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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect76


 街の魔法士たち。A1班の部下たち。たくさんの仲間たちの協力を得て、遂に神代疾風は最後の砦、一央市ギルドにやって来た。夜闇を思わす漆黒の外套を翻し、猛る炎を突き抜けて降り立った彼の姿に、今まで戦い続けてきた魔法士たちが沸き立った。


 「おまたせ」


 『ハヤセ、遅すぎる!』


 屋外スピーカーからの声に疾風は眉を上げた。


 「ん?その声、アンディか!?なんでここに・・・いや、でも納得したな」

 

 非線形な時変性ストラテジー。混沌とした状況を逐次的に効率よく処理していく泥臭い戦力配置は、アンディらしい。

 そして、驚く疾風の両隣に2人の男が並ぶ。


 「待ってたぜ~、疾風さんよ。一央市にいるっつうから今か今かと思ってたんだぜ?」


 「全くだ。出張のしすぎで帰り道も忘れちまったのかい?」

 

 一央市ギルドが擁する2大ベテラン民間勢力である、『山崎組』リーダーの山崎貴志と、『ミドラーズ』のリーダー、斉藤広助だった。皮の厚くなった掌で2人は同時に疾風の背を叩く。


 「やだなぁ2人とも。俺だって、こう見えてかなーり急いだのに」


 短い休憩を終えて再び戦線に赴いた貴志と広助の背に、彼らのパーティーメンバーが続く。

 これは本当に待たせてしまったな、と疾風は肩をすくめて、大剣『マスターピース』の引き金をワンクリックする。街でトップクラス魔法士たちを伴った疾風は、剣の一振りで地上に跋扈していた雑魚眷属を吹き散らし、上空から迫る龍型の眷属を見上げる。

 みんなが頷いた。準備はもう出来ている。疾風は再び巨大な魔法陣を作り出す。それが合図となった。


 「『山崎組』、斉射用ォ意。今から夏祭りだ!魔法の弾幕ばらまいて敵さんを花火にしてやれェ~!!」


 「おっしゃあ!オッサンども!ガンマニア連中に遅れを取るなよ!仕事の鬱憤晴らすにゃ今しかねぇぞ!!」


 ランク7の魔法士が起こす神風にも負けちゃいない。

 大小様々な魔力銃、あるいは魔力砲から放たれる魔光の打ち上げ花火に、たまやかぎや、魔法士たちの掛け声が轟く。そうかと思えば、広助の号令で日夜残業まみれの親父たちの八つ当たりが空を彩ったり。

 白兵戦から砲撃戦まで手広く手堅く。やはりギルドに集結した戦力はひと味違う。

 数万もの龍が地上に足を着けることなく滅されていく光景の痛快さと言ったら。

 火線をかいくぐって地上に到着出来たなけなしの眷属たちすら、奮起した魔法士たちが出し惜しみなしで袋叩きにしていく。

 

 「侮ったな」


 一央市を一挙に襲った十万の炎の龍は、たった1人の英雄が登場したことによって、3分で撃滅された。

 神に刃を向ける人間たちの代表は、空を見上げて今度こそ強がりではない笑みを浮かべた。


 「これが俺たちの―――」


 火竜の双頭は大きく口を開けていた。



 焼滅の光を溢れさせる、その口を。



 『残念。時間切レサ』


          ●


 侮りなぞとうに捨ててあった。弱者を嬲って悦に入る時間は疾風によって幕を閉じていた。

 だから、空の上からひ弱な人間たちの必死の抵抗を見下ろしていたアグナロスは、全速力で力を溜め直し、終わった瞬間に容赦なく双頭の巨顎を開いた。右の頭は北を、左の頭は南を。

 あの神代疾風とかいう男はよく頑張ったと思う。神をも戦慄させる、人間にあるまじき力と、立っているだけで疲弊した人々に再び立ち上がる勇気と希望を与えるカリスマにはアグナロスも敵という立場を忘れて惚れ惚れしてしまう。

 

 そんな見事な敵だからこそ殺す。


 正直に言ってしまうと、最初にアグナロスがこの戦いに臨んだ動機なんて大したものじゃなかった。思うようにいかない戦況をひっくり返してくれと頼まれて面倒だと渋ったところ、戦いに勝利した暁には美味い鉱石を鉱山ごと献上すると言われて腹の虫の赴くままに火を噴いただけだ。

 だが、今は違う。己の存在意義まで見失ったわけではない。それを思い出させてもらった。あの男が人間たちの英雄(カリスマ)であるように、アグナロスもまた、大国リリトゥバスの(カリスマ)でありたいと、他ならぬその男の姿を見て思わされた。

 

 『コノ一撃ハ貴殿ラニ示ス敬意デモアル。吾ト、ソシテ吾ガ国ノ民ノ比例ヲココニ詫ビ、ソシテ今日ノ戦ヒニ幕ヲ引クトシヨウ』


          ●


 魔界。皇国。王城。


 魔侯爵ジャルダ・バオースはつまらない結果に表情を曇らせた。晴れてこれで万々歳の結末だ。・・・その他大勢にとっては。

 王国の守護竜として祀られていたあのボンボンドラゴン『アグナロス』は、恐ろしく強大だった。ともすれば、この皇国すら脅かすのではないかと思わされるほどに。皇姫アスモの摂政、ルシフェル・ウェネジアの言うように、”心配な点”など無かったのだ。

