episode2 sect16 “シスコン軍曹・迅雷“
5月2日になった。・・・といっても、本当に日付が変わっただけである。その午前0時。
畳に敷かれた3枚の布団は寄せ合うように配置され、男子高校生たちは話に花を咲かせる。
この状況で話すことなんて決まっている。
「でさ、結局2班で一番カワイイの誰だと思う?一番好みな子挙げてけよ」
ついさっきまでは先生のいる511号室で散々暴れた結果として方々にペコペコ頭を下げて回っていた真牙だったが、既にいつも通りのテンションである。あれだけの事態の収拾だったのだ。どれだけ苦労したことか。特に悪いことはしていない迅雷や昴まで一緒に頭を下げて回ったので、真牙にはもう少ししょんぼりして欲しいところだった。
「じゃあまずは昴からどうぞ!」
「あん?俺か・・・。そうさなぁ・・・くぁ・・・やっぱり矢生じゃね?胸デカいし」
「基準雑だな」
昴は彼女の胸の手触りを想像しながらそんな風に言う。怠惰な割には男の子のロマンは求める性質なのだ。基準が適当なのは言い返すつもりはない。
「そういう真牙はどうなんだよ。みんな大好きー、はナシだからな」
「え!?ひっでぇな・・・。オレはみんなの魅力を列挙出来るのに。まぁ、そーだな。・・・やっぱり雪姫ちゃんかな?もっとオレを蔑んで欲しい」
「俺はお前の性癖が分かんねぇよ」
真牙がなにを想像したのかクネクネしながら艶っぽい声を出すので、なにを考えているのか分かりたくなかった昴は適当に流してしまった。ちなみに、迅雷に言わせれば真牙の性癖はマルチすぎてもはやなんでもOK、それこそ属性の闇鍋みたいな女の子でも可愛ければOK、である。
なおも真牙は語り続ける。
「あ!でもでも、なんか涼ちゃんオレに気がありそうじゃね?」
「は?なに言い出してんだお前?」
なにを言い出すのかと思えば、またまた突飛な発言をする。昴が心の底から疑わしげな声を出したが、しかしそれには迅雷が「いや」と切り返した。
「真牙の観察眼はいつも客観的かつ的確だからな・・・。認めたくはないけど、これはガチかもしれない。つかむしろ、真牙が『誰々さんがオレに気があるかもしれない』と言って外れたためしがない・・・」
「マジかよ・・・」
なんという馬鹿な選択をしてしまったのだろうか、あの涼は。まったく理解できない昴は首の骨が折れそうなほど首を傾げた。
あってはならないことが起きたかのような、そういうレベルで驚愕を露わにする昴。普段の表情に乏しい彼からは想像できない。
そんな昴がすらもがここまで驚くのは、さすがに真牙に対してでも失礼というものである。
しかし、真牙は自慢げに鼻を鳴らす。
「おい、昴。お前オレが割と中学でも人気があったことを知らないだろ?こう見えてもオレは日常的に『実は優しい不良』の簡易バージョンをやってるんだぜ?」
「なるほど、分からん」
『実は優しい不良』の簡易バージョンってなんだ?二次元なら需要のある『いつも気怠げだけど実は本気出すと超強くね?』キャラは、現実ではまったく需要がない。そりゃそうだ。普段から勤勉な人だけが評価されるのが現実世界なのだから。
それが、なんだ?正面切って実はモテます発言を口走った真牙のことは、もう理解放棄しても良いだろう。昴は都合の悪い話は流すものだと信じている。今信じ始めた。
「まぁでも?オレには・・・」
「心に決めた娘がいる、か?まったくイイもんだよな」
真牙の台詞を迅雷が横から掻っ攫う。かくいう真牙も、そのことはあまり気にしていないようでコクコクと頷いている。
「つか俺ここだけ知ってて、未だにお前の好きな女の子のこと知らねーんだけど」
中2くらいのときには迅雷はこの話を真牙に聞かされていたにも関わらず、迅雷はまだ彼の想い人を知らない。いつも聞いたところで誤魔化されてもみくちゃにされてしまうのだ。
