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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect14 ”一に無垢なる愛を、三にやけつく恋を”


 突撃してきたのは、黒猫のお姫様だった。


 「ヤッホー!」


 「「・・・?・・・!?!?」」


 迅雷がビックリしたせいで大放電が起きた。


 スピーチを終えた迅雷と萌生は、国会議事堂でそろそろ始まるIAMOの会見の中継を見ようと思って、ニルニーヤ城の劇場に備えられた控え室で体を寄せ合うようにして小さなテレビを覗き込んでいたのだが、肝心のテレビは天井の電灯と一緒に明滅してしまっていた。

 ぱちぱちと静電気で髪を逆立てながら唖然とする少年&少女とお互い目をパチクリさせながら見つめ合って、第2王女、ルニアは小首を傾げた。その仕草に合わせて、先っちょだけ金色の黒髪も朗らかに揺れる。


 「おや?ひょっとして意思疎通魔法の効力が切れたのかにゃん?いやいやでもそれにはまだ早いし・・・ヤッホー、2人のスピーチが良かったから来ちゃったよー!」


 お姫様と言うには少々砕けまくった口調のルニアは、固まっている迅雷と萌生に近寄ってあざとい猫口スマイルで手を振った。やっと事態を飲み込んだ2人が慌てて立って姿勢を正すと、ルニアに遅れてもうひとりのお姫様までやって来た。


 「はぁ・・・ま、待ってルニア。そんなに走る必要なんてないでしょう・・・?」


 黄金の髪を優雅に伸ばした第1王女、アーニアもまた、客人と目が合って姿勢を正した。


 「突然押しかけて申し訳ありません。ルニアもなにか失礼があったようですが、どうかお許しください」


 「まぁ姉様、ヒドいわ最初にこっそり会いに行こうと言い出したのは姉様なのに。まるで私だけが好き勝手してるみたいに言うのね」


 肩で息をしつつも非常に丁寧なアーニアと、わざとらしく拗ねるルニア。あからさまに対称的な印象の姉妹だ。王女に頭を下げさせてしまって迅雷は返答に困ったが、ここで萌生が先輩パワーを発揮した。


 「滅相もありません!アーニア様。ルニア様も、すみませんでした。ちょっと驚いてしまって。私たちのスピーチを聞いてくださったんですね、ありがとうございます」


 萌生のお辞儀に合わせて迅雷も頭を下げた。さすが生徒会長、なんと頼れるのだろう。

 アーニアとルニアを控え室に招き入れ、迅雷は2人が座れる椅子を用意した。一旦落ち着いて、アーニアが口火を切った。


 「改めまして、初めましてトシナリ様、イヅル様。私はアーニア・ノル・ニーア・ニルニーヤ。ビスディア民主連合の象徴王家の長女です」


 「私はルニア。ルニア・ノル・ニーア・ニルニーヤ。アーニャ姉様とザニア兄様の妹で、第2王女―――だがもうひとつの顔は民連のトップアイドル、ルーニャさんにゃのです!よろしくにゃん♡それでね、私たちがここに来たのはさっきも言った通りなの」


 「それはつまり、私と神代君のスピーチを聞いて、共感してくださったということでしょうか?」


 「そうよ。実はまだ公務中なんだけど、姉様がどぉしても今すぐ会って話をしてみたいって言うから抜け出してきちゃった」


 「えぇ・・・それって大丈夫なんですか?」


 迅雷がアーニアに確かめてみると、彼女は決まりが悪そうに赤面して俯いた。真面目な姉様かと思ったが、案外妹にも劣らずおてんばな一面があったようだ。


 「大丈夫かどうかで言えば、あまり大丈夫ではないのですけれど、少しでも早く貴方にこの気持ちを伝えたくて、つい・・・」


 「こ、この気持ちとは・・・!?」


 アーニアのキラキラした無垢な瞳に見つめられて迅雷はタジタジだった。一目見たときから撫でてみたかった美しい金色のネコミミ美人が喉を鳴らす飼い猫のようであり、それでいて少年心には要らぬ誤解を生みそうな言葉のチョイスまでして。異世界人の男性に対してあまりにも無防備すぎやしないか。

 

 「おふたりの言葉に私は感銘を受けました。相互理解のなんたるかを貴方たちは我が国の民に示してくれました。やっぱり、人間の皆様と協力関係になって良かった」


 「そんな、俺なんて、というかあんな一晩で作ったようなスピーチじゃ・・・」


 「いえ、そんなことはございませんよ。トシナリ様のスピーチにはこれからの世界がどうなっていくべきなのかを考えさせられました。考えるのにかけた時間など問題ではありません。むしろ、たった一晩であの文章を作り上げたのなら、それはウソ偽りなくトシナリ様御自身が心からそのような世界を願っていることの証拠に他なりませんでしょう?」


