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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode2『ニューワールド』
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episode2 sect20 “愛しの我が家“

 「ただいまー」


 ―――――嗚呼、久方振りの平和な我が家。


 ドタドタとちっこくて賑やかうるさい足音がリビングを出発して、廊下に出てきて、その姿を視界に収めたときにはもう遅い。


 「とーーーーっしーーーーっ!!」


 「どわぁッ!?」


 果たしてこの世界では本当に運動量保存則は成立しているのだろうか。こんなにも小さい少女の体当たり(飛びつきハグ)で、軽く4,5mは吹き飛んだ気がするのだが。開けたはずの玄関のドアが、ほら、あんなに遠い。

 思ったよりも平和ではないおもてなしに迅雷は、白目を剥いて押し倒されるがままに背中から着地する羽目になった。


 「うぶふぅ・・・」


 「わーい、とっしーが帰ってきたぁ!今まで超ヒマだったんだから、その分は相手してよね!」


 アスファルトの上に迅雷を押し倒したまま一気にまくし立てる千影。あわよくば鼻先でもくっついてしまいそうなくらいに顔が近い。

 さすがに照れるというかドキドキしてしまうので、迅雷はとりあえず千影をどかして立ち上がり、服に付いた土を手で払い落とす。


 「どんだけ迅雷成分が足りてないんだよ千影さんは。・・・っつつ、帰ってすぐこの仕打ちとか、冗談じゃねぇ」


 「じゃかしいわい!とっしーは黙ってボクの相手をしていれば良いんだよ!あ、でも本当に黙ったら寂しいからやめてね?さ、ホラ入って入って」


 「入ろうとしたところで玄関からここまで吹っ飛ばしたのは誰だってんだっつの」


 結構普通に痛い思いをしたのだが、なぜだろうか、こんなやりとりなのに帰ってきた感が尋常ではないことに気が付く。いつからこんなにハッスルな日常が当たり前になっていたのだろうか。なんだか改めて考えてゾッとしたので、迅雷は思わず頭を抱えたくなった。


 「あ、お兄ちゃんだ、お帰りー・・・」


 「わーい、ナオだー!」


 「って、ええぇぇ!?」


 愛しの妹に全力で飛びつくシスコン末期患者。迅雷はもう直華が登場した時点で日常の変化に関する悩みをスッパリ捨てていた。  

 よくこれで千影に人のことを言えたものである。直華が真っ赤になりながら迅雷を押しのけようとしているが、迅雷の抱擁が全力過ぎてまったく離れる気配がない。


 「わーい、あは、あははははは、ナオだーすりすり・・・」


 「あわ、あわわわわあ・・・」


 と、いよいよ変態性を増していく迅雷だったのだが、そこにさらに新しい声が1つ。


 「うわー、としくんの節操なしー」


 迅雷がもはや「お帰り」とも言わないその声の主を見やると、彼女はにっこりと笑って手を振っていた。どうやらそれが「お帰り」の代わりだったようだ。「やっほー」とか言っている。

 こんな状態の神代兄妹を見てこうもあっさり受け入れる人物といえば、まず1人しかいない。だがしかし、迅雷がこの醜態を見られて平気というわけでもない。パジャマ姿はまだ良くても、さすがに妹に頬ずりしているのを見られるのはさすがに自分自身でもゾッとしない。


 「なっ!?しーちゃんいたの!?あっ、これは違うんだ!決してこの3日間で深刻なナオリウム欠乏症になっていたとか、そういうんじゃないからなっ!?」


 「な、ナオリウム?ナトリウムじゃなくて・・・?う、うん、とりあえず分かったよ、いったん落ち着こうね、としくん」


          ●


 どうも慈音も今日は暇を持て余していたようで、迅雷の家に遊びに来つつ彼の帰りを待っていたらしいのだが、ちょうど10分ほど前には他にも直華の中学校の友達である安歌音(あかね)咲乎(さくや)が来ていたらしい。家族旅行のお土産を持ってきてくれた、との話だったのだが、今の迅雷にとって問題はそこではなかった。


