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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect23 ” Who's the Traitor ??? ”


 「・・・あれ?なんか出たときと様子が違いません?」


 出店が並ぶ市街地からニルニーヤ城の近くまで帰ってきた迅雷は、異変になんとなく気が付いた。


 「人が集まってる・・・こっちでもお祭りが始まったとかですかね?」


 「どうでしょうか。そんなフインキじゃなさそうにも見えますけどねェ」


 李は怪訝な顔をして立ち止まった。迅雷も彼女に合わせて足を止めた。李が、迅雷に顔を寄せて小声で人集りの奥を見るように言った。


 「(お城の警備がやたら出張ってます。多分、爆破予告が届いたか、もう中でなにかあったかしたんですよ。おっかないですね)」


 「はぁ!?ばくむぎゅっ」


 「シーっ」


 李は慌てて迅雷の口を抑えた。


 「パニックになってないあたり、集まってる獣人たちも様子の変化を気にして見に来ただけでしょう。騒ぐの()くナイ」


 「・・・と、とにかく戻らないと。まだ千影も、みんないるんですから。そうだ、ひょっとしたら皇国がなにか仕掛けてきたのかも・・・」


 「いやいや。私はともかく迅雷クンが戻ってなにすんですか・・・。キミもう荒事しちゃいけないんでしょ?」


 呆れた様子で李は迅雷の胸をつついた。歯噛みする迅雷に、李は畳み掛ける。


 「皇国説も確かに十分考えられます。あんな会見したばかりですしね。だからなおさらキミをあの中に戻すわけにはいかないんですよ。まぁタイチョーたちもいるしぃ・・・そうメッタなことは起きないと思いますし?ここはこのままホテルに戻っちゃいましょ?」


 「だ、だけど李さん!」


 駄々をこねるような目をして、迅雷は李の手を掴んだ。思わぬイベントに李はついキュンとしてしまうが、ハッと我に返って首をブンブンと横に振った。


 「ああ、甘えてもダメなんですからねっ。それとも自分のお父さんとか千影ちゃんのことを信じられないんですか?」


 「そういうわけじゃないですけど・・・」


 「なら私の言うことも聞いてくれますよね?少しくらいキミがそばにいられなくたって、そうヒドいことにはなりませんて」


 「・・・・・・」


 「んうー」


 迅雷のとんだ分からず屋っぷりに李は閉口した。これはアレだ。結局、迅雷がとりあえず千影と一緒にいたいだけなのだ。

 李はロケット風船を1個膨らませられそうなくらいの溜息を吐いた。お気に入りのショt・・・少年にこうも真っ直ぐに見つめられてはさすがのオネーサンも弱ってしまう。

 ・・・まぁ、ひょっとしたら迅雷の姿が見えなくなって騒ぎになっているパターンかもしれないし?


 「しかたな―――」


 李が堪らず靡きかけたそのときだった。李のポケットの内側でアニソンっぽい着信音が鳴って、彼女のセリフは遮られた。着信音はすぐに止んで、すっかり顔色を青くした李は恐る恐るスマホを取り出した。それを見た迅雷が首を傾げる。魔界には人間の通信機器に対応する基地局などないはずだからだ。


 「なんで繋がってるんですか?」


 「私たちのスマホには異世界でも通信可能にするモジュールが入ってんですよ。ほら、ダンジョンに行くときギルドから貸し出されるデバイスあるでしょう?あれみたいな」


 こう言うと便利そうだが、実際はそうでもない。蛇足・・・というかメンドイので細かい説明は省くが。

 ともあれ、「私たち」というのは彼女も所属する警視庁魔対課A-1班のことである。


 「ということは、今の着信って?」


 「タイチョーからのメールですねー」


 さっそく(ただし、さも嫌そうに)李はメールを開き、迅雷も画面を覗き込んだ。文面は、このご時世ならパワハラで訴えられても仕方ないような李への罵倒で始められていた。


『小西お前バカ、マジでバカ!!後で百叩きだかんな!!おぼえてやがれ!!


