜襲だ。それなのに、10分でここまで対応している。並外れた手際の良さと、国全体の結束力だ。

 防空壕というのは、昨日ニルニーヤ城に到着した後、迅雷たちが乗っていたバスが駐車した広大な地下空間のことだろう。迅雷はすっかり失念していたが、確かにあそこに逃げ込めば空襲を受けても凌げるかもしれない。

 

 「ルニア様」


 「・・・・・・」


 迅雷はルニアを呼んだが、ルニアはまだ俯いて黙ったままだ。だが、繰り返していたうわ言はもう止まっていた。だから、迅雷はもう一度、ルニアの眼を覗き込んで彼女を呼んだ。


 「ルニア様」


 「・・・やめて・・・やめてよぉ・・・」


 「・・・・・・ごめんなさい。それでも、連れて行きます」


 「とっしー、こっち。ホテルの人がバス出して城まで送ってくれるって」


 「分かった」


 ルニアと、そして千影の手も握って、迅雷はホテルの従業員らが誘導する人の流れに混ざった。


 10分ぶりにホテルの外に出ると、状況は悪化していた。 

 まず、煙の見える場所が遙かに近くまで迫っていた。空を飛んでいるのは、大きな戦闘機・・・いや、あれは爆撃機だ。あんなものが縦横無尽に首都の空を行き交っているなど尋常なことではない。

 そんな感想を思い浮かべている間にも、またどこかで爆音があった。夜でも黒煙が見えるのは、炎が空を照らしているからだ。この場所がああなるのも時間の問題か。


          ●


 緊急放送の録音を終えたケルトスは、続いて人間界の各代表とのコンタクトを図っていた。街を守るための協力を仰ぐためだ。すぐに応じてくれたのは、日本、米国、インドだった。いずれも飛び抜けて優秀な魔法士を随伴させていた国の代表たちだ。


 「ケルトス首相!防空壕ですが避難者が既に溢れかえってしまっています!!」


 「魔術なりなんなりで床を作れば良いでしょう!!高さは5メートル以上もあるのだから、4,5層には分けられる!!」


 「は、はい!!直ちに!!」


 ケルトスは舌打ちをしたかった。それくらい自分たちで考えて行動してくれなければ困る。


 「酷いものじゃな・・・。やはり悪魔は悪魔、か」


 「レオ殿・・・ご無事でなによりです」


 「ケルトス首相の迅速なご判断のおかげです」


 「当然の対応をしたまでです、なにもお褒め頂くようなことでは。むしろ重要なのはここからでしょう」


 ケルトスは声を低くした。彼は自分の携帯端末に保存した、『ノル・トゥーリム』付近の監視カメラのビデオクリップを再生した。

 崩れゆくケルトス政権最大の象徴。燃え盛る炎と沸き立つ黒煙の中に、なにか巨大な構造物が映っていた。


 レオは画面を覗き込んで豊かな白い髭を弄る。


 「・・・これは一体なんですかな?」


 「現代科学のオーパーツ・・・とでも言いましょうか。我々はただ《飛空戦艦》と呼んでいます」


 映像が爆音と共に途切れる直前、《飛空戦艦》から複数の青白い光点が飛び立っていた。


 「被害報告の発信源が接近するペースから逆算して、《飛空戦艦》が首都上空に到達する予測時間はあと20分だそうです」


 「な、なんじゃと・・・!?」


 ランク7の魔法士でさえ、絶句した。俄にケルトスが《飛空戦艦》をオーパーツと称したワケを実感させられた。巨大空母艦が空を亜音速で飛んでくるだなんて、まるで理解不能である。

  

 「・・・レオ殿。改めて深くお願い申し上げます。どうか、我々にどうか、あなた方のお力をお貸し頂きたい―――ッ」


 「ケルトス首相」


 「・・・・・・」


 無論、ケルトスは、虫のいい話だと分かっていた。それはもはや、人間たちに民連と一緒に死んでくれと頼むような、埒外の要求だった。とてもケルトス一人の頭を下げただけで頼めることではない。だが、クースィの言っていた通り、民連は外敵の暴力に対して果てしなく無力だ。民を守るための物理的な力を持っていない。そも争いを生まぬ立ち回りこそが武器だったはずなのだが、それも理不尽をもって破られた。

 故に、こうなってしまった以上は末代まで恥を負わせようともケルトスには人間の、魔法士の力を頼るしかなかった。リリトゥバス王国の太陽神、『アグナロス』をも討ち果たした、彼らの力を。


 だけれど、レオは青ざめるケルトスの肩に優しく触れて、微笑みを以て返した。


 「ケルトス殿。()()()()()、友好条約でありましょう?」


 「ありがとう・・・・・・ありがとう、ございます・・・!!」



          ●



 「私にだけは、止められたはずなの・・・」



 燃える街並みを眺めて、ルニアはそう、呟いた。

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