表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
318/526

episode6 sect58 ”強襲部隊の戦力評価”


 午後7時半に一央市ギルド屋外実験場から打ち上げられたシャトルは、その推進システムに、米空軍が従来型の理論に改良を重ねることで実用化に漕ぎ着けた魔力噴射ブースターを使用した、特殊なものだ。魔力噴射ブースターについての詳細な解説はここでは割愛させていただくが、大雑把な機構としては基本的にほとんど質量を持たないエネルギーの塊である魔力を、様々なプロセスを通して実体性を高めつつ魔法効果も発現させた状態に励起させ、ノズルから噴出させ、後はその反作用力を利用するものである。現状の技術レベルでは航続距離やコストの都合上一般の旅客機などへの適性はないが、得られる加速力は凄まじく、宇宙開発関連分野への応用も検討されている。ただし、これについては出力を保ったままシステムや魔力タンクのダウンサイジングが課題とされており、まだまだ先の話になりそうだ。


 さて、課題多くも加速能力高しと評したが、どの程度のものか想像するためには適当な例が必要だろう。ただ、今は機械の大きさ・重量はある程度改善されたものと仮定して話を続ける。

 理論上、平均的な成人10人分程度の魔力を一気にふかせばスペースシャトルに第2宇宙速度での打ち上げが可能―――と言えばその推力がどの程度か分かるだろうか。いや、もちろん現役の”物理的な”ブースターの方が数値上のパワーは出せる。とはいえ、この技術に期待されるのは費用対効果改善や各種装置と機体の小型化である。

 某百科事典サイトなどで、適当に「スペースシャトル」を検索してみると良い。知っている多くの人は何を今さらと思うだろうが、ご大層なブースターや燃料タンクが接続されている写真が真っ先に目に入るはずだ。よく目にするスペースシャトルのイラストは人間や貨物を積み込むオービタ部分だけだったりするが、実際はそれだけで宇宙まで行けるわけではない。打ち上げ直後から段階的に使い終わったブースターを切り離して軽量化しながらスペースシャトルは加速し続け宇宙へと飛び立つわけだが―――しかし、これがオービタ部分のメインエンジンを魔力噴射ブースターに置き換えるだけで他一切の推進剤・ブースターを要さず、打ち上げから大気圏の突破まで全てを可能にするのである。しかも燃料は既に説明した通り魔力、つまり人間の体内にたっぷり存在する。だから最悪、トラブルで燃料切れを起こしても乗組員がタンクへ直接燃料を供給することさえ可能ときている。

 もっとも、NASAが夢に描いた『魔力で飛ぶ新時代のスペースシャトル』自体は絵空事のまま、2011年のスペースシャトル計画終了に伴い退役を迎えてしまったのだが。


 ・・・さて、多少出力は落としながらも、その優れた推力のままシャトルよりずっと軽量な、路線バスをスタイリッシュにシェイプアップして翼をくっつけたようなチタン合金の箱をぶっ飛ばしたら、どうなるだろうか。


 答えは、だいたいこんな感じ。


 「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅッ!?」


 清田浩二は、ちょっと、神代迅雷少年に格好つけたことを後悔していた。なんとか目だけを動かして隣の座席を見る。部下の黒田が石像のように固まっていた。顔も真っ青だ。

 現在の機体の状況を教えてくれるモニターがあるのだが、それによると、今の彼にかかる加速度は5G(・・)らしい。ちょっとなにを言っているのかよくわかんない。


 (―――戦う前に死んでまうわ!!)


 が。


 「結構なスピード出るんだね、ギルさん」


 「シャトルの軌道船より少し軽い機体にタンク4本、魔力量的には8人分弱らしいからね。マッドがもっと速くしようと企んでいたけどやめさせたよ、君たちは試験乗員の彼らに恨みでもあるのかい?ってね」


 いやいや、千影もギルバートもなんでそんな平然と会話出来ているんだ?やっぱこいつら人間じゃねぇ。


 千影が座席から身を乗り出して後部に座る浩二と黒田の顔色を窺う。


 「後ろの2人、なんかヤバそうだよ?」


 「悪いけど私もさすがに後ろを見るほど余裕はないんだ。君みたいに”慣性慣れ”はしていなくてね。今は少し羨ましいと思ってる」


 「ま、ボクの取り柄はそこくらいだしね」


 千影のオドノイドとしての固有能力は『超速く動けます』、それだけだ。それだけ言われても、正直地味だし、あまり強そうに感じない。

 だが、その想像はあまりにも甘すぎる。もしそう考えているそこの君が魔族の兵隊の指揮を執っていたのなら、千影と交戦状態に入って数分も経たぬうちに敗走していたことだろう。