 「あー、今の光景をあの2人に見られなくて良かった・・・。『なんかヤバイ人だったんですねゴメンナサイ近寄らないで』になるところだったぞ」


 「ホントだよ。まったく、もう。お兄ちゃんのばかぁ・・・」


 そう言う直華はまだ怒っているのか、頬を薄く染めてモジモジしている。迅雷が宥めようとするも、直華は「え?怒ってないよ?」とキョトンとするだけだった。


 「あ、それとナオ、これは口外厳禁だからな」


 「言うわけないよ!?」


 今度こそ顔から火を噴く直華。まさか3日振りに帰ってきた兄に抱きつかれまして、嫌がる素振りをしてはいましたが、でも実は満更でもなかったですなんて話をする妹がいるわけがない。というのと、そんな話をしたら話をしながらドキドキして真っ赤になってしまうだろうから、まずそんな話をするなど、なおさらあり得ない。いろいろ発覚して困るのは自分である。


 「あーちゃんもさくやんもとっしーがまだ帰ってきてないって言ったら寂しそうにしてたよ?果報者だねー、とっしーは」


 いつの間にか安歌音と咲乎の2人もあだ名呼びになっている千影が迅雷をからかう。それにしても相変わらず年下ばかりで、なんとなくお姉さん系の先輩である萌生あたりが恋しくなってくる迅雷だった。

 千影の軽口を聞き流しながら、迅雷は今の台詞をなんとなく頭の中で反芻してみると、あることに気が付いた。


 「なんか今の千影の台詞、平仮名だらけで読みにくそうだな」


 「としくん、それメタ発言!」


 「おっとゲフンゲフン・・・。んー、中学生に愛されちゃって果報者だなー、わーい」


 完全なる棒読み。それにしても、思ったよりも直華の友人にも慕われているらしいではないか。そのことは迅雷も嬉しいのだが、かといって彼とて別にそこまで年下属性が強いわけではないので、そこまでの感動はない。・・・そう、そこまでではないのだ、というのが迅雷の本心(?)なのだが、こうして居候幼女に飛びつかれたり妹に頬ずりしたりしているのでなんの説得力もない。

 迅雷はとりあえず今度また2人が遊びに来たら、そのときにお土産のお礼やちょっとした武勇伝でも話してやろうかな、などと考える。

 すると、慈音が時計を見て小さく声を上げ、持ってきたカバンを取った。


 「もうこんな時間だよ。じゃあ、としくん。しのはもう帰るね、そろそろごはんができちゃうし。明日の荷物の準備もしないとだからね」


 「ん、そっか。おう、じゃあ今日はありがとな。んじゃ、また明日」


 「うん、また明日ー。なおちゃんも千影ちゃんも、またねー」


 直華と千影とも軽く手を振り合って、慈音は神代家の玄関を出てすぐ向かいの家に帰っていった。それを見てから、迅雷は玄関を閉める。

 

          ●


 明日からはまた温泉という不思議なスケジュールは滞りなく進んでおり、迅雷もそれ自体は楽しいだろうから良いのだが、しかし帰ってすぐにまた新しく荷物を整理して準備をしなくてはならないことには肩を落とすばかりである。帰ってきてはすぐに次の仕事の準備をする父が、その時間だけは妙に溜息を連発していたのも、今の迅雷ならその気持ちが分かるような気がした。

 ただ、そんな父親の荷造りとは違うところが目的が行楽であるという点で、そのあたり釣り合いが取れているので文句を言えない。

 面倒事は先に終わらせておきたかった迅雷は夕食前に自室にこもり、せっせと次なる旅行の荷物をバッグに詰めていた。階下からは直華と千影の会話が聞こえてくる。


 『明日の温泉楽しみだねー。やっとだよ。すっごく待ち遠しかったなぁ』


 『ボクも温泉なんてひっさしぶりだなぁ。ボクの浴衣姿にとっしーが発情しないか心配だよね』


 ―――――いや、それはない。


 迅雷は思念波だけで千影にツッコむ。もちろん本当にその思念を千影に伝えるなんてスゴ技は使えないので、要は迅雷が部屋で1人で勝手にやっているだけのことなのだが。

 しかし、浴衣。思い出すのは自分に躓いて転んでえらいことになっていた矢生の浴衣姿。あのあられもない姿を思い出すと、ついつい鼻の下が伸びそうになるので迅雷は思考を中断する。煩悩もほどほどにしないと、真牙と同類になってしまう。

 