まぁ、どうせ今回も・・・。
「従姉だよ?前言わなかったっけ?」
「あれ?」
あんまり素直に答えが返ってきたものだから、迅雷はもちろん昴までもが数秒間停止した。というか従姉って。
「お、お前どうしたんだ?湯冷でもして風邪でも引いたのか!?」
迅雷は真牙の熱を確かめるために額を合わせようとする。
「うおっ!男とおでこくっつけるのとかマジ勘弁!」
「いやいや、じゃあなぜに今日はこんなに素直に吐いたんだよ!?なんか違和感が・・・あ!分かった、嘘だろ!そうだとも、それこそ従姉妹って時点で・・・!?」
迅雷の言葉が途中で切れたのは舌を噛んでしまったからとかではなく、真牙に顔を鷲掴みにされたからだ。
そのときの迅雷の目には、真牙の指で目隠しされるまでのほんの僅かな瞬きの、その一瞬間だけ真牙の顔が見えていた。
らしくない哀愁と、今度は誰のためなのかがまるで分からない微かな怒気。
迅雷の目に被さっていた滋賀の人差し指と薬指が外れた頃には、また普段の気の良いニヤケ面。遠くへ行ってしまっていた真牙は目の前に帰ってきていた。
「・・・なんか、悪かったな。すまん」
「おうよ、まったくだ。・・・ま、オレはそれでもこの世界の女の子という女の子、それこそ清楚系、ギャル、ビッチ、ロリ、ボクっ娘、オレっ娘、ツンデレ、ヤンデレ、はたまた2次元だろうが4次元だろうが!カワイイ女の子なら!等しく平等に!愛してみせよーう!」
だんだん現実から離れていっているのは気のせいではないか――――とも思ったが、気のせいだ。現に迅雷の家にはロリでボクっ娘な少女がいるのだし。
ただ、2次元はまだ分かるが、4次元って。完全に時を超えちゃっているではないか。
迅雷がそこにツッコもうとしたところで、唐突にドアがノックされた。こんな時間に誰がなんの用件だろうか。
コンコン、と部屋のドアをノックする音が続く。時刻にして深夜0時ちょっと。さすがに遅い訪問である。修学旅行ではないのだから少しは考えてほしいものだ。・・・などと、散々大騒ぎしたことを謝って回った迅雷たちが言えた義理ではないか。
「はーい?」
一番ドアに近いところに布団を陣取っていた真牙が、仕方なさそうに立ち上がった。
のそのそとドアの方に向かう真牙は、寝室と廊下を繋ぐ襖を通って壁で見えなくなる。迅雷と昴は、とりあえず寝室からでは見えない部屋の入り口に耳と意識を傾ける。
すぐにドアの開く音がして、それから、
「さっきからうるせーんだよ!」
「いやアンタがうっさい!そこ廊下!」
「お前も叫んでんだろ!」
「確かに!」
「だからうるせー!」
「仲良くなれそうですね!」
「確かに!」
「「・・・・・・」」
怒鳴り声―――まずはあまり聞き慣れない声。そんでもって、それに応答する怒鳴り声―――まず間違いようもなく真牙の声だ。どっちもうるさい言葉のラリーが苛烈を極めたかと思ったら、一瞬で終了した。
ちょっとしてからドアを閉める軋んだ音があって、それから真牙が寝室に戻ってきた。
「友達出来た」
「なにがどうなったらそんなことになるんだよ!?」
「で、だ」
迅雷のツッコミを完全スルーして、真牙はいきなりここまでのちゃらけた空気を一蹴して面持ちを謹厳なものにする。
何事かと迅雷と昴が身を強張らせるのは自然。もしかすると、訪ねてきた人がなにか良からぬものを運んできたのかもしれない。2人は静かに真牙の次の言葉の到来を待つ。
「迅雷ってぶっちゃけ誰が好きなの?あ、班とか学校とかも関係なくな」
ずっこけようとしたが、既に寝っ転がっているので出来ずじまい。とりあえず頬杖をついていたので、そこから頭を滑らせて敷き布団の上に打ち付けることでリアクション欲求を解消することにした。