 それはそうとして、トシナリは一緒なんだよな?悪いけどあいつはホテルに返しといてくれ。少し騒ぎがあって城中がゴタゴタしてる。再入城は厳しいから小西もそのまま待機してトシナリのこと見といて。


 とりあえずみんな無事だから心配ない。


 あとトシナリに変なことするなよ。以上』



 ・・・李は迅雷の背中を叩いて親指を立てた。


 「ほっ、ほぅらね・・・!!わわ私のいい言ったトーリじゃないデスかぁ・・・!!」


 「まずは涙拭きましょうよ」


 「だぁって!!タイチョーはやると言ったら本当にやるんですよゼッタイそうです!!平気で若い子のお尻に平手打ち100コンボをぶちかますんだぁ~ッ」


 「ね?セクハラ訴える前に自分の行動を反省しよ?」


 「親子揃ってシンラツ・・・。と、とにかくタイチョーもこう言ってるのでしたがってくださいよ」


 「・・・・・・分かりましたよ・・・」


 疾風にまで言われれば説得力が違う。不承不承ながらも迅雷は首を縦に振らされた。



          ●



 疾風とクースィ、テムの3人は、モニタルームで映像の確認作業を終えて広間へと戻ってきた。広間では、まるで何事もなかったかのように宴が続いていた。否、確かに「何事もなかった」のだ。この限られた空間の中においてだけは。

 疾風に頼まれた通りに広間で待機していた千影は、やっと返ってきた疾風にそっと駆け寄った。

 

 「どうだった?」


 千影に問いかけに、疾風は険しい面持ちで首を横に振った。


 「()()()()()()()()()()()()()()()()


 「え?それじゃ・・・?」


 「いいや。むしろこれは由々しき事態だ。いたんだよ、確かに。でも映像には一切残っていなかった」


 「なにそれ、ルパンでもいたの?ちょっとよく分かんないよ、はやチン。結局なにがどうなってんの?」


 「・・・分からん。敵の正体にも確証が持てない・・・・・・けど、もしかすると・・・」

 

 城内に仕掛けられたカメラの死角を完全に把握していて、モニタルームへ向かう副首相に先回りできて、さらには統率の取れた作戦行動をこなす武装集団があるとすれば、それはもはや―――。


          ○


 アーニアは、晩餐会の途中から一部の者たちの様子がおかしいことに気付いていた。そう長い時間ではないが、クースィやテム、それから神代疾風と迅雷の姿が広間から消えていた。千影もどこかピリピリしているようだったし、なにかがあったのは間違いなさそうだ。


 「ねぇ、ケルトス?」


 アーニアは、両親やレオと一緒に交流式典の恒例化の話をしていたケルトスの肩を叩いた。


 「おや、アーニア様、いかがなさいましたかな?」


 「少し妙だわ。クースィとテムもいないようなの。貴方はなにか知らないかしら?」


 「お気づきでしたか。黙っていて申し訳ございません。既にエンデニア様とナーサ様にはお伝えしていたのですが、少し裏方でいざこざがあったようです。2人には話しを聞きに行ってもらっただけですので、どうかご心配なく」


 ケルトスがそう言うと、ナーサ妃が補足した。

 

 「警備の方たちの間で手違いがあっただけだそうよ。だから心配は要らないわ、アーニア」


 「そう・・・それなら良いのですけれど?でも、ふふ。ルニアはちょっと気にしそうね。クースィとテムが自分のステージを放ってどこかへ行っていたと知ったら」


 「そうね。あの子、2人のことは特に気に入っているようだから」


 姉と母が冗談で笑い合っていると、クースィらが広間に戻ってきた。静かに扉を開閉するので、そちらを背にしていたアーニアは気付かなかったが、ケルトスに教えられた。


           ○


 「あーっ、戻って来たわねこの裏切者ーっ」


 広間に戻るなり浴びせられた甘ったるい罵声に、クースィは頭を抱え、テムはぎくりと震えた。

 もちろん、声の主はルニアだ。まさにアーニアが想像したような様子である。ちょうどクースィから報告を受けていたケルトスは、苦笑してクースィの背中を叩いた。口をへの字にしつつもクースィはルニアに頭を下げる。


 「失礼いたしました。・・・しかしその、裏切者というのは少し心外なのですが」


 「フン、気付いてたんだからね。私がステージに上がっているとき2人とも広間にいなかったじゃない。特にテム君、チミそんなんで私のファンを語れるのかね?んん?これを裏切りと言わずしてなんと言うのかにゃーん?」


 怒濤の勢いで文句を言い切ったルニアは、わざとらしく拗ねた表情を作ったまま、腰に手を当てた。迫られたテムは気まずそうに目を逸らして一歩後ずさる。


 「まぁ良いわ。それで、結局なにがどうしたのかしら?あーっとケルトス?『ご心配なく』はナシよ。ニルニーヤ城は私のおうちなんだから」


 ルニアに先手を打たれたケルトスが困り顔で髭を触った。ニルニーヤ王家の中では一番通俗的なキャラクターを持つルニアは、畢竟するに最も自身や王家の姿を客観的に捉えられる位置にいるとも言える。普段は敢えて指摘しようなどとは思わないが、ルニアはケルトスの王家に対する「配慮」をよく認識していた。第一、ルニア自身が言うのも変だが、その「配慮」なしには民連軍設立はなかっただろう。

