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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect46 ”ヒーローは偶然居合わせる”


 荒れかけた場が収まって、ギルド局長の奈雲はホワイトボードの前に立った。


 「では良いな?諸君、そこの少年は神代迅雷君だ。まぁ、予定外ではあるが来てしまったものは仕方ない。神代さんの代わりに出席してくれたものだと思ってくれ。それで、今回魔族から宣戦布告を受けた件についてだが―――」


 「「センセンフコク!?」」

 

 「どうした?」


 ―――どうしたもこうしたもあるか。なんだそれは、初耳だ。センセンフコクって、あの戦線布告のことか?いや、なんか物々しい空気だとは思っていたが、それにしたって、いやいやいやいや。


 

 迅雷も千影も頭の中にあった話のスケールが吹っ飛んでしまって、素っ頓狂な声を上げた。


 「あ、あの、奈雲さん。なんですかそれって。え、聞いてないんですけど!?」


 「同じくだよ!?えっと、じゃあなに、まさかとは思ったけどこれってもうマジの戦争が始まっちゃったのでどうしましょう会議ってこと!?」


 「なんだ知らなかったのか?ふむ、もう少し緊急時の情報伝達網を工夫すべきかね」


 子供2人の大仰な反応にはかえって奈雲の方が驚いているようにも見えた。迅雷も千影も、知らぬ間に世間から置いてけぼりを食っていたことを思い知った。

 まさか先ほど―――と言っても2、3時間前ほどになるが、あの空から降りてきた魔族がやっていた演説らしきものが宣戦布告だったなんて思いもしない。自宅にいて、特にラジオやテレビを使っていなかった迅雷たちはこれを知る手段なんてなかったようなものだ。


 「細かい話をする時間はないんだ。千影君が察したとおりもう戦争を仕掛けられているものだと思って、ここからの話についてきてくれ」


 千影の言った今さらという発言に対して、奈雲はなにも言わなかった。知る手段があったのにそれを信用しきれなかったのは人間の落ち度だ。

 奈雲はせかせかとホワイトボードに文字を書き始めた。もはや迅雷たちには頭の整理をする暇すら与えてくれない。いや、あるいはもうギルドまでたった2人で辿り着いたというのだから、ここまでで魔族が人間に向ける害意くらいは十分過ぎるくらいに実感したものと踏んでいたのかもしれない。事実そうだ。ギルドまでの道のりもそうだったが、迅雷が直華を探して駆け回る間も、みんな揃って家から学校まで避難するまでのときも、容赦なくモンスターたちは襲いかかってきた。それが魔族のけしかけた猛獣たちと分かれば突き付けられた切っ先の鋭さに背筋が凍る。

 戦争という真実にショックはあるが、戦争の危機が迫っている程度の認識であれば、迅雷も千影もすんなりと受け入れられた。


 「あちらの話では人間がなにかしらの不穏な動きを見せているから先んじて制圧すると言っていたな。表向き、最終的な目的にその動向の停止要求を呑ませることなんだろうが・・・現状我々では事実確認が取れない。そもそもなぜその手始めがこの街なのかもな。宣戦布告を行ったのはリリトゥバス王国騎士団長アルエル・メトゥだったが、彼は自国の王のみならず皇国の姫の名の下に、とも言っていた。少なくとも魔界側は複数の大国が協力体制を取って攻め込んできたものと思って良いだろう。ときたま起こる国力自慢の侵略ごっことは違うぞ」


 奈雲はホワイトボードに現在判明している敵勢力を図示した。それと一緒に、彼はモンスターを別枠で書いてペンを置く。


 「ひとつ不可解なのが、なぜモンスターだけを投入するかだ。通常の兵を交えて運用すればより効果的なはずだが、それをしない。我々としてはラッキーだが・・・」


 「いいですか」


 浩二が挙手で発言権を求めた。奈雲は頷く。


 「実際の話をすると、そのモンスターどもだけで市内の魔法士たちは半ば恐慌状態です。訝しむのは良いですが、いずれにせよこれの駆逐が防衛策として最優先じゃないですかね?」


 ギルドやマンティオ学園がある区域がマシなだけだ。一駅向こうの中心街では魔法士がいても実力の平均はここより劣る上に、対応するより早く建物の破壊が進んでおり、完全に後手に回っているそうだ。

 もっと酷いのは近郊部にあたる周辺地域だ。あの辺は『特定指定危険種』とまともに相対できるような腕利きの魔法士が圧倒的に足りていない。見回りを担当してくれているパーティーの魔法士も戦闘に参加したようだが、あえなく敗走したとの報告が入っていた。

 市の外縁部から輪を狭めるように死者数が増え始めている。ギルドが派遣した魔法士も既に数名が犠牲になっていた。


 奈雲は深く頷いた。


 「その通りだ。自衛隊の応援は既に到着している。IAMOからの支援部隊も明日までには来る。だが、清田君には街の防衛ではなく別の任務に就いてもらう」


 「は・・・?な、どういうことですか!!今の時点ですら戦力が足りてないんですよ!?空自の戦闘機だってあの様子じゃたかが知れてる!俺が抜ければそれこそ!!」


 

 「これでも不服かい?ミスターキヨダ」



 それは、軽やかなノックと共に会議室に現れた長身の白人男性だった。紳士らしさを体現したようなその男性はギルド局長たる奈雲の隣にあっさりと並ぶ。彼の顔を見て、浩二は唖然とし、そして硬直していた。

