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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect57 ”満たせ、ルサンチマン”


 「・・・・・・はい?」


 いやいや、いやいやいや。


 迅雷は思わず、聞き返した。たった今、はて、煌熾はなんと言った?

 しかし、狼狽する迅雷とは打って変わって、煌熾は自信たっぷりな顔をしていた。


 「あ、あのー、焔先輩?」


 「だから、行こう」


 「どこへ?」


 「魔界に決まってるだろ」


 だろ、じゃないでしょう。それは高校生がドヤ顔で言って良い話ではない。煌熾は、迅雷でも踏み止まるような無茶を言い出すような人間ではなかったはずだ。迅雷は頬が引きつるのを自覚していた。

 だけれど、戸惑う迅雷に対して煌熾はさらにとんでもないことを言い放った。ともすれば諭すかのような口調で、あるいはどこか羨望のような感情を潜ませて、彼は言った。

 ただ、煌熾の言葉に迅雷は覚えがあって、雷に打たれたような気持ちにさせられた。だって、その台詞は迅雷自身が、千影に一度言ったものだ。彼女があまりに報われなくて、悔しくなって出た一言だった。

 

 「神代。あんまり物分かり(・・・・・・・・)の良いことばっかり(・・・・・・・・・)言わなくて良いんだ(・・・・・・・・・)


 「・・・・・・」


 「まぁ―――なんでそう言うかっていうとな、この前、阿本と東雲から聞いたんだ。神代が、こんなことを言ってたんだけどどうです?って。『俺、これから、俺の好きなようにやる』と言ったんだろう?そのときは冗談交じりの会話だったんだけどさ、お前自身はそうじゃないんだろ?」


 煌熾は、迅雷の肩に手を置いた。確かめるように迅雷の瞳の奥を覗き込んでくる。


 「神代、なぁ、お前は今、そうしたくて足を止めてるのか?」


 ―――馬鹿だ、と迅雷は思った。・・・それは、煌熾が、だ。少しも冷静でない。らしくないとさえ感じる愚かな発言だ。自分でなにを言っているのか分かっているのだろうか。















 でも、それ以上に自分が馬鹿に思えた。


 ホントだ。


 言ったじゃないか。


 やりたいようにする、と。


 自信たっぷりにあんなことをのたまって、千影にももうちょっと反骨精神があったって良いだろと言って置いて、当の迅雷本人がこんなのじゃあ。

 迅雷は紺に殴られた左頬を触った。彼は迅雷がそんな発言をしたことなんて、きっと知らなかった。だが、多分同じ事を言っていたのだ。分かりにくいったらありゃしないが、『荘楽組』から図々しくも千影を引き抜いていった迅雷のエゴイズムを見た人間として。


 「ったく・・・殴られて当然だったな」


 それでも地上に留まるか、それとも空を目指すか。”好きなようにする”というのは、意外に難しい。やりたいようにするというのは、必ずしも平坦な道のりとは限らない。安易な後悔や自己嫌悪に甘えず、時には自ら困難な選択肢を掴み取ることが、迅雷の目指すべきものだったはずだ。


          ●


 じゃあ、それを知った今、俺はなにをしたい?もう分かっているんだろう?細かいことなんてどうだって良い。偉い人の言いつけ?そんなもの、クソ食らえだ。



    俺は、千影のところへ駆けつけたい。


 ―――それで? 

 

     それで、一緒に戦いたい。


  ―――それから?


      それから、一緒にここへ帰ってきたい。必ず、生きて。


   ―――からの?


       からの・・・あぁ、そうか。


 迅雷は、今にようやくひとつのゴールを見つけた。もうギルバートの正論には惑わされない。途方もなく無茶苦茶で、大言壮語だと笑われるだろう。でも、もう決めた。これだけは曲げない。

 覚悟は良いか、神代迅雷。これは、自分のためにやる”誰かのための行動”だ。だったら、なんとしても自己満足してみせろ。


          ●


 「・・・急に表情が引き締まったじゃないか」


 暗がりにいても、煌熾に迅雷の変化ははっきりと伝わっていた。迅雷は頷いて、それから。


 「ありがとうございます、焔先輩。なんか、目が覚めた気がします」


 「あぁ。俺からしたら神代はそのくらい無茶な方が似合っているように見える」


 「俺、行きます。『魔界』に!」


 意気込んでベンチから立った迅雷だったが、間髪入れずに煌熾が迅雷の腕を掴んでベンチに引き戻した。


 「うお!?な、なんすか・・・?」


 「で、なんだが。お前ひょっとして、1人で行く気じゃないよな?」


 「というと?」


 「俺も行くよ」


 「あ、はい。・・・ん?え、えぇッ!?いや、大丈夫なんですかそれ!?」

 