 中継を聞いていればもう分かる。数秒後には一央市は地図から消え、魔族は見事に勝利を飾る。しかも神代疾風の巻き添えという人魔間の戦争の結末すら決めかねない、この上なく大きなオマケ付きで、だ。


 ともあれ、もうここで戦況を覗き見する必要もなくなった。ジャルダは席を立つ。彼の隣に座る皇帝派の貴族がジャルダを小馬鹿にした顔をする。


 「バオース候、見ての通りですぞ。『アグナロス』を出した以上は王国の目論み通り、とは言えないかもしれませんがね、騎士団が前線出ずとも勝利出来ることは示された。貴殿の私兵の出番はもう少し後のようですぞ。いや、もうないかもしれませんな。ふぁ、ふぁっふぁ、ふぁふぁ」


 「・・・フン。魔界側が勝てるのでぇあればぁ?私としても特になぁにか言うつもりなどなぁいのだよぉ。アスモ姫様、先のご無礼ぃ、深く深ぁぁく、お詫び申し上げまするぅ」


 一時の劣勢を見て、王国をアテにしたアスモと摂政のルシフェルをこれ見よがしに煽ってしまったせいで、実に居心地が悪い。部屋を出たい理由は、私兵の出番が無いつまらなさよりも、むしろこちらかもしれない。

 だが、どういうことか。そのリリトゥバス王国の力を信じるという発言をし、疑るジャルダたちの説得まで試みたアスモ本人が、明らかに動揺していることに気が付いてしまった。


 「・・・姫様?んんいかがなされましたかな?」


 「あ、あぁ・・・なんでもないぞ。先の発言も気に病むな。それにしても実に素晴らしいな、王国の守護竜とやらは。妾の見込み以上だったな」


 それから、アスモは小さく眉を動かし頬杖をついた。ほどなくして次なる報告が舞い込んだ。

 

 「『アグナロス』がさらに体を展開したとの報告が―――!」




          ●




 治療を受けながら、雪姫は校舎の窓の外を凝視していた。正確には、夜空を照らすアグナロスを凝視していた。

 太陽だと思っていたものが、歪に花開いた(・・・・)のだ。花弁、あるいは、燃え盛る尾と言うべきか。棘立ち禍々しい8本の尾が、アグナロスの体から生えた。

 その尾は伸びに伸びて、アグナロスの体躯に見合うほどの長さに達する。あの竜は、まだ力を隠していて、今になってそれを解放したということなのか。

 雪姫は一瞬放心して、唇を噛んだ。敵の姿が変化しただけかもしれない。しかし、たったそれだけのことで人々が受ける絶望感は計り知れないものになる。もう、みんな終わっていた。戦意喪失だ。神代疾風の希望も潰えたように思われた。所詮人間はちっぽけだ。こうやって理不尽に奪われる。

 憎かった。この手でアグナロスを殺してやりたかった。だが、空を睨み続けた雪姫はその異変に気が付いた。いや、それはそもそも、異変だったのだろうか。

 

 「・・・・・・違う・・・アレは、アグナロスじゃない(・・・・・・・・・)!?」



 不自然な動きを見せた尾に気付いた直後、アグナロスの体から突き出した8本の尾が、こともあろうにそのアグナロス自身の(・・・・・・・・)胴を刺し貫いた(・・・・・・・)


 

 ―――だったら、『アレ』は一体なんだ?『誰』がやった?



          ●



 『アギ、ギャアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?!?!?』




 大地を揺らす断末魔を浴びたとき、神代疾風は既に空へ跳んでいた。

 空中でのたうつアグナロスは『尾』によって体を貫かれ、炎の血を吹き散らし、そして人間たちを島国の国土ごと焼き尽くすはずだった神の火を絶叫に乗せて霧散させた。

 アグナロスは、己が肉体を内側から食い破った『誰』かに激昂する。


 『貴ッ・・・様ァァァァァ!!ナゼダァァァァァァ!?』


 眷属を失い、蓄えた炎もただの灼熱の熱波と消え、実体なき肉体をも引き裂かれた彼の前に、憧れすら抱いた男が浮かび上がる。見下ろしていたはずの人間が、同じ高さに立っていた。その瞬間、アグナロスは直前の憤怒すら忘れた。


 「これが俺たちの意地だ」


 『チェ・・・青生生魂(アポイタカラ)ノフルコースノ夢ハオ預ケカ―――』


 大剣『マスターピース』のトリガーを、6クリック。

 刀身が内圧で弾け飛びかねない程の魔力が解き放たれる。人間の英雄は、人間が生きるために神を斬る。その鋒は、夜の太陽に没すべき地平線を刻む。



 「沈め。魔界の太陽神」



 陽炎の花弁は煌びやかに散り、世界に夜が雪崩れ込んでくる。


episode6 sect76


       ”デイ・オブ・アドマラブル・サンダウン”



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