 返答に困るケルトスに、クースィは目配せをした。


 (観念しましょう、ケルトス首相。城内の異変は王族にもお伝えするのが本来の道理です。ルニア様は鋭い方です、変に隠す方が良くなかったんですよ)


 「んん・・・そうですな。大変失礼いたしました、ルニア様。ただ、私どももまだ事態の全容は掴めておりませんので、ひとまず事実だけお伝えいたします」


 「構わないわ。話してちょうだい、みんなの前で、ね?」


 ルニアはまだマイクスタンドが置かれたままのステージを指してウインクした。ケルトスは迷わず了承したが、代わりに狼狽えたのは、ここまで口を挟まなかったテムだった。


 「ルニア様、良いのですか?さすがに―――」


 「良いのよ」


 もうじき閉宴という時刻になって、壇上で咳払いしたケルトスに全員の注目が集まった。閉宴の挨拶か、あるいは予定にないサプライズの催しを期待する客人たちは、さぞやがっかりするだろうが・・・そこは弁の立つケルトスのことだ。酷い終わり方にはさせないだろう。


 『えー、皆様。今宵の集いも残すところあとわずかとなって参りましたが、お楽しみ頂いておりますでしょうか?・・・そうですか!えぇ、良かった!ただー・・・非常に残念なのですが、先ほどクースィ副首相が城内で武装した集団に襲撃されたという情報が―――』


 それは、会場が騒然とするより早かった。

 

 静かになった広間の扉が、わずかな音を立てた。当然、ケルトスの言葉で敏感になった参加者たちがそれに反応しないはずがない。だが、扉を開けた格好のまま何事かとキョロキョロしていたのは、城勤めの獣人だった。

 黒服姿の彼は、恐る恐る歩いてクースィのもとへ。彼は、疾風が捕まえた侵入者たちの正体が判明したから、クースィらにそれを伝えに来たのだ。


 「(副首相、この状況は一体・・・?)」


 「ちょうど今、ケルトス首相が侵入者の件についてお話を始められたところです。なので、報告もひとまず首相に―――」


 「い、いけませんよそれはッ!?・・・・・・あっ・・・」


 思わず頓狂な声を上げてしまった黒服は、手遅れと自覚しつつ口を手で押さえた。訝しむクースィに黒服は耳を貸すように頼んだが、そこにルニアが割り込んできた。


 「隠す必要はないわ。教えなさい?」


 「し、しかしこれはさすがに、その・・・」



 「私は『教えろ』と言っているのよ」


 

 ルニアの気迫に黒服がたじろぐ。それでも口を割らない彼にルニアが頬を引きつらせたとき、彼女の肩に手が置かれた。


 「ルニア、落ち着くんだ・・・」


 「ザ、ニア兄様・・・」


 ルニアが気付いたときには、彼女の両隣には姉と兄が立っていた。いや、隣ではなく、一歩前で、ルニアを守るようにいた。


 「・・・・・・いつも・・・いっつもそうよ」


 ザニアに宥められるルニアは唇を噛んで俯いた。

 アーニアが、ルニアに変わって黒服に微笑んだ。


 「ルニアのことを慮ってくれるのは嬉しいのですが、重要なことなのです。もしも公表すべきか悩んでいるのなら、まずは私たちニルニーヤ家の者と首相、副首相にだけ教えてください。判断は私たちがいたします」


 アーニアの言葉に、エンデニアとナーサも同調した。アーニアに呼ばれたケルトスも一旦降壇して、広間の隅で黒服の包囲網に加わった。周囲にいた晩餐会の参加者たちは空気を読んで声が聞こえない位置まで離れていく。いよいよ諦めるしかなくなった黒服は萎縮したまま「大変申し上げにくいのですが」と前置きをして、短く真実を伝えた。



 「クースィ副首相を襲撃した侵入者なのですが・・・ルニア様。()()()()()()()()()()()であるとの確認が取れたのです」



          ●




    episode7 sect23 ”革命前夜”






以下、蛇足。なんで李の使ってる異世界でも使えるスマホが「便利そうだけど実際はそうでもない」のかについて。


通信速度やなんやら課題は諸々あるが、なんにせよ本来の無線通信システムをスマホのCPUごときにエミュレートさせようなんて思想が現代人には早すぎた。消費電力がヤバすぎて電話などしようものなら5分でバッテリー切れするか、過熱でバッテリーが吹っ飛ぶ。大人しく専用通信機を寄越せという話だ。まぁ、それがコスト的に無理だからこんな形で落ち着いているのだが。

(※作者は通信機器や無線通信システムについては詳しくありません。でもやっぱ何キロも離れたスマホ同士で有効な無線通信を行うのはキツいイメージがあるのよね)

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