 「あーでも、友香の浴衣とか絶対色気ヤバそうだな。あとナオも楽しみだなぁ」


 巨乳の友人や溺愛する妹の浴衣姿を想像して結局鼻の下を伸ばす、煩悩まみれな迅雷を咎める者はいない。

 また思考がピンク色になっていることに気付いて迅雷は首を激しく横に振る。このまま妄想しているといつまで経っても荷造りが進まないので、迅雷は直華たちの会話に耳を澄ませ、その都度ツッコミをしていくことにした。

 

 『あ、あはは・・・。まぁ確かに千影ちゃん可愛いもんね。浴衣もきっと似合うよ』


 『なにを当たり前のことを。ボクはなにを着たって全国のロリコン及びその予備軍を悩殺できるという、スペシャルなスキルがあるんだよ?』


 ―――――その流れだとお前に発情しないか心配された俺もロリコン扱いなのか、そうなのか?


 『へ、へー、それはすごいね、うん、多分?でも、さすがのお兄ちゃんでもさすがにそんなことはないと思うんだけどなぁ』


 ―――――さすがナオ、最後はちゃんと俺の味方になってくれるんだなぁ・・・。マジ天使。


 『お、じゃあボクに変わってナオがとっしーを悩殺?』


 『な、ななななんでそうなるのかな!?』


 ―――――それは期待。 


 もはやツッコミではなくただの兄馬鹿な迅雷だった。


          ●


 その後も着々と荷造りを進めながら、迅雷は足下から聞こえてくる直華と千影の会話に心の中でツッコミを入れ続けていたのだが、やっと作業が終了した。


 「さ、て。終了っと」


 1つ大きく伸びをして、迅雷は着ていた制服を脱いで部屋着に着替える。左手に着けていた腕時計を外して勉強机の上に置こうとしたのだが、手を滑らせて時計を落としてしまった。落ちた時計は、落ちた勢いでそのまま転がって勉強机の下に潜り込んでしまう。

 こんなことで失敗をしてしまうとは、思ったより自分も疲れているのだな、と実感する迅雷。むしろ疲れ過ぎていて疲労感を覚えなくなることがあるが、今の迅雷はそんな感じなのだろう。よく考えれば相当密な合宿だったのだから、手先の器用さが鈍る程度には疲れていてもなんら不思議ではない。


 「っと、いけね。スポーツ用の時計で良かったな。疲れて手を滑らせておシャカになりましたじゃ、さすがに笑えねぇよな」


 今度こそ机上に置き直すために時計を拾おうとして、迅雷は机の下に潜るのだが、そこでとある異変に確信を得た。

 いや、薄々は感じていたのだ。家を出るときにはこれでもかというほどに丁寧にベッドメイキングをしていったはずなのに、なぜか妙に生活感のあるベッド。微妙に本の位置がズレていて、巻番号が一部入れ替わっている本棚。

 そして、今机の下のそれを見て、迅雷は確信した。


 「・・・エロ本がねぇ」


         ●


 現在、夕食も入浴も終えて落ち着いた夜の9時半頃。


 「・・・それで、なんでしょうか、お兄ちゃん?」


 「ド、ドウカシタノカナー?トッシー?」


 「うん、どうかしたから来てもらったんだろうが。そう、俺がここに君ら2名を呼んだのには、非常に大切なお話があるからです」


 直華と千影は迅雷に呼び出しを食らって、今は彼の部屋の真ん中で正座をさせられていた。彼女らの眼前には、勉強机の椅子に座って優雅に足を組む迅雷がいる。

 大事な話、というのはまさしく迅雷が最愛の妹にすら正座を強要するほどの重大な話である。どれくらい重大なのか、それだけで察するに値するというものだ。

 割と平淡な言葉遣いなところだけを見れば至って平常運転の迅雷だが、しかし彼の目だけはジットリと千影と直華の顔を見ている。尋常ならざる剣幕のおかげで、彼の背後には『ゴゴゴゴゴゴ・・・』という効果音が見えそうなほどである。その威圧感と重圧には、2人とも目を泳がせている。


 「「・・・・・・」」


 「おーい、聞いてるー?ほーら、怒らないから。なんで2人を呼んだんだと思う?言ってごらん?」


 「・・・(―――――う、嘘だ!お兄ちゃんは普段そんなしゃべり方しないし!こ、これは怒られるぅ・・・)」


 思い当たる節がありすぎていよいよ冷や汗を噴き出させる直華。迅雷に怒られるのはかなり珍しいことなので、ちょっと恐怖が強い。

 と、直華がふるふると震えている横で千影がなにか思いついたという風に手をポンと叩いた。それから千影は直華の耳元に顔を近づけて、なにやらゴニョゴニョと耳打ちをしてから迅雷に向き直った。


