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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect101 ”戻って来た日常”


 「国はM県に災害復興補助金として1500億円を交付することを発表しました。これらは主に一央市に現れた巨大モンスターの攻撃で破壊されたインフラ等の復旧や事業への補助金として活用される見通しです―――」


 「被災者支援制度の受付は県庁または市役所で行っております。対象となる世帯は、住宅全壊または大規模半壊の罹災証明を受けた世帯、または―――」


 

          ○



 8月16日、火曜日。


 3日間継続していた一央市全域の避難命令は全域で解除された。

 その、3日前に勃発した魔界のリリトゥバス王国との戦闘は、『一央市迎撃戦』と名付けられた。

 『一央市迎撃戦』は、たった1日という異例の短い期間で停戦状態へと持ち込まれ、現在は改めて正式に停戦協定を結ぶべく、IAMO総長であるレオやIAMO実動部総司令官のギルバート・グリーンの他、国連や各国首脳らが実際に魔界に赴いて会談に出席するなど、行動を続けているところだ。

 最新の状況では、リリトゥバス王国にて、同国国王に加え、本戦役への関与の疑いが濃厚である皇国の皇帝および王女も出席する会談の場が設けられているところだ。幸い、交渉は順調であるとも報じられている。


 避難期間中に降った雨が手伝って街の消防活動も一段落し、一央市にも一応の平穏な日々が取り戻されていた。


 ・・・とは言っても。



 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?お、おうちが~!?!?!?」


 

 東雲慈音は、やっと帰ってこられた自宅の前で悲鳴を上げた。

 いや、マンティオ学園の避難所を出る前日から、両親には覚悟はしておけと言われてはいたのだが・・・なんというか、もはや爽快感すら覚えるレベルでぶっ壊れていた。お向かいさんの神代家は大したことになっていないのに、えらい違いだ。つらい。

 母親の晴香がスマホで県庁のホームページにアクセスして、被災者補助金の額を確かめ、溜息を吐いた。


 「75万円・・・ねぇお父さん。これで家の修理費って足りるのかしら・・・」


 「どう考えても足りないなぁ・・・。貯金だってそんなにたくさんはないのに」


 「えええっ!?じゃ、じゃあもしかしてこれからしのたちはホームレスになっちゃうのぉ!?それはさすがにヤダー!!」


 しかも最愛の一人娘の悲痛な絶叫を聞いてなお無言のままの両親。圧倒的絶望感がヤバイ。いよいよ大黒柱の収入を補うために母娘揃っていかがわしい商売に手を染めねばならないのか・・・ッ!?・・・と思われたそのとき、哀れな東雲一家に手を差し伸べる救世主が現れた!!

 

 「東雲さん、しばらく神代家(ウチ)で生活したら良いですよ。まぁ勿論ずっとって訳にもいかないでしょうけど」


 「み、神代さぁぁぁん・・・・・・」


 慈音の父親、東雲雄造はマジ泣き寸前でヒーローの手を握り込んだ。

 その顎髭の渋いヒーローは神代疾風、(名前だけなら雑誌やテレビで)言わずと知れた世界に3人しかいないランク7の魔法士の1人であった――――――のだが、無地の白いTシャツとジーパンという個性の欠片もない格好をしていると、多少身なりに気を遣っているもののフツーにどこにでもいるオッサンにしか見えない。家の中の片付けのキリが良くなって、彼の妻である神代真名も表に出てきた。


 「そーねー、良いんじゃない?おいでおいでー。きっとウチの子たちも賛成してくれるでしょーし」


 「えぇ、で、でも大丈夫なんですか?その・・・」


 「いーのいーの、気にしないでよ。ウチと東雲さんちの間柄じゃないの。スペースもあるし、3人くらい余裕ですって」


 家が広いアピールだが、不思議と真名が言うとイヤミがない。まるでお泊まり会の企画でもしているくらいの気軽さに、晴香と雄造の気分も幾分救われる。


 「でも、本当に良いんでしょうか。今はその・・・迅雷君のことが」


 「としくん・・・」


 雄造が気まずそうに神代家の長男の名前を出した。慈音が悲しそうに自分の右手を左手で握る。


 あの日、結局、迅雷は――――――。










 「いやいや、そんなお葬式ムード出さないでくださいよね。生きてますから!」


 疾風が空気に耐えかねてツッコんだ。大丈夫だよ、迅雷はちゃんと生きて帰ってきましたよ。

 

 ただ。


 「ですけど、入院費とか治療費だってあるじゃないですか」 

 

 慈音の表情も晴れないままだ。

 迅雷は、大がかりな手術を終えた現在も面会謝絶の絶対安静を強いられていた。肉体組織の方は魔法も惜しみなく駆使して一応の安定を得たが、それ以上に衰弱が極めて酷いため、予断を許さない状況のまま。というのが少なくとも昨日の夕方時点での報告だった。

 しかし、疾風は苦笑してから雄造に対して問題ないと伝え、それから慈音の頭を軽く撫でた。


 「お金についてはホント、気になさらなくて良いんですよ。困ったときはお互い様、でしょう?あとここだけの話、実はアグナロス・・・あのデカい炎のモンスターをやっつけたことに対してだいぶ特別褒賞が出たんでぶっちゃけホント全然心配要らないですよ。それに迅雷(あいつ)もそんなヤワじゃないの、慈音ちゃんも知ってるでしょ?大丈夫、大丈夫。なんとかなるよ」


