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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect11 ”交流式典、開幕”

 「ようこそ、お待ちしておりました。我々が皆様を城内へご案内させて頂きます。どうぞこちらへ」


 迅雷たちを乗せたバスは、第1王女や首相らを乗せた車と別れた後、庭園の外周部を走って庭園の地下空間まで移動していた。広大な場所で、見上げれば天井までの高さも恐らく5メートル程度はある。

 ネコミミを生やした黒服の男が4人、地下へ降りてきたバスを待っていた。車から降りるなり全く理解不能な言語が聞こえたが、耳元に光る意思疎通魔法が言葉に込められた意図を理解可能な形へと変換してくれる。毎度思うことだが、意味だけではなく敬語を使っている事実まで再現出来るこの魔法は、考えた人は天才だと言わざるを得ない。

 それはそれとして、要塞だった場所を100年がかりで改修した王城だと聞いていたので、迅雷は自分たちを出迎えた黒服たちを見て顎に手を当てた。


 「ニルニーヤ城の警備の方ってことなのかな・・・?なんか、イメージと違う格好だけど」


 「今更鎧を着て城内を見回る文化なんて魔界にはないわよ。自動車もそうだけど、魔族と人間の文明は似ているんじゃないかしら?」


 黒服に案内されて地下を歩かされならが迅雷は勝手な妄想の話をしていたら、萌生が思い切りそれを否定してしまう。


 「そ、それもそうですよねー・・・あはは」


 「ダメだよテン長。とっしーは中世ヨーロッパ風の異世界に期待してたんだから。そんな雑に夢を奪ったらかわいそうだよ」


 「お前の言ってることも大概俺に効いてるからな」


 年上のお姉さんと年下のマセガキからのダブルパンチでヘコむ迅雷だったが、それでも彼だって分かってはいるのだ。リリトゥバス王国騎士団との戦いでは当然のように高速ヘリがあったくらいなのだ。むしろ魔界の科学技術の水準は人間界と同等以上とすら言えるだろう。

 ただ、だからといって迅雷がそんなにファンタジーな幻想を見ていたかと言えば、そうでもなかった。

 式典の開会式の時間も迫っており、バスに乗っていたほとんどの式典参加者たちはいちいち城の正面玄関まで戻ってから入城するのではなく、この地下階から直接城内へ入ったのだが、むしろその経路が秘密の通路っぽくて迅雷の琴線には触れた。文化と比べて建築物の変遷はゆっくりということだろう。

 

 先導するネコミミの黒服が振り返って、前方を手で示した。


 「ここから先は階段になります。申し訳ございませんが、少しの間ご辛抱ください」


 「(そんな階段くらいで大袈裟な)」


 「(いやいやお年寄りにはきっとつらいんだよ)」


 注意を聞いて迅雷と千影は互いに耳打ちしあってクスクス笑った。

 黒服たちの意外なほどゆっくりなペースに合わせているうちに少し焦れったくなりながら、迅雷たちは古い石壁の螺旋階段を一段一段登り始めた。



          ○



 「「階段こわい」」


 若者たちは後悔していた。ちょっとナメていた。思えば、地下駐車場から見上げた天井は体感5メートルくらいはあったのだ。次の階に行くつもりで登る高さじゃない。おまけに階段は横幅も狭く、明かりも少なく、さらには古いせいか足場も不安定ときていた。

 なんとかゴールした迅雷は深呼吸をしてから、後ろを見た。見るからに運動していなさそうな一部の学者さんたちがヒィヒィ言いながら、やっと姿を見せた。その無様を見るに、まだまだ迅雷と千影も元気な方だったようである。


 「か、階段にこんな疲れる日がくるなんて・・・」


 「千影はドレスなんて着たことなさそうだもんな」


 「むっ・・・なんかひどくない?まぁないんだけどさ・・・」


 迅雷はクリーム色のドレス姿で膝に手をつく千影を見て肩をすくめた。今更この程度の失礼など気にすることないのに、千影は頬を膨らませた。そこに萌生も加わってきて、千影の両肩に手を置いた。