 「えーと、3P?」


 「ご、ご指名の千影ちゃんとナオですにゃん、ご主人様・・・?(は、恥ずかしい!!なにこれ恥ずかしい!本当にこれでいいの?千影ちゃん・・・?)」


 「おうふ」


 猫のモノマネ(?)をして媚びるような上目遣いを迅雷に贈る千影と直華。どうせまた千影の考えた下らない色仕掛けのはずなのに、分かっているのになんなのだこの破壊力は。特に赤面しながらも一生懸命な直華は意味もよく分からないままやっているようで、背徳感がヤバいことになっている。

 あざといアピールに若干クラッときた迅雷だが、奇妙な感嘆詞と共に煩悩を捨て去る。というか既に煩悩(エロ本)を物理的に捨てられているので、今更煩悩の1つや2つ捨てるのは苦ではない。苦では・・・ない、はず・・・?

 とにかく、合宿で鍛え上げたメンタルをもって、迅雷は表情を変えることなく、心の中で咳払いを1つ。


 「うん違うな」


 「ええっ!?じゃあとっしーはボクらにどんなプレイがご所望なの!?」


 「そこから離れろこのロリビッチ!お前の頭の中の俺は性癖異常者かなにかか!?」


 「え、違ったの!?シスコンなのに!?」


 「ぐうの音も出ねぇ!出ねぇ・・・けど!敢えて言おうか、違う!」


 「えっえっ?」


 迅雷と千影が織りなすいつも通りの 謎言語が飛び交う言い合いに直華は置いてけぼりである。しばしば聞いているのだが、未だにあまり聞き覚えのない単語の意味がサッパリ掴めない。「3P」とか「ビッチ」って、結局なんなんだろう?不思議とGOOGLE先生にご教授願う気も起きない直華の心は、健全な12歳なのだった。


 とりあえずこのままだといいように話題を逸らされかねないので、迅雷はまず千影のほっぺたを両方からつねって黙らせ、いつもの痴話喧嘩を強制終了させる。

 それから、迅雷は千影らの後ろの自分のベッドや、その隣の本棚を指差しながら話を戻した。


 「お前ら本当に分からないのか?見よ、このグッシャグシャのベッドを。そして見よ、巻番号がグッシャグシャのマンガを!」


 「そ、それがどうかしたのかなー・・・?あは、あははは」


 まだ真っ赤な直華が、それでも一生懸命誤魔化そうとしている。


 「さっき俺は机の下を見ました」


 ビックゥッ!と千影と直華の肩が跳ね上がった。確信はより強固な確信へと進化する。どうやらエロ本失踪の犯人はこの2人で間違いないらしい。

 

 ―――――さて。見られてはならないブツを見られてしまったわけだが。


 「さてさて、どうしてやろうか」


 今でこそ優位に立っているように見える迅雷だが、実は少しでも状況が揺らげばすぐに形勢が変わってしまう。エロ本が見つかって文句を言われて責め立てられるのは、いつの世も男子なのだ。

 特に妹モノのヤツとか、直華に見つかったら完全に死亡(モータル)モノだったのではないだろうか。いやしかし、今こうして普通に接してくれていることからして、思ったほど引いていたわけではないのかもしれない。兎にも角にも是非是非妹モノのエロ本だけは非死亡(イモータル)ものであって欲しいところだ。

 顔には出さないが、今の迅雷の心中にはうまく優位を保って話を進めていかなければならないことへの並々ならぬ緊張があったりする。さて、どうするべきか。


 「ま、待ってとっしー!目がヤバいよ!?あ、あの本の中身みたいな特殊プレイはさすがにキツいって!?」


 「いや分かったからもうそこから離れろな。千影の脳味噌は獣欲の塊か?そしてやっぱりお前らか」


 「あっ」


 慌てて口を押さえる千影だったが、既に手遅れだ。無事に証言は取れた。しかも千影に至ってはその本の中身にまで目を通していたらしい。一体どんな内容を見たのかは分からないが、あの千影ですらさすがに無理だと言い張るプレイとはいかがなものか。逆に気になってくる迅雷だった。

