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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect64 ”接敵”


 迅雷の先導に従って走りながら、煌熾は後輩が樹上でなにを見たのかを訊ねる。


 「で、どうなってたんだ?」


 「とりあえず一番重要なのは、今向かってる先で黒煙が上がってたこと!それと、さらにその向こうに建物が見えました!確証はないけど、恐らく敵の基地じゃないですか?地形は基本的にずっと森ですけど、遠くに湖が見えました!かなり大きいです!この森自体も少なくとも町とかのレベルじゃない広さです!」


 「まさに大自然だな・・・まぁ、なるほど。それとだが、まずその建物までは陸続きで真っ直ぐ向かえそうなんだな?」


 「見たところはそうでした」


 「そうか。となると、まずは煙の地点の調査・・・といきたいが、まぁ、絶対なにかいるよな」


 煌熾はサッと方針を考える。少なくとも、煌熾と迅雷の2人の戦力では心許ないため、まともな戦闘は避けるべきだ。


 「森は視界が悪い。いつどこから敵に見つかってもおかしくない・・・けど、それは逆も同じはずだ。煙の発生源の近くに来たら可能な限り慎重に、遠目から様子を探ろう」


 「遠目からですか?」


 「あまり中心に近寄ると絶対にマズいと思う。遠巻きならもし魔族の兵士がいても注意の外のはずだ」


 「えぇ・・・でもよく見えなさそう。ある程度は近付きたい・・・」


 「そこは頑張ってくれよ。戦闘はしたくないだろ」


 「まぁ・・・分かりました」


 魔族との戦闘―――と考えて、迅雷は煌熾にひとつ重要な注意をするのを忘れていたことに気が付いた。事が起こる前に思い出せただけ幸いだった。


 「そうだ、先輩」


 「ん?」


 「少し前、千影の高速移動能力はあいつの固有能力だっていう話をしたじゃないですか」


 「あぁ」


 「それと同じ感じで、魔族って1人ひとつ、なにかしら特殊な能力を持っているらしいですよ」


 「なんだって?というか、そんなの知ったところで対処のしようがないじゃないか!?」


 スッキリスキンヘッドの頭を抱えて煌熾は顔を青くする。だが、迅雷は苦笑いで先輩を宥めた。


 「知らずに鉢合わせするよりは、マシでしょうよ」


 「初見殺しだったら変わんないでしょぉ・・・」


 煌熾はゲンナリした声を出した。目を見たら石にされるとか、そういう類の能力持ちが現れたら注意のしようがない。いや、今思いついた分は注意出来るが、やっぱり想像力には限界がある。それにもし、千影同様の能力を持つような敵と出くわせば、注意や警戒すら意味を成さないだろう。

 考えれば考えるほど、魔族って恐い。ただでさえ魔族の戦闘能力は人間より高いという話なのに、ランダムな特殊能力までついてきたら一介の高校生魔法士には荷が重すぎる。


 「やっぱ戦いたくねぇぇぇぇ・・・!!」


 「先輩、シッ―――。そろそろ煙の火元です」


 微かに、健康に良くなさそうな煙の臭いが漂ってきた。

 迅雷に合図され、煌熾は口をつぐむ。異様に耳の良い能力持ちがいるかもしれない。走ることもやめて、2人は地面に落ちた枝葉すら丁寧に避けて歩き始めた。

 

          ●


 スニーキング開始から、10分ほど。緊張で服に汗を染み込ませ続けて、背中に張り付くシャツが気持ち悪くなってきた。だが、不快感を我慢したおかげか、迅雷と煌熾は何事もなく、煙の発生源に接近出来た。接近と言っても、煌熾が考えたように遠目である。木々の隙間から、煙で薄く霞んだ景色の中に火元の正体を確かめられそうな程度でしかない。加えて、森の中は―――魔界側では太陽のような光源が空に浮かんでいるのだが―――日中であっても薄暗い。