 しかし、迅雷は清田浩二が姿を見ただけで緊張して黙ってしまうようなその男性を全く知らなかった。


 迅雷は男性と目が合った。すると、彼は穏やかに笑った。あまりに優雅で、迅雷はあの男性は果たして外の様子がどんなことになっているか知っているのだろうか、と疑った。それほどに焦りの色がない。


 「なぁ千影、あの人って?」


 「――――――」


 「千影?」


 突然やって来た白人男性についてなにか知らないか、と千影に聞こうとして、迅雷は千影の様子が変なことに気が付いた。驚きと、それから不安だ。

 男は迅雷の隣で縮こまる少女にも柔和な笑顔を向ける。だが、千影は目を逸らした。


 「やぁ、チカゲ。いろいろ大変だったと聞いていたが、うん。元気そうでなによりだ」


 「・・・どうも」


 「そして・・・なるほど、君か」


 改めて迅雷の方へ視線を向け直した男性は興味深そうに迅雷のことを観察する。意図の分からない男性の行動に困惑し、迅雷は実に日本人らしい苦笑を伴って彼に自己紹介を求めた。


 「あ、あの・・・あなたは?」


 「おっと、これは失礼。そうだったね、君は私のことを知らないんだった」


 実に流暢な日本語を話す英国人に迅雷はちょっと感心した。千影がどことなく落ち着かない様子なのは気になるが、男性の振るまいや口調には人の良さが感じられる。


 「私はギルバート・グリーンだ。よろしく」


 「ギル―――ま、まさか!?もっ、ももももしかしてIAMOの実動部の総司令官の!?」


 「そう、ご明察だ」


 その名前は、疾風の話にも登場したことがある。

 いや、問題はそこではない。なぜIAMO実動部の、それも総司令が、こんなところにいるのかだ。IAMOの支援部隊が明日到着すると奈雲は言っていたが、ギルバートだけ先行してきたということだろうか。

 だが、迅雷がそれを問う前にギルバートは簡単に説明を済ませて話を進めてしまった。


 「元々一央市を訪れたのは別件での予定だったんだがね、こうも早く事が起きるだなんて、さすがに予想しなかったな。それどころじゃなくなってしまったよ。真っ先に洋上に孤立した島国(ジャパン)を狙ってきたあたりからして戦う気も満々のようだし、困ったものだ」


 肩をすくめるギルバートに奈雲が部屋正面の席を勧めた。


 「こちらにどうぞ」


 「ありがとう。・・・さて、まずIAMOと国連が決めた宣戦布告への対応は、ノー、だ」


 「宣戦布告に対して拒否なんて可能なんですか?」


 浩二は不可解そうに尋ねた。しかし、彼の質問にギルバートは首を横に振った。


 「それもノーだ。宣戦布告はそもそもすることにだけ意味がある行為だからね。それは人間も魔族も変わらない。とはいえやはり現時点で我々が彼らと事を構えるのは得策ではない。よって、我々の取るべき選択肢は平和的解決である」


 見事なまでに言い切ったが、ギルバートの発言が無茶苦茶なことくらい迅雷にだって分かった。確かに魔族と戦って人間が勝てるとは思わない。しかし、既に戦争は仕掛けられているわけで、仮に交渉のための使節を送ったとしても意味を成すかも分からない。自然とそう考える程度には強引な戦端だった。


 だが、あるいは既になにか手がかりになるものが存在するのだろうか。これをギルバートに問うのは―――というより確認したのは局長の奈雲だった。


 「つまりはもう手筈が整っているということですかな?」


 「魔界の有力国の中にはこの戦争に異を唱える国も少なくない。兼ねてから国交回復のために人間側と魔族側の、特に皇国との仲介国として協力していただいていたわけなんだがね、今度の和平交渉でも協力を求める予定だ」


 「なるほど。ですが、今回の戦争の原因と思われる人間が生み出そうとした脅威というのは、一体なんのことでしょうか?」


 「滅亡をもたらす禁忌―――とも言っていたかな。申し訳ない、ミスターヤスダ。私もこれについては与り知らないんだ」


 「そうですか。ならばこれから調査して明らかにするほかないでしょう。それでですが、我々ギルドはその交渉を待つべくして一央市を明け渡すつもりもないんですが、わざわざお越しいただけたということはお力添えを期待しても良いので?」


 「ん?ははは、すまないミスターヤスダ。そうだね、私の言い方が悪かったよ。一央市を見捨てるようなことはしないさ、むしろ偶然居合わせられたことをラッキーだとも思っている。日本の恨みは買いたくないからね。ひょっとしたら魔族よりも恐いかもしれない」


 「ご冗談を」


 茶化すギルバートに合わせたようだが、奈雲は明らかにホッとしていた。

 冗談と言われ、ギルバートは小さく首を振った。


 「うん、まぁ、全くの冗談でもないんだな。それに、個人的な理由も多少、ないわけでもない。・・・が、いずれにせよ一央市は世界にとっても重要な街だ。魔族の好きにさせるつもりはない。当然私も力を貸すさ」


 また一瞬ギルバートに見られた気がして、迅雷は首を傾げた。千影を見ても、彼女は彼女でさっきから相変わらず萎縮しっぱなしである。

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