それにしても、もう今日だけで真牙が真面目な顔をしてもそれが本当に真剣なのか、はたまた真剣でもない内容を真剣な顔で言っているだけなのかが分からなくなってきてしまった。真面目に迅雷のために怒ってくれたかと思えば、真剣な顔で人の好きな人を聞いてきたり。
「そんなことでなんであんなにマジな顔できるんだよ」
「はぁ?そんなこと?オレの好きな女の子を教えてやったんだぜ、義理ってものがあんだろうがよ」
「む・・・」
言われてみればそんな気もしてくる。確かに聞くだけ聞いて教えず逃げるのはなんだか失礼な気がする。
だが、そこで考えてみると、案外迅雷には「この子が!」という相手がいないことに気が付いた。付き合えたらな、みたいな願望のあるクラスメートはいるが、高嶺の花過ぎるし競争率も高すぎる。付き合うにはあまりに近しすぎる幼馴染みもいる。なんだかベッタリくっついてくるロリもいるが、迅雷はロリコンではない。
「あー・・・んー?あぁっと・・・あれ?」
「おや?おやおや?あら、もしかして人に従姉はちょっとなんとやら・・・みたいなことを言っていた方が?妹だいちゅきですかー?」
唸る迅雷に真牙が煽りをかける。ちなみに昴はそろそろお休みモードに入ろうとしているようで、ウトウトしている。話を聞いているかは不明だ。
妹、と言われて迅雷は少しだけ考え込んだ。
「それだ!・・・と言いたいところなんだけどな。ナオはなぁ、妹じゃなかったら即嫁にしたいとこだけど、それ近親婚ですからね。俺は別に近親相姦みたいな趣味もないからな、多分」
「含むこともなく多分を付け足しやがったな」
多分。そう、多分。妹だからアレだけれども、ドストライクなのでワンチャン・・・?
「いや、なんかもうそれもありなんじゃね、と思って」
「・・・」
「冗談だから!マジな顔すんな!」
想像以上に危ういところまでいっちゃっていたシスコン兄貴を見つけ出してしまったことに、煽ったはずの真牙がドン引きしていた。まさか親友が犯罪者予備軍だったなどと、誰が想像できようか。さすがの真牙でも計りかねた。
と、かなり本気で引いた顔をしている真牙に迅雷は全力で訂正にかかった。まさか迅雷の方もそこまで本気で言ったわけではないのだから。
肩を掴まれて揺さぶられる真牙は迅雷の腕をタップしてなんとか解放させた。
「じゃあ慈音ちゃんは・・・ってさっき聞いたか。ホントよくもまあ贅沢な理由だよな、お前死ねば良いのに。うーむ・・・あ、じゃあ千影たんとかは?」
「死なないから安心しろ。で・・・千影か?」
迅雷は真牙にその名前を出されてまたもや考え込んだ。好きな女の子と聞かれて千影が真っ先に思い浮かぶようなことはなかった。改めて彼女の普段の生活を思い返してみると、なおさら色気がなくなる。
朝。目が覚めると目の前、酷いときは腹の上でよだれを垂らす千影を確認する。ちょっとほっぺたをつついたりして遊ぶこともするが、基本的にパジャマが汚れるのでいい迷惑である。
昼。用事がないと割とニート気味なことが発覚。いや、こればかりは本来小学生であるはずの年齢の少女が昼間から外をほっつき歩いてもなにも出来ないのが原因なのだが。最近は人気のオンライン対戦ゲーム、『フェイコネ』にハマっているらしく、夕方には『サマプリ』とかいうプレイヤーにフルボッコにされるので、昼間の内はそいつをギャフンと言わせるために育成に躍起になっているらしい。
夜。例の『サマプリ』とかいう人と対戦してケチョンケチョンにされたり、その鬱憤を学校帰りの迅雷に悪戯や色気のない体型で色仕掛けをしてきたりして発散している。あとは暇を持て余して迅雷と絡んでいるのがほとんどだ。
「・・・ないな」
と、結論づけて迅雷は頷いた。いちいち迅雷に絡んでくるあたり、懐かれているのは分かるのだが、どうにも。確かにその容姿は愛らしい。整った顔立ちもクリクリした紅の瞳とほんのり染まる頬で生き生きとしているし、幼いなりに可愛さを多分に乗っけている。仕草もたまにあざといところがあるのだが、それが以外と似合ってしまう。
