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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect75 ”A1班”

 令和おめでとう!新時代の初投稿でございます。

 いやぁ、この作品もちょうど4年目に突入しましたね。・・・先は長いと見るか、まだまだ執筆活動っぽいなにかを楽しめると見るか。連載開始当初にはいなかったキャラクターたちが暴れ回りながらもそろそろ当初から見据えていた第1章の終わりが見えてきたかな、と思っている今日この頃です。


 で。活動報告の方でも投稿したのですが、多分あんな機能を利用している人なんてほとんどいなさそうだからここでも報告。


 令和記念に、令和と零話をかけて、本作より千影と天田雪姫の過去話、格好良く言うとエピソードゼロ(格好いいとは?)の作成を開始しました。まだ投稿はしていませんが、この作者には珍しく書き始める前にプロットを作ったりなんだりしています。本編との兼ね合いもあるのですぐに投稿するというわけにもいかなかったんですね・・・。


 一央市の魔法士たちが拠点とする大型施設は主に3つある。一央市ギルド、一央市立病院、そして国立マンティオ学園。いずれも、極めて多くの避難者や傷病者を抱え込んでいる場所でもある。

 突如として戦場に姿を現し、非人間的なまでの強さでアグナロスに迫ろうとした神代疾風を翻弄するためだけに3大拠点に総計10万ものアグナロスの眷属が降り注ぐ。しかも、その全てが強大な力を持つ龍型だった。


 いかに人類最強クラスのランク7の魔法士でも、魔界屈指の大国において力の象徴として崇め奉られるアグナロスと正面からぶつかれるはずがない。アグナロスの真価は、個にして群、無尽蔵に生み出される眷属と共に全てを灰燼へと帰しめる圧倒的理不尽である。争いにすらならない。根本的に、敵対者とアグナロスの間には戦いに対する認識が異なっているのだ。

 アグナロスは健気に剣を振るい続け、試練に立ち向かう矮小な人間を嗤う。相手が悪かったのはお前の方だ、と。




 

 ―――ハッタリである。





 10万もの眷属。実はもう、これがアグナロスの全力だった。

 アルエル・メトゥによるアグナロスの評価を覚えていれば、おおよそその意味するところが予測出来るだろう。抗い続ける地上のへ向けて何度も何度も何度も何度も小出しで眷属を生み出し続けることで一央市全体へ波状攻撃を仕掛け、人間が狂奔し続ける様に愉悦を覚えていたアグナロスだったが、今、神代疾風を足止めするために残していた眷属を、全て龍の姿に変えて解き放ったのである。龍は、9体の眷属を融合させて生み出す強化個体だ。すなわち、実質、約90万体の炎(・・・・・・・)の軍勢と同等の(・・・・・・・)魔力量(・・・)をたった1人の人間のために使った。

 アグナロスは、神代疾風が、己が守るべき王国の騎士団長、アルエル・メトゥにも匹敵ないし勝るほどの力を持つ脅威であるとみなした。すなわち、力において対等にもなり得る、と。


 



 だが、傲り深き魔の竜神にそこまでの判断をさせた一人の人間の表情にも焦りの色が滲む。彼もまた、確実に敵の底知れぬ力に恐怖を覚えていた。

 アグナロスの巨大な炎の口には、既に煌々と熱い輝きが溜まりつつある。ひとたびそれが吐き出されれば、再び山をも蒸発させる熱線が一央市を襲うことになる。次は日本列島を縦断するやもしれない。何千、何万という人命がまるで塵芥の如く無造作に吹き散らされることになる。

 

 アグナロスの阻止に専念すれば、街を焼き払われずに済むかもしれない。だが、アグナロスを倒せても眷属が消えるとは限らない。街だけが残り、人々は全て焼き殺されてしまう。

 でも、人々を助けるために奔走していては、灼熱のブレスでなにもかもが消し炭にされてしまう。

 焼滅双極のジレンマ。


 故に(・・)―――ヒーローは不敵に笑む。


 「人間ナメるなよ、炎上キモヘビ野郎」


 大剣『マスターピース』のグリップ部分に設けられた引き金を、ワンクリック。刀身の根元で異様な存在感を示していた6連装シリンダーが、60度回転する。


 「『ツイン・スラスト』」


 千影や迅雷が『サイクロン』と呼んで急加速・急制動に用いている風魔法と同質の魔法を、疾風は自身の両肩を起点として、2つ同時に扱う。その瞬間加速度は常人が同じ行為に及んだ場合(疾風の魔法出力まで模倣出来ればの話だが)、胴体だけ置いて両の肩から先だけがひとりでに吹っ飛んでいくほどの殺人的Gに達する。

 音と併走し、疾風はその名に恥じぬ疾さを以て火照る夜空を駆け抜けた。


 片方を守ればもう片方を失う。じゃあどうすれば良い?