 「そっくりそのまま返しても良いよな」


 煌熾は肩をすくめて、「やれやれ」と首を横に振った。人に勧めておいて自分は安全な場所からいってらっしゃいなんて言えるほど煌熾は鬼畜ではない。それに、もっと、それ以前の問題に迅雷が気付いていないのを煌熾は分かっていたというのが大きい。

 つまり、このプランに、恐らく煌熾の存在は欠かせない。


 「神代はどうやってあの空の『門』まで行くつもりだったんだ?」


 「・・・あ。いや、それは、ほら、なんかいろいろ」


 「ほらな、考えてない」


 紺はジェットパックで吹っ飛んでいった。千影らはシャトルで飛んだ。では、迅雷は?さて、困った。どっちも持っていない。

 それきたと言わんばかりに煌熾は厚い胸板を拳で叩いた。


 「俺に任せろ!」


 「はぁ・・・?」


 煌熾についてくるよう言われ、迅雷はそれに従う。

 そうして到着したのは、まさかの研究棟だった。煌熾とこの場所にどういう関係があるというのか、不思議に思いつつも迅雷が案内されるまま立ち入ったのは、建物の1階にある、とある部屋だった。 

 雑然とした風景の中に、迅雷は見覚えのある鉄の箱を見つけた。フォルムは少し違うが、間違いない。紺が背負っていたものと同じだ。


 「これって、もしかして・・・?」


 「そうだ。これが使えれば空も目指せる。でも、赤色魔力じゃないと動かせないんだ。さぁどうする、神代?」


 「一応確認しますけど、命の保証とか、多分ないですよ?俺のやろうとしてることがどんだけぶっ飛んでるか、分かってますか?」


 少し、間があった。


 だけれど。


 「・・・・・・あぁ、分かってる。だけど、神代も―――千影だって、仲間なんだ。・・・やりようはあるさ、いくらでも。きっと、なんとかなる」


 「―――じゃあ、焔先輩。こんなアホな後輩ですけど、なんとか、よろしくお願いしますね」


 

          ●



 8月13日土曜日、ユーザー名「神代迅雷」の通知履歴。

 

 7:00~

 『あーさ』『でーす』『よー』『あーさ』『でーす』『よー』―――以下繰り返し―――『よー』『あーさ』


 7:05~

 『はい、起きるまで5分もかかりました』『学校ある日なら起きてんだろ』『知らんな』『迅雷どうせ暇だろ?ウチ手伝え』、スタンプ、『まぁそう言うのは分かってた』『猫の手も借りたくてさぁ』『それな』『つかオレんちは天下の阿本流サマだぞ?門下生でもなかったお前ごときがオレと対等にやれると思うな』『そう、それそれ』『察しが良いな』『さすがオレのライバル』『例の「風神」ってやつか?いいね、乗った』『時間?』『まぁ、11時くらいにオレんちでな』『うぃ』


 12:03~

 『じゃーん』『見てみて(キラキラ絵文字)』、写真、『なぜか夏休み限定だって!補習組の特権だね笑』『違うよー。なんか面談だったんだって』『あれ?というかとしくんもじゃない?』『うわぁ、うっかりさんだねー笑』『気を付けてねー』


 12:18~

 『とっしー』『まだー?』『ねーボクのお昼ごはんー』『ねーってばー』『おーい』『おーい』『あっれー?』『とっしーさんや~涙』、スタンプ


 12:43~

 『見てたら良いけど』『ボク、ナオの方行くから!』『おとがめないと良いなぁ・・・』


 12:44~

 『としなりくん生きてる!?』『生きてるよね!?』


 13:59~

 『良かった~』、スタンプ、『そうなんだ!』『あたしとトモは今近所の小学校!』『そうそう、そっちの方が近いの』『てか海とかこのままじゃ行けそうになくない??』『ねー、行きたい~(浮き輪絵文字)』、スタンプ、『うん』『としなりくんも気を付けるんだぞ!』『じゃあまたね!』


 18:10~

 『としくんまだ忙しい?』『暗いから無理しないでね、千影ちゃんも』『こっちは心配ないからね~』




 19:30


 『もう行く時間みたい』『ね、とっしー』


 19:32


 『頼りにしてるよ』―――スタンプ


 

 

 

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