 「・・・見えるか、神代?俺は、ちょっとまだよく分からないんだが」


 「も、もう少し」


 視界が悪いからもっと近付いて確かめたいが、しかし直接火元まで行くのは得策ではない。確定したわけでもない危機に怯えて安全策を講じざるを得ないというのもなかなか面倒なジレンマだ。

 常に周囲に気を払いつつ、2人はさらに中心部へにじり寄るようにして近付いていく。まず、声が聞こえた。その時点で2人は足を止めた。相手の特殊能力とやらが不明な以上、自分たちが知覚可能な領域は既に敵の知覚可能圏内であるとも考えるべきだ、と煌熾が判断して制止をかけたのだ。

 茂みに身を潜めたまま、迅雷は声の主を探す。


 ―――いた。黒い鎧を着た、騎士だ。今見ている分で、4人ほど。会話の内容は分からない。意思疎通魔法という、言葉を交わす際に”思念”とも言えるものを魔力の振動だかなんだかに乗っける特殊(ステキ)な魔法があるのだが、残念ながら専門的な知識を要する高等魔法のため、迅雷も煌熾も使えない。もっとも、もし使えてもこの距離では効果があるか怪しいのだが。なにせ、あれは面と向かって会話するときに通訳の手間を省こうとして開発された術なのだから。

 だから、一旦悪魔騎士らの会話は無視だ。どうせ、敵の基地らしきものも見つけている。多少の情報不足は誤魔化しが利くと思っておこう。

 騎士たちが立っている場所の、もう少し奥。金属光沢に迅雷は目が眩んだ。橙色も見える。


 ―――あれ?いや、ちょっと待て・・・!?


 「ウソだ・・・!!」


 「おい―――!?」


          ●

 

 「どうしたんだ?」


 「―――隊長、なにかいるみたいです」


 先刻、アグナロスと正面衝突して墜落した飛行物体の調査を行っていた、王国騎士団Ⅶ隊所属の新米騎士がなにかの気配を察知したようだ。サキュバス族の血を強く引く女騎士の隊長は、部下の報告を受けて周囲を確かめた・・・が、怪しい影はない。彼女は悩ましげに長いブロンドの髪を弄る。

 こういうとき強力な探知能力を持つ者がいれば便利なのだが、そう都合良くはいかない。そもそも、これは国柄のようなものだ。リリトゥバス王国の人口の約半数を占めるサキュバス族の固有能力は『変身』で決まっている。一方、残り約半数であるリリス族の能力も、異種族間交流が続いて多様化しつつあるものの、未だ『落ち着きを奪う』という”起源魔術(オライゴ)”を身に宿す者が主だ。国内で探知系能力者を募っても、この理由から満足な人員は確保出来ない。

 サキュバス族の女隊長は、ルーキーにどの方角が怪しいかを確認して、すぐに残り2人の騎士も召集した。


 「近くに敵が潜んでいるようだわ。敵の戦力は未知数。騎士団長殿もああだから、人間だからと油断はしないように」


 挟撃が好ましい。不意打ちだとなお良い。この隊で独自の固有能力、一般に言う”特異魔術(インジェナム)”が使用出来るのは、僅かにリリス族との混血である女隊長と、半々のルーキーだけだ。そして敵の位置を最もよく把握しているのはルーキーである。