 簡単だ。両方とも守れば良い。第3の選択肢だ。

 神代疾風は、少なくとも眼前の命は全て救い尽くす。手が届くなら、絶対に見捨てたりしない。彼が培ってきたものは、どんなに理不尽な暴力からでも人々を守り抜くための、力だ。


 「おォッ!!」


 数秒にして市立病院上空に飛来した疾風は、地上に落ちる前の炎の龍の群れに『マスターピース』の剣先を向け、一般に最上位とされる特大型魔法すら凌駕する威力を発揮する、極大型魔法を詠唱した。


 「『バースター』!!」


 それは人為的に引き起こされた天変地異だった。

 言ってしまえば、その正体はただの暴風であり、それ以上でも以下でもない、緑色魔力を用いてありきたりな空気弾を扱う風属性魔法である。だが、単純な魔法も威力や規模が青天井となれば、いつかは天変地異という表現が相応しいほどの一撃へと変貌することもある。


 事実、たったひとつの魔法で、2万の炎龍は跡形もなく消滅した。


 だが、それでも不足。恐るべきは純粋な敵の数だ。アグナロスは残存する眷属を3つの拠点に均等に振り分けたのだろう。2万を葬ってなお、病院上空には未だ1万を超える炎の巨影。これには疾風も舌打ちをせざるを得ない。

 疾風は眼下を確かめる。人はいる。日頃から一央市の安寧を守ってきた腕利きの魔法士たちだ。数もいる。ここは病院だ。逃げることもままならぬ人たちを天災のような悪意から守るために、自らの意思、あるいはギルドからの指令に従って集ったのだ。

 目は生きている。躍動を感じる。だから、彼らにも頼ろう。疾風一人では出来ないことでも、街が一丸となれば必ずなせる。アグナロスは知らないのだ。この街が、どれほどの数の危機を乗り越えてきたかを。


 「ふッ―――!!」


 真空の刃を纏う大剣を振るい、無酸素の剣閃に呑み込まれた1万の龍は、その4割にまで数を減らした。

 そして疾風は空中で身を翻し、マンティオ学園に戻ろう――――――として、気付く。


 「おいおいあいつら・・・最高だな・・・!!」


          ●


 「Theッ、無☆双☆感!!ですね、これはァ!!」


 「(すもも)ちゃんペース気ぃ付けや!」


 「分かってますよォ、やだな~!!」


 夏だというのにモコモコのウサ耳が付いたパーカーを着込んだ女が、変わったグローブを着けた左手で触れると、たちまち炎の龍が消えていく。空中でいくつもの魔法陣を足場代わりにして飛び回り、彼女は猛烈な速度で龍を狩り続ける。しかも、足場の役目を終えた魔法陣からはいつまで経っても途切れることのない様々な属性の魔法が噴出し続け、網の目のように火線が張り巡らされていく。


 一央市ギルドの司令部の方から市の外縁部から範囲を狭めるように炎の怪物を駆除するよう任されていた警視庁組だったが、早急に異変を察知したA1班が既に飛び出し、マンティオ学園に到達していた。条件反射とでも言うべき決断がチームという単位で機能する点において、彼らの練度の高さが窺える。

 本来のA1班班長である神代疾風不在により(いつものことながら)一時的に班長権限を得た次席のピンク髪触角系電波ガール、小西李は狂笑する。


 「そぉれ!!みなさんも頑張ってぇぇぇ!!」


 ・・・副班長はこの様子だ。程良い(・・・)強敵をのべったらに蹴散らすうちにドーパミンの弁が壊れたのかもしれない。加えて、戦闘の長期化や敵の危険度の関係で一部の実力派魔法士以外はほとんど屋外にいない現在、生活に支障を来すほどの人間恐怖症の李の心を縛るものはほぼ無いに等しいことも手伝っている。

 だから、今の李にリーダーシップは求めちゃいけない。しかし、それでも彼女を補佐するためにA1班の仲間は自然と動いた。


 小西李。毒々しいほど鮮烈に染め上げた桃色の髪といつも通りのウサギパーカーとミニスカート。パーカーの内側や腰のベルトには無数の魔力貯蓄器を仕込み、武器として細身の魔剣を扱う。また、両手には補助のために特殊なグローブを着用している。《白怪》の異名を持ち、その戦闘スタイルは多くのベテランをして”インチキ”と評される魔法士界の超新星だ。

 

 「えぇか!ウチらは李ちゃんの撃ち漏らしを徹底的に潰してくで。マンティオ学園の先生方もええですね!?」


 冴木空奈(さえきくうな)。群青のウェーブがかった髪を後ろで一房に結んでいる。今日は仕事用の、警視庁の文字が入ったプロテクターを着用している。《水陣》の異名を持つ傑出した水魔法の使い手であり、こと屋外での戦闘に関しては李にも引けを取らない天才。李が配属される以前は警視庁魔法事件対策課、略して魔対課のA1班副班長として活躍し、その座を離れた今なお多くの警官から畏敬の念を向けられている。


