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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect45 ”反撃に向けて”


 「だから、ボクらでなんとかするんだよ」


 「・・・なんとかする、俺たちが・・・」


 千影の言葉の背景に、迅雷は事態が動き始めたのを感じた。ここからの戦いは違うという、漠然とした直感だ。


 「なぁ、千影。召集の目的って・・・なんなんだ?」


 「さぁ、ボクもまだ詳しくは聞かせてもらってないよ。でも多分、反撃のための準備に入ったんだと思う」


 「反撃・・・魔族に、だよな・・・」


 迅雷は唾を飲んだ。人間と魔族の正面衝突。ここからが迅雷たち人間にとっての正念場となるのだろうか。

 教科書には載っている。人間は圧倒的すぎる異世界の力の前に、為す術を持たなかったことが。史実には残っている。魔界は数多の世界を征服して吸収して膨張して現在に至った無敗の強者であることが。

 それでも、抗うしかない。いいや、人間は反撃にまで漕ぎ着けたのだ。人は間違いなく自分たちの世界を守れるだけの力を培ってきた。

 緊張を我慢して、迅雷はマンティオ学園の校門から一歩を踏み出した。


 「分かった。行こうか、こんな訳分かんねぇ争いなんて終わらせるために」


 「あはは、気が早いんじゃないかな、とっしー」


 「は!?ちょ・・・なぁっ!?」


 迅雷がせっかく意気込んだのに、千影に笑われてしまった。吐いてしまった臭い決め台詞を思い出して迅雷は赤面した。

 一歩で立ち止まった迅雷の隣を通り抜ける千影は軽い足取りだ。振り返り、彼女は説明するように人差し指を立てた。


 「はやチンも帰ってくるんでしょ?だから、本格的にはそれを待つと思う」


 「父さんを・・・それもそうか・・・」


 しかし、そういえばその疾風は今どこをほっつき歩いているのだろうか。こっちはこんなにも大変な状況なのに。迅雷は気になって、SNSでメッセージを出してみたが、返事はまだまだ先になりそうだ。

 きっと疾風だって一央市の状況は聞いていると思うが、向こうから連絡が来ないということはそれが出来ない状態ということだ。例えば飛行機の中とか。それでももう少しSNSなんかを活用してくれるようになると楽なのだが。


 神代疾風さえ帰れば、きっとなんとかなる。例えどんな絶望が降りかかろうと、絶対にだ。

 

 ―――でも、どうすれば終わりなのだろう?この「戦争」とやらは、どこから始まって、どこに収束するというのだろうか?


 「千影、やっぱり最終的には『門』()の向こう側に行って戦うのかな?」


 「うん、きっとね」


 「ニュースでもたまにどっかの異世界との交流が紹介されたりするしさ、ギルドに行けばダンジョンなんてすぐに行けるしさ・・・俺、異世界って身近な存在な気がしてたけど・・・実は遠いんだな、こんなに」


 「そっか・・・そうかもしれないね。確かに、なんか遠いかも」


 広がっていく戦火は人間界と魔界の隔絶の証左だ。疑いようもなくかけ離れていて、互いが互いに牙を剥いて刃を突き立てるのが現実だ。『門』の向こう側は、身近だと思い込んでいた未知の世界。入り口が見えていて、いつもそこにあって、それにも関わらず初めて踏み込むことになるかもしれない正真正銘の「異世界」だ。

 だけれど、迅雷は千影と一緒にこの戦いもくぐり抜ける。あの『門』の向こう側にどんな世界が待っていようと、必ず、一緒に。


 

          ●



 再び放たれたのか、倒されるどころか数を増したようにさえ思える『ワイバーン』の脅威を迅雷と千影はうまくやり過ごし、途中回り道をしながらも一央市ギルドに到着した。

 とはいえ、ギルドの周辺は大きな避難拠点でもあるためか方々から戦力が集まりつつあって、道中も最後の方はそれなりに安全に移動出来た。哨戒にあたる魔法士たちの一部は千影に気付いて警戒の色を示していたが、迅雷はその都度千影の手を引くようにして足早に立ち去るのだった。


 ギルドの避難環境は順調に整ってきていて、本館の隣にある広い駐車場では他の中小規模の避難所に先駆けて仮設トイレがズラリと並び、炊き出しというほどではないが簡単な食事の用意すら始まっている。

 うっすらと香るのは―――あぁ、缶で売っているコーンスープの匂いだ。


 「とっしー、お腹鳴ってる」


 「千影もな」


 悩ましい。悩ましいが、用事が大事だ。2人はきつく目を瞑り、互いに容赦ない力で鼻もつまんでなにも見なかったことにした。

 いつもの本館ギルドロビーに立ち入ると、今度は自分で鼻をつまむような消毒液の匂いが充満していた。そこには一面ブルーシートが敷かれていて、仮設救護ブースとなっていた。散々『ワイバーン』に追いかけ回されてボロカスの迅雷は駆け寄ってきた医務員になされるがままに手当てをしてもらうことに。

 千影に関してはやはり無傷だ。傷が治ったとかではなく、純粋に擦過傷含めて無被弾でここまで辿り着いている。さすがというか、迅雷は彼女との協力なしでは何回死んでいたかも分からない。下手な戦闘は全力で回避してきたはずなのにだ。


 避難者受け入れのピークが過ぎたからか、今来たばかりの迅雷たちは知る由もないが救護ブースはだいぶ落ち着いていた。余裕が出てきたからか丁寧に治療してもらった迅雷は医務員の人に頭を下げた。空腹や疲労はそのまま残っているが、傷が塞がっただけでも全然調子が違っている。


