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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect24 ”みんなどこかにきずひとつ”


 数秒、目を丸くして、絶句。


 ややあって。


 「なるほど。なるほどなるほど。それは・・・失態だったんじゃないかなぁ、テム君?」


 副首相暗殺未遂の武装集団の正体が、自ら組織した民連軍だったことを聞かされたルニアの反応は、いやに冷静だった。あるいは、まるで悟りの境地に至ったかのような。


 「・・・申し訳・・・・・・ございません・・・・・・」


 ルニア以外の王族たちから一様に悲愴的な目で見つめられたテムは、目を伏せて唇を噛んでいた。


 「いいわ、もう。残念だけど、仕方ない。―――誰か、そこの裏切者を拘束しなさい!!」


 ルニアが鋭い声色で命令するとホールにいた黒服たちが跳ねるように駆け付け、そして、テムは大人しく拘束を受け入れた。


 「ル、ルニア・・・」


 「ごめんなさい、アーニャ姉様。父様、母様、それからザニア兄様も、ごめんなさい。みんなの言う通りだったみたいね」


 人々がさざめき立つ中、自らを案じるアーニアの手を躱したルニアは、ケルトスに変わって壇上でマイクを取った。


          ○


 「はやチンの言った通り・・・だったね」


 そんな武装集団があるとすれば、それはもはや―――それはもはや、軍隊しかない。


 ・・・実際に侵入者と接触した疾風には、この事実が既に予想出来ていた。スキルがある割に柔軟性のない―――すなわち実戦経験の少ないであろう兵士たちを見て、その軍隊がこの国のものだというところまで、疾風は看破していた。それをすぐに言えなかったのは、確たる証拠がなかったためだ。

 疾風が襲撃者からクースィを守った後も彼に同行したのは、要するにテムが直接クースィを殺害するような事態を防ぐための牽制だったわけである。

 

 「『手ぶらの強国』の心臓部で武装蜂起(クーデター)なんて、こんな酷い話はない」


 「なにが目的だったのかな」


 「さぁな。それはこれからだ」


 千影と疾風の視線の先では、壇上に上がったルニアが謝罪の言葉を紡いでいる。その終わりに彼女はこう告げた。

 

 『現時刻をもって、ビスディア民主連合防衛軍、略称、民連軍を解体し、軍備導入プロジェクトも白紙に戻すことといたします。詳細は明日までにとりまとめ、改めて国民の皆様にお伝えします。今宵お集まり頂いた皆様には多大なご迷惑をお掛けしたこと、心からお詫び申し上げます―――』


 あまりにも淡泊な決断だった。冷ややかで、とてもつい30分ほど前までの煌びやかなアイドルプリンセスと同一人物とは思えないほどに。


 民連軍の幕引きは、かくも惨めに、他でもない第2王女自身の手で行われた。

 

 


          ●



 

 迅雷は疾風に言われた通りホテルに戻って来ていた。ただ、なぜか自分の部屋ではなく、李が宿泊する部屋に閉じ込められていた。部屋の入り口には消える様子のない炎の柵があって、うかつにドアに近付けなくされている。李の魔法だ。これだけ長時間保持できる設置魔法なんて、マンティオ学園で魔法士を目指す学生としてはしきりに感心すべき技術のはずなのだが、いかんせん室内で派手に火を起こすという発想が感心出来なさすぎる。


 『フンフーン♪』


 シャワールームからは、あまり上手とは言えない李のハミングが聞こえてくる。危なく迅雷も一緒に入らされるところだったが、全力で遠慮して免れた。相手が李とはいえ、裸同士になんてなったらなにが起こるか分からない。・・・いや、むしろ李だからこそなにをされるか分からない。


 「別にここまでしなくても逃げたりしないのに」


 酔っ払い婦警の暴挙にはいくら溜息を吐いても足りない。

 ひとりになって手持ち無沙汰な迅雷は、部屋の窓から外を見た。李の部屋は案外と見晴らしが良い。総理大臣のボディーガードとして来た以上、A1班の泊まる部屋も総理大臣の部屋の近くにされているからだろう。

 山の斜面の小高い位置にあるニルニーヤ城は、李の宿泊室からも見えていた。迅雷はまだ明かりが眩しい王城を遠くに望みながら、李に届いた疾風のメッセージを思って唇を噛む。

 銀髪のオドノイド、伝楽の忠告。皇国の動向。平和を願う式典のはずなのに、背後にわだかまる不穏のなんと多いことだろう。後に千影から民連軍によるクースィ副首相暗殺未遂の件を知らされる迅雷は、ますます混乱することとなる。