 「了解・・・。でもですよ、わざわざ東京から出向いてきたんだから、小西さんのおこぼれに限らずガンガン手柄挙げたいところなんですけどね!」


 松田(のぼる)。爽やかなツーブロックにした茶髪の青年。格好はやはりプロテクター。小西李とは同期のため、彼女の異様な活躍の影に隠れがちであり、それが少しコンプレックスとなっている若手の男性魔法士。とはいえ、そのライバル精神からか積極的に捜査に取り組み、高い成果を叩き出し続けたことで本人の強い希望であったA1班に席を獲得した新進気鋭の努力家でもある。


 「松田、そう焦るなよ。どうせあの数だ。ウチのお嬢でも捌ききれないさ」


 塚田譲太郎。皺深くも凜々しい50代後半のベテラン。昔から男前だったのだろう。極めて模範的なプロテクターの着こなしである。A1班では最年長であり、班長の疾風からの信頼も厚い経験豊富な魔法士。基本に忠実な縁の下の力持ちであり、派手な戦闘での活躍には拘らず通常の捜査活動や事務仕事にも工夫を凝らすなど力自慢の多い魔対科の魔法士には珍しい面を持つ、コーヒーを愛する男でもある。 

 

 松田を除く全員がランク6、その松田もランク5と、規格外である疾風を抜きにしても圧巻と言える日本警察の切り札が、マンティオ学園に駆けつけた。


 李がお得意の”インチキ”を使ってグローブ1枚着けただけでほぼ素の左手により灼熱の龍をはたき殺し、またまた変則的な「置き魔法」で重力に従わざるを得ない敵を、有無を言わさず細切れにしてしまう。

 それでも倒しきれない万単位の炎の怪物を、空奈が操る津波が迎え撃つ。以前、一央市のセントラルビルで勃発した『荘楽組』との戦闘では後れを取ったが、本来の空奈の強さはあんなものではない。猛り狂う激流はさながら地獄の蓋を押し開けて生者を奈落の底へと引きずり込む魔手。幾千もの炎の龍を呑み込み、鎮火する。

 上司2人の超人っぷりには辟易しつつも、松田は得意の魔銃を使い、塚田や学園の教師たちと共に丁寧に残飯処理に徹する。実際は、あの2人が大雑把でド派手に暴れることが出来るのも、彼のような堅実なバックアップがいてこそであることを忘れてはならない。


 良くも悪くも、アグナロスの眷属は単純な物量によって圧殺することしか考えていない。それならこちらもそう難しいことなど考えなくて良かった。


 「タイチョー」

 「班長!」

 「神代さん!」

 「疾風班長」

 『神代さん!!』


 皆が声を張る。

 マンティオ学園は、もう神代疾風の助けがなくても大丈夫だ、と。

 だから。


 『こっちは気にすんな!!』


          ●


 そして。


 「おまたせ」


 嵐の到来に人々は歓喜した。

 


 ひとつ言っておくと、作中の架空の都市『一央市』は東京都ではありません。もちろん警視庁の管轄でもありません。じゃあなんで警視庁の人間がこっちまで出張っとんねんって思いますが、実はちょっとした事情があるんですね。隠すようなことでもないので、欄外でコラム的に説明しておきます。


 日本には、作中現在IAMOの支部がありません。あるのは、IAMOの下部組織であるギルドが2つです。ギルドのない地域では魔法士のとりまとめを、主に役所や民間組織が行っています。しかし、それではどこでどれだけ現れるかも分からないモンスターの脅威に対処しきれないので、警察がIAMOのシステムを真似て独自に魔法士部隊を組織しました。これが、魔対科です。ただ、それなら全国の都道府県の警察でそれぞれ別に組織することも可能ではありました。実際にある程度は組織されました。

 ただ、多くの地域では一般の範疇を出ない程度の魔法士がほとんどです。彼らでは対応出来ないような事件が起きた場合、最悪対応出来る魔法士が1人もいないような状況すらあり得ます。例えば『ゲゲイ・ゼラ・ロドス』みたいなバケモノが出てくると、一央市の鍛えられた皆様ならともかく、よその魔法士は結構死にそうです。もし、そんな地域に怪物に対抗出来るくらい強い魔法士がいても、群れで現れたりすれば1人でなんとか出来るほど甘くはありません。

 そこで、優れた魔法士を警視庁で一括して管理し、平均的に高い能力を持ったチームを組織することで対処するようになったのです。その関係で、魔法事件関連においてのみ、警視庁は日本全国津々浦々端から端まで全部を管轄するようになりました。ただ、統一したおかげでそこで働く魔法士の皆様は忙殺されております。警視庁所属なのにIAMOにも引っ張り回される疾風の忙しさと言ったら・・・。

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