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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect72 ”血錆び臭い勝利者”


 真っ白い蛍光が転々と続く廊下の、遠く、奥の角の方から足音がこちらへと向かってくる。


 「銃声!?なに、誰かそこにいるんスか!?はっ、もしかして負傷者ッス・・・か・・・」


 あぁ、なるほど。この裏口は戦闘員の退避にも使われていたらしい。道理で、床が妙に汚れていたわけだ。

 とはいえ、この状況の説明にはならないか。昴は少し頭を悩ませる。

 

 すっ飛んできたのは、昴も所属するパーティー『山崎組』の中でも、比較的彼と年の近い先輩である、鹿野礼仁(かのれいじ)という青年だった。以前にはリーダーの貴志、そして日下一太の3人で5番ダンジョンの探索を行い、迅雷たちと共に『ゲゲイ・ゼラ』及びそれらを飼育する『ファーム』を発見した人物でもある。その探索で負った怪我が治って復帰したかと思えば次は戦争だなんだでギルド防衛戦で矢面に立ったりと、少し可哀想な人かもしれない。現在は、『山崎組』のメンバーが休憩のため下がっており、礼仁はその間にもギルド本館内の見回りを行っているところだった。

 ただし、昴はずっと地下で一太や悪魔の男といたから礼仁、ひいては『山崎組』の現状を詳しくは分かっていない。

 電灯の下に佇む彼の姿を見つけた礼仁は敬語をやめて、それと同時にギョッと目を見開いた。


 「って、昴かよ!なんだどうし―――ひっ、ひぇあッ!?」


 昴の正面には、血の海に沈んだ、捕虜の魔族の男がいたからだ。生きているようには見えない。血の気が引いて、後ずさった。多少モンスター退治の腕に覚えはあっても基本的に普通の青年である礼仁には、人型の銃殺死体はあまりに刺激が強かった。

 礼仁がなにか問う前に、昴が口を開いた。


 「すみません、独断です。恐らくあの炎の怪物が収容棟に侵入して牢が破壊されて、脱走したとかじゃないでしょうか」


 「な、なな、なるほど・・・。だけどこの人、ほら、い、一応捕虜・・・じゃん?これマズ・・・勝手に・・・」


 「顔の火傷が酷かったのと、慌てて飛び込んできたところからして、この人も炎の怪物に襲われてたって見て間違いないです。見限られた捕虜なんてもうダメでしょう。なにより魔族ですよ?敵じゃないすか。このまま放ってたらギルドの守りが内側から切り崩されてたかも―――」


 「た、確かに、そうかも・・・しれないな」


 礼仁は、その惨状に気を取られて遅れたが、昴の傷もかなり酷いことにも気付いた。

 左腕の火傷は、恐らく浅達性Ⅱ度に達している。Ⅱ度なら極端に重い火傷ではないが、痛みで言えば神経まで焼けてしまうⅢ度より酷いのではなかろうか。それから、顔と、右の太腿、それ以外にも複数箇所から血を流している。恐らく魔族の捕虜から抵抗を受けたのだろう。


 「早く手当しないとだ。来い!ってか、歩けるか?肩貸すぞ、医務はあっちだ」


 「あ、はい。で、でもコレどうしたら・・・」


 「あぁ・・・ぁ、えっとえっと・・・良い、後は俺が報告すっから!つーかさっきから真顔だけど、お前怪我痛くねーのかよ!?」


 「・・・痛いっす。すっげー痛い」


 礼仁に肩を貸されて昴は立ち上がる。

 歩み去る寸前に、昴は背後のダルゴーを一瞥した。彼は、とうに息を引き取っていた。


 (感謝してんのは本当だぜ、助かったよ・・・・・・あぁ・・・そうか)


 ―――せめて、お互い自己紹介くらいし合えれば良かった。


 

          ●



 駄目だ。ビクともしない。真波はみっともなく爪を噛んだ。

 天田雪姫が作り出した峻険な氷の壁は、真波の魔法では破壊するに至らなかった。さすがに表面を削るくらいのことは出来たが、それ以上に届く前に急速に修復されてしまうのだ。他の、駆けつけた先生たちも真波同様、様々に手を変え品を変えこの氷壁を突破して雪姫に加勢しようとしているが、結果もまた、みな同じだった。

 雪姫が単身壁の向こうに閉じこもって、10体近い炎の怪物たちが合体した龍型の眷属との戦闘を開始してから10分程度が経過していた。全ての眷属が集約された龍が健在なのが理由かは判然としないが、一央市内の各所に逐次投入され続けるアグナロスの眷属は、マンティオ学園周辺一帯だけはポッカリと分布していなかった。異変を察知して、学園の外回りで戦闘を行っていた教師たちが学園に帰ってきていたが、彼らもまた学内に入れないことに気付く。校庭を丸ごと包み込む氷の壁が敷地から迫り出して校門も呑み込んでおり、人々の出入りを禁じていたのである。