 「窓辺でもの思いに耽る美少年―――画になりますねぇ」


 気が付けば、李の鼻唄は止んでいた。振り返って、湯上がりで薄着の李と目が合った迅雷はすぐに窓の外に視線を戻した。


 「びっ・・・お、おだてても靡きませんからね・・・」


 「またまた。ゆーて毎年ちゃっかりチョコもらってんでしょう?いやー、実にロリコンであることが惜しまれる」


 「よ、け、い、な、お、せ、わ、です!!」


 わざわざ目のやり場に困って視線を逸らしたのに、李は勝手に窓辺までやってきて、迅雷の横に並んできた。異性として意識するどころか同じ人間と思うだけでも頭痛がするような第一印象に反して意外にも、どちらかというと迅雷が弱い、色香の漂う大人の女性が横にいた。一瞬だけ李をチラ見して、迅雷はまた懸命に窓の外の景色を意識する。

 迅雷と同じ一点を眺める李は、分かった風に呟く。いや、実際分かるのだろう。今の迅雷はとても分かりやすいから。

 

 「お城の状況が気になりますねぇ」

 

 「・・・結局、なにが不服だったのか考えてたんですけど」


 「おや、意外と殊勝なこと考えるんだ」


 頭を撫でてくる李には、もう好きにさせて、迅雷は話を続けた。


 「なにかあったとき、あるかもしれないとき、そこにいられないことが、なにがあったのかも知らないままなのが、俺は恐いんです。知らないまま、大切なものを失くすなんて・・・なんて言って良いか分からないんですけど、最悪じゃないですか」


 「前の、千影ちゃんの件ですか?」


 「・・・多分。でも、もっと前かも。知ってますか、李さん。ウチには昔、千影の前にも1人居候がいたんです。俺にとって、お姉ちゃんみたいな人でした。あの頃の俺にとって、あの人はなんというか最強で完ペキで、なにがあっても必ずなんとかしてくれるヒーローでした。でも、死んじゃったんです。俺の届かないところで」


 「過去のトラウマ的な感じですか」


 「そこまで病的じゃない・・・とは思いますけどね」


 迅雷は苦笑した。

 

 しばらく部屋は静かになり、不意に、李がわざとらしく嘆息した。


 「タイチョーたちが戻ってくるまで暇ですし、ここはひとつ昔話でもして時間を潰しましょうかね?」


 「・・・昔話って、李さんの?」


 「え、昔話なんてまだまだ早いぴちぴちの若さじゃないかって?もーヤダ~♡」


 勝手に照れた李は、勝手に迅雷の頬を人差し指でぐいぐい押した。イラッとした迅雷は李の手に噛みつこうとするが、ヒョイと手を引っ込められて奥歯を叩き鳴らすに留まった。

 と、迅雷は思えばシャワー後の李と目が合ったのは今が最初であったことを思い出す。そして、いつもの毒々しいピンク色のカラコンを外した彼女を見るのもこれが初めてだった。


 「不思議な色の目、ですね」


 いつもは額で2つ結ばれている触角ヘアーも下ろされて、長い前髪の奥から覗いているのは、赤みがかった斑模様の入った瞳だ。赤目と言えば、迅雷は他に千影を知っているが、ルビーのように澄んだ彼女のそれと違い、李の赤目はお世辞にも「美しい」とは言えない色彩だった。


 「素直でよろしい」


 「す、すみません」


 「良いんですよ、自分でもこれが嫌でカラコンつけてたんですから。時に迅雷クン。なんで私みたいなのが警察やってるか、分かります?」


 「え?うーん・・・公務員だから?」


 クビとかないらしいですしおすし・・・と小声で回答を補足する迅雷だったが、李は上から「ブッブー」と被せてきた。


 「正解は”なんででしょうね?”です」


 「オイ」


 「別に私はこの仕事がしたかったワケじゃないんですよォ。かといって他にしたいことがあったわけじゃないんですケドね。敢えて言うなら、タイチョーに・・・キミのお父さんに出逢ったのがキッカケでしょうね」


 「父さんが?」


 「順を追って話しますが、まぁ結果だけ見れば施設育ちで身寄りもなかった私に居場所をくれた感じ、ですかね」


 迅雷は、李が弄る彼女のピンク髪を眺めていて、若白髪にしては白髪が多く混じっていることに気が付いた。というよりも、彼女の髪の根元は全て、白んでいた。


 

 これは物語とはなんの関わりもない、でも、いずれ迅雷が思い出すことになる、大して面白くもなければ役にも立たない、とある少女の昔話。 




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