 「―――、ありがとうございます!」


 確かに、アーニアの言う通りかもしれない、と迅雷は思った。もしかすると、疾風があんなに直前で迅雷をここに誘ったのも、スピーチの原稿に余計な時間を掛けさせないために敢えて遅らせたからだったのかもしれない。

 迅雷の放電で不調だったのが直ってきたテレビから、聞こえるシャッター音がいっそう激しくなった。IAMO総長レオによる会見の最中のことだった。

 そのカメラマンたちの標的は、レオに背を押される形で演台の横に立った紅と金色の少女だった。慣れないドレス姿で精一杯それらしい仕草を意識しているのが見ただけでバレバレでいじらしくもある彼女は、正面に対してお辞儀をした。

 アーニアは、画面の中の幼い少女をうっとりと長め、口元に微笑を浮かべた。


 「それに、伝わってきたのです。トシナリ様の、彼女に対する深い愛情が」


 「あ、愛情とかそういうのは、べべ別にそんな意味じゃなくてですね!?」


 「あらあら、そんなにご謙遜なさらずとも良いのですよ。私も、かねてから信じて参りました。世界を変えるのは人々の強い絆、すなわち愛だと。愛こそが相互理解を実現する第一歩なのです!」


 「あっ・・・そ、そーうですよ、そうですアーニア様!愛は世界を救うんですよ!いやー、アーニア様が俺と同じ意見をお持ちだったなんてこの上ない光栄です!あははははー!!」


 ―――あっぶねぇぇぇぇ!!なんかいらないことバラしちゃうところだったぁぁぁ!!い、いやつーか別に?なんもやましいことなんてないんですケドね!?いやホント、別に全然危なくもないですケドねぇ!?


 などと心の中で供述しており、迅雷はうまくアーニアに変な誤解をされずに済んだのだった。・・・が、アーニアはなんとかなっても隣のルニア姫がスンスンと鼻を動かした。


 「ナニナニ、君はナニをそんなに慌ててるのかにゃん?おっと、アブナイ匂いがしてない?」


 「ま、またまたご冗談を~」


 「あらバレた?んふふ、ただの王室ジョークだから気にしないでね。大丈夫、民連(ウチ)の法律なら全然アブなくないから大丈夫大丈夫」


 「・・・・・・・・・」


 迅雷が笑顔のまま青ざめていると、テレビでは例の少女が引っ込んで、レオの話が再開してしまった。このあと、話の内容をほとんど聞いていなかった迅雷が痛い目に遭ったのは別の話。

 奇妙な静寂の中で王族にイジられる後輩がいたたまれなくなって萌生が「あの」と口を開くのと同時に、アーニアとルニアが揃って頭のネコミミをピョコンと立てた。

 直後、ノックの代わりに大きな音を立てて、控え室の扉が開け放たれた。


 「うっ・・・ぶねぇ・・・」


 今度は魔力が爆発するのを我慢出来た迅雷がホッとする間もなく、新たなる訪問客が大きな声を出す。


 「アーニア様、ルニア様!やっと見つけました!まったく、さぁ公務にお戻りください!」


 2人の王女以上の唐突さでズカズカ上がり込んできたのは、イヌミミの副首相クースィだった。そんな彼は、今は城勤めの黒服たちとは違う、軍の制服のような格好の男(ただしというか、やはりイノシシっぽいケモミミ付き)を連れていた。


 「あ、あれ~?思ったより早かったわね、クースィ」


 「当然です。大事な大事な交流式典の最中なのですからね!」


 「にゃあ・・・分かってるわよ。お騒がせしてゴメンネ、トシナリさん、イヅルさん。さ、行こうアーニャ姉様」


 ルニアはしょんぼり耳を垂れて立ち上がった。もっとも、部屋から出て行く直前で迅雷と萌生にだけ見えるようウインクをしたりと、あまり反省している様子はなかった。きっと、こういうことがルニアにとっては日常茶飯事なのだろう。対称的に、アーニアは心の底からしょぼくれた様子でクースィと彼についてきた軍人風のイノミミ男に謝っている。


 「それではトシナリ様、イヅル様。これにて失礼いたします。お話の続きはまた後ほど―――」


 「あ、ハイ」


 「お2人とお話が出来て嬉しかったです。私たちで良ければ、ぜひまた」


 姫2人が退室してから、クースィが苦笑交じりに頭を下げてドアを閉めた。

 静かになった控え室で、萌生がぽつりと呟く。


 「クースィ副首相もなんだか大変そうね・・・」


 「頑張れクースィさん」


 迅雷もちゃんとクースィに同情しつつも、実は内心「また後ほど」にあの美しいアーニア姫とお話出来るのが楽しみすぎてウキウキしていたり、いなかったり。

 

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