 少し迷ったが、女隊長はルーキーに囮役を任せることにした。


 「お前は正面から敵を叩け。そこで私たちが回り込む。お前の能力(チカラ)は多人数相手でも戦えるはずだろう?」


 「イエス、マム」


 「・・・お前はなんというか気楽そうだな」


 「まさか。ドキドキですよ。初の実戦なんですから」


 ベルトに、左右2本ずつ差した刃が短めの黒い騎士剣の柄に肘をかけて、ルーキーは真面目な顔になった。4本のうちの1本を抜剣して、ルーキーは女隊長に背を向けた。


 「なら良い。私たちはお前に合わせるため先行して敵の背後に位置取る。だが、マズいと判断すれば退け。私は敵と交戦状態になり次第本部に連絡する」


 「は」


 女隊長と2人の騎士たちは散開して森の中へ消えていく。敵が見ていても正確に自分たちの位置が発覚しているとは思わせないように―――例えば撤退行動か闇雲な捜索活動に見間違うよう大きく迂回して敵の背後に潜る算段だろう。ルーキーはしばしこの場で待機し、大体ポジショニングが完了しそうなタイミングを窺って行動を開始すれば良い。


          ●


 「マズい、1人こっちに向かってくるぞ」


 「すみませんすみませんすみません本ッ当にごめんなさいぃぃぃぃ・・・!」


 「いや、もう仕方ない。今は打てる手を考えろ」


 迅雷が目にしたのは、間違いなく人間の乗り物だった。つまり、恐らくそれは千影たちが乗ってきたシャトルだ―――という結論に至ったとき、迅雷はもうどうしようもなくなってしまった。煌熾が力尽くで迅雷の頭を押さえ込んでいなければ、すぐにでも場所がバレて攻撃されていた。シャトルが燃えているからといって、なにも千影が死んだと決まったわけじゃない。そんなくだらない終わり方をするようなタマじゃないはずだ、と迅雷を慰めたところで、現在に至る。


 「他の3人、別々の方に行きましたね」


 「恐らく正確な位置はバレてないんだ。きっと手分けして探す気だな」


 となれば、バレずにこの場を離れることを考えるべきだ。いや、それ以外に選択肢はない。端から正面切って戦うメリットなどない―――。



 『#%&”*`>`”#(ほら、隠れてないで)(%)*?L*(出てこいよ)



 「ッッッ!?」

 「くっ―――」


 迅雷たちの方へ近付いてくる、紫髪に赤茶けた肌、そして白い眼球に青い瞳を光らせる悪魔が、言葉を発した。言葉の意味は分からないが、迅雷も煌熾も直感した。


 (―――俺たちに向けられてる・・・ッ!!)


 心臓が殴られたように跳ねた。見つかっていないはずなのに、確実に殺気が届いた。


 「―――ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ」


 「先、輩?」


 浅く短い呼吸―――目だけで横を見て、迅雷は軽くパニクった。煌熾が死人のように青ざめていた。

 迅雷自身も喉が干上がるのを感じた。彼もまた、煌熾に負けないほど顔色が悪いはずだ。

 こんなにも明確に「殺意」を向けられたことは、今までになかった。紺と向き合ったときも、岩破に立ち向かったときも、ネビアの溺れる霧に呑み込まれたときも。戦う前からこれほどまでにリアルな死を予感させる敵は、あの悪魔が初めてだった。

 迅雷は今までの戦いが甘かったなんて思わない。でも、今の状況は確実にひと味違う。これが戦争の中で行われる命のやり取りというものなのか?本来なんの因縁もない相手に対して、ただ所属が違うだけで向けられる殺意の無機質さに有機質の肉体が拒絶反応を示している。


 「逃げ・・・ないと・・・出来るだけ、静かに」


 ―――大丈夫、大丈夫だ。まだあの悪魔はこっちを見てはいない。これは釣りだ。焦ったら負けだ。やり過ごせ、やり過ごすんだ。


 『*`%’△”~■@<(俺は1人だぜ)?』


 ―――本当にそうか?実はやっぱり・・・。


 『○☆**※\\_#(そこにいるんだろ)?』


 「ハッ、ふぅ、ァ、ハァ・・・!!」



 目が合った(・・・・・)


 

 茂みに含まれる無数の枝葉の隙間の、たった一点に悪魔の焦点が合った。


 「ああああッ!?」


 「神っ、代ォ!!」


 ゾン――――――浮遊感、吹き散らされる茂みが遠くへ。

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