 「しょうがないわよ。ロングスカートって足がもつれるもんね」


 「でしょ!?ほらぁ、とっしーが分かってないんだぞー」


 「だぞー」


 千影に便乗して子供っぽく笑う萌生。迅雷はついついドキッとしてしまって、視線を逸らした。長い階段のせいで上気した頬にしっとり張り付いた黒髪を直す仕草がそこはかとなくエロかったのだ。


 さて、可哀想なことに遅れて階段を登り切った学者連中には息を整える間も与えられなかった。しきりに時刻を気にする黒服たちに丁寧な口調で急かされ、城内の豪華な内装を碌に観賞出来ないまま迅雷たちは大きな城の劇場へと案内された。


 「大変なご移動になってしまい申し訳ございませんでした。お手洗いはこちらの扉からあちら左手に曲がって頂きますとございます。お後、お配りするものにつきましてはお席の方にございます。その他ご不安な点がございましたら我々になんなりとお申し付けください。それでは失礼いたします―――」


 城勤めの者は全員がこの式典に動員されているのだろう。よっぽど忙しい様子で黒服たちは次の業務のためにどこかへと早足で去ってしまった。未だに息も絶え絶えの人間と比べて、黒服の彼らは終始涼しい顔だった。やはり、獣人族の体力は人間よりも優れているということだろうか。

 迅雷が座る席は、最前列だった。なぜとも思ったが、式典内でなにかしら目立つ機会のある者はそうなるようだった。迅雷の場合はスピーチのときに1人で登壇するためである。もっとも、IAMO総長のレオや各国首脳陣がとりわけ中央に近い席に座る中、迅雷はどちらかと言えば端の方だった。それに対して大々的に公開されるわけではない研究交流会や懇親会などが主なイベントになる学者らはほとんどが前から2列目に席を用意されているようだった。

 正面のステージ下には、ケモミミを生やした警備員がズラリと構えていた。やはりというか、全員黒服姿だ。しかし、よく見ると彼らの装備はいずれも装飾品としての趣が強いようだった。


 「気になりますかな?」


 「え?」


 「あんな装備では頼りないのではないか、と言いたげな顔をしていたもので」


 突然迅雷の内心を言い当ててきたのは、民連の副首相、クースィ・フーリィだった。老いとは関係なく生来の白毛を持つ、イヌミミの男だ。首相のケルトスと比べると良く引き締まった体つきをしていて、実際以上に若々しく見える。

 『門』を潜った時点で迅雷は既にクースィの顔と役職を覚えていたので、ビックリして座席から立ち上がった。


 「い、いえいえいえそんなっ。あっと、えっと、そ、そうだすみません!神代迅雷って言います、自己紹介が遅れてスミマセン!」


 「ふはは!これはこれは、こちらこそ失礼しました。副首相のクースィ・フーリィです。ま、どうぞお掛けになってください」


 隣席の萌生が必死に笑いを堪えているのが見えて、迅雷は顔から火を噴く思いで腰を落ち着けた。自分なりには礼儀正しく振る舞ったつもりだったし、もはやなにが恥ずかしかったのかも自分では分からない。まぁ、なにが一番面白かったかと言えば緊張しすぎで言葉がたどたどしかったことなのだが。

 クースィは立ったまま話を続け、警備の黒服たちを見やった。


 「別に、取り繕わなくて良いですよ。実際衛士らの装備なんてただの飾りですから。分かりやすい武力を持たないというのが民連のポリシーでしてね、拳銃すらまともに支給していないのですよ。ただその分、格闘術を少々、ね。我々獣人族の最大の武器は未だに己の肉体だってことです」


 「そうなんですね、道理で」


 迅雷の相槌にクースィは笑顔を返した。獣人と言っても顔はヒトのものだが、結局表情には獣っぽい愛嬌がある。

 やってきた部下に耳打ちされ、クースィは頷いた。


 「では私はこれで。スピーチ、楽しみにしていますね」


          ●


 クースィが去って数分後、ステージには華々しい音楽と共にパフォーマーが現れて、民連の伝統舞踊が披露される。最前列で見ていた迅雷がそれに圧倒されているうちにダンサーたちはステージ袖へと消え、入れ替わりにクースィが再び迅雷の前へ、ただし今度は壇上に立った。そして、彼の声で交流式典の開式が高らかに宣言された。

 

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