 「で、千影。俺たちってどこに向かってんの?」


 「大会議室」


 「・・・ってどこだっけ?」


 だっけ、と聞いてはみるが、そもそもそんな部屋に行ったことなんてないので知っていた時期すらない。迅雷の問いかけに千影も首を傾げた。

 渋々迅雷は上階への階段手前にある案内板を調べた。1階から順々に辿っていくと、6階にようやく「大」と付く会議室を発見した。


 「6階かぁ。エレベーターで・・・」


 そこには「緊急時につき節電にご協力ください」との張り紙が。げんなりしつつも2人は諦めて階段を登った。

 見晴らしの良い―――さぞ良かったであろう一面ガラス張りのフロアが6階だ。外からも分かるようにギルドの本館は上層階のほとんどがこのようなデザインになっている。ギルドを初めて訪れる人が近未来的な印象を受けるのも、内装と同程度にこの外観が大きいかもしれない。

 でも、今窓から見える景色は変わり果てた自分の街だ。復興を少しでも楽にするには、やはり早急にこの戦いを終わらせて平和を取り戻さねばならない。


 千影は迅雷の前を歩いて、大会議室の扉を叩く。


 「ただいま到着しましたー」


 「あぁ、来たな。・・・って、なんで君まで来てるんだ?」


 他の職員よりも若干立派な制服に身を包んだ壮年の男性が、迅雷の姿を見つけて眉を上げた。その男の顔は迅雷も知っている。というより、知らない人間の方が少ないはずだ。なにせ、彼こそは他でもない一央市ギルドで一番偉い安田奈雲局長なのだから。迅雷は奈雲の反応を受けてビクリと震えた。もしやこのまま追い返されたりはしないだろうか、と不安が込み上げるが、ここは敢えて正直に答えれば相応に対応してもらえるかもしれないと考えてひとつ深呼吸をする。


 「えっと、なんというか、千影の付き添い・・・です!」


 「あー・・・そう。そうか、まぁ良いか。初めまして、神代迅雷君。一央市ギルドの局長、安田奈雲だ」


 「あ、は、初めまして!」


 思いの外すんなり通してもらえて、迅雷は拍子抜けしていた。やっぱり父親繋がりか、はたまた最近のやんちゃ具合が彼の耳にも入っていたからか、奈雲は初対面の割に迅雷に対してそれほどよそよそしくはなかった。

 奈雲からとりあえずのように名刺を渡されたが、しまう場所に困って迅雷はたかが紙切れ1枚を持て余してしまった。というかなぜこんなときにそんなものを寄越すのか。これだから日本という国は。


 「こんなときでもなければもう少し迅雷君の話も聞いてみたかったんだがな、今は時間が惜しい。そうだな、2人はそこの席を使ってくれ。ほら君、椅子が足りなくなったから隣から持ってきてくれ」


 奈雲に使われた職員に新たに椅子を用意してもらったので、迅雷は千影と一緒に会議室の端の方に席を取った。

 間もなくして、新たに会議室の戸を叩く者が現れた。既に席はほとんど埋まっているのを見るに、彼あたりで最後だろう。


 「すんません、ちょっと手間取って。清田、黒川、戻りました」


 「多少は仕方ない。席はそことそこだ」


 戻ってきたのは煤と土で薄汚くなってしまった清田浩二と、彼の部下であり同じく戦場帰りの黒川だった。浩二の顔を見て迅雷は「あ」と声を出してしまった。しかし、迅雷が口に手を当てるより先に千影が乱暴に自分の椅子を蹴り飛ばした。


 「あーッ!!よっっくもぬけぬけとぉぉ!とっしーの恨みは忘れてないんだからねっ!」


 怒髪天を衝く(物理)のか、千影のアホ毛が鋭く逆立っている。顔を見るなり怒鳴り散らされた浩二も浩二でなんだかムキになって顔を真っ赤にした。これじゃあまるで迅雷は私のために争わないでなヒロインである。


 「はぁ!?おまッ、俺だって反省して・・・っていうか局長、なんでこのガキがいるんですか!謹慎だったでしょーが!?」


 「清田君なんて服役中なんだけどね」


 奈雲の容赦ない一言で浩二は撃沈した。フリーズした彼に千影はざまぁみろと言わんばかりにあかんべーをしたり、ウザい笑顔を浮かべたりしている。

 奈雲はさらに浩二に言葉を投げた。


 「その子の力が必要だと言われたんだ。分かったら早く座ってくれ」


 「は、はぁ・・・」


 自分ばっかり悪者みたいな扱いが腑に落ちず浩二は年甲斐もなく拗ねた様子だ。彼について来た黒川は可笑しそうにしている。

 迅雷の姿も見つけた浩二はなおさら居心地が悪そうだ。しかしながら、それは迅雷だって一緒だ。散々痛めつけられた記憶のせいで彼のことは好かないが、事の発端はなんのことはない勘違いに過ぎない。浩二が人一倍正義感の強い人物であろうことは、迅雷も分かっているからだ。


 「千影もほどほどにしてくれよ。第一、俺はもう気にしてないからさ」


 「ぶぅ・・・」


 元はと言えば迅雷に突飛な嫌疑がかかったのは千影が勝手な行動で魔族による工作を不穏当に露呈させてしまい、ギルド側を過剰に敏感にさせてしまったからでもある。千影が一方的に浩二の早とちりを責めて根に持つのは筋違いだ。

 そのことを多少は弁えているからか、千影もそこで素直に口をつぐんだ。


 

  

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