 「はい・・・」


 ―――そう、迅雷はきっと大丈夫。


 疾風は、妻の肩を抱き寄せた。不安でないはずがなく、むしろ不安ばっかりだ。例え世界最高峰の魔法士ともてはやされていたって、こうなってしまってはもうなんにも出来ないのだから。

 それと、疾風には真名よりもひとつ多く、不安のタネを持っていた。



          ●



 彼は良い敵になってくれそうだ―――。


 迅雷が手術室に運び込まれた後の、ギルバートのあの発言は果たしてどんな意図だったのだろう。

 あれだけの戦いの渦中にいたはずなのに微塵の疲れも見せず、世界中、はたまた世界を越えて駆け回り、今日には魔界の皇国に現地入りしてしまった彼に、もはやそれを訊くためのチャンスなど持たないのが非常に歯痒いことだ。

 これ以上、彼の身に不要な危険が忍び寄らないことを願う、ばかりでは意味がないから、ここはやはり自分自身もまたそうならないよう立ち回ることが重要になるのだろう。


 「―――ちゃん、千影ちゃん!」


 「あ―――ナオ?うん、今行くから」


 外ではもうエンジン音がしている。千影は腰掛けていただだっ広いベッドから降りて、両の足で床を踏んだ。部屋のデジタル目覚まし時計のカレンダーは、8月20日。

 昨日、病院の方から電話があった。あれから1週間、迅雷との面会も大丈夫そうだ、との話だった。まだまだ退院とはいかないようだが、それでもどれだけ安心出来たことか。

 千影は適当な荷物だけ持って直華と一緒に車に乗り込んだ。車内には、運転席に疾風、助手席には真名、それから後部座席には千影同様神代家に居候中の慈音が先に乗って待っていた。千影は車が動き出してから、ふと思い出したように「あれ?」と呟いた。


 「というか神代家って車あったんだね」


 「俺しか運転しないもんな」


 「ほーん・・・?ママさんは免許ないの?」


 「私はペーパーだから」


 ペーパーだから乗らない、という理屈もない気はするが、まぁ特段大切なことでもないか、と千影は簡単な相槌で終わらせた。いや、でもやっぱり真名も車を使えた方が買い物とかは格段に楽になりそうなのでちょっとくらい練習しても良いのではないだろうか?


 「お兄ちゃん、本当に大丈夫なのかな」


 「お医者さんが大丈夫って言ってくれたんだから、きっと大丈夫だよ!ほら、なおちゃん、あんまり不安そうな顔してたら余計心配になっちゃうよ」


 「慈音さん・・・」


 神代家に居候中の東雲一家だが、病院についてくることにしたのは慈音だけだ。彼女の両親は今日も補助金関連の書類や仮設住宅の手続きなどのため朝から役所に並んでいる。

 慈音は直華の手を柔らかく握ってあげている。こうしているのを見ると、どことなく姉妹のように見えなくもない。千影は、外の景色を見る傍らで窓に映る2人の姿をしばらく見つめていた。車窓越しには、荒れた街と互いに支え合い励まし合う人々の姿を流れていく。


 こうして生きて帰って来られたけれど、果たして今の自分はちゃんと神代家にとって、迅雷にとって『家族』になれているのだろうか。なにかの役に立てているのだろうか。報いられているのだろうか。本物の家族がどんなものなのかも全然知らない千影だけれど、それでも、慈音のように自然とそこに居られるような存在になれているのだろうか。


 「・・・んなぁぁっ!!」


 「「!?」」


 突然わしゃわしゃと金色の髪を乱して千影が大声を上げたので、驚いた慈音と直華が抱き合って大きく跳ねた。

  

 「辛気臭いこと考えてどうすんのさ!2人とも安心めされい!どうせボクが顔を見せればとっしーなんてイチコロで元気100パーセントさ!」


 「ほぇ~・・・さすが千影ちゃんだね」


 「フフン♪」


 そんな風に鼻を鳴らしたが、千影だってまだ内心穏やかではない。むしろ千影こそ誰よりも、迅雷との再会を強く望み、そして恐れていた。当たり前の心情だ。ここにいる誰よりも、千影が一番、迅雷がどれだけの深手を負って生死の淵を彷徨っていたかを理解して(目に焼き付けて)いるのだから。医者の言葉くらいじゃ、都合の良い想像ばかり出来るほど安心なんて出来やしない。

 迅雷の意識が戻ったとは言っていたが、それだってほとんど確かではないのかもしれない。病室への立ち入りが許されただけで、断続的な覚醒の合間に立ち会って、酸素吸入マスクを着けて眠るだけの迅雷の横で医者の説明を聞くだけになってしまったらどうしようか―――。実のところ、千影の脳内は昨晩からずっとこんな具合だった。


 道路に車は多くないが、車道そのものがめくれていたり工事車両が停まっていたりして、結局病院に到着したのは予定より半刻ほど遅くなってしまった。

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