案外千影への感想がイイ感じに惚気じみていることに迅雷は少し驚いたが、しかしながら千影を恋愛対象としてみるのは。
「ないない。そもそも俺には幼女趣味はない」
「えー、なんで?可愛いじゃん千影たん」
真牙が唇を尖らせるのだが、迅雷は華麗にスルーする。というか、さっきから真牙が出してくる候補がいちいち年下なのは、一体迅雷をどういう目で見ているからなのだろうか。場合によっては処すのも厭わないつもりだ。
などと訝しんでいると、枕元に置いていた迅雷のスマートフォンにメールが届いた。表示されたポップアップからしてSNSの方だ。
「ん?」
通知を見ると、送信者の名前は「ナオ」だった。直華だ。
「わーい、ナオからだー!」
「やっぱお前冗談抜きでシスコンだろ」
喜ぶ迅雷を見て昴が喋った。どうやら起きていて、話も全部聞いていたらしい。
そして迅雷も程度の話をしないなら、もう今更シスコンというところは否定するつもりはない。
「なになに・・・?『合宿どんな感じ?怪我とかない?』、か。あぁ、ナオマジ天使」
兄を労る妹の気遣いが心に染みる。先ほどまで迅雷をおちょくっていた真牙と昴もさすがにこの心遣いには感嘆の声を漏らしていた。内心では迅雷はちょっと自慢をしてやりたい、むず痒い気持ちになった。こうして気が利く子は意外とあまりいないものなので、こうしたメッセージが送られてくると妹でも非常に嬉しくなってしまうのだ。これはきっと分かる人も多いだろう。
「迅雷、お前の妹良い子だな・・・」
昴の惜しげもない賞賛。
――――――ヤバイ、ニヤけるのが我慢できない。めっちゃ自慢したい。ドヤァしたい。
「返事してやんないとな。『ちょっとヤバいこともあったけど、なんとか無事だよ』っと」
ヤバイというか命の危機だったが、それはまぁ言わないのが吉だろう。心配されるのは嬉しいが、だからといって余計な心配をかけるのはあまり自分の良心にも嬉しくない。
しかし、迅雷のそんな複雑な心境を知ってか知らぬか、直華の返事は彼の心をくすぐってきた。
『ヤバイって、ホントに大丈夫だったの!?無事なら良いけど、なんか心配になるなぁ・・・』
「「ぐはぁっ!」」
ひっくり返ったのは迅雷だけでなく、真牙もだった。今のは真牙的にも高ポイントだったようだ。ただ、いつまでも悶絶しているわけにもいかない。とりあえずもう既読が付いているので急いで返事を書く。
「『ホントなんでもないって。それに養護教諭の先生もしっかりしてるし』っと」
送信しようとして迅雷は手を止めた。よく考えたらここで養護教諭である由良の話を出したら、また直華に要らぬ心配をかけることになる。後半の文を消してから迅雷はメッセージを送信した。それを見ていた昴が呆れた顔でぼやく。
「美しき兄弟愛だな」
「褒めんなって。お、返事きた。『ふーん?』・・・くぅぅ!」
疑うような台詞である。食えない妹だ。さすがに誤魔化しきれない。
こうなったら話題転換である。
「『そういや、こんな時間にどうしたんだ?』っと」
こんな時間に起きているなんて、中学1年生にはあるまじきである。良い子は寝る時間だ。眠れないのだろうかと心配した迅雷は軽い口調に見える言葉でメッセージを書いて送信する。
すると、すぐに返事が返ってきた。
「お、きたきた。なになに・・・『そ、それは・・・』?」
コメントを途中で切るなんて珍しい。なにを勿体ぶっているのだろうかと迅雷が首を傾げていると、新しく直華からのメッセージが届いた。
「あ、続ききた。なになに・・・『お兄ちゃんがいないとなんだか寂しくて全然寝付けないんだよね』、『早く帰ってこないかなぁ・・・』・・・・・・ぐぼあぁッ!?」
「し、しっかりしろ、迅雷!落ち着け、落ち着くんだ!!」