 つまり、マンティオ学園の敷地面積の実に半分近くが進入不可領域と化していた。壁の中から染み出す鋭い冷気と桁違いの魔法規模は教師らに犯人を容易に特定させた。

 外回りから戻って来た教頭の三田園松吉は、いつもの穏やかな雰囲気には似合わぬ舌打ちをした。


 「これはなんとも・・・・・・冗談じみてるねぇ?」


 連れていた先生らが氷の壁に穴を空けようと攻撃を続けているが、松吉はそれを止めさせた。


 「え、教頭先生、天田さんをこのまま放置する気ですか!?中にいる志田先生たちから、彼女が単独で怪物の相手をしているって連絡があったでしょう!?無茶です!」


 「分かってるさ。ただねぇ!」


 松吉は氷壁に手をかざし、掌に意識を集中した。思い衝突音が連続し、一気に氷壁を貫通する。伝わった衝撃で穴付近の氷にも亀裂が入り、崩落する。それきり、氷の壁がその部分を自己修復することはなかった。唖然とするひよっこらを置いて松吉は門を潜った。


 「壁が修復されていたろう?天田雪姫さんに無駄な魔力を消費させちゃあ駄目なんじゃあないかな?一瞬で破壊しないと」


 文字通り衝撃的な登場をした教頭に、校内から氷の壁に対処を続けていた教師らも目を丸くしていた。だが、外回りから戻って来た連中よりかは場の切迫度合いを実感している故か、素早く気を持ち直した。

 真波が、松吉に状況を簡潔に説明した。


 「教頭先生、この向こうで天田さんが巨大化した炎と単独で交戦中なんです」


 「巨大化?」


 「なんというか・・・そう、合体して大きなひとつの個体に!」


 「ふむ?」


 真波の説明から浮かんだイメージとしては、合体した怪物はさらに強力なはずだ。氷の壁も、それなら穴を空けるくらい造作はないだろう。だが・・・。

 差し詰め、真っ先に叩き潰したい相手でもいたか。

 松吉は顎に手を当て、憂鬱な溜息を吐く。


 「今は少し君たち教員の至らなさが恥ずかしくなるねぇ・・・」


 だが一方で、それだけ天田雪姫個人の戦力は完成されているということ。涼しい顔を装っている松吉だが、さっきの壁砕きだけでもそれなりに力を使わされてしまった。歳のせいもあると思いたいが・・・それにしてもだ。

 教えるまでもなく知識を持ち、手段を講じてしまう雪姫を見ていると、かつて《全知全能》とまで呼ばれた生徒の姿と重なる。


 「嫌でも彼女のことを思い出すねぇ・・・まったく」


 「どうかされましたか?」


 「いや、ね。・・・そうか、志田先生は知らないんだったね。まぁ、知らないなら知らない方が良いんじゃないかな?」


 「えぇ・・・こんなときになんなんですか」


 「しかし、派手にやってくれたね、あの子も。こんなに力を分散したら戦闘どころじゃないだろうに。さては相当焦ってたね?」


 松吉は真波たちを下がらせ、再び氷を砕くための魔法を準備する。見る分には次に砕くべき壁はさっきよりもさらに頑強なはずだ。生半可な魔法では雪姫に負担をかけるだけになる。


 「さて・・・いくよ」


 「・・・っ、教頭先生、待ってください!」


 「なんだい・・・?」


 真波が松吉を止めるのと同時に、分厚い氷の壁の一箇所が緋色に輝いた。目を疑う鮮烈な灼熱の透過光だった。視覚情報がスローモーション化され、亀裂を生みながら氷壁の表面が風船のように膨らんでいく様子がはっきりと分かった。呆気にとられたが最後、もはや爆風から逃れる時間は失われていた。

 音を失いかけた。あの厚い氷が破裂した反動は、それ自体が凶器となり得るだけの音撃となったのだ。喉の震えだけに自分の悲鳴を認知しながら、真波はその場に蹲った。

 だが、真波は辛うじて思い出す、または思い至る。


 「・・・そうだ、あの子はッ」


 顔を上げると、氷の壁とは正反対の位置にあった学食の建物から、今まではなかった土煙が上がっていた。つまり。


 「天田さん!?」


 「マズいねぇ・・・!!」


 容易に最悪の事態を連想した。

 壁が崩落した食堂に向かう教師たちの行く手を遮ったのは、流れる炎だった。いや、()は、氷壁に空けた穴を潜って、遂にこちら側へと出てきたのだ。

 健在の大敵を睨み付け、真波はそのおぼろげな威容を改めて形容する。


 「炎の龍・・・!!」


          ●


 瓦礫のベッドに寝かされた少女の繊細な指が、微かに動いた。

 

・・・ダルゴーは、昴の名前をちゃんと覚えていたのだろうか。

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