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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第三章 episode7『王に弓彎く獣』
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episode7 sect2 ”今日からこの少年爆発物につき”


 ここは魔界(アスモ・コスモ)の最大国、皇国の皇都、《サントルム》。目眩すら覚えるような長い歴史を感じる街並みとは裏腹に、科学技術も魔術研究も魔界の最先端を行く叡魔族の都は、今日も賑わいに満ちていた。リリトゥバス王国から搾り取った多額の賠償は早くも皇国に更なる潤いをもたらしているのである。

 この国の統治者である皇帝の一人娘、アスモ姫の摂政兼護衛を務める、白髪長身に真紅の瞳の男ルシフェル・ウェネジアは、今は主の傍を離れ車を走らせていた。車と言っても馬車のようなものではなく、読者諸君が最初に車と言われて想像するような、所謂自動車だ。

 皇都の街並みをゆるりと駆け抜ける瞬間だけを想定したようなレトロな外観の車は、むしろ最近流行の可愛いデザインの車に囲まれて悪目立ちしていた。

 ハンドルに手を乗っけたまま信号の色が変わるのを待つ文化は、実は今まさに魔界が目の敵にしている人間からの受け売りだ。これだけではない。フロントガラスで切り抜いた景色の中には、既にいくつもの異世界由来の文化が混ざり込んでいる。それがこの国、この世界の性格と言うべきものだった。


 ぴりり、と腕時計型のデバイスが音を立てた。どうせ寂しん坊の姫君だ。政治家として法を犯すわけにはいかないので、ルシフェルは少しの迷いもなくアスモのコールを無視してアクセルを踏んだ。

 彼の車は皇都郊外に出てからもさらにしばらく走り続け、やがて山道へと入り込んだ。そしてようやく見えてきたのは、巨大な兵器試験場のような場所だった。

 レトロな車が駐まってルシフェルが降りてくると、施設建屋からぞろぞろと職員と思しき者たちが出てきた。ルシフェルが王女の摂政だからなのか、誰も彼も緊張で動きがぎこちない。


 「よ、ようこそいらっしゃいましたウェネジア様。またなんともお早いご到着で・・・」


 「そろそろと思っていた。長居する予定はないから、早く見せて頂こうかな」


 「かしこまりました。ではこちらへ・・・」


 そう言って、恐らくは所長である黒い眼球、黄色い瞳、蝙蝠の翼の典型的な叡魔族の男がルシフェルを案内した。彼に導かれたのは、ただでさえ山奥にある試験場の更に深い場所に大きく開いた洞窟の入り口だった。

 中は前人未踏の迷宮などではなく、壁面も天井もとっくに整備されたSFチックなラボの様相を呈していた。

 長大な施設通路を、接待の意味でも会話を繋いでいかねばならない所長は不躾な質問と知りながらも、ルシフェルにずっと不安だったことを訊ねた。


 「しかし、あのようなおぞましいもの、なんに使うおつもりなのでしょうか?」


 「機密事項だ。貴様らは黙って渡された仕様書に従って命じられた仕事をこなしていれば良いのだ。・・・だが、敢えて言うなれば、我々の世界の平和と繁栄のため、だろうか」


 何重にも重ねられたロックドアの先に、山の中身を丸ごとくりぬいて用意されたその空間は待っていた。

 貴族の屋敷くらいなら収まりかねないほどの広大な空間にそびえる一基の巨大な水槽の中に浮かぶ”おぞましいもの”を見上げて、ルシフェルは満足したように鼻を鳴らした。


 


          ●



 

 9月とはいえ1日目。遅刻組の蝉の声に少し汗を滲ませながら、迅雷はホっと息を吐いた。家に帰ってきたのは2週間とちょっとぶりである。・・・が、むしろ迅雷の負った傷の程度を思えば恐ろしく早い退院だったと言える。医者の尽力の賜物だろう。

 一連の騒動で、マンティオ学園でも校舎の修繕を行うために今日に予定していた2学期の始業式を10日ほど延期した。そんなわけで、迅雷は延びた夏休みの残り期間くらいは家でゆっくり過ごそうと考えていた。夏休み2週目の旧セントラルビル事件以降、結局ずっと出ずっぱりで全然遊べなかったから、少し羽を伸ばすのも悪くないだろう。

 色々と先行きが不安な時代に入りつつあるが、学生が学生らしく青春をしたって罰は当たるまい。


 「―――当たらない、よな」


 「どうしたの、とっしー?」


 「なんでもねーよ。あー、疲れた。暑いし荷物重いし。早くクーラー効いた部屋でごろごろしたいわ」


 病院でもずっと寝ていたくせによく言う。入院中の荷物で両手が塞がっている迅雷の代わりに、真名が玄関の鍵を開けた。靴を脱ぐより先にその荷物を置いて、迅雷がひさびさの挨拶をすると。


 「ただいまー」

 

 「わー、お帰りなさいとしくんー」


 「思った以上に馴染んでんな、しーちゃん」


 「えへへー」


 帰宅後一番に迅雷を出迎えてくれたのは、洗濯直後の濡れた衣類を運ぶ最中でちょうど廊下にいた、向かいの東雲さん家の一人娘だった。

 なぜ彼女が神代家の家事をしているのかといえば、東雲家のみなさんは現在、自宅全壊につき神代家に厄介になっているからだ。迅雷も入院中の話で事の経緯は知っていたが、なんともはや。20年近い両家の交流は迅雷が思う以上に互いの垣根を低くしていたようだ。

