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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect20 ”旅は道連れ世は情け、それと迅雷はロリ”


 「迅雷クン、ねぇねぇ、次はあそこにしましょう!」


 お祭り騒ぎの街の中。獣人たちの夜店を巡っては年甲斐もなく大はしゃぎする李に付き合って、かれこれ30分くらいが経っていた。なんというか、迅雷もヤケクソだと思ってからはちょっと楽しくなってきた。

 

 ただ、一つ疑問があるはずだ。小西李と言えば人を見ただけで発狂して、場合によっては金切り声を上げて暴れ出すほどの人間恐怖症だったはずだ。そんな彼女がこんな人混みにいて平気なものだろうか。

 無論、迅雷もそれが気になって訊ねてみたのだが、対する李の返答はあまりにもアッサリしたものだった。


 「え?だってみんな獣人じゃないですか」


 なるほど―――とはいかない気もするが、本人がそう言うならそうなのだろう。

 李が苦手なのはあくまで「人間」すなわちホモ=サピエンスのことであり、その他異世界のヒト、亜人種にはなんの抵抗もない。例えば、7月に皇国の七十二帝騎が一人、エリゴスという魔族と対峙したときも、そういえば李の精神はかなり安定を保っていたはずだ。


 ただ、それにしたってやはり納得しがたいのは。


 「おおぅ、人間の姉ちゃん、良い飲みっぷりじゃねーか!気に入ったぜ!」


 「おっほ~、じゃオマケしてくれたりぃ?」


 「かーっ。抜け目ねぇな人間ってのは!ったくよォ!」


 名も知らぬイヌミミのオッサンと肩を組んでワイワイしていること・・・とか。


 「逆に李さんってどんだけ人間苦手なんスか」


 「どんだけ・・・どんだけって言われると・・・言葉の限界を感じる良い質問ですネ。推して知るべし。時間があったらキミには教えてあげても良いですよ」


 案外酒豪なのか、日本の居酒屋で出したらギョッとされそうなサイズの木製ジョッキを乾した李は、ろれつの確かな口振りでそう言い、思わせぶりな笑みを浮かべた。


 「ほら、それよりオッチャンのオマケしてくれた骨付き肉、熱々のうちにいただいちゃいましょ」


 「おー、俺の分まで。親父さん、どうも!」


 「いいってことよ!3日間存分に楽しんでってくれよ!」


 迅雷と李は手を振って屋台を離れる。活気ある夜の街を歩きながら、マンガのような肉にかぶりつくのは、城の晩餐会のビュッフェとはまた違うジャンキーな美味しさがあった。

 どこもかしこもケモミミ生やした老若男女で大賑わい。誰も、人間である迅雷や李を見ても石を投げてこない。それどころか快くもてなしてくれる人も少なくない。


 「アーニア様の言う”愛”って、こういうののことだったんだなぁ」


 「第1王女様との禁断の愛ですか・・・!?」


 「違いますぅ。なんでいつもそうなるかなぁ。・・・アーニア様が、俺のスピーチの後に、世界を変えるのは人々の絆、すなわち愛だ―――って。こうして実際に街を歩いてみて、その意味が分かった気がしたんです」


 「ふうん。それはすごくステキな言葉ですねぇ。しかもその心が国民に浸透してるんですから、なおさらステキな国です」

 

 「アーニア様は、本当に慕われてるんでしょうね」


 「あんな美人で、しかも心までキレイなら、嫌いになる理由なんてありませんよ・・・・・・」


 「・・・李さん?」


 「・・・いえいえ、なにも」


 遠い目をする李を呼び戻して、迅雷はまた何軒かの屋台を回った。日本の縁日と違うのは、あまり遊戯系の出店がないことか。代わりに、人間以上に食が娯楽文化に進出しているのだろう。所謂”()え”にはあまり感心のない迅雷でも思わず写真や動画に残してしまうような、エンターテイメント料理がたくさん見つかった。

 李も妙に気前よくご馳走してくれるので、迅雷はお腹も心もすっかり満足だった。


 「はぁ~・・・。最初城から連れ出されたときはもうどうにでもなれって感じでしたけど、結局超楽しかったです。李さん、ホントにごちそうさまでした」


 「いいってことですヨンヨン♪なんなら一生オネーサンが養ってア・ゲ・ル」


 「いやそれはムグっ・・・!?」


 迅雷のツッコミを遮って、李は彼の口の周りをタオルハンカチで拭いた。色々と獣人向けのキングサイズメニューも楽しんだから、気付かず汚してしまったのだろう。


 「よし、これでキレイになりましたね」


 「は・・・ぁぅぅ・・・!!」


 「可愛いな・照れる少年・写真良い?」


 七五調でニンマリする李から、迅雷はフイと顔を逸らした。気付けばまるでお姉ちゃんのように振る舞われてしまって、調子が狂うというか、少し悔しかったのだ。迅雷にとって「姉」とでも言うべき存在はただ一人、もう心に決めているのだ。


 「ああんフラれた~ん。ツラたんぽぽ・・・」


 「まぁその・・・今まで苦手だと思ってたのは謝ります」


 「キミは私を悶死させる気ですか」


 「だーっ、抱き付かないでくだ・・・酒臭ッ!!」


 浴びるような量のアルコールを取り込んだ李の吐息に、もう女の色気などクソほども残っていなかった。・・・というか、今更だが、まだ仕事中のはずなのに飲酒までしてたんだぜ、この女。やっぱイカれてやがるぜちくしょうめ。

