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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect48 ”迷える者たち”


 「だったら、俺も行かせてください!」


 「ノーだ」


 「なん―――」


 即答、ともすれば分かっていたかのように、迅雷の願いをギルバートは却下した。


 「なんで、とか言い出す気じゃないだろうね?やれやれ、盟友であるハヤセの自慢の息子さんにこんなことは言いたくなかったんだけどね―――身の程を弁えたまえよ、少年。君がチカゲたちと同行するというのはそれこそ死にに行くようなものだろう?」


 「そ・・・れは・・・!」


 全く反論出来ない。


 でも、千影を1人にしたくない。これからは一緒に戦っていこうと決めたのだから。


 それなのに、千影は迅雷に縋って彼を止めようとする。


 「とっしー、ありがと。でも、いいんだ、今回ばっかりは仕方ないよ。ちゃんと作戦は成功させて帰ってくるからさ。だから、それまでナオやしーちゃんたちのそばにいてあげてよ。約束だってしてたんだから」


 「・・・」


 学校で慈音と再会したとき、確かに迅雷は彼女にそう言った。安歌音と咲乎についても、彼女らの両親から任された。どれも約束だ。でも、今の一番は千影のはずなのに。

 なにが正しい?いや、正しいなんて関係なくて、迅雷はどうしたい?どうすべき?誰のために、なにをする?なにをしない?分かっているのに、分かっているはずなのに、分かっていることが次々に矛盾を起こしてエラーを吐いて―――。

 もう、雁字搦めだ。まったく腑に落ちないまま、迅雷は千影の説得に力なく頷いてしまっていた。


 ギルバートが軽く手を叩く。


 「さて、決まりだ。他の者も異論はないね?さっそく行動を開始したい。まずは放棄する地域の各避難所に通達を。その間に分担を決める。以上、解散してくれたまえ。時間は残されていないぞ、気を引き締めてかかってくれ」


 再び、ギルドは慌ただしく動き始めた。すぐに状況も変わり出すだろう。

 次々と役員たちが会議室を立ち去って持ち場へと戻っていく中、最後まで会議室の隅の席に座ったまま沈黙する迅雷と千影の前の席に、椅子を後ろに向けて座ったのは、清田浩二だった。彼は俯いたままの迅雷のつむじあたりを真っ直ぐ見て語り出す。 


 「後で掛け合うつもりだが、俺も突入作戦に参加しようと思っている。だから安心しろとは言わないが・・・その子を死なせたりはしない」


 「清田さん・・・」


 「あー・・・浩二で良い。マンティオ生からしたら兄貴に親父に、清田ばっかりで紛らわしいだろ?だから浩二って呼んでくれて良い。あぁでも、もちろん『さん』はつけろよ」


 迅雷は顔を上げた。浩二の様子はどことなくぎこちない。それもそのはずだ。散々毛嫌いしていたはずの人外少女の味方をしてあげたいだなんて思ってしまった上に、そのことを自分が勘違いで大怪我させてしまった少年に話すのだから、これで気まずさを感じないわけがない。


 だが、浩二は素直であろうと努めた。特別な相手だからこそ、彼は誠実でありたかった。


 「―――千影」


 浩二は、その名前を呼んだ。

 迅雷は言っていた。千影はもう一度みんなの輪の中に入れるよう、一からやり直したいのだ、と。だとしたら、今の千影は浩二と同じだ。浅慮な過ちを悔い、なんとか挽回しようと模索している自分と重ねたとき、またいつ普通の人間たちに危害を加えるかも分からない「その子」は、「あのガキ」でも化物でもなくなっていた。

 同じ土俵に立つ者として、共に戦える仲間になるため、歩み寄る努力をしないといけない。


 「あの日の千影の選択が結果的に他の魔法士たちを守ったのは認めているんだ。それに、確かに千影が味方なら心強いと思う。だからっていうのは繋ぎ方が変かもしれねぇけど、だから、俺はお前のことを無事に帰す手伝いもしてやりたい。千影、よろしく頼むからな」


 「な、なに?」


 「握手だよ」


 照れ臭そうにしながら差し出された浩二の手を眺め、千影はまだ気を許せないのか握手には抵抗気味だ。しかし渋々その手を握った。


 「・・・勘違いしないでよ。今日からいきなり仲良くするつもりなんてないから」


 「あぁ、それは俺も自信ない。ぼちぼち、頼むよ」


 まったくサイズの違う2人の手が互いに握り合わされるのを、迅雷は見ていた。

 話が進んでいく。千影はなにがどうであれ必ず行ってしまうのだろう。


 「とっしー。このオッサン(・・・・)もこう言ってるし、きっとなんとかなるから」


 「え、ちょ、おいオッサンって、おい」


 「分かった。・・・もう分かったよ、分かったから・・・」


 「いや待って、だからオッサンって―――」


 行くことは出来ない。隣に立てない。わだかまりが消えない。悔しい。でも、確かに、仕方ない―――。

 迅雷は立って、浩二に頭を下げた。それが精一杯だ。


 「浩二さん。千影のこと・・・よろしくお願いします」


 「いやだからちょっと、オッサンって・・・聞いて?・・・ねぇ・・・?」


 それでも床を見たまま、会議室を足早に出て行く迅雷。千影は彼を追いかけ席を立つ。


 「チカゲ。少し待ってくれないか」


 しかし、会議室を出てすぐに、千影はそこに待ち構えていたギルバートに呼び止められた。千影を置いていってしまう迅雷の背中を2、3度チラチラ目で追いながら、千影は立ち止まることを選んだ。

 

 「・・・なにかな」


 「チカゲ、さっきの話になるが、私は本当に君に倒れて欲しくはない。私はね、この戦いの後に君にとても大切な話がしたいんだ。いや、そもそもその話をするために私は一央市を訪ねたのだから」


 「大切な話?ボクに?」


 「あぁ、そうだ。そして、君のこれから先についても。今、私は少し悩んでいる。確かめたいんだ。だから、必ず生きて帰ってきてくれ」


 「・・・死ぬ気なんてさらさらないよ、ギルさん。たとえ半身噛み千切られようがどうなろうが、ボクは這ってでも帰ってくるから。絶対、必ず」


 「良かった。頼んだよ」


 一体なにを確かめようというのか。千影はギルバートの真剣な顔を見つめた。でも、分からない。いや、帰れば分かることだ。


 生きて帰る。迅雷の待つ場所へ、帰るべき居場所へ。なにがなんでも、絶対に、生きて。


          ●


 「・・・あの、局長。俺、もうオッサンなんですかね?」


 「30になればもうオッサンなんじゃないか。あの子からしたらなおさら」



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