 神代家では洗濯物はいつもカゴには入れず、全てベランダの隣の和室に敷いた茣蓙(ござ)に移してから干しているのだが、それに倣う慈音のあとについて、迅雷たちも荷物をリビングに放って縁側まで出てきた。


 「慈音ちゃんごめんねー、洗濯頼んじゃって」


 「いえいえ~。洗濯機回すだけですし」


 ただまぁ、真名と慈音の会話を聞いていればあくまで慈音はこの家の中でも他人として生活しているらしい感じは残っているか。


 「迅雷も慈音ちゃんに感謝しなきゃダメよ?母さんが仕事の日なんか、病院から持ち帰った洗濯物とかよくやってくれてたんだからー」


 「そうなのかぁ、ありが・・・・・・ん?え、じゃあ、え?しーちゃん俺の下着とかも・・・?」


 「え~、としくんそこ意識しないでよぅ・・・」


 「い、いや、だって、その、ほら・・・ね?」


 「まぁそうだけど、分かるんだけどー」


 迅雷が全身から少し漏電しながら(結局なにが言いたいのか分からん)大袈裟な身振り手振りで慈音になにかを訴えると、慈音は(なぜか)きっちり理解して少し赤くなり、唇を尖らせた。千影が2人の見せる驚異の・・・というかもはや脅威の意思疎通レベルに目を点にしていると、慈音の働きぶりを眺めていた真名が追い打ちをかけるように。


 「はぁ~。もういっそこのまま迅雷とくっついてくれたら母さん大歓迎だわー」


 「「「!?」」」


 ・・・本当は作者はここで千影に「ボクのポジションどうなんの!?」と言わせようと思っていたのだが、次の瞬間に迅雷が突如大爆発したので、それどころじゃなくなってしまった。

 爆風でリビングの方まで吹っ飛んだ千影とパチパチ帯電して畳の上に伸びている慈音をよそに自分だけ結界魔法で事なきを得た真名が、呆れたように溜息を吐いた。


 「早く慣れなさいね・・・」


 「・・・俺だけが悪いの?」


 実は今、迅雷の膨大な量の魔力は常時完全解放された状態だ。入院中の検査結果で出たその最大量、なんと推定で通常平均の()()()()。使う者が使えばギルバート・グリーンだろうがアルエル・メトゥだろうが余裕でぶっ飛ばせそうな量だ。

 慈音を抱き起こす迅雷の左手を見てみると、その手首には火傷の痕がある。少し前まで、迅雷自身の安全すら脅かすこの異常極まりない力を平均レベルまで抑制しておくために、千影が掛けていた『制限(リミテーション)』という特殊な魔法の刺青にも似た腕輪状の魔法陣が刻まれていた場所だ。

 『制限』は、発動後は迅雷自身の魔力を食いながら効力を発揮し続けるものだが、一方で術者の千影が直接術式に触れて命令を送る事で最大20分までその抑制能力を解除することも出来た。つまり、今まで迅雷は有事の際にのみ特別にその魔力を解放するに留め、20分以上連続して自分本来の魔力と付き合うようなことはしてこなかった。

 だが、8月24日。迅雷は、千影を死の運命から救い出したあの戦いの最後で、千影に止めを刺す寸前のギルバートを止める一心で閉じようとする『制限』を自ら力尽くで破壊している。火傷はその際エラーを起こした『制限』が強烈な熱を発したことに因り、そして迅雷は医者の傷痕を魔法で消し去るかという提案を敢えて断っていた。


 しかし、結局現状、迅雷はありのままの自分の魔力をうまく制御しきれていない。少し動揺しただけでさっきのように漏電するし、驚き具合が酷いと、今みたいなことにすらなる始末だ。とてもじゃないが風邪なんて引けたもんじゃない。くしゃみで家が吹き飛んでしまう。


 「とっしー、やっぱり『制限』かけ直さない?」


 「いや、しない。・・・気持ちだけじゃ足りないんだ。千影を守りたいなら、俺はこの力を絶対モノにしなくちゃダメなんだ」


 「そ、そういうこと真顔で言っちゃって―――」


 「うるさいな!あんまり恥ずかしがらせるとまたドカンだぞ!?」


 「なんの脅し!?自分で言い出したくせに!?」


 自爆テロ、ダメ、絶対。


          ●


 東京に戻った父親から電話があったのは、その晩のことだった。


 『ヘイ迅雷!俺だよ俺俺父さんだ。今度の日曜魔界行こう!』


注釈)

迅雷のジェスチャーは大体こんな感じのことを言ってます。

「もう付き合い長いし干してある洗濯物見られるくらいは気にしないけどさ、一度自分に告ってくれたこともあって、しかもそれを恋人というには距離が近すぎるとかいうワケの分からん理由で流してしまったにも関わらず相変わらず仲良くしてくれる幼馴染みの女の子が自分のパンツ畳んでると思うとさすがに恥ずかしくないですか?超気まずいんですけど!」


対する慈音はこんな感じのことを言ってます。

「それはそうだけど、そこ意識しないようにしてたのに、としくんの方からツッコんじゃう!?そうだね、しのも本当はちょっと恥ずかしいんだよ!?というかしのの場合むしろ干してる洗濯物を見られるだけでも普通に恥ずかしいくらいだもん!ここはお互いのためにもツッコまないようにしようよ!」

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PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

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