 迅雷に押し離された李は寂しそうに唇を尖らせた。


 「さ。そろそろ帰りましょうか、迅雷クン」


 「そうですね・・・なんだかもう眠くなってきました」


 疲れを思い出して、迅雷はあくびをした。

 2人は通りの喧噪から離れて、裏道に入り込んだ。祭の余韻が程良く感じられ、一種のノスタルジーにほっと落ち着く。

 きっと、この話をしたら千影は羨ましがるだろう。せっかく3日もあるのだから、明日は千影を連れてもっと色んなところへ行ってみよう―――と迅雷は胸を躍らせた。


 「・・・おっと?」


 「わぷ」


 裏道にも人通りはあって、建物の陰から出てきた女の子が迅雷にぶつかった。迅雷は跳ね返りで転びそうになったその子の肩を掴んで支えてあげた。


 「ごめんね、大丈夫?」


 「こ、こちらこそごめんなさい・・・」


 シュンとするその女の子の姿を見て、迅雷はふと首を傾げた。千影と同い年くらいに見えて黒い髪と赤い目の女の子には、()()()()()()()()()()()からだ。


 「君、人間?」


 「うん、お祭り見るためにふつうに旅行で来たんです!」


 「へー、そうなんだぁ」


 「お兄さんも人間なんですか?」


 「うん、そうだよ。偶然だね」


 旅行客もいたのか、と思って迅雷は李の方を見た。彼女も大して驚いてはいない様子だ。第一に日本語の会話が当たり前に成立している時点で納得するべきだったか。親人派国家であるビスディア民連領内とはいえ、魔界に旅行する子連れ家族がいるというのがちょっと意外に感じただけの話だ。 

 女の子が手に持っていた食べ物の数を見て、迅雷は暖かい気持ちになる。


 「お祭りは楽しい?」


 「うん、楽しい!」


 こんな微笑ましいシーンが世界中に広がれば、どんなにか素晴らしいだろう。


 「あ、でも君1人?」


 「ううん。パパと―――ここで待ち合わせ」


 女の子は街のマップを取り出して、赤い丸の付いた建物を迅雷に教えてくれた。遠くもないが、近くもない。街の人々はみんな温厚だったのであまり心配はないかもしれないが、乗りかかった船だ。いっぺんごっつんこした女の子をまた1人で歩かせるのも忍びない。


 「もう地図読めるんだ、すごいね。良かったら俺とこのお姉さんがそこまで送ってあげるけど」


 「本当ですか?実はちょっと心配だったからよろしくお願いします!」


 おっちょこちょいだが、根は利口なのだろう。異世界旅行をするくらいだから、ちょっと良いところのお嬢さんかもしれない。服装も上品だし。

 女の子に伴って帰路から外れて歩き出す。道中、なにか悩んでいる様子だった女の子がいきなり「あ」と声を高くした。


 「お兄さん、スピーチの人ですよね!?」


 「え、今更?」


 「だ、だってこんなところで会えるなんて思わなかったし!?」


 「確かに」


 李も頷いたせいで、迅雷は女の子に論破された扱いに甘んじざるを得なくなった。ただ、多少自意識過剰になりつつあったことには気付けたので、良かったかもしれない。


 「お兄さんのお話のあとでちゃんとオドノイドの女の子の方も見ました」


 「そっかぁ、ありがとう」


 「パパもママも『りっぱだ』って言ってました。私もお兄さんみたいになれるようにがんばりたいです」


 「いやぁ、そんな俺なんてまだ・・・」


 「そんなことないです!絶対すごいです!もっと自信もってください!」


 「そ、そう?ありがとう」


 女の子から熱烈に励まされて、迅雷はニヤニヤが止まらない。李がジト目を向けてくるが、知ったことではない。こんなに褒められたら誰だって嬉しいに決まっている。


 「そろそろ待ち合わせ場所かな?」


 「えっと・・・あ。あそこです。中で待ってるって言ってたからここまでで大丈夫です。ありがとうございました!」


 「うん、じゃあね」


 女の子は手を振って駆け出したが、なぜかすぐに立ち止まって迅雷を振り返った。少しの間無言で迅雷を見つめていた女の子は、またさっきまでの無邪気な笑顔になってこう言った。


 「君には世界を動かすチカラがある!」


 「え、あ、うん・・・?」


 「私はサラ!今日からあなたのファン2号です!これからも頑張って!」


 それだけ付け足して、サラと名乗った少女はまた駆け出した。それからまたつまづいて、照れ笑いしながら去って行くサラを、迅雷と李は最後まで微笑ましく思いながら見送った。

 悪くない寄り道だった。そして2人はまた帰路に就く。


 「サラって、日本人じゃなかったんですかね」


 「ハーフかもですよ。美人でしたし。てか迅雷クン、デレデレ過ぎなかったです?・・・やっぱもうあれくらいじゃないとダメ的な?オネーサン・ハヴ・ノーチャンスなんか?」


 「そんな見境ない人間に見えました・・・・・・?」


 そろそろ迅雷は割と本気で自分にゾッとしてしまった。

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