 口を滑らせた千影が冷や汗を垂れ流し、その横では直華が既に終わりを予感したのか完全に魂が抜けてしまっていた。


 「内容とかどうでも良いから、あれどこにやったか教えてもらおうか」


 再び迅雷の言葉に千影の肩が跳ねる。


 「そ、その・・・」


 「あ?」


 反省の色はないが、珍しくどもる千影に迅雷は容赦なく畳み掛ける。ここで引いたら今の優位性が間違いなく失われる。千影をいじめようと思ったらこれ以上の好機はあるまい。意図的に眼光を鋭くしながら迅雷は千影に詰め寄っていく。


 「『その』?で、どうしたんだ?」


 「・・・した」


 「ん?」


 「・・・・・・燃やし、ました」


 イヤな予感が的中した。きっとあの3冊は今頃、庭の家庭菜園の肥料にでもなっているのだろう。


 「・・・ハァ、やってくれたなぁ」


 若干の怒気が混じる迅雷の溜息に、遂に直華が目をウルウルさせ始めた。それはさすがに卑怯だと思う迅雷。千影の方は一応しおらしくはしているが、結局はいつも通りヘラヘラしたままで、やはり反省の色や罪悪感のようなものは無さそうだ。


 「・・・ハァ、まあ良いけどさぁ」


 「へ・・・?いいの?燃やしたんだよ?肥料にしたんだよ?」


 「マジで肥料行きかよ」


 いつかエロ本だったものを吸って育ったキュウリとかトマトを食べるかもしれないと思うと、なんだかそこはかとなくゾッとする。妙に熟れた野菜だったり、逆に妙に未成熟な野菜がサラダボウルに載ってきたらどうしようか。もしかしたらそれはそれで美味しかったりするのかもしれないが、それはそれでなんかイヤだ。


 「まぁそれはそれとして・・・。燃やしたのも別にいいよ。そもそも俺がナオがいるのにあんなの買うと思うのか?否、断じて否。あり得ないだろ」


 迅雷の予想外の反応には直華も千影も口をポカンと開けて固まっていた。信じられないことが起きたような顔、というより本当に信じられないことが起きたので愕然としている顔だ。

 てっきり羞恥心込みで怒られるものだと思っていたのだから、2人のこの反応の方こそごく自然なのであって、おかしいのは迅雷のこの平常心の方なのだ。


 しかし、それはあくまで彼女たちの視点に立って見ればの話。千影はもちろん、直華も迅雷がほとんど怒らない理由を知らないのだ。ここで迅雷の立場に立つと、わざわざ怒る理由がサッパリなくなったりする。

 

 「そ、そうなのかな・・・?で、でもお兄ちゃん本当に怒らないの・・・?」


 恐る恐る尋ね直す直華。むしろそのつもりで身構えていた直華としてはちょっとくらい怒られないと逆に調子が狂うというか、ソワソワして落ち着かないのだ。素っ気なく頭をかく迅雷に、直華はただただ首を傾げるのみである。

 しかし、いくら直華に不思議そうにされても、もちろん迅雷の態度は変わらない。なぜなら。


 「だってあれ、全部真牙のやつだし」


 「「え」」


 あれはちょうど高校受験シーズンが終わった頃だったか。みんなの進学先が決まって完全に勉強から解放されてやっと遊べると盛り上げってきた頃、真牙はあの3冊のエロ本を迅雷に渡してきた。まだ高校入学前の彼がどうやって購入したのかは気になるところだが、ともかくあの3冊は真牙の禁書庫の中でもイチオシの品だったそうな。


 「まぁ結局開いたこともないんだけどな」


 「とっしー、それは嘘だよね?」


 「・・・1回だけ」


 さすがに妹モノは開かなかったが、年上モノには少々の憧れがあったので女子高生系とかお姉さん系に挑戦し、そしてあえなく刺激に負けて閉じた記憶が。 

 女子高生モノであれはないと思うし、お姉さんモノとか、もう。真牙のイチオシ、恐るべし。

 迅雷の自白を聞いて直華が茹でタコみたいに真っ赤になっているので、彼は以上のいきさつを説明してなんとか弁解する。きっと直華のことだから表紙を見ただけでなにがなんだか分からなくなって、とにかく恥ずかしくなっていたに違いない。


 「まぁアレだ。明日真牙にもそのことを教えてやりなよ。面白いものが見れるぜ、きっと」



元話 episode2 sect45 ”愛しの我が家” (2016/9/28)

   episode2 sect46 ”お説教タイム” (2016/9/30)

   

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