「放せ真牙!俺は・・・俺は、今すぐ帰るんだ!!ナオのところへ!!」
今のは完全に殺し文句だ。全世界のシスコンが震撼した。もうシスコンでいいや。
まるで顎を蹴り上げられたかのように跳ね上がって布団の上で悶え苦しむ迅雷を真牙が慌てて押さえ付けた。このまま放置したら迅雷はテンションの上がりすぎで脳血管が破裂して逝ってしまいそうだ。目を離してしまったら本当に荷物もまとめず服だけ着替えて飛び出しかねないテンションの迅雷はまさに狂人さながらである。
と、ピロリンという新しい着信音。未だに暴れ続けて真牙に羽交い締めにされている迅雷の手から昴がスマホを取って、メッセージの内容を確認する。
「おい迅雷、『今のは千影ちゃんが勝手に打っただけだから!そこまで寂しくはないから!』だって」
「・・・・・・」
ぴたりと動きを止める迅雷。心なしか顔に濃い陰影が差しているような気がするのは、昴だけではないだろう。止まったかと思えば、今度は口元に卑屈な笑みを浮かべて放心状態になる迅雷。
彼はそのまま布団に潜って、頭にかかるまで掛け布団を引き上げてしまった。シスコンの末路なんてこんなものなのだというのを如実に表した縮図の完成だった。
「お、おい、元気出せって迅雷・・・」
「俺もう寝る。ケータイ返して。とりあえず返事するから・・・」
●
「くちっ。・・・むぅ」
別段寒いわけでもないのだが、なぜかくしゃみが出た。鼻を腕でぐしぐしと拭いながら、千影はぼんやりと目を覚ました。
「あれ、千影ちゃんもくしゃみ?あはは、一緒だー」
緩慢な口調で話しかけてきたのは、寝起き感満載の直華だ。今は千影とくっつくようにしていて寝ていたところだ。実際は部屋は暗いので直華の表情は見えないが、多分小さく微笑んでいる。
こういう直華も、数分前に千影と同様に鼻がムズムズして目を覚ましていた。いや、正確には眠ってはいなかったので、目が冴えてしまった、の方が近いかもしれない。
「んぁ、おはようナオ。ってまだ夜か。きっとアレだよ、とっしーがボクらへの愛を語ってくれているんだよ、うん。むにゃ・・・」
「あ、愛!?」
普通、噂と言うところなのではないのだろうか。さすがは千影、言うことが違う。
「てかナオまだ起きてたの?いくらなんでも興奮しすぎだよ?」
「んなっ!?なにを言って、言ってるのか分からないなー!?」
だんだん騒がしくなってきた直華と千影が今寝ているのは直華の部屋のベッド・・・ではなく。
「またまたー。せっかくのとっしーのベッドなんだから、匂いとか楽しんどきなよー、うへへ」
本当に10歳児とは思えない発想をする千影に直華は思わず唇を噛んだ。なんだかよく分からないが負けているような気さえする。
「そういうんじゃないもん!」
昼間に彼女らが迅雷の部屋でペンダントの話の後にエロ本ファイヤーをしたのだが、そのファイヤーする前に千影が更なる悪戯として「今夜は迅雷の部屋で寝ようよ」と直華に半ば強引に持ちかけたのがことの始まりだ。千影に引きずられるようにして迅雷のベッドに押し込まれた直華は千影の好評通りのふかふかベッドに寝そべりながら、実際そこに残る匂いにいろいろ複雑な気持ちになって眠れていなかった。
ここまでいいように引っ張り回されて、あげくいつの間にか変なことになっている直華。ここのところ、いつも千影の相手をしている兄の偉大さを噛み締めたりしている。
とはいえこの状況が恥ずかしいのが心根だが、まんざらでもないという気持ちも本音だったりして、それでもってなおさら本気で恥ずかしくて複雑な気持ちなのである。
よって。
「うぅー、お兄ちゃん早く帰ってきてよー・・・」
元話 episode2 sect37 ”次元が違う” (2016/9/17)
episode2 sect38 ”シスコン軍曹・神代迅雷” (2016/9/18)