 今の世の中、特に久しく戦争のないこの国では、強者とはすなわち過剰なほど火力を高めた者という風潮がある。リアルなら核(これは撃たれたら本当にどうしようもないが)、フィクションにおいてはアニメ、マンガ、その他諸々の特に戦闘描写のある娯楽作品において、登場人物が分かりやすく強大な力を振るうシーンが多い。一発で地形を変えるビーム、一突きで巨大な敵を粉砕する鉄拳、一太刀振るえばエネルギーが爆発してキノコ雲を立ち上らせる豪剣。現実にもそんな芸当が出来る魔法士は、確かにいるし確かに強い。

 とはいえ、それは所詮、整った条件下での話だ。無差別破壊で交渉の余地も与えず敵国を焦土に変えてその民を1人残さず塵芥にしても良いなら、どうぞビームを撃ってくれて良い。路地裏で不良に絡まれレイプされそうになっているか弱い女の子を見つけたら、ちょっと加減してその拳を振るってみても良い。街に巨大怪獣が現れたなら、そいつを刀の錆にすれば良い。

 だが、今一度考えてみて欲しい。今、弱者は人間であり、彼らが見据える着地点はそこじゃないはずだ。これから人間が臨むのはあらゆる不確定要素を含む上に、目標は魔族を話し合いのテーブルにつかせることであり、行うのはある局地戦闘または屋内での白兵戦だ。極端な破壊は味方をも殺し得、なにより交渉の機を遠ざける悪手中の悪手だ。そうして導かれた作戦はどうもえらくブットンだ段取りだが、やはり結論として、「戦争」だ。


 このとき、最も恐ろしいものは火力ではない。機動力だ。早い話が足の速さである。

 叩こうにも逃げ足が速すぎて捉えられず、気が付けば本陣(ふところ)にまで切り込まれ防衛戦を強いられているし、背後から襲われているかもしれない。逃げようにも追いかける足が速すぎて距離を離せず瞬く間に駆逐される。その足があれば場合によっては付かず離れず、一定の距離を保って牽制もかけられる。まともに部隊戦闘を行えば、まず機動力で勝敗が決まる。

 

 だから、千影なのだ。他の誰にも真似出来ない究極の高速機動と必要十分な最低限の攻撃力で、敵陣を切り崩す。拠点攻略においてこれ以上なくエフェクティブかつエフィシャントな人類の保有する最速のワンマンアーミーを以て人間を侮った魔族の鼻っ柱を折る。やぁやぁ一旦落ち着いて、さぁ話をしようではありませんか―――と持ちかけるためだけに潰す。

 今、このシャトルに乗っているのはたったの5人だ。1人は軍出身魔法士のパイロットだが、彼の役目はこれの操縦だけ。残り4人は千影と、IAMOの集計する魔法士の個人戦力ランキングで常に世界トップ5に入るギルバート、そして一央市ギルドから選出された清田浩二と部下の黒川も日本国内では指折りの手練れ。全員が一線級の魔法士だ。

 それでも、今日の主役は千影1人である。他全員は作戦全行程において彼女の引き立て役に回る。邪魔をするものを取り除き、道を作り、脇を固め、撃ち漏らしの後始末をし、時には千影の盾となるのが仕事だ。それが現在世界第4位で時期ランク7候補のギルバートであっても、例外なく。


 「―――分かってる。これはボクの仕事だって」


 鼓動が逸るのを、千影は深呼吸で抑え込んだ。これでも数々の修羅場をくぐり抜けてきた。作戦の要である自分が浮き足立っていては話にならない。こういうときこそ冷静に、冷徹に、そして必要なら冷酷に。


 「・・・それにしても、まさかギルさんが一緒に来るとは思わなかったよ。あんな口振りでさ」


 「うん?ははは。誰も行かないだなんて言っちゃいないだろう?君にはちゃんと無事に戻ってくれと言っただけなんだから」


 「ほーん・・・」


 機体正面にだけある窓の景色が虹色の光に染まった。機体が小刻みに揺れ始める。『門』に突入したのだ。揺れは長引いている。人間界と魔界間の位相差は大きい上に規模も通常の比ではないから、『門』はそれなりに長いのだろう。しかし、それもこの速さなら数十秒の世界だ。

 千影は少し俯き、ホットパンツのポケットに入れているケータイを気に掛ける。


 「とっしー・・・ちゃんと見てくれたかな」


 見てくれたなら―――いや、あるいはそんなことに関係なく、きっと迅雷なら、追いついてくる。この、雲上の魔境まで。

 シャトルの揺れが収まった。視界が切り替わる。魔界に到着したことの確認はもはや無用だ。着地のための減速が開始され、再び慣性に晒される機内で、4人の兵士はそれぞれの覚悟を胸に眼光を鋭く揺らめかす。


 「きッ、緊急ッ!!前方からきっ、巨大な炎の塊が!?!?!?!?」


 『ッ』


 パイロットの悲鳴がかった報告の途中で、千影たちを乗せたシャトルは「巨大な炎の塊」なるものによって、撃墜された(・・・・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第1話はこちら!
PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

❄ スピンオフ展開中 ❄
『魔法少女☆スノー・プリンセス』

汗で手が滑った方はクリックしちゃうそうです
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